ま~ったく、な・に・が、ミラクルバードよ。
ウマ娘なのに、
実家が焼鳥屋? だからって「バード」って名前付ける、普通?
──勝負服の写真を見せてもらったら、ホントに鳥みたいな衣装だったけど。
でも鳥になったら、家業的には焼かれる側じゃないの?
ま、まぁ……それはともかく、おまけになによあの覆面は!?
意味深に顔を隠して、「いや、どん引きするくらいのケガの痕が残ってるから隠してるんだ」……って
なにそれ? “黄色い彗星”とかそんな異名狙ってるわけ?
それとも“超音速のウマ娘”?
謎の仮面でキャラ立てようったって、そうはいかないんだから。
数多くの覆面キャラにまみれて没個性になればいいのよ、逆に!!
そりゃあ、大怪我して今も立てないのには同情するわよ?
下の世代で、ずいぶん期待されていたのにああなってしまったのは可哀想だとは思うわよ。
でも、だからってなんでよ!?
突然、トレーナーがチームメンバーに入れようとしてくるし。
聞けば、理事長が後ろで糸を引いているらしいじゃない。
いくら、なんとかって理事の嫌がらせから回避するためだって言ったって、今までソロチームで、トレーナーと二人三脚できたじゃないの。
それなのに、なんで……
(トレーナーの、バカ)
あのトリ娘、やたらとトレーナーに馴れ馴れしいし──
──ガコン
ガコン?
「──って、えぇ!?」
アタシは我に返る。
見れば、アタシの目の前で、すでにゲートは開いていた。
「ヤバッ!!」
慌ててゲートを飛び出す。
マズイマズイマズイマズイ──だって、今、アタシ……
レースに出走してたんだからぁ~!!
『おっと一人出遅れた! 出遅れたのは……8番のダイユウサクだ』
『これは珍しいですね。彼女が出遅れるのを見るのは初めてです』
『確かに。今までのレースでは逃げや先行の展開ばかりですが、このように出遅れた場面は見たことがありません!』
そんな実況を聞きながら、オレも驚いていた。
「アイツが出遅れる……なにかアクシデントか?」
「う~ん、集中力を欠いていた感じかな。なにか別のことを考えていたように見えたけど」
オレのすぐ傍らにある車椅子から、そんな声が帰ってくる。
苦笑を浮かべた彼女──ミラクルバードは「ま、原因はボクかもね」と小声で言った。
「お前が原因って……とりあえず納得しただろ? チーム外の協力者ってことで」
「その“とりあえず”のせいで、モヤモヤしていたのかもね。あとは……キミのせいだよ、きっと。乾井トレーナー」
「は? オレのせい? アイツが出遅れたのが?」
「うん、そう──って、あれ!?」
オレは思わずミラクルバードの方を見たが、レースを見ていた彼女は少し驚いた様子で声を出した。
それで慌てて視線を戻し──オレも驚く。
「な……!? アイツ、なに考えてるんだ?」
「なんだろう。確かにこれから連戦になるから無理をしないように、って指示を出したんだよね?」
「ああ……だが、いくら出遅れたからって──」
出遅れるということは、それだけ先頭と離される──というのは当たり前のこと。
だからこそ逃げを戦術とするウマ娘にとって出遅れは死活問題だし、先行でもその位置につくために余計なスタミナを使うことになる。
逆にレース序盤は後方につけて前方を伺う追込みや、中段につける差しに関しては、他の二つに比べれば、出遅れても負担は小さくて済む。
それらを考えれば、その位置は正解かもしれないが……
「中段待機だと?」
ダイユウサクは7から8番手の位置を走っていた。
「ボクにもそう見えるけど……ううん、でも案外悪くない手かも」
車椅子からジッと見つめるミラクルバードが考え込みながらポツリと言った。
「どういうことだ?」
「今日のレースは1200メートルの短距離戦。先行にこだわりすぎて、出遅れから2位集団につけようとするのは負担が大きいと思う」
短距離になればもちろんペースは速くなる。スタートに出遅れたウマ娘が先頭や前の方の集団に加わろうとすれば余計なスタミナを使うことになるし、ペースの速い短距離では追いつくのにも苦労することになり、影響は余計に大きい。
「それに……今日はペースも速い。無理をすれば脚を使い切っちゃうかも」
「確かに、速いな」
オレは先頭や前を走る集団を見て、ミラクルバードの指摘通りにペースが速いのに気がついた。
そして、さすがだなと思う。
冷静な分析や状況判断ができるのは、やはり優秀な競走ウマ娘だったという証だし、なによりその優秀な目──レース勘が健在なことに感心していた。
「そこまで見越して、先行といういつものスタイルを捨てたダイユウサクの大胆さ……やっぱりスゴいよね」
「ああ。やっぱりアイツは成長している」
ただがむしゃらに前を走り続けた春。
そして夏を前にクラスが上がって──オレが指摘した「自分でレースを組み立てる」というやり方。
高松宮杯では、格上相手に自分の実力ではレースを支配できないと逃げを打ったその割り切りだって、たとえ通じなかったとしても、それは立派な判断だったとオレは評価している。
そして今回の──ミスから生まれたとはいえ、それを挽回するために冷静に判断できている。
