見えぬ輝きの最南星《アクルックス》   作:ヤットキ 夕一

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 ──皐月賞の翌週

 京都レース場はあいにくの曇天模様。
 そんな空を恨めしく見上げるウマ娘。
 肩付近まで伸ばしたウェーブのかかった髪に、憂いを帯びたその目はどこか妖艶で……
 そんな妖しげな魅力を振りまくウマ娘。

「それはあっし、ロンマンガン──」
「あのねぇ、アンタ。真面目にやりなさいよ……」

 呆れた目でこっちを見ているのは、ダイユウサク先輩。
 チーム〈アクルックス〉の設立メンバー……というかこの人のソロチームで始まったわけで。
 なにより、あの伝説の有記念でメジロマックイーン先輩をねじ伏せた“世紀の一発屋”──

「なんか失礼なこと考えてるでしょ?」
「滅相もない」
「ウソおっしゃい。ロクなこと考えていないときのトレーナーと同じ目をしてるわよ」

 そう言ってジト目を向けてくる大先輩。

「え? さすがダイユウ(ねえ)さん、イヌトレのことよく見てるんスね!」
「黙りなさい!!」

 カッとなって怒鳴ったダイユウサク先輩だったけど、すぐに冷静になって「ハァ……」と盛大にため息を一つつくと、あっしを手招きした。
 それに従って近づくと──

「アンタ、ちゃんとわかってる? 今日の状況……ダービー出走がかかってるんだらね?」
「ええ、わかってますよ~。といっても、これに勝ったところで確約は無いんですけどね」

 今日のレースは若草ステークス
 オープン特別のコレを勝てば、あっしの成績からダービー出走の芽が出てくる。
 確実ではないけど、これを勝たないと話にならないのは間違いないわけで……

「まぁ……シオンはもう決めちゃってるけど」

 皐月賞はクラシック三冠のGⅠレースな上に、三冠の次のレースであるダービーのトライアルでもあるわけで。
 それに勝利したオラシオンは、その切符をすでに手に入れてるってワケ。

「ええ、そうね。それに皐月賞のあの勝ち方──」
「いや姐さん、言わなくていいッス……お願いだから言わないでください。お願いですから」

 ハッキリ言って、恐ろしい勝ち方だった。
 あの中山の最後の直線──正直、オラシオンは負けたと、あのときは思ってた。
 なにしろトップのアップショットとはかなりの差が付いていた上に、その脚も怪しいところはまったくなかった。
 出走メンバー全員が彼女に完全にしてやられた、と思った。
 それが──そのとき2バ身半後方にいた二番手どころか、直線の直前まで6番手にいたオラシオンが差せるなんて、誰が思う?
 目を疑うとはまさにあのこと。
 あんなの見せられたら心折られるわ。
 ……なんとか折れずに頑張ってるけど。

「チートでしょ、あんなの。異世界召還された主人公かっての! ……あれ? 私またなんかやっちゃいました? ってか?」

 キレるあっしの姿を、冷めた苦笑を浮かべて見るダイユウサク先輩。
 呆れつつも気持ちは分かるわ、といったところでしょうか?

「まぁ、凄い末脚だったわよね。まさに化け物級の……あんな末脚持ってるなんて羨ましいわよ、ホントに」
「──え?」

 そう言ったダイユウサク先輩を、思わず凝視してしまう。
 いや、だってこの人が有記念を勝ったときの末脚も負けず劣らずヤバかったでしょ?
 マック先輩の追い上げもスゴいと思ったけど、それ以上の速さで内からゴボウ抜きして先頭に立った姿は、マジで神懸かってた。
 つーか、それを見たから今ここにあっしがいるわけで。
 本人の自覚がないのか、それとも忘れてるのか……

「なに?」
「いや、まぁ、その……ええ、羨ましいですわ、マジで」

 ダイユウ姐さんも含めて、ホントにそう思うわ。
 それがあったら、これから始まるレースだって不安は減るでしょうに。  
 そう思いながら、再び空を見上げる。

「せめて、朝からスッキリ晴れてくれればなぁ……」
「確かに、アンタの気持ちも分かるわ。出走メンバーに、あのウマ娘がいたらね」

 ダイユウサク先輩が同意してくれる。
 今日の天気は晴れたり曇ったりというハッキリしないもの。

 そして今日のレースは天気が左右する……それは出走メンバーを見れば明らかだった。



第58R 大回帰… そして、ここから始まる

 

