見えぬ輝きの最南星《アクルックス》   作:ヤットキ 夕一

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 ──高松宮記念から約1か月後。


 4月の頭に桜が咲く関東から約1か月かけて青森から函館にまで登っていく桜前線。
 さすがに4月後期ともなれば、ここ福島も東北地方とはいえ一番南であり桜前線はとうに過ぎている。
 福島の桜の名所と言えば“三春の滝桜”であり、見ごろは4月の中旬。
 それを1週間ばかり過ぎたこの時期の福島に、ダイタクヤマトとメジロダーリングの姿があった。

 無論、福島レース場での出走のため、である。

◆  ◇  ◆  ◇  ◆


「……調子はどうだ、ダーリング?」
「ええ、問題ありませんわ。今日ももちろん、真っ先に先頭(ハナ)をきって走ってご覧にいれます」

 トレーナーの問いに大きく頷いて答えました。
 そんな(わたくし)に……トレーナーは少しだけ躊躇う様子を見せてから「そうか」と言いました。
 あら? なにか不安を感じていらっしゃるのでしょうか?

「安心してくださいまし。今日のレースも(わたくし)の“宿命の好敵手(ライバル)”がいるのですわ。恥ずかしい走りなどできるはずもありませんし、今日こそは……再び彼女に勝ってみせます」

 そう言って共に走路に立つウマ娘達の中の一人を見つめました。
 真っ直ぐに切りそろえられた前髪が特徴的で、伸ばした後ろ髪を風になびかせたそのウマ娘──ダイタクヤマトさん。
 彼女と初めて共に走り、敗北し、好敵手(ライバル)と認め──その次のレースで(わたくし)が勝利してオープン昇格した。
 今日こそはそれ以来となる彼女からの勝利を掴むのです。

「ふむ……まぁ、それならいい」
「ええ、お任せくださいませ」

 自信をもって笑顔で返すとトレーナー様は納得した様子で(きびす)を返し、去っていきます。
 しかし、その足をふと止めて──ポツリと付け加えたのです。

「木を見て、森を見ず……などということにはならないように、な」
「え?」

 突然言われたその言葉の意図が分からず思わず声をあげてしまいましたが……戸惑っている間にトレーナー様はそのまま去ってしまいました。
 (わたくし)は思わず──

「……どういうことでしょうか?」
「えっと……私にはよくわからないけど、相生さんが仰るんだから意味のある言葉なのは間違いないと思うわ」

 ──すぐ近くにいたチームのサブトレーナーさんに問うてしまい、彼女もまた困惑気味に返してきたのでした。
 本来であれば彼女から指導を受けたい、とトレーナー様にも申し上げたのですが、「それではお前のためにならん」と却下したのもトレーナー様でしたし……彼に嫌われているのでしょうか?

「ともかく、悔いの残らないよう全力を尽くして来なさい」
「言われるまでもありませんわ!」

 いえ、そんなことはありませんわね。
 サブトレーナーさん同様に、トレーナー様もまた(わたくし)のことを信頼してくださっている。その期待に応えてこそ競走ウマ娘というものですわ!

 さぁ、ヤマトさん……今日もまた、全力で挑ませていただきますわよ!!

◆  ◇  ◆  ◇  ◆


「あら、こんなところで会うなんて……」

 聞き覚えのあるそんな声に、アタシ──ダイユウサクが振り返ると、細い目をさらに細めたウマ娘がいた。
 そしてその隣には彼女の手前、どんな態度をとったらいいか決めかねているような、微妙な顔をしたツインテールのウマ娘がまるでセットのようにいる。