「体だけじゃなく、頭もしっかりと、な……」
それは今のクラスに上がったときにダイユウサクに課していた課題であり、さらに上を目指すのには、必須のもの。
しかし、もうここまで──自分の得意戦術を捨てて、未知の戦い方を選択できる程だとは、完全に予想外だ。
(それがいわゆる“センス”ってヤツかもしれない)
どんなに教えられ、頭で理解していてもそれが実践できるかどうかはまた別問題だ。
一見、外れに見えるその道を、迷うことなく直感で選べるのは──間違いなく天与の才が必要なものだ。
「あとはそれが──通じるか」
「うん。それが問題だね」
車椅子に腰掛けた、黄色い覆面のウマ娘がオレの言葉に頷いた。
周囲のウマ娘がアタシを気にしているのはわかってた。
今日の人気は低くない。だから警戒されるのは当然。
出遅れたのはアタシの完全なミスだけど──ひょっとしたらこのハイペースは、アタシが出遅れたのに気がついた“逃げ”があえてとばしているのかもしれない。
(今回のレースは1200……)
距離は短い上に、先頭が頑張って速いペースになっている。
出遅れたアタシが先行の位置に陣取るのは余計な脚を使うことになる。
(そうなれば──逃げの思うツボ。ううん、他の先行ウマ娘たちも想定しているはず)
それゆえのハイペース。
ライバルの思惑に乗った上で、それを強引にでもぶち破れるのが本当に強いウマ娘──それこそオープンクラスなんだろうけどね。
(でも今のアタシにはそこまで力があるとは思わない。それなら、一か八か……)
アタシの脳裏をかすめたのは──高松宮杯のレース中に言われた一言だった。
(『貴方のもっとも優れたその武器を生かせるのは、この走り方ではありませんよ──』)
オープンクラスというバケモノのような存在──そのクラスに到達しているメジロアルダンから言われた言葉。
ハッキリ言って、アタシの走りを見透かしたように言われたその言葉には、イラッとくる。
でも──彼女の言いたいことも、理解している。
(あのときの走り──“逃げ”では末脚を生かせない)
それを彼女は言いたかったのだ。アタシの武器は末脚である、と。
思えば、それを自分でも感じたレースはあった。
粘る“逃げ”を追い抜いたとき。
競った“先行”相手に最後に一伸びしたとき。
そして──高松宮杯での最後。
(今日は、アタシの武器のスタートが完全に封じられた。だから──それに賭けてやるわよ!)
もう一つの武器があるのなら、それが本当に武器足り得るものなのか確認する。
そして──
(『──意外と、貴方は“差し”や“追込み”の方が合っていらっしゃるかもしれませんわね』)
だいぶ前に言われた言葉が頭をよぎった。
それを言ったのもまたメジロアルダン。
「なんか、彼女の手のひらの上で踊らされてる感じもするけど──この際、踊ってやろうじゃないの、全力で!!」
アタシは──中段で待機して、それよりも前にはいかなかった。
それで周囲は戸惑う。
“先行するはず”のアタシを意識していたウマ娘たちは戸惑い──その前提で逃げ、先行していた彼女たちも計算が狂う。
(問題は──仕掛けどころ。焦らず。かといって遅くても間に合わない。機を逃さず……)
今までの
だから思ってるはずよね、周囲も。
──できるわけがない。
って、ね。
でもね。アタシは──
「アタシは見続けていたのよ。アタシ自身がデビューするよりも前に……何度も何度もオープンクラスの“差し”の走りを、ね!!」
彼女の活躍が自分のことのように嬉しくて、彼女を追い続けた日々。
それはまったく無駄だったわけじゃない。彼女にあこがれたからこそ、その走りにもあこがれて──いざ、自分が走るとなったら性に合わない気がしたから、最初から進まなかったその道。
「今日は、ちょうど……
ゲートが苦手だったそのウマ娘の走り方は──彼女自身とそのトレーナーの次くらいに、アタシは熟知している。
そして切り替えたアタシの頭が告げる。
「行け!」と──
「ハアアアァァァァァァッ!!」
出遅れて、一度は焦ったその気持ちを落ち着け、溜めた力を──解放する。
一段下げたその走る姿勢は、アタシを今までよりもさらに速い速度へと導いた。
『なッ!? 出遅れて中段に沈んでいたダイユウサク、ここで一気に加速したーッ!』
『まさかの展開ですね。ダイユウサクと言えば今まで逃げか先行の走りしか見せたことがありませんから。その彼女が『差し』を見せるなんて……』
『しかししかし──その末脚、スゴい加速だーッ!! 前のウマ娘を次から次へとゴボウ抜き!!』
外に出たアタシは一気に加速して、他のウマ娘たちを抜き去っていく。
横に並ぶウマ娘たちは口々に「無理ー!」と言いながら、続々と後方へ下がっていく。
それを後目に、アタシはさらに加速する。
そして──
『今、ダイユウサク1着でゴール!! なんとなんと、阪神1200のコースレコード更新だああぁぁぁぁッ!!』
「──え?」
一着で駆け抜けたアタシは、その実況で思わず実況席を振り返っていた。
それから勝ち時計が表示された掲示板を見る。
そこに表示されていたのは──
「ウ、ソ……」
さすがに驚く。
え? だってアタシ……出遅れたのよね?