「くぅッ!!」

 

 最後の直線で先頭に並んだあっし。

 併走するウマ娘をチラッと見て、やっぱりコイツとの勝負になったと思ったわ。

 

(正直、カンベンして欲しいわ……って思うのも無理なくない?)

 

 彼女と走るからこそ、つい反射的に意識を向けたのは自分の足下。

 発表では稍重のバ場。

 でも、午前中は“不良”と発表されていたほどだったのが、どうにかそこまで回復したといった有様。

 

(その悪い状態で、ここ(第7レース)まで使われてきたんだから当然──)

 

 コースが荒れるのはそりゃあ当然よ。コーラを飲んだらゲップが出るってレベルでね。

 そんな悪路で競うのは絶対にしたくない相手、それが今、あっしの隣を走ってる。

 

「──ブロンコキッド!!」

 

 悪路を得意とする変わり種のウマ娘。

 バ場状態が悪くなれば悪くなるほど真価を発揮するこのウマ娘は、「良バ場よりも不良バ場の方がタイムが良い」「実は足に水掻きが付いている」「むしろ水面を沈まずに走れる」とネットでネタにされてる程。

 

(御天道様が、もう少し頑張ってくれたら……)

 

 垂れ込める雲と、その上にある太陽を思わず恨んでしまう。

 良バ場なら隣のウマ娘(ブロンコキッド)も真価を発揮できずに、こっちも楽できたでしょうに。

 

「でも、まぁ──」

 

 逆に、曇りっぱなしや雨でも降ったりして、もっとひどい不良バ場でこのウマ娘と競うことにならなかったのは逆に幸いかも。

 荒れているとはいえ、稍重で済んでいるのがまだマシってね。

 

(……こんなことで、泣き言を言ってらんないワケよ!)

 

 迫るゴールに向けて、脚に最後の力を込める。

 そして足へと神経を集中させる。

 この荒れたバ場で少しでも力加減を間違えれば、踏み込む力が分散してしまう。

 そしてそれは、ブロンコキッドが相手では致命的な隙を生みかねない。

 でも──

 

「圧倒的な、とても真似できないような“速さ”が敵じゃないんだから」

 

 脳裏によぎる、先日のレース(皐月賞)

 そこでチームメンバー(オラシオン)が見せつけた、他を一瞬で置き去りにするような加速。

 それは修道服のような彼女の勝負服も相まって神々しくさえ見えた。

 そんなのを相手に競走(レース)するなんて、ハッキリ言って足がすくむ。ヤバいなんてもんじゃないわ。

 でも──

 

本番(ダービー)行ったら“神の奇跡”に立ち向かわないといけないってのに、“水掻き”程度に負けてられるかッ!!」

 

 ──走る前に、心折られるわけにはいかねぇわけよ!!

 こんなブロンコキッド(カエル娘)に負けてたら、シオンに挑戦する資格なんて無いんだから!!

 

(阪神ジュニアの時は雨が降ってた。まさにコイツの独壇場だったはずなのに、それでもシオンは勝った)

 

 だから今日、このウマ娘に負けるわけにはいかない。

 滑らぬように、力が逃げずに地面に伝わるようにと全神経を足下へ集中させる。

 そして──

 

「カアアアァァァァァァァッ!!」

 

 加速する。

 負けられないという一念で。

 それは隣のウマ娘(ブロンコキッド)が相手ではなく──

 彼女を去年、大舞台で負かしたウマ娘でもなく──

 その姿に心折れかけた、弱い自分に対してで──

 

 ピシッ……

 

 そのとき、妙な気配を感じた。

 

「──ッ!?」

 

 わずかに戸惑うけど、それを気にする余裕もない。

 一歩でも間違えば勝負はひっくり返るんだ。

 そんな薄氷を踏むような思いで走路(ターフ)を駆け抜け──

 

