見えぬ輝きの最南星《アクルックス》   作:ヤットキ 夕一

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 私──いや、ウチには憧れてるウマ娘(ひと)がいた。

 その走りを見た瞬間(とき)、まるで稲妻が体を駆け抜けたかのような衝撃を受けたのを覚えてる。
 そしてゴール後の弾けるような、どこまでも明るい笑顔。
 その太陽のごとく眩しい笑顔にハートを射抜かれた。

(これです。この方こそ──)

 まさに運命的な出会い。
 あの人が理想となり、『あの人のようになる』が目標になった。
 だからこそ、彼女を理解しようと懸命になり、いろいろ調べて──あの人を真似るところから始めた。

 理想像がそこにあるんだから、その通りになるのを目指せばいい。

 かくして“私”は“ウチ”になり、口調から服装もあの人に合わせ、普段の振る舞いも彼女に合わせることにした。
 真っ黒だった髪の毛にも青の差し色を入れて同じように……じゃなくて、オソロにして──



第3R 巡る因果! 憧れのウマ娘(ひと)と憧れのチーム

 

「そういえば聞いた?」

「え? カミ先輩、それってなんのこと?」

 

 ウォーミングアップのジョグ中に、一緒に走っていた一つ上の先輩ウマ娘が訊いてきたのをウチは聞き返していた。

 トレーニング中の何気ない雑談……のはずが、彼女の口から出てきた次の言葉はそんなものじゃなかった。

 

「チーム移籍の話。やっぱりあたしかあんたのどっちかみたいだわ」

「は?」

 

 頭が真っ白になりかける。

 いや、真っ白になってる場合じゃあない!

 

「ど、どどどどどういうことだし?」

「だから、ウチのチームから誰かを出すって話になってるらしくて、それがあたしかヤマピーのどっちかって話になってるらしいよ」

「まず誰かを出すって話から聞いてないし!」

 

 わた──ウチが焦って詰め寄ると先輩は「そこから?」と戸惑いながらも説明してくれた。

 

「前提として、あたしとヤマピーがお世話になってるサブトレが中央(ここ)から外れるって話は?」

「それは知ってるし」

 

 ウチらが所属してるチーム〈ミモザ〉。その歴史は意外とあって今の正トレーナーは二代目になる、っぽい。

 初代トレーナーは今のトレーナーの正に先代になるらしく、彼女の父親ですごく優秀だったという話を聞いた。

 GⅠウマ娘も輩出したし、弟子のトレーナーも多く育て上げ、その中には独立して強豪チームを率いているトレーナーもいるそうな。

 そんな弟子の一人がやらかして……その責任をとって自ら身を退き、当時新人だった今のトレーナーに〈ミモザ〉を引き継がせた。

 もちろんそれでは所属しているウマ娘達が不憫になると優秀なサブトレーナーをつけて。

 で、今では正トレーナーもしっかりとチームの手綱を握り、そのときチームに残っていたサブトレーナーは完全な補助役になっていた。

 

「サブトレ、親の面倒見なきゃいけなくなったから、地元に近い地方のトレセン学園に移籍す(うつ)るって話、ですよね? マジ不憫……」

「そ。でもウチの(メイン)トレ、手一杯だったみたいで……」

 

 ジョギングしながらガックリと肩を落としてうなだれる先輩を見て、内心「器用なことをするなぁ」と思わず感心しつつ、ウチは苦笑を浮かべる。

 

「それでチーム移籍? ウチか先輩が?」

「そういうこと。って、前に(あか)()()トレーナーに訊かれたよね? そうなっても大丈夫?って」

 

 正トレーナーの緋子矢さんは人が良い。それに惹かれたからこそウチもこのチームに入ってるわけだし。

 

(ただ、少し人が良すぎる感じもするけど……)

 

 ウマ娘同士がそうなように、トレーナー同士だって勝負の世界。

 だから人が良いってだけだと苦労するのがこの業界。

 素直に速さを競うだけじゃなく、情報戦を仕掛けて騙し討ちなんてことも起こる世界だし。

 そういう意味では少々不安になるくらいに我らが緋子矢 礼菜トレーナーは“いいひと”なんだけど……

 ……ああ、そう言えば彼女の困り果ててる様子に同情して、思わず「大丈夫です」って応えたような気が。

 って、そんなウチも大概お人好しかも、ね。

 

「ああ……うん、そういえば聞いてたし、答えてた。大丈夫って」

 

 思わず「アハハ……」と乾いた笑いを浮かべて答えたら、先輩もまた苦笑を浮かべてた。

 

「ま、ウチらは緋子矢トレってよりはあの人に面倒見てもらってて、それが居なくなるわけだからね。他のメンバーに比べたら移籍対象になるのも当然といえば当然だけど」

 

 担当として面倒を見てくれてたサブトレも“いいひと”だった。

 なにしろトラブルで急に先代が引退するとき、経験の勝る自分じゃなくて血筋優先の実の娘にチームを引き継がせるのを納得するだけじゃなくて、その補佐役として残ったほどなんだから。

 そんな人に面倒見られたら、ウチらも“いいひと”になるのもある意味で当然じゃね?

