見えぬ輝きの最南星《アクルックス》   作:ヤットキ 夕一

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「──って、わけなんだよね」

 ボクは後輩である彼女に、そんな世間話をしていた。
 去年の皐月賞で大怪我をして、車椅子生活になったボク。
 そんなボクを心配してくれる心優しい後輩に──ボクは最近、親しくさせてもらっているチームの話をしたんだ。
 信頼しあっているウマ娘とトレーナーが二人三脚で頑張っているチーム。
 そんなチームに降りかかった困難──1チームにつき1人のオープンクラスが必要になるって話を聞かせたら、彼女はジッと黙って、なにやら考えて込んでいる様子だった。

「その話……妙ですね」
「妙? おかしいってこと?」
「ええ。黒岩理事は父とも知り合いですし、その関係で私も存じ上げていますが……合理的な方ですけど、その発案はどうにもあの方のものではないように思えます」
「……オーちゃん、どういうこと?」

 思わずオーちゃん──その黒髪のウマ娘に問い返してしまう。

「なんと説明すればいいか……どうにも、黒岩理事の考え方では無いように思えるんです」
「そう? 合理的な人なんでしょ? その人──」

 乾井トレーナーも、ダイユウサクもそう言ってた。
 前にチーム存続の危機になったときには、「結果を出していないチームを潰す」って言って《アクルックス》が標的にされたみたいだし。

「合理的な人が理事長の座を目指すのに、現理事長が目をかけているチームを潰すという回りくどい手を使うでしょうか? それが秋川理事長の致命傷になるとは思えませんし」
「あ……」

 確かに、言われてみれば──
 ということは、ボクら……ううん。乾井トレーナーやダイユウサク、それに理事長達は最初から勘違いをしていたのかもしれない。
 その前提からして、間違えていたのだとしたら──



第38R 大捜査! さすらいウマ娘旅情編

 

「──オイ、大丈夫か? 大丈夫か、ミラクルバード?」

 

 体を揺さぶられて、ボクの意識は覚醒していく。

 なんだろう、ひどく気分が悪い。

 なんか血の気がひいているっていうか、寒気がするっていうか……

 

「顔色、真っ青じゃないの? 大丈夫? 安心沢先生を探してきた方が──」

「だ、大丈夫ッ、だよ!!」

 

 ボクは慌てて体に力を入れて、身を起こした。

 無理をしたせいで頭がクラッとしたけど──大丈夫。あの謎の針をブスッとやられるくらいなら、多少の無理くらい……

 そう思っていると、心配そうにのぞき込んでいた乾井トレーナーが優しく肩に手を置いてくれた。

 

「まだ顔色悪いぞ。無理すんなよ」

「そうよ。でもいったい……なにがあったの?」

 

 その背後から心配そうな目を向けてくれるダイユウサク。

 うん。この前は少しケンカみたいになっちゃたけど。やっぱりトレーナーが言うとおり、根はいい人だよね。

 

「ああ、この映像を見ていたら急に震えだして──」

「え? それってアタシの初勝利の……って、当たり前じゃないの!!」

 

 突然、ダイユウサクがトレーナーの頭をその手でスカーンと叩いた。

 思わず前のめりになってボクの方へ突っ込んでくるトレーナー。

 それを慌てて受け止め──

 

「だ、大丈夫? トレーナー」

「あ、ああ……なんとかな。というか、ダイユウサク、お前いきなりなにやって──」

「なにやってんのよ、はアタシの台詞よ!! アンタ、なんてものをミラクルバードに見せてるのよ!?」

「あ? お前の初勝利のレースだけだぞ? 安心しろ、ウイニングライブまでは見せてない」

「プッ──」

 

 ゴメン、思わず吹いちゃった。

 

「ちょ!? アンタ、なんてことを──というか、バード。アナタも知ってるの、ね?」

 

 うん。ブームになった当時は意識無かったけど、入院中にその映像はしっかり見させてもらったよ。

 あの──伝説のライブの映像は。

 

