見えぬ輝きの最南星《アクルックス》   作:ヤットキ 夕一

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第19R 大危機(ピンチ)! 見えぬ輝きが消える時!?

「いったい、どういうこと!?」

 

 自主トレを放り投げ──アタシは学園中を走り回って、トレーナーを見つけた。

 そして詰め寄ったアタシに彼は──とりあえず「チームの部屋で話す」と言って、場所を移した。

 そこからチーム部屋に行くまでの間、ずっと睨んでいたんだけど──彼は一つも表情を変えることなく、淡々と進んで、部屋へとたどり着き、そのドアを開けた。

 アタシしか所属ウマ娘がいない《アクルックス》。

 当然、部屋には誰もいなかったし、今もアタシとトレーナーしかいない。

 アタシが不機嫌さを隠す気もなく睨むと、トレーナーはため息を一つついた。

 

「誰から、聞いた?」

「何の話のことよ?」

「お前が怒っている原因の話だ」

「誰だっていいでしょ。そう言うってことは本当なの!?」

 

 アタシは距離を詰めてジッと睨む。

 

「──《アクルックス》を解散するって」

 

 アタシに言われ、トレーナーは厄介そうにしながら、頭をカジガジと掻いた。

 

「解散するんじゃねえよ。解散させられるかもしれないって話だ」

「一緒じゃない! せっかく作ったチームなのに、無くなっちゃうってことでしょ?」

「オレだって、解散させたくなんかねえよ。ただ、学園側から……」

 

 言いにくそうに言葉を濁すトレーナー。

 

「どういう事情よ? アタシにはそれを聞く権利はあると思うけど」

「当事者、だからな……わかった。だが、怒ったりするんじゃねえぞ。ここで怒ったところでどうにもならないからな」

「……そんなの、約束できるわけ無いじゃない…………」

 

 アタシがつぶやいたのが聞こえたのか、聞こえなかったのか、トレーナーは話し始めた。

 

「学園側からの通達は、チーム数を整理するため、実績が上がっていないチームを解散するって話だ」

 

 アタシしか所属ウマ娘がいない上に、アタシが勝っていないんだから数えるまでもなく当然の結果。

 でも、他のチームは……大なり小なり人数がいるところは、そのうちの誰かが勝てば結果を残していることになるからセーフってわけ?

 

「なんか、ズルくない? そんなの少人数チーム潰しじゃないの」

「否定はできない。一応、チームは5人以上ってことになってるが、昨今はそれが形骸化しているような状況だからな」

 

 それは聞いたことがある。

 でも有力なチームでさえも5人じゃなくて4人で活動しているところもあるし。

 

「挙げ句、ウチみたいなソロチームっていうのもいくつかある。コスモドリームがいるチームは元々はソロチームから始まって大きくなったものだからな」

 

 それもコスモから聞いたことがある。

 なんでもすごいウマ娘がソロでチームやってて、彼女を慕ったり憧れたウマ娘が集まって大きくなって今の規模になった、と。

 

「ま、ソロチームってのは普通は強いウマ娘がやるんだ。自分の成績がチームの成績そのものになるからな。おまけに人数が違うせいで合計の出走回数が他に対し圧倒的に劣ることになる。そんなハンデを背負って、他のチームと比べられるわけだからな」

 

 なるほど、並のウマ娘には荷が重すぎるでしょうね。

 

 

 ………………ん? 

 

 

「ウチも……ソロなのよね?」

「ああ、お前しかいない」

「で、今回は──」

「成績が悪いチームを取り潰す、そうだ」

 

 え? それってつまり…… 

 

「……ウチのチームを狙って潰しにかかってない?」

「その通りだ」

 

 アタシの疑問に、トレーナーはあっさり頷いた。

 

「え? ちょっと待ってよ。だって、ウチって……」

「ああ、学園長からきちんと許可をもらってるぞ。ソロでも構わないと」

 

 チームを結成して間もなく、アタシが「他にメンバー増やさないの?」と聞いたことがあったんだけど、それにトレーナーは「その予定はない」と言ってた。

 そのときもやっぱり「5人必要なんじゃないの?」と訊いたんだけど──学園長から許可がでていて、しかもアタシの復帰と競走活動の持続が目的だから、自由にやっていいということになっていた。

 

「じゃあ、なんで……」

「……ウチは敵が多いんだよ」

 

 うんざりした様子でトレーナーは嘆くように言った。

 

「今回の件は、年度の更新で理事の改選があったのが原因だ。そのせいで勢力図が変わり、理事長がオレたちを庇える範囲から出てしまったんだ」

 