 

「とはいえ移籍先も、見ず知らずのところじゃなくて“一門”のところみたいだから」

「一門? ってことは……ひょっとして〈リギル〉?」

「バカね。そんな名門に行けるわけないでしょ」

 

 そういってため息をつく先輩。

 先代のお弟子さんがトレーナーやってるチームだから一門。その中で一番有名なのは、やっぱり東条トレーナーの〈リギル〉。

 あの《皇帝》をはじめ超一流のウマ娘達が集うチーム。トレセン学園でもっとも有名なチームと言っても過言じゃない。

 逆に言えばそれだけハードルが高いというわけで……

 

「冗談に決まってるじゃん。入れてもついていけるわけないのは分かり切ってるんだから」

 

 思わずため息が出る。

 ウチらみたいなレベルのウマ娘があんな超一流チームに所属してしまったらつぶれてしまうのは誰だって分かる。

 

「そうね。数ヶ月で追い出されるオチが見えるわ」

 

 あっさりと先輩も同意。

 あのチーム、本気でレベルが違いすぎるし。

 オープンクラスどころかGⅠ出走して上位人気当たり前って感じなんだから。

 〈ミモザ(うち)〉みたいに「みんなで楽しく走りましょ」って雰囲気(ノリ)と明らかに違う、ガチガチのガチなチーム。

 

「じゃあ、そんなウチらでも受けてくれそうなチームってどこです?」

「そこは緋子矢トレがしっかり考えてくれたみたいね」

 

 〈リギル〉の話題で暗くなっていた先輩の表情がわずかに明るくなった。

 気を楽にした様子で、少し苦笑気味に答える。

 

「再生工場みたいなところだから、ホントにあたしら向けだわ」

「……再生工場?」

「そ。そういう実績に関していえば、かなり優秀なチームよ。枯れ木に花を咲かせてみせる、まるで花咲か爺さんみたいにね」

「むしろ全然、イメージできないんですけど……」

 

 思わず首を傾げてしまう。

 

「少し前に話題になったことがあったでしょ? 誰も勝つなんて思ってなかった落ちこぼれ(灰かぶり)をGⅠ優勝で一夜にしてスターに押し上げた《人気薄の魔術師》……」

「え? それって──」

 

 心当たりがあるその異名に、胸がドクンと大きく鼓動を打った。

 ウチ──いや、わたしはその競走(レース)を直接見たんだから。

 

乾井(いぬい) 備丈(まさたけ)トレーナー……彼が〈ミモザ(うち)〉の一門なのは知ってる?」

「それは、もちろん……」

 

 チーム(〈ミモザ〉)史上最高──いえ、中央(トゥインクル)シリーズの歴史でも屈指の下克上(大金星)を挙げた大先輩がいる。

 その担当トレは緋子矢トレーナーの父親ということになってるけど、彼女を実質的に指導していたのは、その当時チームにいたトレーナー研修生だったというのは我がチーム内ではそこそこに知られている話。

 

(……もっとも、その彼が正トレーナーになった直後に盛大にやらかして、その緋子矢トレの父親が引退する原因を作ったので、チーム内の評判は悪いけど)

 

 そんな彼が、再起して立ち上げたチームこそ──

 

「つまりそういうこと。移籍先はあの“驚愕(ビックリ)”の〈アクルックス〉よ」

「……マジ?」

 

 思わず目を見開いていた。

 そのチーム名も彼の名前も知っていたし、決して忘れるわけがなかった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 ──そのチームの名前を知ったのは、()()レースだった。

 

 

 マイルチャンピオンシップを制し、てっきりスプリンターズステークスに挑戦すると思っていたあのウマ娘(ひと)が挑んだのは、年末の最強決定戦(グランプリ)・有記念。

 もちろん注目していたのはあこがれのあのウマ娘(ひと)だけど、異常なハイペースに最後にはついていけなくなったその姿に「あぁ……」と思った。

 入れ替わるように前に出たのは淡色の長い髪をなびかせる大本命のウマ娘──メジロマックイーン。

 そんな展開に心のどこかで諦めていた。

 言い訳のように「いくらあのウマ娘(ひと)でも仕方ないか、マックイーン相手だし」と思った……そのとき──

 