「うん。まぁね……入院中、ヒマだったし。つい……」

 

 思わず視線を逸らしながら言ってしまう。

 

「うぅ~、まったくなんなのよ、もう!! せっかく心配したのに、する必要ないじゃない!!」

 

 そう言って、ダイユウサクは腹いせに、もう一度トレーナーの頭を(はた)いた。

 

「痛ッ! お前な……ポンポンポンポンとオレの頭を殴るな!」

「うっさい! 少し叩いた方がちゃんと働くんじゃないの? まだ気づいていないんでしょ? ミラクルバードが何で気分が悪くなったか……」

 

 ダイユウサクはジト目で睨み、それから呆れ顔になって声を潜めながらトレーナーに言った。

 まぁ、声を潜めても聞こえるんだけどね。

 

「思い出しなさいよ。アタシの初勝利は皐月賞の当日で……」

「あ……そうだったな」

「ち、違うよ! さすがに日にちが近いからってだけで、そうはならないよ」

 

 ボクは慌てて否定する。

 そう、確かにあの映像を見て、ボクはあの日のこと──皐月賞での大事故を思い出したんだ。

 でも理由が違う。

 なぜなら、ボクが見ていたのは──

 

「このシーンを見て、思い出しちゃったからだよ」

「んん?」

 

 トレーナーとダイユウサクが覗き込むようにして画面を注視する。

 それは──

 

「ダイユウサクがトップになったときか?」

「無我夢中だったけど──前をずっと走ってたのを抜いたんだっけ……」

「そう……この抜かれる瞬間なんだけど──」

 

 思わず巻き戻し、そうしてまた再生する。

 ダイユウサクが前走者に並び、そして一気に抜く。

 その瞬間──

 

「なんか、このウマ娘が──横によれてぶつかりかけて見えて、そのせいであのときのことを思い出しちゃったんだ」

 

 今のシーンを見ても、寒気がした。

 思わず自分の肩を掴んで抱きすくめると、自然と震えがくる。

 それに気がついたトレーナーが、ボクの頭の上に手をポンと乗せてくれて──「悪かったな、思い出させちまって」と謝ってくれる。

 それだけで、心が落ち着いて──ボクはホッとできた。

 そしてトレーナーは、ボクの視界から画面をふさぐように立ってから、ダイユウサクと共にその映像を確認していた。

 

「う~ん……言われてみれば……そう、かもしれないわね」

「……実際、あのときはどう感じたんだ?」

「一着でゴールすることしか頭になかったから、覚えてない」

 

 それからトレーナーはジッと画面を注視し、何度も巻き戻したり再生を繰り返して──そして、うなずく。

 

「うん。確かに……コイツはよれてダイユウサクにぶつかりそうになった……というよりは、故意にぶつかりに行ったのに、ダイユウサクの加速についていけず失敗した、ようにオレには見えた」

「え? そ、それって……」

「ああ、それこそ大惨事になりかねないような、とんでもないことだ」

 

 故意にぶつかって妨害するなんて──ボクは改めて自分の体が震えるのを感じていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──さて、幸いなことに、チーム唯一の競走ウマ娘であるダイユウサクが休養ということで、やることが無く時間だけは有り余っていたオレたちは、そのことを調べ始めていた。

 

 ただまぁ……

 

「ダイユウサク、お前は行くところがあるから、そっちへ向かうこと。調べるのはオレに任せておけ」

「え? どこよ、それ」

 

 戸惑った様子ではあったが……チーム唯一の競走ウマ娘が最優先するべきなのは、競走──中央(トゥインクル・シリーズ)での勝利。

 それは分かってくれた様子で、学校が始まる前に学園外の施設へと出かけていった。

 

 そして残ったオレは──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「ちょっといいか、そこのウマ娘……」

 

