「なぁ、ダイユウサク。ちょっと話があるんだが……」
トレーニング中、話をする
彼女は「なによ?」と、オレの戸惑い気味の気配を察したのか、少しぶっきらぼうな態度で訊いてくる。
それにオレは──理事長室で理事長やたづなさんに頼まれたことを話してみたのだが──
「イ・ヤ・よッ!!」
案の定、秒で断ってきた。
そして怒りの矛先は──やっぱりオレに向かってくるんだよな。
「なんで、そんなメンバーを迎え入れないといけないわけ? そもそも《
「それはそうだったんだが……」
「だいたい、春に実績を残せって言われたのを、きちんと勝って残したのよ!? それがなんで──」
ほら、やっぱりオレが思ったとおりだ。
ウチのチームのお姫様は、予想通り駄々をこね始めた。
なんか、こういう姿は──アイツの親戚のサンキョウセッツを彷彿とさせ──
「……今、なんかものすごく不快なこと考えたでしょ?」
勘も鋭い。
その鋭い勘で、オレやチームの事情も察して欲しいんだけどな。
「──また、難癖つけられているんだよ。以前と同じヤローに、な」
オレはため息混じりにそう言って、ダイユウサクに理事長室で聞いた話を説明し始めるのだった。
「最低でも一人、オープンクラスのウマ娘を入れるように?」
理事長室に、懐疑的なオレの声が響く。
それに、白い帽子を被り、綺麗な茶色の長い髪をした小さな理事長──秋川やよいが頷いた。
「うむ。それが黒岩理事が主張してきた、チーム成立の用件なのだが……」
「なんでまた、こんな条件を?」
オレは思わず天を仰ぎそうになる、その黒岩理事の意図がまったく分からなかった。
その説明してくれたのは、理事長秘書の駿川たづなさんだった。
「……黒岩理事がチームを減らすために選別を行おうとしているのは、わかりますよね?」
「ええ。一度それで危機に遭いましたから」
アレで発奮してくれて初勝利を掴み、そこから勝利を重ねてランクも上がったんだから悪いことばかりではなかったと今なら思える。
ただ、正直に言って面白くはない。
チームには最低でも一人のトレーナーが必要なわけで、チームを減らすということはいくらサブトレーナーを増やすとしていてもトレーナーを削減すると言っているのに等しいんだから。
そんなオレの気持ちを知ってか知らずか、たづなさんは説明を続ける。
「その一環です。ようはランクの低いウマ娘たちの寄り合いでは切磋琢磨にはならない、と言うのが理事の主張です。トップクラスのウマ娘がいることで目標が生まれるし技術面でも教えを請うことができるので、より強いウマ娘の育成が期待できる、と」
その理屈、わからないでもない。しかし押しつけすぎだと思った。
同時に脳裏にあの頃──研修生時代の光景がよぎった。担当した
「あの理事……トレセン学園は教育機関というのを忘れてやしませんかね? 学校なんだからもっと自由でいいはずだ。仲間内でいろいろ試しながら、失敗も重ねて成功を見つける、そういうことも教育の中では必要と思うが……」
「肯定ッ! その通り!!」
その経験からそれが間違いではないと確信を持っている。そんなオレの言葉に我が意を得たりと理事長が明るい表情になった。
「それに、逆に言えば──トップクラスのウマ娘たちにしてみれば、ランクが下のウマ娘の面倒を見ることを強制されることになるわけだ。それを面白く思わないのもいるだろ」
「面倒見のいいウマ娘たちばかりでは無いですからね……」
たづなさんが憂うように、ウマ娘はマイペースな者も多い。
切磋琢磨できる相手ばかりなら自分も得るものも多いだろうが、下の面倒見るのを面倒くさがってしまうと、今度はいろいろ格差を生むように思うんだけどな。
突き詰めて、その案を実施してしまうと──ー面倒くさがり屋のオープンクラスは自分への負担が少ないように一つのチームに集中しがちになるだろう。
そして、そのせいで面倒見のいいオープンウマ娘は引っ張りだこになり、自分の為に使える時間が削られてしまうことになり──それは明らかな不公平になる。
大きなチームがいくつかしか残らなくなる、という事態を招くだろう。
(それこそ黒岩の狙いなんだろうが……)
それはそれで危険だ、とオレは考える。
小さなチームという逃げ場がなければ、たとえばダイユウサクが《カストル》にいたときのようなことが起こったら、そのウマ娘は競走の道をあきらめるしかなくなるだろう。
オレがそれを指摘すると、理事長は気まずそうな顔になる。
「うむ。私もそれを言ったのだが……」
「理事は、『そもそも、教育機関でイジメが行われるのが問題だ』とおっしゃりまして……それがあるのを前提の話をするのはナンセンスだ、と」
「それを言われちまうとな……」
オレも苦虫を噛み潰したような渋面をするしかない。
まぁ……そんな理想通りにいかないのが現実。
それを理解した上で理想を追い求める理事長のことを攻撃しているんだから、黒岩理事は
「──と、いうわけだ」
「どういうわけよ!?」
オレが事情を説明したが、相変わらずキレるダイユウサク。
コイツ、実は聞いてなかったんじゃないのか?