 

『ダイユウサクだダイユウサクだ! これはびっくり、ダイユウサクーッ!!』

 

 

 マックイーンよりも内を抜け、それ以上の末脚で私のあこがれも、先頭を意地で走っていたウマ娘をも追い抜いて──ゴールしていた。

 

 前年に引き続いて起こった年末の奇跡(ミラクル)

 

 トレーナーに抱えられた状態で片手を挙げている彼女の姿に驚愕を越えて、心が震えるのを感じ──あこがれのウマ娘に、彼女以外のウマ娘に惹かれてゴメンナサイ、とひそかに謝罪した。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──次にその名を心に刻んだのは、やっぱりあのウマ娘(ひと)が出走したレースだった。

 

 例のレースの翌年、ウチのあこがれのウマ娘(ひと)は晩秋の東京レース場で天皇賞(盾の栄誉)に挑んだ。

 その終盤、東京レース場の長い最後の直線で、あのウマ娘(ひと)は先頭に立ち──本命だったトウカイテイオーとの死闘を演じていた。

 それに決着が付きテイオーが前へと出て、「あぁ」と気落ちした──そのときだった。

 

『外から後続が押し寄せてくる! 一番外からレッツゴーターキン!!』

 

 ──え?

 まったく予想外の風が吹いた。

 大外を通って駆け上がってくる二人のウマ娘が、先頭に立っていたトウカイテイオーに追いつき、そして抜き去っていく。

 

『レッツゴーターキン、ムービースター! レッツゴーターキン、ムービースター!』

 

 そして……私が呆然と見つめるその目の前で、前の方にいたそのウマ娘が先頭でゴール板を駆け抜けた。

 

『なんとビックリ、レッツゴーターキン!!』

 

 まさに実況の言うとおり。想定外のウマ娘の大金星に驚かされ、唖然とするしかなかった。

 隣でテイオーを応援していた小さなウマ娘も、完全に言葉を失ってる。

 でも、そんな光景に……

 

 

 ──トクン

 

 

 一度、鼓動が大きく脈打つのがハッキリと感じられた。

 下から数えた方が早いような人気──誰もが勝利を諦めるような状況だったはず。

 そんな絶望的に追いつめられていた戦況を一気にひっくり返す──そのカタルシスに、私の心が震えた。

 まるで、私の()()()()()()()()()が呼応するかのように。

 

(でも、違う! 違うはず!! 運命を感じるのはあのウマ娘(ひと)じゃないんだから! あのウマ娘(ひと)だったんだから!!)

 

 必死に首を横に振って否定する。

 そう、運命を感じたのは今もコースにいる青い差し色の入った髪のウマ娘。そのはず。

 そしてそのウマ娘(ひと)は、レースに負けながらもどこか楽しそうに笑みさえ浮かべ、勝利したウマ娘のことを見ていた。

 思わずその視線を追って……妙にオドオドした、とても勝利したようには思えないほど落ち着きのないウマ娘を見る。

 彼女は戸惑いながら、近づいてきたトレーナーと言葉を交わし……そして勝利を知って感極まると、抱きついて感情露わに泣き出していた。

 

「…………あの、人は」

 

 それで気がついた。

 抱きつかれているトレーナーが、年末のグランプリで勝利したウマ娘を抱え上げていたトレーナーと同じ人だということに。

 

 気が付けば思わず調べていた。

 彼女の、彼女達の所属チームの名──〈アクルックス〉を。

 そしてそのトレーナーの名前──“乾井 備丈”を。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

 ──そんなことがありつつ“あのウマ娘(ひと)”にあこがれ続け、中央トレセン学園でジュニア期を迎えた。

 そうしてデビューに向けてチーム探しをすることになったとき、もちろん頭の中でそのチームが候補にあがった。

 

 でも……躊躇った。

 

 確かにあのトレーナーはスゴい。《ビックリ箱(ジャック・イン・ザ・ボックス)》の異名を得て、誰も予想していないようなウマ娘を大舞台で勝たせる。まさに《人気薄の魔術師》。

 チームも『驚愕(ビックリ)の──』とか『見えぬ輝き(ダークホース)の──』という形容が頭に付くほど。

 

 ……まぁ、彼女達2人の“奇跡”の後にも、所属ウマ娘が最低人気でGⅠ勝利なんてことをすれば、さもありなん。

 