 あるウマ娘に声をかけていた。

 が、彼女はオレをチラッと一瞥したが、まるで自分のことではないかのようにスタスタと歩き去っていく。

 

「オイオイオイオイ、ここにウマ娘は一人しかいねえだろ」

「……あ、私のことでしたか?」

 

 それでも足を止めず早足で歩く彼女に、オレはあわてて追い縋る。

 

「ちょっと聞きたいことがあるんだ、リュウジョウガイド」

「そうですか、私にはありません」

 

 なおも足を止めずに去ろうとするそのウマ娘。

 その彼女に──

 

「──ちょっとだけ時間をいただけませんか、先輩」

 

 前を立ちふさがるウマ娘。

 しかも車椅子でそれをすれば、占有する幅も大きく行く手を遮るのは十分だった。

 オマケに少し強引にでも通り抜けよう、という意識を阻害させる。

 もちろんそれでも強引に突破するヤツはいるだろうが、そういうのは口を割らないか、割らせるのにとんでもない苦労がかかる。

 そういうのはハナから諦めて、聴取できる相手から聞くから絶対に無理に追ったり阻んだりするな、とアイツにはよく言い聞かせてある。

 

「……ミラクルバード」

 

 彼女の姿を見て、リュウジョウガイドがやっと足を止めた。

 そしてさも面倒くさそうに大きくため息をつく。

 

「いったいなにが聞きたいのでしょうか? あなた方に尋問される覚えはありませんが。特に車椅子のあなた……」

「オレが訊きたいのは、去年のレースのことだ。ウチの──《アクルックス》所属のダイユウサクが勝った新潟のレース……」

 

 4月16日開催の新潟第7レース。

 ダートの1700と告げると──無感情で反応が薄かった彼女の表情が少し動いた。

 

「……覚えているな?」

「ええ……まぁ。入賞もしましたし、それに──あのウイニングライブは良く覚えていますから。伝説の号泣ライブでしたし」

 

 皮肉を込めた返しである。

 つくづくダイユウサクをつれてこなくて正解だったと思う。今の台詞を聞けば、間違いなく逆上していたところだろう。

 

「なるほどな。あの困り果ててたメンバーのうちの1人だったな、そういえば」

 

 オレが苦笑混じりに返すと、相手は無感情にこちらをチラッと見てきただけだった。

 

「その通り、そのレースだ。それで、お前に訊きたいのは……あのレース、故意にぶつかろうとしただろ? ダイユウサクに」

「あぁ、そのことですか……」

 

 リュウジョウガイドは心当たりがあるような口振りで答え──

 

「それについては黙秘します。なにも答える気はありません」

「え──ッ!?」

 

 驚いて、唖然とするミラクルバード。

 だが──オレは、一筋縄じゃいかない相手だと思っていたので、そこまで取り乱さなかった。

 冷静に再度尋問をする。

 

「──とぼけても無駄だぞ。あのレース後、お前は他のウマ娘と口論になっている。それを見ていた目撃者がいたからな」

「そうですか……しかし、それに関係なく、私はその件についてなにも話す気はありません。どんなに決定的な証拠であろうとも、私は黙秘します」

「……もし、ぶつかっていたら大惨事になったかもしれなかったのに?」

 

 そう言って責める目で見るミラクルバード。

 車椅子から立ち上がれない彼女が睨め上げるようにして向ける視線は、やはり効果は大きい。他の誰の言葉よりも、身につまされるだろう。

 さしものリュウジョウガイドも、僅かに眉をひそめた。

 

「そうですね。そうなればあなたのように車椅子生活を余儀なくされていたかもしれませんね。私か、ダイユウサクか……それとも、両方か」

「アナタが想像している以上にツラいよ、この生活は」

 

 自嘲気味に苦笑するミラクルバード。

 あの底抜けに明るいこいつがそんなことを言うなんて、オレは少なからず驚いた。普段はそれを隠しているってことだからな。

 オレがミラクルバードを驚いて見ていると、リュウジョウガイドはついにため息をついた。

 

「この人を連れてくるなんて卑怯──と言いたいところでしょうね。それを本当にやったのなら」

 

 む?