 URAという巨大な組織の中でも、中央トレセン学園というのは大きなハコである。

 その最高責任者とも言うべき理事長の椅子を狙う者も多く、隙あらば足を引っ張ろうと狙っている──って、トレーナーはアタシに説明した。

 その上で──

 

「本来なら学園内の、大人の汚い内部抗争なんて、お前らには教えたくないところだが、今後の自分を守るために、お前が知っていた方がいいと思うから話すんだ」

 

 ──と前置きして、話し始めた。

 

「まず……この学園、いやURAの中でお前が繋がりがあって、強い力を持つ人は誰だ?」

「それは決まってるわよ。そんなの──」

 

 アタシの親戚の“あの方”以外にない。

 

「そうだ。だからお前を守ってくれるのは“あの方”か、そのシンパだ。その人たちがお前を守ってくれていた──」

 

 だからこそ、こんなアタシでも中央トレセン学園に入れたんだもの。

 

「──昨年度までは、な。」

「え?」

 

 トレーナーの解説で呆気にとられる。

 え?どういうこと?

 

「今年度の改選で理事から外れたのは、去年のお前の件で《カストル》に便宜をはかるといった理事だ。その人は“あの方”の顔色をうかがうくらいにシンパだった。そして、それがいなくなった。あんなことにガッツリ関わってたからな。事実上の更迭だ」

 

 う~ん、でもこの理事だった人って──アタシに直接嫌がらせしてきたわけじゃないのよね。

 “あの方”の御機嫌取りっていう動機はともかく、むしろアタシを支援しようとしていたわけで……

 まぁ、よりにもよってあの《カストル》に頼んだというのが大失敗で大迷惑だったんだけど。

 ……うん。やっぱり、同情するのやめた。

 

「で、経緯が経緯だけにその派閥は後釜を強引に就けるほど強く出られず、おかげで対立派が空いたその席をとった。その結果──」

「──つまり、アタシの立場が悪くなる」

 

 その通り、とトレーナー。

 

「それだけじゃあない。その前理事を退任に追い込んだ立役者は……誰だ?」

 

 そう言って、ジッとアタシを見つめる。

 えっと……《カストル》の後ろ盾になっていたわけでしょ? その《カストル》がしでかして倒れて、その共倒れになって……つまりは、倒れたのは《カストル》が倒れたからな訳で──

 

「……ひょっとして、アタシ?」

 

 アタシは自分を指さす。

 トレーナーは沈痛そうな面もちで頷いた。

 

「その通りだ。そういう経緯で、本来ならオレたちの後ろ盾になってくれるはずの派閥が、完全に敵に回っている」

 

 それって、つまり──

 

「四面楚歌……ってこと?」

「お前のことを認めてくれて、守ろうとしてくれている理事長だけは味方だけどな」

 

 理事長の秋川やよいだけは、ダイユウサクの努力する姿を理事長として影ながら見ていたのと、学園内のことで彼女を追いつめてしまったことを申し訳なく思っていたので、できる限りのことをしようと思っていた。

 それゆえの《アクルックス》の結成だったのだ。

 といっても、理事長という立場は“公正さ”を求められてしまう。

 

「で、今回、敵は“成果の上がっていないチームを潰す”という公正さを盾にして、攻撃してきたってわけだ」

 

 去年までが守ってくれていた派閥は、無関係──どころか、癪だからいっそいなくなってくれた方がいい、と思っているんじゃないの?

 本当に周囲は敵しかいない。

 いったいどうしてそうなった、と嘆きたいわよ。

 

「なんで、そんな……」

「安心しろ。今回イチャモンをつけてきた目的は、秋川理事長への嫌がらせがメイン。現体制に揺さぶりをかけたいだけだ。彼女が目をかけているウチのチームを潰せば、それで満足するだろ。お前を直接攻撃したり、追い出したりすれば──今度はマスコミに目を付けられかねないしな」

 

 そもそもURAやトレセン学園内での勢力抗争なのだ。

 去年のアタシの件は明らかな“チーム内のイジメ”。もちろん不祥事で学園も会見したほど。

 その被害者のアタシが追い出されたりすれば、鎮火したはずのそれが再び燃え出すことになる。

 母体そのものを揺るがしかねないようなスキャンダルに発展させては元も子もないものね。

 

「じゃあ……」

「《アクルックス》が解散すれば、それ以上はない」

 

 トレーナーは厳しい顔で断言する。

 そして──苦笑を浮かべた。

 

「まぁ、《アクルックス》に関しても、理事長が精一杯頑張ってくれて……一応は、次のレースで結果を残せば生き残れるってことにはなった」

 

 その条件を告げるとき、秋川理事長は「すまん……」と頭を下げて謝った──という話は、もっと後になってから聞いた。

 

「ちょっと、待って。それってつまり……」

 

 

「──次のレース、1位を取れば存続。取れなければ解散だ」

 

 

 それを聞いて、アタシは一瞬、思考が停止した。

 

(──え? なにそれ?)