 その逆境での大勝利に心揺さぶられたのは間違いない。

 それに自分の実力だって、わかってる。

 学園に入って、自分がどの立ち位置にいるのか。周囲のレベルと比べての自分の実力というものが。

 最初から同期の中で実力上位で、ジュニア期から勝ち星をどんどん掴んでクラシックタイトルを狙っていく……そんな理想が夢物語でしかないのに気づかないはずがない。

 

 そう……運命を感じて憧れたあのウマ娘(ひと)のような強さを、私は持ち合わせていなかった。

 

 だからこそ、そのチームに希望の光を見るのだけど……でも、その門を叩いてしまうと、あのウマ娘(ひと)への憧れが、揺らいでしまう気がして仕方がなかった。

 トゥインクルシリーズに憧れたのは、必死に努力してこの学園に入ったのは、あの人のようになりたい、そして輝きたいと思ったからこそ。

 でも……もし、あのチームに入ってしまえば、自分の中で感じた有記念や天皇賞(秋)(アキテン)の時の感情を全肯定して、その前に感じた運命的ななにかを全否定するような気がして……

 

 私は踏ん切りが付かなかった。

 

 かといって、自分の実力を知ったからこそ、そのあこがれのウマ娘(ひと)と同じチームに入る勇気も無く……心のどこかで入りたいそのチームの、部屋の前まで来てしまった。

 でも……

 

「却下!却下! 大却下よーッ!!」

 

 そのチーム部屋の入口前で苦悩していたら、部屋の中から大きな声が聞こえてきて、思わずビクッと肩を振るわせていた。

 ショックを受けている間に、反論の声が部屋から聞こえてくる。

 

「ど、どうして自分が駄目なんですか!?」

「当たり前でしょ! ふざけてるの?」

「ふざけてません! 大真面目です!! 超真剣(マジ)です!」

「は? アンタ、ウチが『驚愕(ビックリ)の〈アクルックス〉』って呼ばれてるってだけで選んだんでしょうが!」

「なッ……そ、そんなこと……」

「誤魔化そうとするな! 目が泳いでるわよ!!」

「ど、どうしてそれが……」

「バレないとでも思ったの? アンタの名前みたら明らかでしょ、こんなの!」

「なッ!?」

「ビックリシタナモーなんて分かりやすい名前でごまかせると思ったの!?」

 

 ……えっと、なんかだいぶ取り込み中?

 中から響く大きな越えに戸惑っていると──

 

「あ~、もう隣また騒いでる……」

「あのウマ娘(ひと)、外だと人見知りな程に他に無関心なのに、チームのことになると大騒ぎするから……」

「チームで止める人も居ないしねぇ」

「バードちゃんくらい?」

「かもね。ダイナ先輩は煽って逆に騒ぎ大きくするタイプだし」

 

 隣の部屋から、賑やかそうに話をするウマ娘の一団が出てきてそのチーム部屋を見ながら言う。

 一方で、部屋の方からは──

 

「ウチは真剣に勝利を目指す競走チームなのよ! だから今までの結果がある。ウケ狙いのお笑い芸人なんて募集してないのッ!」

「あ? オイオイ、冗談はやめてくれよ。まるでそのお笑い芸人みたい異名を持つお前が、まさかそんなことを言うわけないよな、《世紀の一発屋》サン?」

「なッ!? なななな──」

 

 さらにもう一人の声が加わって、余計に騒がしくなった模様。

 それを外で聞いていた面々は苦笑を浮かべる。

 

「でも最近はシオンちゃんがピシッて言うようになったみたいよ」

「彼女に言われたら、さすがに下の世代からでもそりゃあ言うこときくわ。あの実力と実績見せつけられたらなにも言い返せないし」

 

 外の彼女達がそう言うと、それを証明するように……テレビやメディアでも聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「先輩、落ち着いてください。それにダイナ先輩も煽らないでください。せっかく来てくださったというのに驚いているではありませんか。うちのチームにあこがれて来たというのに……」

「ハ、ハイ! 私、オラシオンさんのようになりたくて──」

「あ~、後輩チャン? 言っとくけど、それはやめた方がいいわ。シオンにそんなこと言ったらガチでハンパじゃないキツさの同じトレーニングつきあわされて、付いていけないと音を上げたら『どうしてですか?』と本気で不思議な顔されるから。天才マジパネェって思い知らされるだけだから」

「うん。わたしもロンちゃんに賛成……ものすごく苦労すると思うよ? やめといた方がいいと思う」

「マンガンさんにピアリス……私のこと、そんな風に思っていたんですか?」

「え? うん……」

「むしろシオンはガチで自覚無い系? 競走のことになると目の色変わってるのを、自分で分かっていらっしゃらない?」

「そ、それは……」

「そんなこと問題なし(ノープロブレム)、でございます。(わたくし)の敬愛するトレーナー様にお任せすれば──」

「おタケ、アンタは黙っとき……」

 

