見えぬ輝きの最南星《アクルックス》   作:ヤットキ 夕一

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 う~ん……どうしたものか。

 中央トレセン学園では、理事会の開催時期が迫っていた。
 これは来年度の方針を話し合う最後の理事会、だそうだ。
 つまりはここで採決されたことは覆されることなく実行されるという、最終的な決定を下す会議。
 そんな会議を前に──オレは悩んでいた。

 オレ達がやろうとしているのは、来年度以降の方針となる「1チームに1人以上のオープンクラスウマ娘の所属」という項目を覆させること。
 そのためにできることをやっており、その目処がつきそうなところまではきている。

(だが、最後の一押しをするには──足りない)

 それをするための伝手をどうするか、それをえていたのだが──

「コネをとってもらうにしても、話しやすいが非協力的なヤツにするべきか、それとも協力的だが近寄りがたい方にするべきか……」

 オレは悩み、そして考えをまとめるためにその場をウロウロする。
 すると……

「あら? たしか……ダイユウサクのトレーナーではありませんか」

 なんて声をかけられた。
 声に振り返ると、ツインテールの髪型をしたウマ娘が、少し怪訝そうな様子でこちらを見ていた。
 何度も見かけたことがある彼女の名前は──

「サンキョウセッツ、か……」

 ちょっと高飛車でお嬢様然とした彼女だが、本当のお嬢様──たとえば名門メジロ家の令嬢であるメジロアルダン──に比べると、メンタルが弱くて簡単に化けの皮がはがれてしまう。
 ──そんな残念なお嬢様。それがサンキョウセッツだ。

「……なにか、えらく失礼なことを考えていらっしゃいませんでした?」
「滅相もない」

 訝しがるサンキョウセッツは、オレが即答したにもかかわらず納得せず、憮然とした顔でこちらを見つめる。

「まったく……あの()のトレーニングをしている間に、似てきたんじゃありませんの? 無礼で癪ところはそっくりですわ」

 なんて話しかけてきたが──実は、オレとこのサンキョウセッツは、今まであまり話したことがないのだ。
 というのも、このサンキョウセッツはオレが担当しているダイユウサクとは親戚で──なにかと絡んでくる相手、らしい。ダイユウサクに言わせると。
 だから今までサンキョウセッツがオレの近くに現れたときには必ずダイユウサクがおり、そこで口論を始めて決着が付くとさっさといなくなる。だからオレがサンキョウセッツと絡む余地がなかったのだ。

「──で、トレーナーさんはこんなところに何の用事ですの? ダイユウサクなら療養中……そもそも教室が違っていますわよ」

 施設で療養中なのは百も承知だ。なにしろオレが指示して手配したからな。
 教室が違っているのも、もちろんわかっている。
 しかしオレが用事があったのは、こっちの教室で合っている。なぜなら──

「……だが、よりにもよってこっちが来ちまったか。しかし、コイツに頼んでもキチンと目的が果たせるかどうか……」

 オレの頭に不安がよぎる。
 というのもこのサンキョウセッツ、オークスに出走していてクラッシックの年齢にあがるころまではよかったのだが……正直、今では見る影もない。
 努力もしているようなのだが報われず、今ではバカにしていたダイユウサクよりもランクが下になってしまった、そんな“残念なウマ娘”なのだ。

「そんな“残念な”ヤツが、まともに相手してもらえるかどうか……」
「なんか先ほどから呟いている声が小さくて聞こえませんけど、先ほどよりも余計に無礼なことを考えていらっしゃいますわよね?」

 サンキョウセッツがジト目を向けてくるが──う~ん、やっぱり残念だしな。コイツに頼むのは厳しいか……

「あら? セッツ、どうかなさいましたか?」
「シヨノ……」

 そんな残念なウマ娘(サンキョウセッツ)の背後から、横線のように細い目をしたウマ娘が、ひょいと現れる。
 長い髪の毛を三つ編みで一つにまとめたその姿は、特徴的なその目や、落ち着いた佇まいからも、すぐにわかる。
 サンキョウセッツに話しかけられたおかげで、シヨノロマンが来てくれた。なんとラッキーな……海老で鯛が釣れるとはまさにこのことだな。

「おお、シヨノロマン。ちょうどよかった……」
「……なにやら私との反応の差が大きいように感じるのですが」

 オレが歓喜で迎えると、隣のサンキョウセッツはうろん気な目でじとーっと見つめてくる。
 ま、それは無視しよう。
 不確かなセッツよりも、やっぱりシヨノロマンだ。
 なにしろ成績が違うからな。トリプルティアラ路線へと進んだ彼女はタイトルこそ一つもとれなかったが、恥ずかしくない成績を残したウマ娘だ。