思わず頭を掻きながら──オレは噛み砕いて説明することにした。
「ようは、一つのチームには最低、一人はオープンクラスのウマ娘が所属していないといけないようになる、という方針なわけだ」
「なんでよ!?」
いや、確信した。
絶対、説明聞いてなかったな。
「
「そんなに先の話を、なんで今……」
「理事長の好意だ。土壇場になって急に知らされたら対応できないだろ。下手をすればオープンクラスのウマ娘の争奪戦になりかねないからな」
確かに半年近く猶予があるが──現時点から準備しているかしていないかで大きな差になるのは間違いない。
たとえばジュニアクラスはメイクデビューを終えて、ここから来年始まるクラシック戦線に備えてオープンを目指していくことになる。
有力な新人を今からチームに入れておけば、春までにはオープンクラスになってくれれば条件は達成される。もちろん賭けにはなるが。
そしてシニア以上になるとオープンに上がるのは難しくなるという弊害がある。
最近のダイユウサクがかなり活躍しているというのに、準オープンにさえたどり着いていないのを見れば明らかだ。
実際、ほとんどのソロチームは現時点でもこの条件をクリアしているらしいが……ウチがまだ満たしていないのは言うまでもない。
「そこまではわかったわよ。でも、なんでそこで、車椅子のウマ娘をウチのチームに入れるって話になるのよ!? しかもスタッフ育成科に転科申請中なんでしょう?」
「あのな……アイツが──ミラクルバードが何のレース中に大怪我したのか忘れたのか?」
「バカにしてるの? 覚えてるわよ……アタシの初勝利の次の日だったんだから。皐月賞よ」
「……で、皐月賞のグレードは?」
さっき以上の、今度は常識問題になるその問いにダイユウサクは、不機嫌そうに眉を
そしてあきれ顔で答えた。
「G1。クラシック三冠の一つだもの」
「そうだ。ここまで言えばわかるだろ?」
オレが言うが──ダイユウサクはピンとこない様子で首を傾げる。
「じゃあ教えてやる。ミラクルバードはオープンクラスなんだよ。たとえ今、走れなかろうが、車椅子に乗っていようが、転科申請中だろうが──関係なく、な」
「え……うそ?」
「嘘なもんか。そうでなければ皐月賞に──クラシックレースに出られるものか」
「……セッツは?」
そう言ってジト目を向けてくるダイユウサク。
なるほど、コイツの基準はそこなわけか。
「お前、サンキョウセッツをバカにしすぎだろ?」
「そんなことないわよ。オークスに出てたころは、スゴいなとは思ってたわ……イヤな
不機嫌そうに視線を逸らした彼女の言葉は、当時の気持ちを素直に表しているのだろうと、オレは思った。
「とにかく、ミラクルバードは今もオープンクラスなんだ。それをチームに入れれば──少なくとも形式上は“オープンクラスのウマ娘が所属している”チームになる。理事長の狙いはそれだ」
しかも、あの事故の後で車椅子生活になって転科申請を出す前に、ミラクルバードは在籍していたチームから抜けている。
不慮の事故だったので、元のチームからは引き留められたらしいが、チームに貢献できないのが申し訳ないから、という理由で脱退したそうだ。
「……元のチームさえ抜けたのに、ウチにくるわけなんて無いじゃない」
「競走ウマ娘として勧誘したのならな。今のアイツはそっちの道を完全にあきらめてる」
とはいえ、スタッフ研修の一環として……例えばダイユウサクも知っているベルノライトが六平トレーナーの下でオグリキャップをサポートしているように、彼女がウチのスタッフになることは──それを前提で誘えば芽がある話だと思っている。
(スタッフをやるにしても、元いたチームだと却って辛いだろうからな)
チームメイトという存在は仲間だが、ある意味ライバルでもあるんだ。
そんな相手に見られながら、そのサポートをするのは酷だろう。
「そんなの、本人じゃないとわからないことよ。勝手に決めつけて──」
「そう思ったから、本人に来てもらっている」
「……は?」
ダイユウサクが唖然としている間に振り返ったオレは、そのまま今居るチームの部屋の扉へと向かった。
そして扉を開け──
「待たせたな」
恨みがましくねめ上げつつ、苦笑を浮かべている車椅子のウマ娘。
そんな彼女の目元だけを覆うように、黄色い覆面をしていた。