 さらには部屋内にいたらしい多数のメンバーの声が聞こえ、室内はさらにかしましい状況になっていた。

 それに気付いた外のウマ娘達は思わず苦笑いしながら顔を見合わせ──

 そんな彼女らの中でふと目をこちら向けた一人と、私は目が合う。

 

「あれ? ……ひょっとして、入るチーム探してる新入生?」

 

 そのウマ娘が目をパチクリとさせながら訊いてきたので、思わず答える。

 

「え? あ、はい。まぁ……そんな感じで」

「え~、どこに入るか決めたの? ひょっとしてまさか……〈アクルックス〉?」

「悪いこと言わんからやめときな。ここはキビシーお局サマみたいな先輩がいるから」

「無自覚スパルタ系の、天才的なウマドル様もいるしね」

「その点、うちなら和気藹々だし! 先輩もみんな優しーよ♪」

「って、ウチのチームの宣伝するんかい!」

「あっちには目つきと口と雰囲気の悪いおっかない先輩もいるけど、こっちはいないよ?」

「いやいや、あのウマ娘(ひと)、元はウチのチーム所属でしょうに」

 

 いつの間にか囲まれてた!?

 その彼女たちが揃えて纏っている上着には、あの日見た南十字座(サザンクロス)の意匠が描かれていた。

 

「──ッ」

 

 それに思わずハッとする。

 でも……違う。

 十字の下の星を強調していたあの意匠と違って左の星を強調しているし、書かれているロゴも“β・clux:Mimosa”となっていた。

 そんな服をまとい、こっちを取り囲んだ先輩方はさらに距離を詰めてグイグイと迫ってくる。

 その圧に押されつつ──

 

「あ、あの……えっと……なんてチームなんですか?」

「うちのチームの名前は〈ミモザ〉っていうんだよ!」

「そそ! チームの歌だってあるんだから。はい、みんな。せ~の!」

 

「「「「「♪ガラスの──」」」」」

 

 ──ッ!? 綺麗にハモってる!?

 ワンフレーズ歌い上げた先輩達の美声に、思わず拍手してしまっていた。

 直後、その反応に気を良くした先輩達は、妙に圧のある笑みを浮かべてさらに押され──

 

 …………そうしてチーム〈ミモザ〉の一員になっていた。

 その場の流れに押されたのは否定しない。

 でもトレーナーの緋子矢さんの人の好さも含めて、チームの空気も良くて入ったことを後悔したことは一度もなかった。

 

 

 ──そう、思うような成績をあげられなかったのは、実力のない自分が悪いんだから。

 

 




◆解説◆

【巡る因果! 憧れのウマ娘(ひと)と憧れのチーム】
・やっと登場した第三章主人公。
・でもまだ名前が出ない。
・さて、だ~れだ?

隣でテイオーを応援していた小さなウマ娘
・キタちゃんのこと。
・第二章第31話参照。
・そう、第3章主人公はすでに登場していました。
・あのときキタちゃんと張り合っていたウマ娘が本章の主人公です。

南十字座(サザンクロス)の意匠
・第二章31話に出てきた、乾井トレーナーが着ていた〈アクルックス〉のスタッフジャケットに描かれていたマーク。
・コレは〈ミモザ〉所属のウマ娘が考えたもので、友好の証として〈ミモザ〉のものを流用して考案してくれたもの。
・なおε星を含む5つの星が描かれており、α星とγ星、β星とδ星の間には線が引かれて十字を描いて分かりやすくしている。
・〈ミモザ〉のものはβ星を、〈アクルックス〉のものはα星を他の星よりも明らかに大きく描いて強調。
・その強調した星だけ色を変えており、〈ミモザ〉のものは由来であるオジギソウ(ミモザ)の花の色のピンク、〈アクルックス〉のは目立つように金色にしている。
・それ以外の星は白。

♪ガラスの──
・アカペラに定評のある()()()()()()()()()()()()のとある曲。
・仲のいい〈()()()〉の先輩方は、それぞれパートを担当して完璧に歌えるようです。
・当初、7文字書いていたら、別に曲を特定できるわけでもないのに歌詞使用うんぬんで通報されたんで、許可だのなんだのの手間も面倒なので変えました。
・ここまで短くして、どんな詩かもわからない状態にしても通報されるんなら──もうお手上げですわ。


※次回の更新は8月2日の予定です。  

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