「……奇遇ね、シヨノロマン。心臓の方は大丈夫?」
「ええ、おかげさまで……」
「無視すんな!」

 目と体の細いウマ娘にしか挨拶を返さなかったアタシに対し、案の定そのウマ娘は怒ってきた。
 うん、このウマ娘はそれくらいがちょうどいい。

「で、こんなところまでなにしにきたの? セッツ」
「アンタねぇ……やっぱりシヨノと私で扱いが違いすぎるんじゃありませんこと?」

 不満タラタラな様子でアタシを見ているツインテールのウマ娘はサンキョウセッツ。
 オラシオンがクラシックの時期には、彼女のライバルと同じチームだったこともあってよく顔を合わせた相手だった。
 でも、そのウマ娘──セントホウヤがトレーナーと不和になってチームを離脱してからは今回のようにレース場で顔を合わせることは減っていた。
 理由の半分は、彼女のチーム(〈ポルックス〉)次代のエース(セントホウヤ)に去られて急に勢いを失ったこと。
 そしてもう半分はウチのチーム(〈アクルックス〉)最強エース(オラシオン)が早々に引退して、一気に勢いを失ったこと。

(それだけ見れば似たもの同士でもあるのよね……)

 そんなことを考えながら──ふと、出走表を見る。
 はたして〈ポルックス〉所属のウマ娘はいただろうか?

「まぁまぁ、セッツ……私と彼女は親戚の応援なんです。あなたは同じチームの後輩の応援でしょう?」

 刺々しいセッツをやんわりとなだめたのは、大和撫子のシヨノロマン。
 そういう姿を見ると……アタシはどうにも複雑な思いになる。
 というのもこのシヨノロマン、どうやらウチのチームのトレーナーの好みのど真ん中(ストライク)らしいのだ。
 性格もだが見た目が特にそうらしく、本人は「オレの理想は初代の国民的ウマ娘だ!」と否定するけど、なんとなく分かるのよね。
 “推しのアイドル”と伴侶に求めるものが別、ってよく言うし。

「ちょっと! シヨノの話、ちゃんと聞いていますの?」
「あ、ごめん。親戚で、アンタ達2人ってことは、ひょっとして……」
「はい。“あの方”の、です。少しだけ遠い親戚ではあるのですが……」

 そう言って苦笑するシヨノロマン。
 アタシとは一応は遠い親戚……ということにはなっていて、いろいろと恩をいただいてお世話になったURAの重鎮である“あの方”。アタシはその方と直接の血のつながりはない。
 でもシヨノロマンとサンキョウセッツは間違いなく“あの方”の血を継いでおり、その2人がやってきたのだから、直系の親戚が今回のレースにでているのだろう。

「それにしても、その“遠い親戚”が出走するだけでわざわざ来るなんて、親戚づきあいも大変ね」
「よかったですわね、そんな面倒くさがりのアナタが直系の親戚じゃなくて」
「セッツ! あ、えっと……実は前回も同じレースに出ていたんですよ? 大きなレースだったのでお会いしませんでしたが……」

 半ば呆れながらアタシが言うとセッツが皮肉を返してくる。それにシヨノロマンは慌てて誤魔化そうとしていた。
 それをチラッと見ながら、アタシはシヨノに訊く。

「どの()がそうなの?」
「ええと、それは……」
「ちょっと、無視しないでよ!」

 苦笑しながらシヨノロマンが出走表で指したのは9番のウマ娘だった。



第24R ヤマト、徹底抗戦せよ!

 

『ダイタクヤマトが先頭だ。ダイタクヤマトが先頭だ──』

 

 彼女に先頭をとられたのは、正直なところあまり良い展開とはいえ無かった。

 間に一人挟み──ボクは3番手をほぼ併走しているウマ娘チラッと見る。

 

「くッ、さすがヤマトさん、ですわッ!」

 

 そんなつぶやきが聞こえた彼女は先頭のウマ娘を意識している様子で、間に入っている2番手のウマ娘を睨みつけるように見ている。

 

(彼女と先頭が逆だった方が、まだやりやすかった)

 