 まだ観念して自供しないのか、とオレは思った。

 そんなオレの表情変化を見たのか、リュウジョウガイドは淡々と告げる。

 

「たとえ、何をされようとも私はなにかを証言するつもりはありません。というよりは──できないんです」

「なに?」「え?」

 

 オレとミラクルバードが困惑していると、彼女は感情に乏しい目で言う。

 

「そういう約束で私は協力しました。いまさらどんな形であれ、裏切るわけにはいきません」

「けどッ──」

 

「──裏切れば、私の競走人生はそこで終わります」

 

 なにか言いかけたミラクルバードの言葉を遮って、彼女は自身に課せられた枷をオレ達に示した。

 

「一応、言っておきますが、私のことを守るからどこかで証言しろ──というのは無意味な提案ですからね」

「こちらに理事長がついている、としてもか?」

 

 現時点では空手形だが、あの理事長なら彼女のことを守ってくれると信じて提案したが、リュウジョウガイドは首を横に振る。

 絶対の安全が保証されていても──というよりは、純粋に関わりあいになりたくない、というのが本音だろう。

 なにより、彼女はなにかしたわけではない。結果的にはダイユウサクと衝突もしていないし、他のウマ娘へも含めて進路妨害もしていないのだから。

 

(それがネックだったんだが……やはり押しが弱いな)

 

 ミラクルバードの事故の影響で、衝突に繋がるような危険行為への注意や措置は厳しくなっているが、それでも彼女が「あのときに少しバランスを崩した」と言われればその通りに見えるし、故意を証明することはできない。

 だが、後で故意が証明されれば立場が悪くなるのは間違いない。オレはそれを言おうと──

 

「……でも、あの人なら答えてくれるかもしれません」

「あの人?」

「私ともめていた人ですよ」

 

 オレの問いに振り返ることなく、彼女は答える。

 これは……脈ありか? だが、その相手が誰か、まだ調べる前だった。

 

「しかし、それが誰だか……」

「──メヒコギガンテ」

 

 彼女の呟きに驚く。

 

「え……?」

 

 まさか、名前まで……と思ったが、彼女は何事もなかったかのように、背を向けて歩き出す。

 これ以上は、答えない。

 その背中からは確固たる意志が伝わってきた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「──言われてみれば、そういう名前のウマ娘も出てたかも」

 

 福島県のいわき市──そこにあるURAの施設で療養中のダイユウサクは、施設の食堂で鍋をつつきながらそう言った。

 ピコピコと箸を動かすその姿にはオレも行儀が悪いと眉をひそめたが、彼女はそのときのことを思い出そうとしている様子だったので、その邪魔にならないように注意はしなかった。

 

「出走表を確認したが、間違いなく出走していた。5位だったウマ娘だが……」

「覚えてないわね。あのときは無我夢中だったし、いろいろ精一杯だったし──」

「──号泣するくらいにな」

「ぅぷッ」

 

 鍋から取り出した具に舌鼓を打ちながら、半ば無意識で言うオレ。

 その隣で鍋に夢中になっていたミラクルバードは、思わず吹きそうになり──どうにかこらえてせき込む。

 ──そこへ風を切る音と共に鍋のフタが襲来し、オレの顔面に直撃した。

 

「ッ!!」

「と、トレーナー!?」

 

 そのまま後ろへ倒れ込むオレ。

 その姿に驚くミラクルバード。

 そして、こめかみに青筋を立てながら笑顔を浮かべているダイユウサク。

 

「なにか、言った、かしら?」

「ダイユウサク、さすがにこれはちょっとヒドいよ~」

「いいのよ、これくらい。こんなことで死ぬようなタマじゃないでしょ」

 

 憤然としながら、鍋の取り皿に意識を戻すダイユウサク。

 一方、ミラクルバードがハラハラしながら見ている中、オレはゆっくりと身を起こす。

 