髪の毛を頭の後ろで一纏めにしているが、ポニーテールのように長くはなく、むしろ鳥の尾羽根のようにピョコンと出ている程度の長さだった。
「悪い。思った以上に長引いてな……」
そう言いながらオレは車椅子を押すために彼女の後ろへと回った。その間に、オレの言葉を聞いたダイユウサクが、背後で不機嫌そうに眉をひそめているのには、さすがに気がつけなかった。
押して部屋に入ると、気温が下がって彼女はホッと一息つく。
そして彼女は──笑顔を浮かべてダイユウサクを見上げた。
「こんにちは、ダイユウサク。あぁ、感動だぁ~!」
「感動?」
オレが問うと、ミラクルバードは人懐っこい満面の笑みで頷いた。
「うん。だって、ダイユウサクって結構、今話題になってるウマ娘だからね。デビューが遅かったけど最近、調子は上がってて結果も出しつつあるし、ボクらの学年でも話題になってるよ。そんなウマ娘に会えて──」
「──嘘おっしゃい。話題になってるのは、オグリ、アルダン、ヤエノムテキ、バンブーメモリーとかでしょう?」
興奮気味のミラクルバードに対し、そっけなくフンと視線を逸らしながら言うダイユウサク。
さすがに困惑気味になるミラクルバード。
まぁ……そうだろうなと思うわ、オレも。その面子を出されたら、それ以上に話題になってるとは言えないからな。
しかし、ミラクルバードは根気強く──その強いメンタルを発揮して、気を取り直す。
「初めまして。ボクの名前はミラクルバード。一応、ウマ娘なんだけど……今はご覧のように、自分の足で走ることができないような有様だけどね」
その人懐っこい笑顔を若干、苦笑気味にしながら彼女──ミラクルバードはダイユウサクに挨拶した。
一方、ダイユウサクの方はといえば……
「……よろしく」
相変わらず不満気に、そして愛想無く、決して視線を合わせることなく挨拶を返した。
ミラクルバードの自虐的だった苦笑が、困惑のそれへと変わり──たまらずオレの方を見る。
だが、オレは──
(ま、そんなものだろうな……)
と、思いながら見ていた。
正直、ダイユウサクは人付き合いが得意ではない。
学園に入ったときには明らかに発育不良で成績が悪かったにも関わらず入学できたために、とある有名ウマ娘の親戚だからという“コネ入学”と散々に揶揄されていたし、それを跳ね返したり誤魔化せるほどの社交性は無く、言われるがままにして他と距離をとってひたすら地道にトレーニングに明け暮れたらしい。
まるで修行僧か世捨て人である。
(逆に言えば、そこで人付き合いが苦手になっちまったんだろうな)
幸いなことに、地方から転入してきたオグリキャップやベルノライトと交流ができたことで完全に孤立することは無かったらしいが。
そして、幼いころを知っているコスモドリームから聞いたところだと、子供のころの方が噂がなかっただけマシなものの、やっぱり社交的ではなく、小柄だった彼女は追いかけ回されたりするなど引っ込み思案だったらしい。
──コスモドリームは巽見に「あなたもイジメていたんじゃないでしょうね?」と若干、怖い雰囲気で訊かれていたが「そんなわけないじゃん。一緒に遊んだけど」とあっけらかんと答えているところを見ると、コスモドリームとは仲がよかったようだが。
(打ち解けている相手には、結構容赦ないからな……コイツは)
そんなダイユウサクだから、初対面のミラクルバードにこういう態度をとることは、ある意味予想通りだった。
「……あの、トレーナー。ボク……嫌われてる?」
「気にすんな。慣れない相手にはみんなあんな感じで
耳打ちしてきたミラクルバードに小声で返していると──ダイユウサクは不機嫌さを隠そうともせずにジト目でこっちをじーっと見てきた。
「や、やっぱり嫌われてるんじゃないかな? 無関心って感じじゃないし……」
「違うさ。理由もなく相手を嫌うようなウマ娘じゃないからな」
「う~ん? その嫌う理由ってひょっとして……ボクがトレーナーと喋ったり距離が近かったりするからじゃ──」
「違うわよッ!!」
ムスッとしながら、ダイユウサクがミラクルバードの声を遮るように言った。
急だった上に比較的大きな声だったのでミラクルバードは驚いてビクッと肩を震わせた。
「ダイユウサク……お前、いい加減にしろよ。ミラクルバードは完全じゃないんだから──」