 そんな考えが頭をよぎる。

 なにしろ前走の高松宮記念ではまさに彼女──メジロダーリングが先頭で走っていた。

 しかし結果として、そこで力尽きて下位に沈んでいるから特に怖さを感じない。

 そして今まさに先頭を走っているダイタクヤマトも前走は同じで、今日の彼女とは逆に3番手付近を走っていた。

 

(あのレースでダイタクヤマトも二桁順位に沈んでいるのは同じ。とはいえ──)

 

 あのとき、彼女はアグネスワールドに頭を押さえられていた。

 おかげで好きに走れなかったのは間違いなかった。

 だからこそ今回、自由に逃げてレースの主導権を握っているという前回とは明らかに違う状況は不安を感じるところだった。

 

(彼女を先頭に出して、はたして大丈夫だったか……)

 

 前のレースでは、GⅠ常連の猛者が何人もいた。

 ダイタクヤマトを前にいて抑えた逃げウマ娘もいたし、そんな彼女さえ含めて後ろから抜き去ったウマ娘が勝っている。

 重賞ですらない今回のレース、出走メンバーの実力は比べるべくもなく下がっている。

 

(確かにダイタクヤマトはオープン昇格したばかりのウマ娘。でも経験豊富なベテランでもある)

 

 今まで積み重ねた経験を考えれば、油断していいような相手じゃない。

 案の定──

 

(ッ! やっぱり粘る、このウマ娘……)

 

 4コーナーを回って最後の直線を迎えるが、その脚が衰えない。

 短距離の逃げは、大きなリードを奪って追いつかれる前にゴールまで逃げ込めるような中長距離レースとは少し趣が違う。

 なぜなら、それほどの大差(セーフティ・リード)を付けられるほどの(いとま)はないからだ。

 それゆえにスタミナ切れで少しでも失速すればあっという間に追いつかれ、そうなってしまえば逆転の目はない。

 後方からのウマ娘達にの末脚(スパート)に負けないほどの速さを最後まで維持できなければ、その逃げウマ娘はバ群に沈むしかないのだ。

 

(まだ……失速しない、なんて)

 

 現に、先頭とボクらの間にいた2番手のウマ娘は下がってきた。

 隣のメジロダーリングは歯を食いしばって必死の形相で食い下がってる。

 きっとボクもほとんど同じ顔をしているだろう。

 そのウマ娘よりも前に出なければ、勝利はないんだから。

 それでも──その背には届かない。

 結局、そのウマ娘が沈むことはなかった。

 

「く……やっぱり、先頭を走らせちゃいけなかった、か……」

 

 そう思ったボク──トロットスターは心の中で苦笑するしかなかった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 私──ダイタクヤマトは少し前の光景を思い出していた。

 

『GⅠを走ってみてどうだ?』

 

 トレーナー殿に心配をかけ、頭を下げてトレーニングに復帰した日、まず何よりもも先にそれを問われたのです。

 

「……なにもできませんでした」

「最初はそんなもんだ……と言いたいところだが、そうなっちまったのはオレの責任だ」

 

 私の答えにトレーナー殿は苦笑を浮かべ、それから「悪かった」と頭を下げたのです。

 そんなトレーナー殿に私はあわてました。

 

「そ、そんな!? 自分のせいであります! もっと実力があれば──」

「高松宮記念に出走するのを決めたのはオレだ。お前の今の実力を知っていて、それで出走の判断をしたんだ」

「しかしトレーナー殿、あのレースは短距離走者(スプリンター)のあこがれの一つでありますよ。多少無理をしてでも出たいと思うのは当然のことですし……」

 

 私が言うと、トレーナー殿は再び苦笑を浮かべます。

 

「だから()()()()でも出たい、ってか?」

 

 それからうつむき、「はぁ……」と盛大にため息をついたのです。

 

「あのなぁ、ダイタクヤマト。オレはそういうの嫌いなんだよ」

「え……?」

 

 思わず問い返すと、トレーナー殿は言いにくそうに顔を歪めながら、ガリガリと頭を掻きました。

 