『差しきってゴォォォルッ!! ロンマンガン、悪路に滅法強いブロンコキッドをものともせず若草ステークスを制しましたァァァァッ!!』

 

 ──1着でゴールした。

 さて、ダービーに出られるか否か……あとはもう天に運を任せるしかない。

 人事は尽くしたんだから、ね。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「あ~!!」

 

 ロンマンガンが1着でゴールを駆け抜け、アタシがホッと胸をなで下ろした直後に上がった背後からの声。

 それはレースの決着で巻き起こった歓声に負けずにアタシの耳へやたらハッキリと届いていた。

 それに聞き覚えがある気がして、思わず振り返ると──

 

「ダイユウサクさんだ!!」

「あ、ホントだ」

 

 ちびっ子ウマ娘が3人、こっちを見ているのが目に入る。

 それも知らない子じゃなくて──

 

「マリアちゃん?」

「はい!」

 

 その内の一人は、アタシのファンだと言って応援してくれたウマ娘だった。

 あとの二人──満面の笑顔で「お久しぶりです」と挨拶する黒髪のウマ娘は、彼女がキタちゃんと呼ぶ()娘で、複雑そうな表情でこちらを見ている明るい茶髪のウマ娘はサトちゃんというらしい。

 なんで複雑そうな表情を浮かべているかと言えば、彼女は熱狂的なメジロマックイーンのファンだそうで……

 

(ま、無理もないか)

 

 熱心な彼女のファンからは未だに「有制覇を阻んだ」と蛇蝎のように嫌われてることもあるから、別にそこまで気にしないけど。

 とはいえ……プレクラスニーみたいに、降着のおかげで勝ったわけじゃないんだから、嫌われるのはお門違いの気もするのよね。

 それもマックイーンが有記念を勝ってくれればなくなるんでしょうけど、去年はケガで出られなかったし。

 

「でも、ダイユウサクさん……どうしてこんなところに?」

「どうしてって応援よ? チームメイトの……」

 

 こんなところとは言うけど、競走ウマ娘のアタシがレース場にいるのは不思議じゃないこと。

 マリアちゃんが言いたいのは、「なんで学園から遠い京都レース場に?」ということでしょうけど。

 

「あれ? アクルックスの方、誰か出てたっけ?」

 

 そう言って首を傾げたのはキタちゃん。

 隣ではサトちゃんが深刻そうな顔で慌ててスマホをいじってるけど……

 

「う~ん、出てないはずだけど? ダイユウサクさんは目の前にいるし、ギャロップダイナさんは出てないし、ターキンさんは……」

「……引退しちゃったからね」

 

 言いよどむマリアちゃんの後を継いで、アタシは思わず苦笑しながら補足した。

 つられるように力無く、寂しげな笑みを浮かべるマリアちゃん。

 その一方で……アタシとマリアちゃんの会話を聞いて、鬼気迫る顔でスマホをいじっていたサトちゃんがホッと笑顔になった。

 う~ん? 彼女がここまで懸命になって、対照的にそれを苦笑してキタちゃんが眺めているということは──

 

「あなた達のお目当てのレースって、やっぱり……」

「「「はい! 春の天皇賞ですッ!!」」」

 

 三人が声をそろえていい返事を返してきた。

 

「なんと言っても、史上初の春の天皇賞三連覇が掛かってますので」

「うん。マックイーンさんには頑張って欲しい」

「そうだよね。テイオーさんは出てないし、是非勝って欲しいな。まだ春秋制覇にはならないけど……」

 

「「あ……」」

 

 マリアちゃんとアタシの声が重なった。

 あ~、これはキタちゃんがマックイーンファンの地雷を踏み抜いた感じかな?