「なら、その完全じゃない人にわざわざ負担をかけることないでしょ?」
オレは思わず盛大にため息をつく。
「……そこまで、嫌うか? 別にミラクルバードは悪いことしてないだろ?」
「ええ、そうね。アタシもそう思うわ。でも──ウチのチームに入れる必要性もないでしょう? メンバーはアタシしか居ないし、そのサポートにトレーナーも専念できてるし、調子も上がってきてるし……」
「今さっき、説明しただろ。今後、チームに一人、オープンクラスのウマ娘の在籍を求められるようになるかもしれない。そのときの保険のために──」
「……ミラクルバード、アナタそれでいいの? これから復帰のためにじゃなく、ただアナタが今まで積み上げた実績を、《アクルックス》が自分たちの都合だけで、勝手に利用しようとしているのよ?」
ダイユウサクがジッとミラクルバードを見る。
ほとんど睨んでいるようにも見えるが──それにミラクルバードは笑顔で答えた。
「ボクの足は怪我はほとんど治ってる……でも動かない。それは受け止めなければいけないと思うんだ」
そうダイユウサクに答えつつ、ミラクルバードは視線を逸らし、どこか遠くを見る。
「動かないのを嘆くよりも、ボクは今、できることをやっておきたい。だから自由に走れる
再度、視線をダイユウサクに戻して笑みを自虐的なものへと変える。
それから「えへへ……カッコ付け過ぎかな?」と頭を掻きながら誤魔化すように笑った。
それにダイユウサクは思わず「くッ……」と視線を逸らすために
「うちは、間に合ってるわよ!!」
「オイ! ダイユウサク!!」
オレは思わず強い口調で咎めた。
だが、ダイユウサクは却ってキッとオレの方を睨みつける。
「アタシが、オープンクラスに上がればいいってだけのことでしょ!? 今年中にでも上がってやるわよ」
「それはいくらなんでも無茶だ……」
今のダイユウサクは準オープンのそのまた前のクラス。
結果を出してきているとはいえ、今のクラスから上がり、さらに次も登り切るには──いくらなんでも時間がなさ過ぎる。
ムキになったダイユウサクに、オレは少しだけあきれた。
「今年中って、あと三ヶ月だぞ?」
「ええ、そうよ?」
「一ヶ月に2レース出走したって、6レースでできるわけが──」
「それをやってやるって言ってるのよ!! やる前から諦めてたら仕方ないじゃない」
「無理や無茶や無謀を、挑戦と一緒にするな」
「なによ! アタシのこと──信用できないって言うの!?」
「そういう問題じゃなくてだな……」
困り果てて、ガリガリと頭を掻く。
確かに、がんばらなければいけない時というのはある。自力で道を切り開かなければいけないときもある。
(例えば、チームの存続がかかったダイユウサク初勝利のときなんかがそうだ)
オレは春先のあの一戦を思い出した。あのときの集中力は、目をみはるものがあった。
では、今がそうかと言われたら、オレにとっては疑問符がつく。
オープンクラスになるのが不可能とは言わないが、出るレースをほとんど全て勝つ──クラスが上がった準オープンクラスでも勝ち続ける、くらいのことが要求される。
それは一戦にかければよかった前回とは違う。「勝ち続けなければならない」というのは極度の緊張が要求される。
(それを今からオープンクラスになるまで続けるなんて、とても保たない)
オレは無理だと判断し、ダイユウサクをどう説得しようかと頭を悩ませていたところ──「アハハハハ」とやや下方から楽し気な笑い声が響いた。
視線を下げれば、楽しそうに満面の笑みを浮かべたミラクルバードがいた。
「なるほどなるほど。うん、ミラクルいいね……ボクは気に入ったよ、ダイユウサク。感動だなぁ!」
「……はぁ?」
笑顔のミラクルバードに対し、オレに対してなので遠慮なく攻撃的になっていたダイユウサクが、その余波のまま睨むようにミラクルバードを見た。
でも、彼女は気にした様子もない。
「うん。いいよ……ボクはチームには入らないでサポートする。それなら文句ないでしょ?」
「そ、そんなの詭弁よ!」
「キミがオープンになればそれでいいんだから、それに越したことはないよ。競走ウマ娘じゃなくなるボクはどうしてもどこかのチームに所属しないといけない理由もないし」