「やっぱり頼るなら、彼女だろ……」

 落ちこぼれ達なんか(ダイユウサクやサンキョウセッツ)や、オークス一発屋(コスモドリーム)よりも頼りがいがある──

「……なにか、ダイユウサクやその従姉妹からアナタを殴っていいと言われたような気がしますわ」
「気のせいだ、それは」

 ウマ娘に遠慮なく殴られたら洒落にならん。
 まぁ、それはともかく──オレはシヨノロマンに頭を下げる。

「シヨノロマン……ついでにサンキョウセッツも、一つ、頼みたいことがあるんだ」
「あら? なんでしょうか?」
「……ええ、なんでしょうかねぇ」

 にこやかに微笑むシヨノロマンに対し、こめかみに青筋をたてながら微笑むサンキョウセッツ。

「ある方とコンタクトを取りたいんだが……仲介してもらえないか?」
「……ある方?」

 オレの頼みに、シヨノロマンとサンキョウセッツは思わず顔を見合わせた。



第40R 大論争! はみだし理事長情熱系

 フフ……、どうやら私の計画は上手く進んでいるらしい。

 

 あの小生意気な小娘を学園の理事長から叩き落とし、その座に優秀なるこの私が就くのは当然のこと。

 しかし今回の計画では、その上にあの(にっく)きウマ娘──アイツのために、私自身がとんでもない損害を被ってしまった──へ嫌がらせも出来るという一石二鳥のプランだ。

 以前もあのチームを潰してやろうと手を回したが……デビュー2戦もタイムオーバーなんてポンコツがレースに勝てるわけがないと思っていたら、勝ちやがったのだ。

 おかげで溜飲が下がるどころかフラストレーションが溜まる一方だわい。

 

「だが……今回ばかりは、どうしようもあるまい」

 

 来期の詳細を決める理事会はもう間もなく開かれる。

 そこで例の件が承認されれば──あのチームも御仕舞いよ。

 そうなって他のチームに入れば……今度こそ競走ウマ娘として、息の根を止めてくれるわ。

 それを私の新たなる門出の祝いとしてくれよう。

 

 フフフ……今から楽しみだわい。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──学園の来期を決める理事会は、ついに開催されました。

 

 まずは学園長──私が秘書を務める秋川やよいが立ち、私が今期の成果や達成予測を理事会に代弁して報告し、それを理事のみなさんが聞いています。

 その中には──理事の一人で、URAではコンテンツの管理をする部署を統括している黒岩理事の姿ももちろんありました。

 私は報告を読み上げつつ──チラッと彼の姿を盗み見ます。

 配布された資料を見ながら、真剣に話を聞くその目は厳しく挙手して向けてくる質問は鋭く──ああ、学園長も思いつきの行き当たりばったりではなく、少しは彼のように……なんて思っていたら、彼女から恨みがましい目で睨まれてしまいました。

 

(ええ、心配しないでください。私はどこでも、そしていつでもあなたの味方ですから)

 

 そうこうしている間に、次々と来期のことが決まっていきます。

 各種行事とその準備計画、さらには予算と──事前に決まっていることもあってトントン拍子で話が進みます。

 そしていよいよ……例の件が議題になります。

 そうなると、今度は主導権が逆転──黒岩理事サイドが話を進める側となるのです。

 

「──さて、この議題についてですが……」

 

 理事長が座り、黒岩理事が立つ。

 私も理事長の傍らに控えると、黒岩理事の秘書が出てきて──秘書サイドも交代となるのでした。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 さて──私は、秘書が用意し、渡してきた資料を手にプレゼンを始めた。

 その相手はトレセン学園の他の理事たち。

 内容は、と言えば……

 

「学園でのチームに関し、その成立条件として“1人以上のオープンクラスが所属すること”を付け加える件についてです」

 

 すでに去年の秋頃からこれの成立のために動いていた案件で、居並ぶ理事たちも話は通っているので驚くような者はいなかった。

 これによって──

・チームの乱立を防ぐことで、限られたチーム予算は一つのチーム当たりの配分が増えることになり、より効果的な運用を期待できること。

・『Eclipse first, the rest nowhere. (唯一抜きんでて並ぶものなし)』という校訓を忘れ、仲良しクラブと化して切磋琢磨を忘れたチームを排除することで、学園全体──つまりは日本のウマ娘競走(レース)の底上げを狙えること。