「ただ出走すれば満足……それも考え方の一つだと思うし、それを否定する気もない」

 

 オープンクラスだってウマ娘競走の競技人口を考えればほんの一握り。

 中央(トゥインクル)シリーズのGⅠは間違いなく国内最高峰のレースであり、望めば誰もが出走できるようなレース(モノ)じゃない。

 トレーナー殿はそう言って、GⅠ出走に憧れるウマ娘の気持ちへ理解を示しました。

 そう……私のようなウマ娘が中央シリーズのオープンクラスに居られることは、本当に幸運なんです。

 ──などと言うと、トレーナー殿は「お前の実力で勝ち取ったもので、幸運なんかじゃないぞ」と言うのでしょうが。

 

「勘違いしないで欲しいが、実際に走るお前らウマ娘(サイド)はそれで良いと思ってるんだ。ウマ娘に限らずどんなスポーツにも言えるが活躍できる時間は限られている。そしてGⅠに出走できることは栄誉なのは間違いない。出走表に名前を残したいと思う気持ちは分かる。だけどな……」

 

 そこで一度言葉を切ってトレーナー殿は私から視線を外し、どこか遠い目をして言ったのです。

 

「……トレーナーの立場で見れば、それではダメなんだ」

 

 その視線の先に、私にはトレーナー殿が犯したという失敗を見ている気がしました。

 先輩方から聞いた話であり、また学園内にも未だに残っている噂です。

 トレーナー殿が担当したウマ娘を重賞レースでデビューさせたというもの。そこでヒドい結果を出したウマ娘は即座に引退してしまった……らしいのです。

 

「万に一つの勝利も無くただ走るなんて余りにももったいないし、余りにも残酷だ。こんなに虚しいレースはない。見ている側だって心躍るものが一つもない」

 

 その経験に基づいて──いえ、その後悔から胸に刻んだ戒めなのかもしれません。

 

「せっかく競走(レース)を全力で走るんだ。展開次第ではひょっとしたら……なんて“万に一つの勝ち筋(見えぬ輝き)”を用意しておきたい。オレはそう思っている」

 

 トレーナー殿が「ラストランだからと満身創痍で最後の記念に出てきたウマ娘の思い出づくりは別として」と言ったのは、やはりそういうウマ娘を見たからでしょうか。

 

「だからこそ昨年末、昇格直後のスプリンターズステークスを回避させた。昇格への連戦で体が満身創痍だったお前を出走させても勝ちが見えなかったからな」

 

 それでも一応は意志確認をしたのは、やはり短距離GⅠは春秋2回しかなく、その数少ない機会を一方的に奪いたくはなかったから、だそうです。

 だからこそ私が回避を申し出て、ホッとしたとも言いました。

 

「オレはお前をGⅠ出走で満足させて、そこをゴールにするつもりが無かったからな」

「しかしトレーナー殿。現に十分に体を休ませた私でも、高松宮杯ではまったく通用せずに──」

「自分のレースがまったくできなかった、だろ?」

「はい……」

 

 耳を伏せ、うつむきながら私が言うとトレーナー殿はそんな空気を変えるようにニヤリと笑みを浮かべました。

 

「なら、自分のレースができるようになればいい。GⅠという大舞台でな」

「──はい?」

 

 思わず顔をあげ、困惑しながら首を傾げてしまう私。

 

「昇格前にオレはお前に“戦艦になれ”と言った。強く耐えて沈まぬ逃げウマ娘になれ、と。だから速さとその粘りばかり重視して、肝心なことを見ていなかったんだ」

「肝心なこと、でありますか?」

「ああ。それは……序盤の争いだ」

 

 スタート直後の団子状態から抜け出して先頭に立つ。

 時間にすれば意外と短いもので、そうかからずに序盤の体勢が決まるものです。

 