「必要ないって言ってるのよ! ウチはソロチームで、トレーナーが一人いて事足りてるんだから」
「まぁまぁ、そう言わずに……試すだけでいいから、さ」
人懐っこい笑みを浮かべて、ミラクルバードは腕で車輪を漕ぎ、車椅子でダイユウサクに近づいた。
近づいた彼女に、ダイユウサクは思わず身構える。
しかしミラクルバードは……その手をそっと差し出した。
「ボクは……意外と気に入っているんだよ? チーム《アクルックス》を。以前ボクに声をかけてくれて、今回も目をかけてくれてる乾井トレーナーはもちろん、ダイユウサク──キミのこともね」
「う……」
差し出された手を見て怯むダイユウサク。
その手と、屈託のない、黄色い覆面の下の笑顔を見比べるように交互に視線を走らせる。
「ああ、もう! わかったわよ!! ただし! アンタはあくまでウチのチームのメンバーじゃないんだからね!!」
「うん、それで十分だよ。キミと、乾井トレーナーのサポートができればね」
手を握ってくれたダイユウサクに、ミラクルバードはにっこりと笑みを浮かべる。
そしてそれが離れると、再び車椅子を操作してその場でターンして──オレへと向き直った。
「そういうわけだから、正式なチームメンバーじゃないけど……これからよろしくね。トレーナー」
そう言ったミラクルバードは──なぜか車椅子の車輪を固定すると、足を地面に着け、そして──車椅子を支えにしながら立ち上がろうとした。
「お、オイ!!」
「大丈夫……これでも、リハビリ中で……ね」
腕に力を込め、体を震わせながら立とうとし──その姿勢が崩れかけたので、オレは慌てて両手を差し出して、彼女の体を受け止めた。
そのまま、もつれるように車椅子へと彼女は戻り──
「えへへ……やっぱり、まだ上手くいかないみたいや」
と、笑みを浮かべる。
「でも、乾井トレーナーが受け止めてくれるなんてミラクル嬉しいよ。感動だぁ」
その笑顔はとっさに彼女を支えようとしたが為に意外に近く──それに少し戸惑いながらもオレは、彼女を車椅子へ安全に腰掛けさせてから手を離して、自分の身を起こした。
──その最中、彼女の背後にジト目を向けているダイユウサクの姿が見えたような気がした。
◆解説◆
【
・今回のタイトルの元ネタは、ダイユウサクの全盛期である1991年に放映された勇者シリーズの第2作『太陽の勇者ファイバード』の第一話「
・“ミラクル”繋がりであり、“バード”繋がりでもあります。
【オープンクラス】
・現在の競馬では、収得賞金によってクラス分けされており、2019年から──
未勝利
1勝クラス
2勝クラス
3勝クラス
というクラス制度を経て、オープンになります。
・それぞれ、2018年までの500万下、1000万下、1600万下(準オープン)に該当します。
・なお、ダイユウサクの現役時代は400万下、900万下、1400万下という区分。
・オープンクラス前は対象のレースに出走条件という制限がついており、条件戦と言われるレースをメインに走ることになります。
・晴れてオープンクラスになればオープン特別、リステッド、GⅢ、GⅡ、GⅠといったレースが主戦場となるわけです。
・本作では……まずウマ娘のレースに賞金制度があるのか不明だったので、何百万円以下という制限は基本的に本文では使用していません。(解説では主にレース解説のために使っていました)
・賞金制度が不明なので、クラスについても「オープンクラスが存在して、そこまでになるには、ランクを上げる必要がある」「オープンの前は準オープン」という表現にしており、“○勝クラス”に関しては明記しませんでした。
・というのも──明らかにその勝利数よりもダイユウサクは勝っているのにクラスに達していないので、分かりづらく自分自身で混乱するだろうという判断からです。
・調べても見たのですがよくわからず、またシンデレラグレイを参考にしようにも、登場ウマ娘はオープンクラスばかりなので参考にできませんでした。
・書いてる人も基準がサッパリ理解できなかったので、ダイユウサクの出走歴からランクが上がったのを判断しています。
・一方、ゲーム版でレース登録に関係するランクは純粋にファン数。
・未勝利→ビギナーと始まり、
・
・その後は10万人でプラチナ、16万でスター、24万でトップスター、32万でレジェンド──となります。