 アタシに有記念で負けた以上に触れちゃいけないデリケートなところだからね、秋の天皇賞は。

 案の定、澄ました表情を無理に浮かべているサトちゃんのこめかみには、隠しきれないでっかい青筋が浮かんでる。

 

「そ、そうですね……去年の秋の天皇賞は”なんとびっくり”されて大本命でも勝てませんでしたからね~」

「む……」

 

 思わず顔をしかめるキタちゃん。

 彼女の推しは去年の天皇賞(秋)(アキテン)の一番人気だったトウカイテイオー。

 それも圧倒的な一番人気だったけど……勝ったのは〈アクルックス(うち)〉の所属だったレッツゴーターキン。

 なんというか……気まずいわね、これは。

 思わずチラッと、〈アクルックス〉ファンのマリアちゃんを見ると、やっぱり同じように気まずそうな顔をしてる。

 

「で、でもほら……今日はウチのメンバー出てないしね。うん……きっとマックイーンが勝つわよ」

「そ、そうですよね? でもさっきチームメンバーの応援って言ってましたけど、誰ですか? えっと……ひょっとして、オラシオンさん!?」

 

 マリアちゃんが興奮気味に言うと、さすがにキタちゃんとサトちゃんもピクッと反応してこっちを見る。

 なるほど……テイオーファンとしても、マックイーンファンとしても、やっぱりオラシオンの強さは気になるわけね。

 

「違うわよ。シオンはこの前、皐月賞走ったばかりだし……」

「じゃあ次って、NHK杯なんですか? それも回避してダービー?」

「え? えっと、それは……」

 

 目をキラキラと輝かせて訊いてくるマリアちゃん。

 なにしろマスコミの扱いも、皐月賞での圧勝でかなり大きくなってる。ダービー制覇どころか、気の早いところは“三冠間違いなし”なんて見出しも出してるくらいだし。

 トゥインクルシリーズファンの注目を集めるのも無理もない。

 

(プレッシャー感じてるんでしょうね、アイツも……)

 

 そう考えながらトレーナーの顔を思い浮かべる。

 なにしろここまで注目される、大本命なんてなかったでしょうに。

 

(……あのウマ娘(パーシング)で変な注目集めたことはあったんでしょうけど)

 

 そのウマ娘の顔が浮かんできて、ちょっとイラッとして──

 

「お、こんなところにいたのか、ダイユウサク──」

「──ッ!?」

 

 ひょいと視界に彼の顔が現れ、思わず声を挙げそうになった。

 

「ど、どうしたのよトレーナー!?」

「どうしたってお前……そろそろロンマンガンの表彰、始まるぞ?」

「あ、アタシは関係ないけど、アンタはそれ出ないと駄目でしょ!? さっさと行ってきなさい!」

「あ、ああ……」

 

 困惑気味にアタシを見るトレーナー。

 そしてその周辺では──

 

「わあぁ! 乾井トレーナーさんだぁ。《びっくり箱(ジャック・イン・ザ・ボックス)》の……」

 

 ──とマリアちゃんが目を輝かせる一方で、びっくりさせられた側のキタちゃんとサトちゃんは複雑そうな表情だった。

 そんな感じで苦笑を浮かべていたキタちゃんだったけど……

 

「ロンマンガン……さん?」

「ああ。〈アクルックス(うち)〉所属のウマ娘でな。今のレースを勝ったのがそうだ」

「あ、そうだったんですね……」

 

 ちょっと申し訳なさそうにしている様子を見ると、春の天皇賞ばかり気にしていて見てなかったんでしょうね。

 ま、仕方ないわよね。八大レースとオープン特別で格も全然違うし、マックイーンと比較されたらロンマンが可哀想だわ。

 そうこうしている内に、マリアちゃんが改めてトレーナーに挨拶をして、それを返したトレーナーが表彰式へ向かおうとする。

 そして──

 

「ダイユウサク、しばらくそっちにいて良いぞ」

「え? どういうことよ? アタシだってロンマンの──」

「ファンサービスも大事だろ? その3人に付き添ってやってくれよ。まぁ、そこの()がイヤなら別だけど……」

 

 そう言ってトレーナーはサトちゃんを見ながら苦笑する。

 彼もサトちゃんがマックイーンシンパなのは知っているみたいね。

 

「大丈夫です! だって去年の春の天皇賞では、マックイーンさんが〈アクルックス〉のウマ娘をコテンパに負かしてますから。逆に縁起がいいくらいです!」

 

