見えぬ輝きの最南星《アクルックス》   作:ヤットキ 夕一

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第4R 理解不能!? 模倣品(イミテーション)の価値

 先輩から聞いた話が、いよいよ本当の話だったと分かったのはそれからすぐのことだった。

 

 なにしろ担当トレーナーの緋子矢トレから「ゴメン!」と突然目の前で手を合わせて謝られて、移籍メンバーに自分が選ばれたのを知らされたから。

 そして移籍先の、新しく担当となるトレーナーと会うことに……

 

 ──そのトレーナーは、意外と普通なヒトだった。

 

 “ビックリ箱(ジャック・イン・ザ・ボックス)”とか、“人気薄の魔術師”なんていう異名から格好はともかく性格はかなり奇抜なんじゃね? と想像していたけど、多少砕けた雰囲気で話しかけてくる程度。

 言ってしまえばどこにでもいそうな人──それがウチにとって乾井 備丈というトレーナーと接触した最初の印象。

 むしろその人に寄り添うように傍らにいる2人のウマ娘の方が印象的だった。

 

 一人は、車椅子の上でニコニコと笑みを浮かべている、目の付近を覆う黄色い覆面が特徴的なウマ娘。

 将来を有望視されていたものの大きな事故を起こして走れなくなったウマ娘。

 それがなければオラシオンの前に“時代を作っていた”とまで言われる存在で……その事故が有名なこともあって、ミラクルバードというその名前を知らないウマ娘はきっといないと思う。

 

 でも、もう一人──ウチにとっては彼女の方がよく覚えている顔だった。

 

 あの年末の最強決定戦(グランプリ)で、奇跡を起こしたウマ娘。

 ただの一度の勝利で歴史に名を刻み、まさに一夜にして世に存在を知らしめた、真のシンデレラウマ娘(ガール)

 

(このウマ娘(ひと)が、あの……)

 

 その後のレースでは結果を残していないけど、むしろそのことがこの人の強烈な個性として世に印象を残している。

 だって世の人はこのウマ娘のことを《世紀の一発屋》──

 

「……なに? なにか言いたいことあるの?」

「なッ? め、滅相もない……」

 

 ジト目でそのウマ娘に見つめられ、思わず戸惑ってしまう。

 そんなウチの反応を見て、彼女は「フン」と興味を失ったようにそっぽを向いた。

 

「先輩は、人見知りして他人に興味ない風なクセに、妙に勘だけは鋭いから気をつけた方がいいよ」

「コン助ッ!!」

 

 車椅子の上でニコニコしながら言うそのウマ娘に、さっきのウマ娘──ダイユウサク先輩が抗議の声をあげる。

 でも、彼女は一向に気にした様子もなく、相変わらずニコニコしながら「よろしくね」と挨拶をしてきた。

 思わず素直に「よろしくお願いします」と返しそうになりかけ……ハッと気付いて、私──いや、ウチは満面の笑みを顔に張り付かせた。

 

「チーム移るとか最初はマジ意味わからなかったけど、とりまガチでがんばるんで、パイセン方にトレピもヨロ~!」

 

 顔の前で傾けたピースを作って、ウィンクしながら言った。

 すると──

 

「「「………………」」」

 

 あれ? なんか……この場に居合わせた先輩2人とトレーナー、ガチで固まってるんですけど。

 いや、一人……ダイユウサク先輩はなにかに耐えるように視線を下げ、肩をワナワナと震わせてる。

 ウケて笑いとか呼応したいのを我慢してるのかなと思ったら、うつむいた状態からゆらりと上げた顔は──明らかに怒っている。

 

(ゲ……)

 

 おかしい。

 前のチームだったら「よろ~!」とかみんな返してくれるはずなのに。

 そんな怒り心頭の先輩の横で、車椅子の上のミラクルバード先輩はウチと彼女の顔を見比べて「あはは……」と乾いた笑いを浮かべてる。

 

「……アンタ、真面目にやる気あるの?」

「まぁまぁ、先輩。確かにウチにはいないタイプだけど、学園内にはいろんな()がいるんだし……それにウチに移籍は決まってるんだし、追い出すわけにはいかないんだから堪えて、ね。ねぇトレーナー」

 

 間に入って取りなすミラクルバード先輩は、救いを求めるようにトレーナーを見上げる。

 そのトレーナーは……素っ気なく「ああ。そうだな」と答える。

 そんな感じでトレーナーがとりあえず何も言わなかったので、ダイユウサク先輩も不満そうにしながらもそれ以上は言ってこなかった。

 隣でホッとした顔をするミラクルバード先輩。

 だけど……

 

「まぁ、別にそういうウマ娘がいるのは分かる。だからそれをとやかく言うつもりはない」

 

 納得したはずのトレーナーが、スッと一歩前に踏み出してきた。

 

「口の利き方がどうとか、そんなことを口うるさく言うつもりも無い」

 

 チームによって、トレーナーが厳しいところだとその辺りから注意・指導されることもあるって聞いたことがある。

 でも、それは気にしないと目の前のトレーナーは言う。

 それなら……この人は、どうして剣呑な目でこっちを見ているんだろう?