でも、それなのにレコードって──
「ダイユウサク!!」
スタンドが歓声に包まれる中でも不思議と通るその声に、アタシの耳が反応していた。
振り向けば、興奮した様子のトレーナーが見えた。
アタシはそちらへと駆け寄り──苦笑しているトレーナーの側まで行く。
「お前なぁ……珍しく出遅れたと思ったら、これだからな……もしも出遅れなかったら、もっといい記録出てたんだぞ?」
「仕方ないでしょ、そんなの!」
少し呆れ気味のトレーナー。
でも……本当のところ、出遅れなかったら記録が出ていたかどうか、ちょっとあやしいかも。
だって出遅れなかったら、“差し”っていう走りにはならなかっただろうし、その走りをしたからこそ──コスモが力を貸してくれたような気がしたのよね。
(アリガトね、コスモ……)
アタシは心の中で、アタシのルームメイトに感謝した。
◆解説◆
【はじめての
・「はじめてのおつかい」的なイメージで、「はじめて」はひらがなで。
・逃げか先行しかしていなかったダイユウサクが初めて差しを披露しました。
【だからって「バード」って名前付ける、普通?】
・原作では馬主である焼き鳥屋の主人が「焼き鳥の英語がわからなかった」ということでバードを付けた、という設定になってます。
・ちなみに英語で“焼き鳥”は“Yakitori”──つまりは日本独自の料理なので固有名詞になっているようです。
・焼き鳥を見たことも聞いたこともない人には“Japanese style skewered chicken”(日本スタイルの串に刺さった鶏肉)という説明的な方が親切かもしれません。
【鳥みたいな衣装】
・ミラクルバードはメンコが黄色だったという設定なので、イメージカラーは黄色。
・おかげで黄色い鳥、かつ“走る”ということで勝負服はFFのチョコボのイメージです。
・FF14の装飾品のついたマイチョコボを元に、さらに擬人化したような……ってイメージ複雑すぎ。
・もしくはチョコボスーツ(顔は除く)の上にさらにいろいろ装飾品付けた、という感じでしょうか。
・袖は鳥の翼みたいになってるようです。
・ちなみに好評だった感謝祭の焼き鳥の屋台は、勝負服でやっていたそうな。
【覆面キャラ】
・昭和~平成初期のサンライズ作品でよく見かけた覆面(仮面)キャラ。
・仮面キャラの特徴として、それを被るとなぜか正体が敵味方にバレなくなるという特典があり、また被るものによっては『聖戦士ダンバイン』の黒騎士(本名:バーン・バニングス)や『ブレンパワード』のバロン・マクシミリアン(本名:アノーア・マコーミック)のように声にエコーがかかったりボイスチェンジャー機能がついていたりする。
・どんなに正体がバレバレでも「いったい何者なんだ……」と呟くのが
・ちなみにダイユウサクが思っていた「黄色い彗星」は言わずと知れた仮面キャラ、『機動戦士ガンダム』のシャア・アズナブルの異名「赤い彗星」から。
・一方で「超音速のウマ娘」は、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』の仮面キャラ、ナイト・シューマッハ(本名:菅生 修)の異名「超音速の騎士」から。
・ちなみにウマ娘での覆面は、正体を隠すものではなく──エルコンドルパサーももちろん謎のウマ娘扱いはされない。
【レースに出走】
・久しぶりの出走レース解説。
・今回のレースは、1989年9月10日(日)での阪神競馬場第12レースがモデル。
・4歳以上900万下の条件戦。距離は1200。天気は晴れ。馬場も良。
・このレースでダイユウサクはデビュー戦以来の出遅れをしました。
・ただ、その原因が前走とは距離が違う、久しぶりの1200だったから……らしいのですが──シナリオの都合で集中力を欠いていてゲートでミスったというオリジナル展開にさせてもらいました。
【阪神1200のコースレコード更新】
・競走馬ダイユウサクはこのレースでデビュー戦以来の出遅れ──そこから中段待機と、今までの逃げや先行と違う作戦をとったのですが……それが見事にはまり、なんとコースレコードを叩きだしました。
・それで陣営はダイユウサクの素晴らしい末脚に気が付き、これ以降“差し”の作戦も使うようになります。
・普通の──それも一級の競走馬なら悪影響を恐れてやらないような1700mを使った後に1200mをやり、ダイユウサクの隠れた一面を発見できたのは、陣営にとって幸運でした。
・そしてこの末脚こそ──後にダイユウサク最大の見せ場であるあのレースでのあの走りを生むことになるのです。