 …………うん、サトちゃん。本人を前にその言葉は無いかな~。

 いくらアタシでも傷つくんだぞ。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──そうしてアタシは結局、3人と一緒に天皇賞を観戦した。

 

 確かに去年の悪いイメージがあったけど……それ以上に、今年の天皇賞が気になったから。

 それはアタシが勝ったことのあるメジロマックイーンの、春の天皇賞三連覇を見るため──なんかじゃない。

 その本当の理由は──

 

(アンタが目標にしていた天皇賞(春)(ハルテン)を見届けたいと思ったからよ、ターキン)

 

 ケガが原因で引退して行方をくらませてしまったレッツゴーターキン。

 去年の秋の天皇賞を制して、秋春制覇を目標にしていたのを思い出したからだった。

 だからこそ、彼女が出たがっていたそのレースの結果を見なくちゃいけないと、そう思ったのよ。

 

 

 ……結果的には、一緒に見たのを後悔したけど。

 

 

 だって……まさか、マックイーンが負けるとは思わないじゃない?

 三連覇かかってたし、本人もやる気満々で調子も良さそうだし、一番人気だったし──

 それがまさか、負けるだなんて……誰が想像できるってのよ!?

 出走直前まで満面の笑みで「マックイーンさ~ん!」って何度も連呼してる小さなウマ娘の姿を見たら誰だってほっこりするじゃない?

 それが……ゴール直後の悲愴な表情を見たら、いたたまれなくなったわよ。

 

 (ついでに、なんか罪悪感みたいのもこみ上げてきたし)

 

 で、でもほら、アタシが勝ったときは三連覇とか掛かってなかったから、それよりは……ね?

 ともあれ、とてもその場にはいられなくて、「チームの用事があるから」ってそそくさと抜けてきたわ。

 まぁ、実際にロンマンガンのウイニングライブもあるわけで、あながち嘘ってわけじゃないんだけど。

 

「えっと、ロンマンの控え室は……」

 

 京都レース場も関係者側の方に入るのも久しぶりで、ちょっと道を間違えたりして……

 

 ──そしてアタシは見かけてしまった。

 

 勝ったはずなのに涙を流しているウマ娘を。

 あのウマ娘に勝つのがどれほど困難なことかを一番わかっているアタシが、たった今、それを成し遂げたのに誇って胸を張るどころか、うつむいている彼女の姿を。

 それを目の当たりにしたアタシは苛立ち、腹立たしく感じていた。

 

(アナタがしたことは、悪いことではないでしょ?)

 

 もしそれを悪だというのなら……アタシの誇るあのレースも汚されることになるんだから。

 そう考えると我慢できなくなって──アタシはその長い黒髪のウマ娘に声をかけた。

 

「……なんで、泣いてるの?」

「だ、誰……?」

 

 振り返った彼女の怯えた表情に──たった数ヶ月前とはいえいなくなった彼女を思い出し、懐かしささえ感じてしまう。

 

 ……でも、だからこそ彼女が泣いているのが許せなかったのかもしれない。

 彼女がどうしても手に入れたかったその栄冠を、目の前のウマ娘が手にしたのだから。

 

「人に名前を尋ねるなら、まず自分から、じゃない?」

「う……」

 

 そのウマ娘はますます萎縮しながら、申し訳なさげに名前を言った。

 

「ライス、シャワー……です」

 




◆解説◆

【大回帰… そして、ここから始まる】
・今回はダイユウサク編のタイトルパターン「大○○」を採用。
・その理由はもちろん、今回のラストが第1話の冒頭へとつながるため。
・いや~、長かった。だからダイユウサクはロンマンガンの担当になっていたんですよ~!!
というか途中、繋げる気全くなかったんですけどね。
・その件の解説については↓で。
・また、「ここからはじまる」というのは、冒頭につながるという意味と、ロンマンガンのダービーへの道という意味でもあります。