「ですがトレーナー、自分だって昨日今日“逃げ”を始めたわけではありませんよ? これまでだって何度も逃げて勝っているではありませんか」

「条件戦クラスならそこを意識しなくても抜け出せたんだが、この前の高松宮杯(GⅠ)で思い知ったんだよ。重賞にもなればその駆け引きのレベルがかなり高い。現にそれに負けて、お前は自分のレースをできなかった」

「それは、そうであります……」

「気を落とさないでくれ。これはオレが“逃げ”への研究が低かったせいでもあるんだ。最初に関わったダイナが末脚勝負で『序盤なんて関係ねえ』って感じだったから無意識に軽視しちまっていたんだ。今にして思えばダイユウサクが“逃げ”で大成しなかったのもそれが原因かもしれないな」

 

 少しだけ寂しそうに苦笑しつつそう言って、トレーナー殿は説明を始めました。

 

「誰もが1つでも前を目指す終盤と違って、序盤は良いスタートを切っても後方や中段で待機しようとするヤツもいれば、前には居たいが先頭を嫌ったり、逆にお前と同じように先頭を狙うのもいる。その採る作戦によって思惑が入り乱れるからこそ、抜け出すには高度な駆け引きが必要になる」

「駆け引き……」

「そうだ。自分の得意な場所に位置するのは当然だが、警戒する相手を得意な形にさせないのも重要だからな」

 

 トレーナー殿はレッツゴーターキン先輩が勝った秋の天皇賞を挙げて、後方でのレースを得意にしていたムービースターというウマ娘が逃げ宣言というブラフを仕掛けたような“盤外戦術”もあると言いました。

 

「あとからの取り返しがつかない“逃げ”ウマ娘にとって序盤争いは最重要。重賞クラスの高度な争いを勝ち抜くために、逃げにとって最も重要な『序盤の抜け出し』を徹底的に強化する」

 

 そう言ってトレーナー殿は、後ろを振り返ります。

 そこにはロンマンガン先輩とダイユウサク先輩がいました。

 

「“逃げ”も武器にするあっしにとっては、それはいい勉強になるんで。ま、よろしく……」

「なんでアタシが……」

 

 ロンマン先輩が逃げてダービー2着に入れたのは、逃げると思われていた有力ウマ娘が出遅れた上に、初の逃げで警戒されていなかったから奇襲が成功したからで、今でもどんな走り方をしてくるか周囲は読めないので無警戒な場合もあり、そんな「行けるときは行く」というスタンスだそうです。

 そんな朗らかなロンマン先輩に対して不満げな様子のダイユウ先輩殿。

 

「お前に来てもらったのは抜け出す勘の良さをかってのことだ。出走経験だけは豊富だからな」

「勘なんて、そんなの説明できるわけないんだからやるだけ無駄よ! あのときだって気づいたら前に道ができていたんだし……」

「その道が見えたってことだろ」

「それは……そうだけど」

「何度も繰り返している内に、コイツ(ダイタクヤマト)にも見えるようになる……いや、見えるようになるまで繰り返すだけだ」

「「──え?」」

 

 驚いて思わずトレーナー殿を振り向く。

 同時にダイユウサク先輩もイヤそうにトレーナー殿のことを見ていた様子。

 そんな私達にトレーナー殿は、いつものニヤリという笑みを浮かべるのでありました。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──未だその研究は継続中。

 

 出走するウマ娘一人一人の得意な脚質を覚えて、その上で誰がどの位置になるかを頭に叩き込む。

 それでも奇襲で突然、使ったことのない作戦を立ててくるという想定外にも対応しなければならない。

 

(前に出ずにスタートの勢いを止めるウマ娘を避けて、牽制してくるウマ娘の目をかいくぐって……同じ“逃げ”ウマ娘には絶対に負けない!)