・チームの柱となるオープンクラスのウマ娘に、その地位や責任を自覚させることで、慢心することなくさらなる向上心を植え付け、新しく学園に入ったウマ娘達にはわかりやすい目標を示すことが出来る。

 ──等のメリットがある。

 そして、その私のプレゼンを理事達は頷いて聞いていた。

 

(とはいえ、元々は私の発案ではないのですが……)

 

 私は側に控える秘書へチラッと視線を向けた。

 実のところ、この男の発案によるものだった。長く私の下で勤めているわけではないが……過去に秘書経験があったらしく、即戦力として働いてくれている。

 とはいえ、今は私のために全身全霊でことに当たり──その貢献は他の秘書を凌駕するほどだった。

 今ではもっとも信頼する秘書の一人となっている。

 そんな彼が提案してきた改革案は、目を見張るもので──それゆえに私が少々手直しし、今回の案となっている。

 

「異論ッ!! 私は、その案に反対をする!!」

 

 プレゼンが終わるや、そう言って反論をしたのは──案の定、秋川やよい理事長だった。

 無論、それは想定通り。

 この案を通すために動き始めた昨年の秋頃から徹頭徹尾、反対し続けたのは彼女だった。

 彼女曰く──

 

「そのような制限をするのは、学園所属のウマ娘達の自由を制限するものだ!」

「学園は教育機関なのだ。ルールで縛りすぎて自主性を育むのを阻害することは、教育機関として相応しくない行いである」

「ウマ娘達の個性は千差万別。大勢の仲間に囲まれて才を育まれる者もいれば、個人でストイックに鍛錬を積むのが合っている者もいる。チーム数を減らして一つ当たりの人数を増やすのが必ずしも正解とは言えない」

 

 ──等の反論をしているが……

 

「結果的には、学園全体のレベルアップにつながり、彼女たちの為になる」

「ルールで縛っているのではなく、わかりやすい目標を示しただけである」

「少人数のチームを否定しているわけではないし、ソロも禁止はしていない。それにチームの方針も千差万別なのだから個性を伸ばせるチームで実力を付け、オープンクラスになってから独立すればいい」

 

 ──と、返すと理事長は悔しそうに表情をゆがめていた。

 彼女の論理は、ウマ娘達が可哀相……といった感情的なものだ。

 それが不要なものではないが、そこに傾倒しすぎれば学園そのものが倒れかねない。

 私は、それを許すわけにはいかないのだ。

 反論をことごとく論破されて叩き潰された理事長は──悔しげにうつむく。

 

「……それ以外に反論は?」

 

 私は周囲の理事を見渡す。

 彼らから反論はない。理事長も黙ったままだ。

 

「それでは決を──」

 

 と、私が言ったときのことだった。

 この会議を行っている部屋のドアが──開いた。

 そして、カツンカツンと──まるで靴底が金属になっているような、やたらと大きな足音が響く。

 むぅ……この大事な会議中に、いったい誰だ!?

 闖入者はもちろん、それを許した者共を叱責しなければならない。

 私がそう考えながら振り返り──

 

「なッ!?」

 

 ──絶句した。

 

 一方で、周囲の理事達はその人の顔を見て一様に驚き、ざわざわし始める。

 あの人が理事会に現れるなど、今まで無かったはずだ。

 それがなぜ、今回に限って──

 

「なぜ、ここにあなたが……?」

 

 私の心を代弁してくれたのは、傍らに控えていたあの秘書だった。

 彼は酷く動揺した様子で、やはりその人──いや、ウマ娘を見ていた。

 しかしそんな反応も無理はない。彼女の登場は完全に想定外のことだったのだから。

 

「──あら? 大分前にですが……理事会には参加してもらって構わない、というお墨付きは以前にいただいていたはずですが……失効してしまったのかしら?」

 

 私の秘書に言われた彼女は、確認するように理事長の傍らにいる彼女の秘書へと視線を向ける。

 すると視線を受けた彼女が素早く答えた。

 

「い、いえ、そんなことはありません」

 

 それに彼女──初老のウマ娘は満足げに微笑み、そして頷く。

 

「それはなにより……たまには理事会というものが見たくて、つい来てしまいましたが、参加資格がなかったのでは、全く意味がありませんからね」

 