・このランクで一応は、レースの出場条件になっているのですが、正直そんなに意識する必要はない感じ。
・「ウマ娘 プリティダービー」のウマ娘達は元の競走馬がオープン馬ばかりで、そういうのに苦労している馬なんてほぼいませんしね。(ハルウララは地方馬だし、逆の意味でランク関係なかったしなぁ)
【セッツは?】
・2018年までの制度で4歳(年齢表記の変更後)夏競馬開催時点で平地収得賞金を半額にしていました。
・そのせいでクラスが下がる“降級制度”があったのです。
・現在シニアに該当するダイユウサクやサンキョウセッツは、それで苦労している感があります。
・現に──1989年のサンキョウセッツの出走記録を見てみると、夏までは900万下の条件戦に出走しているのに、秋からは400万下のレースに出走しており、降級しているのが明らかです。
【……外、暑かったんだけど】
・当初、チーム部屋って建物内にある部屋(イメージ的には高校とかの部室棟)だと思っていて、扉の外も屋内だと思い込んでいたのですが……
・シンデレラグレイを見てみたら、個別の小屋なんですよね。(アニメでもプレハブ小屋みたいな感じ)
・そんなわけで待たせていた場所が完全に屋外になってしまい──真夏の炎天下に放置されることになってしまいました。
・ゴメンよ、ミラクルバード。
【ミラクルバード】
・名前は早めに、姿は2話前に出ていましたが、本作オリジナルのウマ娘で、本作では3人目になる非実在系競走馬を元ネタにしたウマ娘。
・原作では、仔馬のころに他の仔馬に顔を蹴られて生きているのが不思議なほどの負傷を負うが一命をとりとめるも……その骨折のせいで顔がゆがんでしまいました。
・そのせいで血統は良いものの見た目の悪さで買い手が付かず──馬が好きで好きでどうしても馬主になってみたいという夢を見ていた焼き鳥屋の主人が他の馬主に紹介されて言い値で購入し、馬主という夢をかなえたのでした。
・そしたらその良血統が見事にはまって大活躍。新馬戦でデビューから4連勝。スプリングステークスに出走を予定していたものの足の炎症で回避し、皐月賞に出走することに。
・が、ここで主戦騎手の変更やらいろいろと人間サイドでゴタゴタがあり……それでも一番人気で出走。
・しかしレースの最中によれてしまい、後ろからあがってきた馬と激突し転倒。相手の馬は右前脚を骨折。その騎手はすぐに立ち上がることができたが……
・ミラクルバードは横たわったまま痙攣しており、首を骨折してほぼ即死。衝突に巻き込まれたミラクルバードの騎手は首を骨折の上に脳挫傷で2日後に死亡。
・──というなんとも可哀想な馬なのでした。
・その元ネタ馬は顔の負傷を隠すのもあって黄色いメンコをつけていたので、ウマ娘のミラクルバードもエルコンドルパサーやミニーザレディ(シンデレラグレイのオリジナルウマ娘)と同様に
・本作でのミラクルバードが覆面をしているのも、やはり幼少期に遭った、生死をさまようような怪我のせいで顔に大きな傷跡があるから。
・バードの名前から勝負服は鳥を意識したもの。羽飾りとかがついていると思われる。ただ、黄色がイメージカラーなのでまるで某チョコボ。
・原作の馬主の設定を引き継ぎ、彼女の実家は神戸の焼き鳥屋さん。大阪や京都から目当てで来る客がいるほどにとても美味しい有名店らしく、父からの直伝で焼き鳥の腕は一流。
・感謝祭ではその腕前を披露して、焼き鳥の屋台を出して大好評を得ています。
・性格は鳥のイメージから深く考えないように見えてしまう性格。
・また、その悲惨な状況から性格を暗くするとどこまでも暗くなってしまうので陽気に。
・口癖の「感動だ」や「ミラクル」は上記の『太陽の勇者ファイバード』から。
・バードの共通項もそうですが、主人公の一人の少年──天野ケンタの口癖が「ミラクル~」というものだったので、ファイバードが選ばれました。
・ケンタは小学生ですからね。「ミラクル~」とか「スーパー」とか入れたがる年頃なんですが……さすがにウマ娘の歳でやるのはちょっと加減しないとな~と思ってます。
・「感動だ」は火鳥勇太郎ことファイバードの口癖。エネルギー生命体という宇宙人である彼が地球の現状を見て命があふれていたりする姿に述べる感想。