「ただ、問題があってな……」

「何事もなかったかのように話を続けるの!?」

 

 驚くミラクルバードを余所に、オレは小さくため息をついた。

 

「肝心のメヒコギガンテなんだが……行方が分からん」

「行方不明? なんで? トレセン学園にいるんじゃないの?」

「いや、あのレースから2戦後に初勝利を挙げたんだが……そのまま引退していた」

「「え?」」

 

 ウマ娘二人が、思わず驚いて声をあげていた。

 そして訝しがるように眉をひそめたのはダイユウサクだった。

 

「せっかく初勝利をあげたのに?」

 

 そこに至るまでに苦労したからこそ、ダイユウサクにはそれがおかしく感じたのだろう。

 そして──そこから今まで走ってきたからこそ、それを勿体なく思っているのがわかった。

 

「う~ん、そのレースでなにかあったの? ケガしたとか」

「わからん。が……レースを見た限りでは負傷した様子は感じられなかったし、担当していたトレーナーにも訊いたが、ケガで辞めたわけではなかったらしい」

「じゃあ、なんで?」

「……まぁ、初勝利までだいぶ時間がかかっちまっていたからな。ダイユウサクよりも二つも歳が上だったし」

 

 にもかかわらず未勝利どころか初出走だった。何か事情があるんだろうが……その年齢で、まだ初勝利なら引退するのも無理はない。

 むしろよくデビューしたな、というレベルだ。

 オレは遠い目をして──取り皿から食材を口へと運ぶ。

 そしてモグモグと咀嚼した。

 

「向こうのトレーナーは、自分の才能の限界を感じていたのかもしれない、って話していたけどな。一勝できたことで踏ん切りがついたんじゃないか、って……」

「なるほどね。最後に思い出ができたから、それで引退、と」

 

 うんうん、と頷くミラクルバード。

 しかし、コイツにとっては逆に疎遠な感覚なんだろうな。あまりそうは見えないが、デビューから4連勝。負け無しでクラシックレースに挑んだエリートだもんな。

 肝心の皐月賞であんなことになっちまったが……

 

「──そうかしら?」

 

 そこへ、疑問を口にしたのはダイユウサクだった。

 ミラクルバードの方さえ見ずに無心で鍋をつつきながら言った彼女に、ミラクルバードは首を傾げる。

 

「どういうこと?」

「長年望んで、ようやく勝利をつかめたのよ? ケガでもしていなければ、さらにもう一勝って思うんじゃないかしら」

「う~ん……でも、今までがんばってきたのを、さらにがんばろうっていうのは辛いんじゃないかな?」

「せっかく()()()()()のよ? ランクが上がるわけでもない。今の実力なら他にも勝てるかもしれない、と考えるんじゃないかしら? 負けたのならもっとがんばらないといけないけど、勝ったんだから──」

「ああ、そっか……」

 

 なにやら二人で話しつつ、鍋をつつきあっている。

 

「オイ、お前ら。話し合うのはいいが、ハイペースで鍋を食べすぎだぞ。オレにも──」

「はいはい、じゃあ具を追加で頼めばいいじゃない」

「そうだね。仲居さん呼ぶよ……」

 

 そう言ってミラクルバードは振り返り──手を振って係の人を呼んでいた。

 それを横目で見ながら、オレは話を元に戻す。

 

「ま、ここで言っていても、真相はわからんがな。それこそ本人に訊かないと」

「そうよね……でも、引退した後の足取りは分からないんでしょ?」

 

 ダイユウサクの問いに頷く。

 

「ああ。キチンとした名目のある調査や捜査なら別だろうが、引退したウマ娘の個人情報なんて、簡単に教えてくれるわけがないからな」

「ああ、そういうことね」

 

 オレ達がやっていることは、あくまで個人的な調査でしかない。

 何の権限もないのだから、調べられることにはもちろん限界があった。

 