 微笑む彼女を、理事達は唖然としながら見ていた。

 たしかに闖入者ではあった。

 しかし誰も彼女を咎めることはできない。

 URAに多大な貢献をした、偉大なるウマ娘である彼女に対し、そんな不遜なことをできる者などいるはずがない。

 まさに泣く子も黙るウマ娘。

 彼女の名は──

 

 ──シンザン

 




◆解説◆

【はみだし理事長情熱系】
・テレ朝水曜21時刑事ドラマシリーズのタイトル「はみだし刑事情熱系」から。
・前々回、前回ときましたから、さもありなん、という流れ。ちょうど、理事長が他の理事からはみ出して情熱的に発言していましたので。
・これもまた「はぐれ刑事純情派」のシリーズの間に放送された、相方の刑事ドラマの一つ。
・……だったのですが、第7シーズンの2003年から半年のうちの半分を他の刑事ドラマに奪われて2クール放送に。
・その奪った相手こそ、今のその時間帯を代表するドラマ、「相棒」です。
・その次の8シーズン目が最後となり、その翌年には「はぐれ刑事純情派」も最後のシーズンを迎え、同時間帯の名物だった「○○刑事」シリーズは終わりました。はぐれ刑事で始まり、はぐれ刑事で終わったことになります。
・ただ、正直……書いている人的には、「さすらい刑事」が好きだったのと、生活の変化で見なくなったので「はみだし刑事」にはあまり思い入れが無かったりします。
・主人公を柴田恭兵さんが演じていたのですが、どうしてもあの人の刑事といえば“()()()()”方を思い浮かべてしまいますからね。

教室が違っています
・ダイユウサクの同学年はもちろんオグリ世代。
・その中で──本作でダイユウサクはオグリと同じクラスという設定なので、基本的にシンデレラグレイで初期に出てきたキャラが同じクラスです。
・オグリのほかは、チヨノオー、アルダン、ヤエノムテキ、ディクタストライカ、(ブラッキーエールもいるけど)といったメンバー。
・他のキャラは基本的に違うクラスなので、本作オリジナルのウマ娘はだいたいそうです。
・コスモドリーム、サンキョウセッツ、シヨノロマンなんかが代表例です……ヤエノムテキは残念がりそうですが。
・ベルノライトはそもそも科が違いますし、ミラクルバードは学年が違います。
・ちなみに、バンブーメモリーも同じ学年になるのですが……彼女の場合、ほぼ間違いなくシンデレラグレイに出てくるので、それでどうなるのかわからないので保留中。

シンザン
・実在した競走馬がモデルの、本作オリジナルウマ娘。
・モデルの馬は史上最初の5冠馬。
・その内訳は、クラシック三冠に加えて、天皇賞(秋)と有馬記念。
・じつは宝塚記念も勝ってるんですけど……当時はG1扱いされていなかったので、五冠馬になってます。だから現代でいえば実質的には六冠馬。
・生涯19戦して15勝。そして2位が4回。
・つまり連帯率100%。1位と2位しかとったことがありませんでした。
・19戦して連帯率100%はいまだに破られていないシンザンの記録です。
・ついでに言えば、その4回の2位のうち夏負けによる体調不良が原因も含めた2回も合わせ、ちょっとした事情が……
・また種牡馬として優秀で、輸入種牡馬全盛期において産駒重賞勝利数49という数字は内国産種牡馬の地位向上に一役買いました。
・現役時代だけでなく種牡馬としても優秀だったために「神馬」と呼ばれたほど。
・さて、本作でのウマ娘は──すでに引退したどころか、老齢に差し掛かっています。
・かつての活躍で“レジェンド”として皆に尊敬されてVIP扱いされ、理事たちも一目置く相手。
・なお、ウマ娘の設定として「エルフのような存在」となっているので、歳をとっても見た目が変わらない……と解釈もできるのですが、アニメの「メジロ家のお婆様」が老齢の見た目をしていた──ように見えたので、このような設定になりました。
・ちなみに──登場時の「金属のような足音」は、元ネタ馬が前脚と後脚がぶつかるという問題を解決するために、前後の脚にその対策を施された特別なカバー等がついた「シンザン鉄」と呼ばれた蹄鉄をつけていた、というのが元ネタ。
・そのシンザン鉄が歩くたびに前後でぶつかり、金属音がしていたとか。
・歩くと音がするというイメージは『仮面ライダーBLACK』『~RX』に登場したシャドームーンです。


※次回の更新は9月2日の予定です。  

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