 さらにズイッと顔を寄せてくるトレーナー。

 

「だが……お前はどうしてそんな無理をしてるんだ?」

 

 ウチをじっと見つつトレーナーがポツリと言った。

 そしてその言葉が自分の心にグサリと刺さった気がした。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 オレの指摘に、そのウマ娘はひどく驚いた様子だった。

 やっぱりな……それでオレの直感が合っていたのを確信する。

 

「…………え?」

「お前、本当はそういう性格じゃないだろ?」

 

 無論、完全に勘だ。

 この目の前のウマ娘のことは資料こそ見ている。だが、顔を合わせるのは初めてだ。詳しく知っているわけがない。

 資料にはこれまでの成績や身体能力ばかりで、性格についてなんて書いているわけがないんだからな。

 一応は担当トレーナー(レナ子)からどういうウマ娘かくらいは聞いてはいる。

 ()()()()()()()()()()性格で同じようなウマ娘といることが多い、と。

 しかし、こうして直接会ってみると……どうにも違和感があった。

 

「どこか演じているというか、誰かを意識してるというか……あぁ、そうか。()()()()()か」

 

 話しながらオレの頭の中では心当たりのウマ娘が一人が浮かんでいた。

 そのウマ娘は〈アクルックス(うち)〉とも因縁浅からぬ関係だった。なにしろダイユウサクとレッツゴーターキンの()()()()()の両方に出走していたからな。

 だからこそオレも印象に残っていたし、おかげでこのウマ娘の立ち居振る舞いからすぐに思いついた。

 

(パリピというかギャルというか……うちにはいないタイプだったが)

 

 そこまで考えが至り、ほぼ確信した。

 やはり本質は違う。オレの目にはこのウマ娘本来の性格はそうではないように思えて仕方ない。

 あのウマ娘のような天性の明るさや人懐っこさではなく、それを無理に作っているように見えてしまった。

 それを必死に真似てそのウマ娘の見た目(ガワ)を被って演じ、おかげで彼女本来の姿がオレには見えなかった。

 

 それが酷く(いびつ)に見えてしまい──気持ちの悪ささえ感じていた。

 

(なぜだ。なんで、真似をするんだ……)

 

 オレには理解できなかった。

 オレだってトレーナーとして尊敬している相手はもちろんいる。例えば師匠(おやっさん)だ。一から基礎をたたき込んでくれた上に、自分の責任でオレなんかに一人のウマ娘を任せ、貴重な経験を積ませてくれた恩人だ。

 同門の東条先輩もそうだ。その慧眼で才能あるウマ娘を集め、しっかり育て上げて結果を残し、最強軍団を組織しつつある。

 物知り顔で「天才を集めてるだけ」なんて悪口を叩くヤツもいるが、それは結果を見て言っているだけだ。

 才を見抜き、それを育てるのがいかに難しいことかがわかっていない。

 たとえトレセン学園入学以前にずば抜けて優れた成績を残した“期待の星”が入学後に伸び悩む……なんてことは掃いて捨てるほどある。

 本人の才が()()()()だったのか。

 それとも担当トレーナーが伸ばせずに腐らせてしまったのか。

 そんなことは神ならぬ身に分かるわけがない。

 現実世界はステータスが数値化されて限界値まで可視化されているようなゲームじゃないんだから。

 そんな中でも最上級の結果を残しているからこそ、先輩を尊敬している。

 もちろんそうなりたい、と思う気持ちはある。

 だが、だからといって彼女の真似をしようとは思わない。口調や普段の姿を意識して真似るなんて……もちろん男女の性別差があるが、それを差し引いても“先輩のコピー”を目指したりなんてしない。

 そこにオレ(個性)がないその方法が、オレにとって“正解”のはずがない。

 オレである必然性がない。

 それでたとえ結果を出したとしても、そんなもの「オレがやった」と胸を張れるのか?

 そんなこと、できるわけないだろ!

 

「憧れの先輩を“ああなりたい”と目標にするのはわかる。だが、どんなに憧れて真似しようとも……対象そのものにはなれないんだぞ」

 

 物真似するだけで《魔法使い》やら《フェアリー・ゴッド・ファーザー》になって結果を残せるなら苦労はしない。

 どんなに真似しようとも東条先輩にはなれないし、師匠(おやっさん)にもなれない。

 もちろん〈スピカ〉のトレーナーや〈カノープス〉の南原さん、身近で良く知る相手の巽見やら朱雀井(チュン太郎)だって無理だ。

 

(仮になれたとして、それがなんだ!?)