「……まったく、どこにいったのよ。メヒコギガンテは!!」

 

 やけっぱちになって出したダイユウサクの大きめな声。

 それになぜか──

 

「──あん? オレ様がどうしたって?」

 

「「「──え?」」」

 

 ──反応があって、オレ達は驚いてそっちの方を見た。

 視線の先には──保養所らしく和服で給仕をしているウマ娘の姿があった。その手にはさっき頼んだ追加の具が乗った皿がある。

 ……まぁ、給仕という割には、なぜか妙な貫禄と、ちょっとぶっきらぼうそうな雰囲気を持っていたが。

 

「……って、オマエら、誰だ?」

 

 思わず顔を覗き込んできたそのウマ娘は、まずオレを見て──それからダイユウサクを見て固まる。

 

「んん!? オマエはまさか!?」

 

 驚く彼女。一方、ダイユウサクは──

 

「誰?」

 

 本気で眉をひそめている。

 そんな姿に、オレとミラクルバード、それにメヒコギガンテは思わずその場で脱力してズッコケた。

 

 

 ──何の偶然か。なんとメヒコギガンテはこの保養所で働いていたのだ。

 




◆解説◆

【さすらいウマ娘旅情編】
・今回、推理&捜査パートなので、刑事ドラマのタイトル「さすらい刑事旅情編」から。
・今も続くテレビ朝日水曜21時枠刑事ドラマの初期の作品で、1988年から7年間放送されました。
・2クールで、秋から冬にかけての半年を担当。現在の「相棒」もかなり長いシリーズですが、その大先輩にあたります。
・奇しくもダイユウサクが現役のころに始まったシリーズでした。
・書いている人的にはシーズンⅢ(90~91年にかけて)からの固定されたオープニングテーマが好きです。(今回の話のオープニングでは、書いた人の脳内では流れてます)
・このドラマで鉄道警察隊の存在を知った人も多いはず。
・ちなみに現実だと発生が駅だろうが電車内だろうが鉄警隊は殺人事件を担当したりしません。原則的に発見した警察署が担当し、捜査本部が置かれます。

安心沢先生
・ゲーム版ではご存じ、超天才の次世代笹針師こと安心沢 刺々美のこと。
・なぜかボディコンスーツの上に白衣をひっかけ、白い鳥の翼のような仮面をつけている。
・鳥、仮面といえばミラクルバードもそうなんですが……どうやらお世話になったことがあるのか、それとも針を見て怖がったのか、ミラクルバードは怖がっているようです。
・医療関係者を出したかったのですが、ウマ娘での医療関係者となるとアニメでのメジロ家の主治医か、ゲームのこの安心沢くらいしかいなかったので。
・ただ、安心沢ってたづなさんに見つかって追いかけられているので部外者のような……
・まぁ、ただの助手だったという話もあるし、本作では独自設定扱いの上、ゲーム版とはパラレル的な別人で関係者(?)という感じで。
・ちなみに、現実の馬に使う針──笹針って、鍼灸師がヒトに使う針とはまるで別物です。
・悪い血を出して血行を良くしたり、傷ついた所を直そうとする回復力での回復を促すという──鍼灸師のそれとは根本的に違うものだそうです。
・ウマ娘相手ならモデルは──そりゃあ間違いなくヒト相手の鍼灸師の方ですよね!? 

URAの施設
・福島県いわき市に所在のJRA競走馬リハビリテーションセンターがモデルの施設。
・競走馬総合研究所の常盤支所だった施設で、いわき湯本温泉近くにあり、温泉療養施設があります。
・2017年に競走馬総合研究所常盤支部から現在の競走馬リハビリテーションセンターに名称が変更になりました。
・温泉施設ということで、本作独自の設定で保養所ということになっています。
・ゲームでの温泉イベントは、宝くじで当たっているのでここではありませんね。


※次回の更新は8月27日の予定です。  

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