 

 研究中とはいえ、今日のレースでは序盤の先頭争いを勝ち抜くことができたのであります。

 チラッと意識を向ければ、やや後方に複数のウマ娘に混じって好敵手(ライバル)がいるのがわかります。

 

「ダーリング殿であれば、相手にとって不足なし!」

 

 それどころか気を抜けば間違いなく先頭を奪われ、そのまま逃げられてしまうに違いありません。

 先頭(ハナ)というレースの主導権を握った私は、それを誰にも渡すことなく全力で逃げ続けます。

 第3、4コーナーを抜けていよいよ最後の直線へ──

 

「ここからが、正念場……」

 

 私が譲らぬ先頭を、後方で待機していたのも含めた他の全員が全力で奪いにくる。

 その猛攻をしのいで死守しなければならない。

 そんな中で虎視眈々と私にピタリと狙いを付けているのは──

 

「やっぱり、貴方ですか! ダーリング殿!!」

「当、然ッ……ですわッ!!」

 

 (ふね)に迫る魚雷のごとく危険な影。

 そしてその数は3つ

 ダーリング殿の他にもいるようですが……その誰にも追いつかれてなるものかッ!

 

「私は、沈まないッ!」

 

 目に入るゴール板。

 気力が落ちて下がりそうになる視線を必死に上げ──

 体力がつきて上がりそうになるアゴを必死に下げ──

 

「カアアアァァァァァァァッ!!」

 

 私は全力で耐える!

 悲鳴をあげかける体を全力で回し──そして、ゴールを駆け抜けた。

 

 

 ──1着11番ダイタクヤマト

 ──2着 9番トロットスター

 ──3着 6番メジロダーリング

 

 

 そして私はオープン昇格後の初勝利を飾り……どうにか自分の走りに自信を持つことができたのでした。

 




◆解説◆

【ヤマト、徹底抗戦せよ!】
・今回の元ネタは『宇宙戦艦ヤマト2』の第22話、「ヤマト・徹底抗戦せよ!」から。
・ストレートなタイトルですが、そろそろクライマックスが近づいてきているので、これ以降だと逆になかなか使う機会が無さそうなのでここで使いました。

出走
・今回のレースのモデルは、2000年4月23日開催の福島第11レース、やまびこステークス。
・芝1200のオープン特別で、当日の天候は晴れで良馬場でした
・なお、やまびこステークスは今ではダートの1150メートルのレースで2019年から開催されています。
・しかもオープン特別ではなく“3勝クラス”の条件戦です。
・ちなみに……そうなる以前は芝のオープン特別だったんですけど、今回のモデルの2000年から18年開催してなかったり、その直前は1990年でその前が1980年の不定期で3回な上に距離も1200、1800、1200とコロコロ変わったレースでした。

相生さん
・相生さん? ひょっとしてダーリングの所属チームって……

トロットスター
・実在馬をモデルにした本作オリジナルのウマ娘。
・モデルは1996年生まれの鹿毛の牡馬。
・メジロダーリングの同期で、ダイタクヤマトから見ると2つ歳下ですね。
・2001年にはJRA最優秀単距離馬に選出されており、それもそのはず同年の高松宮記念とスプリンターズステークスの春秋スプリントGⅠを制覇しています。
・高松宮記念が1998年からなので、初の……と言いたいところですが、前身の高松宮杯が1996年から1200のGⅠになっており、その年にフラワーパークが両制覇を達成しているので初達成は残念ながら違いますね。
・勝利だけ見ると単距離ばかりですが、1600等のマイルレースにも積極的に出走して2着と結果も出しており、そこまで極端な単距離馬というわけでもないようです。
・今回のレースは9番での出走。
・つまり、冒頭でシヨノロマンとサンキョウセッツが応援に来ていたのはこのトロットスターのこと。
・というのも母の母の母の父がシンザンだったので、そのため二人には久々の登場を願いました。

3つ
・ここで追いかけていたのはトロットスターとメジロダーリングとあと一人。
・じゃあ、結果的に最後のその一人が4着だったかといえば……違います。
・史実では4番入線したラムジェットシチーが降着処分となって11着になっております。


※次回の更新は2月10日の予定です。  

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