 

 他人(ひと)様のやり方をなぞって成功して、その先に何がある?

 ああ、先人が作った道を同じように登る山は、道を作る側に比べれば遥かに楽だろうよ。

 だがこれ(ウマ娘競走)は登山じゃあない。同じ道をたどれば誰でも頂上(テッペン)に登れるようなシロモノじゃないんだ。

 

 そしてそんなやり方は──オレの矜持(プライド)が許さない。

 

 実績や名声だけで結果が決まるのなら、ちっとも面白くなんかない。

 最初は意識さえしていなかった。

 無我夢中で、目の前のウマ娘達と上を目指すので精一杯だったから。

 だが──

 

 ギャロップダイナ

 ダイユウサク

 レッツゴーターキン

 サンドピアリス

 そして……………………

 

 彼女達と時を過ごして結果に一喜一憂する間にオレは悟った。

 逆転や番狂わせが、想定外と誤算こそが、オレの心を熱くさせ、そして奮わせることに。

 それこそがオレの目指すものであり、世間がオレ──《ビックリ箱(ジャック・イン・ザ・ボックス)》に求めるものだと理解した。

 それこそが自分(個性)というものだ、と。

 

「人もウマ娘も、誰か他の人になることなんてできやしないんだ。まったく同じ存在なんてないし、なり得ないんだ」

 

 それが分かれば、誰かと同じであることに魅力も意義も感じない。

 人もウマ娘も生まれもった才能も違えば、育ってきた環境だって違う。

 だから誰かをそっくり真似たところで、同じこと(走り)ができるわけがない。

 なぜなら──違う存在なんだから。

 違う存在である意味がない。

 

「憧れの存在に、近づこうとするその気持ちは評価する。目標を立て、努力するその姿勢も素晴らしい。だが……オレはそのやり方が正解とは思えない」

 

 オレは目の前のウマ娘に問う。

 

「〈アクルックス(ウチ)〉のダイユウサクやレッツゴーターキンとも競ったことのある()()()()()に憧れるのはいい……」

 

 オレが厳しい目を向けると、彼女は「へ?」と戸惑った目で呆気にとられていた。

 

「……だが、お前は()()()()()()()()じゃないだろ」

「そ、それは……」

 

 そんなこと分かっている。

 ああ、そう言いたいだろうな。

 今までの中央(トゥインクル)シリーズでの成績だって彼女とは比べるべくもない。

 それでも「彼女のようになりたい」と強く願ったからこそ手段を間違えたんだろう。

 

 だからこそ──正さなければならない

 

 オレは目の前にいるウマ娘に向かって問うた。

 あのウマ娘と同じように青の差し色を入れた黒髪を伸ばした、彼女の目を真っ直ぐに見つめ──

 ──そして、尋ねた。

 

「お前は誰だ? ……()()()()()()()

 

 




◆解説◆

【理解不能!? 模倣品(イミテーション)の価値】
・やっと明らかになった第三章の主人公。
・そのダイタクヤマトとは……
・なお、第三章のタイトルに必ず「!」を入れているのは、『宇宙戦艦ヤマト』の各話タイトルを意識した結果。
・基本的に「──! ────」といった感じの形式になっていたので。


ダイタクヤマト
・同名の実在馬を元にした本作オリジナルのウマ娘。
・モデル馬は1994年3月13日生まれ。牡の黒鹿毛。
・父はウマ娘になっている、マイルチャンピオンシップを91年、92年と連覇したダイタクヘリオス。母は3戦未勝利で引退したダイタクブレインズ
・生涯成績は40戦10勝。2着6回、3着5回。
・タイトルも取っており、2000年の最優秀短距離馬と最優秀父内国産馬をとりました。
・その勝ちレースで最も有名なのは2000年のスプリンターズステークス。
・本章のタイトル『Outrun by The Feathers of Icarus!』の「Outrun(逃げ切れ)」は、その時の有名な実況「逃げ切り、逃げ切り、逃げ切り~!」から。
・……この実況を聞くと「逃げ切りっ!Fallin’Love」を思い出すんですよね。
・もしも運営がダイタクヤマトのウマ娘を実装したら、逃げ切りシスターズのメンバーに入りそうです。
・本作オリジナルになるダイタクヤマトのウマ娘は、他のウマ娘のように史実で父馬だったダイタクヘリオスに運命的なものを強く感じており、意識しているという設定。
・ここでの登場が本作で初めての登場というわけではなく、第二章のレッツゴーターキンが挑んだ秋の天皇賞のシーンで登場していた、ダイタクヘリオスの熱烈なファンのウマ娘として登場していました。
・そのターキンの勝利に心が動いたのは、彼女もまた〈アクルックス〉に入る運命(大穴勝利)を持っているウマ娘だから。



※次回の更新は8月8日の予定です。  

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