(次のレース?)

(1位をとる? いったい誰が?)

 

 様々な疑問が頭をよぎり、呆然としているアタシに、トレーナーは──

 

「お前は、余計なことを気にせず走れ。たとえチームが解散になっても──巽見にきちんと引き継ぐ」

「──はい?」

 

 その言葉で我に返った。

 なんで巽見トレーナー……コスモの担当トレーナーの名前が出てくるの?

 

「頑なに断っていたみたいだから嫌がるとは思ったが、チームに所属していないとレースに出られないからな。《アクルックス》が無くなったあとは、あのチームに入ることで話をつけておいた」

「ちょっと、待ってよ……」

「お前の成績でシニアクラスだと今からチームを探すのは大変だ。それに巽見にならお前のことを任せられるし、な」

「──ッ!! 待ちなさいよ!!」

 

 アタシは怒鳴って、トレーナーの言葉を遮る。

 そして睨みつけてやった。

 

「チーム移籍をするにしたって……《アクルックス》が無くなるんだから、アンタもサブトレーナーでそのチームに入ればいいじゃない。そして、アタシをトレーニングすればいいじゃないの……」

 

 アタシの言葉に、トレーナーは首を横に振った。

 そして──そのままアタシに背を向ける。

 

「それは……無理だ。元々、オレは地方へ転属させら(とばさ)れるはずだったんだ。それが──《カストル》のトレーナーが代わりに転属した(とんだ)おかげで、居残った。今回、《アクルックス》ってチャンスを与えられたのにものにできなかったとして、今度こそ地方へ転属になるのは間違いない」

 

 淡々と自分のこれからのことを語る彼。

 その背中が、わずかに震えているように見えるのは、気のせいかしら?

 それとも──アタシが怒りで震えているのかしら?

 

「──ふざけないでよッ!!」

 

 アタシは今度こそ、大声で怒鳴った。たぶん、隣のチームから苦情がくるだろうけど関係ない。

 そんなこと、気にする余裕はない。

 そもそも、無くなっちゃうんでしょ、このチーム!!

 激高したアタシは、トレーナーに言葉を叩きつける。

 

「アンタが始めたことでしょ!? アタシは諦めていたのに、それを焚きつけて……諦めないでくれって、オレをトレーナーにしてくれって頼んできたのは、アンタの方じゃないのッ!!」

 

 そんなアタシの言葉に、トレーナーは背を向けたまま反論してくる。

 

「そんなこと言っても、どうしようもないだろ! オレがどんなに学園に残りたくても、学園が残すつもりがなければ、オレはいられないんだぞ!! オレだって、オレだってこんな結果──納得できるわけ、ないだろッ!!」

 

 トレーナーが握りしめた拳を壁に叩きつけ──ガン!と大きな音が響きわたった。

 拳を壁に打ち付けたまま、その肩がワナワナと揺れる。

 それで安心した……諦めたわけじゃないんだ、と。

 その話を受け入れた訳じゃないんだ、と。

 

 ──だからアタシは、提案した。

 

「なら……手は一つじゃない?」

「手? 打てる手なんて、残っちゃいない……」

「そんなこと無いわよ。さっき、アンタが言ったじゃない」

「オレが……」

 

 わずかに俯いている彼が、思考を巡らせているのは背中を向けていてもよくわかった。

 彼が気づく前に──その答えを告げてあげた。

 

「──アタシがレースに、勝てばいいじゃない」

 

 彼はさっき言った。「1位を取れば存続。取れなければ解散だ」って。

 答えは──簡単なことよ。小学生でも分かるわ。

 

「なッ…………」

 

 その単純な、誰でも分かる答えを聞いて、彼は絶句する。

 

「アタシが勝つ。絶対に勝つ。1位で駆け抜ければ、何の問題もないでしょ!?」

「だけど、お前……」

 

 反論しようと口を開いた彼。

 それをアタシは無理矢理引っ込めさせる。

 

「なによ、半年で誰にも負けないウマ娘にするって言ったじゃない! 今、何月よ? アンタが言ってからもう5ヶ月近いわ!!」

「確かに言ったが……だけど、今のお前は──」

 

 なおも反論しようとする彼。

 でも──それ以上は出てこなかった。

 そう……やっと気がついたのね。

 この問題を解決するためには──

 

「言いなさいよ! アタシにセンター()ってこいって!」

 