若草ステークス
・阪神で開催される皐月賞のトライアルレース……ではない。それは若ステークス。
・もちろん京都で1月に開催される2000メートルのオープン特別のことでもない。それは若ステークス。
・1989年から2004年まで開催されていた4歳限定のオープン特別のこと。
・89年~93年までは京都の芝2400、以降は04年まで阪神の芝2200で開催していました。(1995年は阪神大震災の影響で阪神競馬場が使えなかったため京都で代替開催)
・ダービーのトライアルレースは皐月賞、青葉賞、プリンシパルステークス(昔はNHK杯)ですので、それには含まれていません。
・ですが、1着だった競走馬は東京優駿(日本ダービー)へ出走している馬が多く、16回中9頭(2002~04年、1999年、93年、92年以外)が出走しており、92年のトーワナゴンは牝馬で牝馬優駿(オークス)へ出走しています。
・なお第1回と2回の勝者は本作にも出てきており、第1回の勝者はロングシンホニー。
・そして第2回の勝者は、大阪杯でダイユウサクと競い、途中で負傷したメルシーアトラ。
・今回のレースのモデルになったレースは──ありません。完全オリジナルです。
・ただ開催日だけは1993年を引用しており、バ場状態もその日を参考にしています。。
・その理由は↓で。

ブロンコキッド
・まさかの2度目の登場、ブロンコキッド。
・聞き慣れない名前で申し訳ありません。架空の競走馬を元にしたオリジナルウマ娘で、『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』に登場していた競走馬がモデル。
・前回の登場は、オラシオンの阪神ジュニアステークスのとき(第二章40話)。
・そのときに詳細を解説していますので、詳細はそれを参照にしてください。

春の天皇賞
・今回はアニメ版で言うところの2期8話の天皇賞(春)。
・この後にダイユウサクをピックアップさせるシーンのためにキタサトコンビと本作オリジナルのマリアちゃんが登場。
・でも実は……アニメではサトノダイヤモンドがほんのちょっとしか出てこなかったりします。キタちゃんはレース中、台詞もありません(顔も見切れてる)。
・テイオーもマックイーンも勝たないレースだったので、無邪気なあの二人を出せなかったんでしょうけど。
・なお、〈スピカ〉のトレーナーが2000のタイムで「前回の天皇賞よりも2秒以上早い」と言い、テイオーが「大丈夫に決まってる」と言っていますが、テイオー自身は秋の天皇賞で殺人的ペースにやられて大丈夫じゃなかったような……
・で、どっちでも先頭で逃げてたパーマー。負けたとはいえやっぱりすごいな。
・この元レースの開催日が1993年4月25日。
・第2回の90年以来、土曜日開催だった若草ステークスがなぜか日曜開催になり、春の天皇賞と同じ4月25日に開催になっていたのです。
・どうにか冒頭につなげられないか、と思って日程を見て、そのレース(若草ステークス)の存在に気が付きました。
・それに、原作ではダービーに出走しているのに、皐月賞は出ておらずトライアルに勝った様子も無いロンマンガンを出走させるのを思い付き、今回のレースとなったのです。

ウチのメンバー出てない
・うん。そうなんですよね。()()()()()()()()では、ね。
・でも史実の出走メンバーの中に──

道を間違えたり
・本作のダイユウサクは、モデル馬の有馬記念制覇の際のエピソードで熊沢騎手が“道に迷った”というエピソードがあるために方向音痴の属性が付いています。
・おかげで、今回も道に迷ってます。
・なお同様のエピソード(騎手まで同じ)を優駿牝馬(オークス)制覇で持っているコスモドリームもまた方向音痴属性持ちです。
・ただ、ウマ娘のトレセン学園が府中にあるのに「(同じ府中にある)東京レース場まで迷った」というシナリオの都合上、コスモはとんでもない方向音痴設定になっています。
・そんなわけで、()()()()()()()()()()()()なレベルでしかないダイユウサクは幼いころから「コスモは方向音痴だから」と理解して見ていたために「自分は方向音痴ではない」と思い込んでいます。
・今回も「久しぶりだから」とか言ってますが、シンプルに方向音痴が原因でした。


※次回の更新は9月24日の予定です。  

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