 《アクルックス》を存続させるためには──

 

「…………頼む

「聞こえないッ!!」

 

 アタシと一緒に、トレーナーとして歩むには──

 

「オレだって、こんなところで、放り出したくない!! 頼む! オレに、お前のウイニングライブのセンターを見せてくれ!!」

 

 次のレースで勝つしかないってことに──

 

「──ええ、任せておきなさいッ!」

 

 振り返って怒鳴った彼にそう言って、アタシは不敵に笑みを浮かべて見せる。

 そう、アタシには──ううん、アタシ達にはもう勝つ以外に道はないのよ。

 

 ──アタシだってこの人以外のトレーナーなんて、絶対に認めないんだから。

 




◆解説◆

【見えぬ輝きが消える時!?】
・それって消えても気づかれないのでは!?

チームは5人以上
・この設定はアニメ1期の設定。
・そうでなければレースに出られない、となっているが──2期のカノープスのメンバーが4人と同じアニメなのにルールが破綻している。
・そういうわけで「ゲームに先行したアニメ1期ではそうだったのに、以降は形骸化している」ということから、「基本はそうだけど守られていない」という設定にしました。
・一番、本作が設定を参考にしているシンデレラグレイも、チームの人数の人数に関しては言及無し。
・しいていえば、カサマツ時代に北原がオグリキャップのみを勧誘しているのでソロチームは許されると思われる。(結果的にはベルノも入ったけど)
・あと、ヤエノムテキのチームは他にメンバーが誰もいなさそうという個人的な感想。

勢力抗争
・ちょっとわかりにくそうだったので解説します。
・URAという組織に、多大な貢献で力を持つ“シンザン”がいます。
・で、そのシンザンのシンパである“シンザン派”という勢力があり、更迭された理事(《カストル》にダイユウサクを勧誘させた幹部)も所属していました。
・で、ダイユウサクを気にかけてくれているのはシンザンだけで、「シンザン派」は熱心に支援はしていません。ただ、シンザンのご機嫌取りのために応援しといた方が良いかな、くらいの感覚でした。
・今回の年度の人事で、更迭された理事の枠を奪われてシンザン派は一歩後退、対抗派閥が力を持ちます。
・対抗派閥は「シンザンが目をかけているウマ娘」ということでダイユウサクを敵対視していますし、今回の更迭劇の原因となったのでシンザン派もダイユウサクを敵視……するとシンザンに怒られるので、放置します。
・それがシンザン派と対抗派閥とダイユウサクの関係。
・──それとは別に、学園での理事長争いがあり、守る派閥がいないのでそれに巻き込まれた、ということです。
・ちなみに理事長を狙う人は、狙えるほどの力があるのでシンザンを敬うし影響力は知っていますが、政治力は恐れていません。
・だからダイユウサクを退学させないようにしてチームをつぶす事をしかけてきました。

次のレース
・ダイユウサクの第5戦目は1989年4月16日(日)、新潟競馬場第7レースで4歳以上400万下の条件戦。ダートの1700メートル。
・初の新潟で、天気も初めて雨でのレースとなりました。

1位を取れば存続。取れなければ解散だ
・由緒正しい、スポーツものの定番だ!!
・『キャットルーキー』の1期とか、最近のものだと茨城の誇る名作『ガールズ&パンツァー』が有名。
・……いや、なんで『キャットルーキー』出したし。もっと有名なの他にあるだろ。
・と、思っていたのですがパッと思い浮かばず、思い浮かんだのがそれだったので。
・誤解無いように言いますが、「キャットルーキー」大好きでした。3部が一番好きです。
・知らない人のために『キャットルーキー』を説明しますと、「少年サンデー(スーパー)増刊」という月刊誌に1993年~2003年にわたって連載されたプロ野球を舞台にした野球漫画。
・当時はまだまだ「セ・リーグ万歳!!」な頃で、パ・リーグに人権が無かったのが、連載中にイチローの活躍や松坂の西武入団でパ・リーグの人権が認知され始めたころ。
・当時、大の日ハムファン(田中幸雄選手とか大ファンでした)だった私は架空の『パ』が舞台の漫画(主人公のチームは当時の近鉄モチーフの大和トムキャッツ)ということで、他に無いのもあって(当初はドカベンのプロ野球編さえまだの時期)読み漁りました。
・出てくる魔球もいいんだ……って、話がズレ過ぎた。
・閑話休題
・そのキャットルーキーの1部の元ネタ(本当にほぼそのまま)の映画「メジャーリーグ」がヒットして、そういう展開が増えたようなイメージです。
・ガルパン以外だと最近ではあまり見ない展開かも。最近では流行ではないようですね。
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