見えぬ輝きの最南星《アクルックス》   作:ヤットキ 夕一

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 ──名古屋のとある場所。


 そこではとある会社の忘年会が行われていた。
 昼間の3時過ぎ──とはいえども社内という身内だけで、しかも無礼講の飲み会。時間帯の割にはもう出来上がっている酔っぱらいもいるわけで……
 そんな一人が、酔い醒ましに……とばかりに主会場の隣の休憩スペースにフラフラとやってきた。
 そこにはテレビが置いてあり──数人がそれを見ている。

「おやおや~、みなさん、ここで何を見てるんですか~?」
「こ、これは……」

 やってきた人がだいぶ酔っているのを見て、思わず苦笑する若手社員たち。
 同時に、そんな酔っぱらいの中年が来たことで内心顔をしかめていた。
 せっかく会場を抜け出して、気になるトゥインクルシリーズのレースを見に来たというのに……
 おまけに今日は、年末の大レース──有記念だ。ファンなら誰でも興味を持つ。
 こんな忘年会なんて無ければ、家で見られたはずなのに……なんなら東京まで見にだって行けたかもしれない。

「……おや? 有……記念?」
「え、ええ……そうなんですよ。まもなく出走で、気になったものですから」
「知ってます? ほら、去年……オグリキャップがラストランで優勝して……」
「ま、今年はマックイーンで決まりですけどね」

 若手社員たちが気を遣いながら、その中年社員の機嫌を損ねないように説明する。
 すると──

「そりゃあ、知ってるわ。だって……娘が出ているんだから」
「へぇ、そうなんですか──って、ええッ!?」

 若手社員たちが飛び上がらんばかりに驚いた。

「む、娘って……お嬢さんが、出ていらっしゃるんですか?」
「ああ、そうだぞ? ほら……この8番のウマ娘」

 画面の端にチラッと映った長い栗毛の髪をしたウマ娘を指して、その中年社員は言う。
 若手のうちの一人が「そういえば聞いたことがある」となにやら言い出す。
 彼曰く──その中年社員は有名なウマ娘の親戚で、その娘も中央トレセン学園に所属するウマ娘だ、というウワサがある、と。

「……え? でも、それなら……こんなところにいたらダメなんじゃないですか?」
「そ、そうですよ!! なんで忘年会になんて出てるんですか!? 娘さんの一世一代の晴れ舞台じゃないですか!!」
「あぁ……大丈夫、大丈夫。うちの娘……ダイユウサクが優勝するわけなんて、ないんだから」

 赤ら顔で笑顔を浮かべ、その中年社員──ダイユウサクの父親は、若手社員たちに手を振る。
 さすがに反応に困る若手たち。いたたまれない空気が漂う。
 ダイユウサクが15人中14番人気なのは、ウマ娘競走のファンであるその場の誰もが知っていた。
 そして今日のレース、大本命のメジロマックイーンが固いことも。
 だからといって、実の娘が出走している父親に向かって「そうですよね~」なんて言えるわけがない。
 そしてトゥインクルシリーズを知っているからこそ、有記念についての知識ももちろんある。そのレースが多くのウマ娘たちのあこがれの舞台であることを。そして、出走するだけでも凄い名誉であることだというのを。
 ただ──このダイユウサクの父親は、なまじ従姉にシンザンなんてとんでもないウマ娘がいたせいで、「有記念に出走するだけで栄誉」なんて感覚を持ち合わせていなかったのだ。

「ま、でも……私も気にはなるんだよ。中山に行って直に見る勇気はなくとも、ね」
「それは、そうですよ」
「娘さんのことなんですから、当たり前です」

 ダイユウサクの父親が自嘲気味に、そして寂しげに苦笑しながらいった言葉に、父親としての本心を感じ、若手社員たちもしんみりする。

「よし、じゃあみんなで、ダイユウサクを応援しようじゃないか!」
「おう、頑張れよ! ダイユウサク!!」

 若手社員たちが一気に盛り上がり──

「ウチの娘を呼び捨てにするとはどういう了見だ!!」
「ホントにめんどくさい人だな、この人!!」

 突然怒り出した酔っぱらいに困惑する若手社員達。
 そんな彼らの背後では──ゲートが開き、有記念が開始した映像が流れていた。



第79R 大決着!! これはビックリ──

 

『さぁ、逃げ宣言のツインターボが行くのか。やはりツインターボが出てきました』

 

「このレース、ターボが勝つ!!」

 

 ツインテールにした青い髪に、瞳の奥がグルグル、そして乱杭歯という個性的な見た目のウマ娘──ツインターボであった。

 

「先頭に立って、全力疾走でゴールまで誰にも抜かれないで駆け抜けたら、ターボが勝つ!!」

 

 ゆえに全力疾走。

 前しか見ないその走りで、彼女はレースを引っ張っていく。

 

「今のターボは1位。そして誰もターボには追いつけない! このまま全力で駆け抜ければ──勝利は確実!!」

 

 疾走し始めたツインターボのペースに、ダイタクヘリオスとプレクラスニーといった他のウマ娘達も負けじとついていく。

 そして、それを横目に良いスタートを切っていたメジロマックイーンは少し下がり、集団に飲まれていく。

 

 ──レースはまだまだ始まったばかりである。

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

『4番のダイタクヘリオス、さらにプレクラスニー。前が速くなりそうであります。そして、注目のメジロマックイーンは現在7番手。白い髪、マックイーンは現在7番手。まず、正面スタンド前にやってくる15名であります』

 

 ──負けられない。

 

 その思いが、出走しているウマ娘の中で一番強かったのは、絶対に私だと確信している。

 だからこそ先頭(ハナ)を切って逃げようとするウマ娘を、絶対に逃さぬとそのペースに私──プレクラスニーはくらいついていく。

 

(不名誉な勝ちなどどうでもいい。私が望むのは──自らのこの手で直接掴み取った栄冠だ!)

 

 最下位のウマ娘から6バ身離された優勝──という、それだけ聞いても状況がサッパリわからないが、それでも屈辱であることだけはハッキリわかる結果。

 そんな“屈辱の天皇賞制覇”と呼ばれた秋の天皇賞。

 本来の適正距離であるマイルを捨ててまで、私がこのレースに賭けた目的は──メジロマックイーンに勝って有記念を制することのみ。

 

(そうしなければ、私はその呪縛を逃れることはできない……)

 

 あのイメージを払拭しなければ、どのレースを勝とうとも「あの、マックイーンに6バ身離された──」という枕詞がつくのは目に見えている。

 

(では、どうすれば払拭できるか?)

 

 勝つしかない。あのメジロマックイーンに。

 今度は最終的な順位だけではなく、入線した順番でもだ。

 しかも私にとって天皇賞(秋)の次走となる、この有記念で勝利を見せつければ──

 

「あの“盾”にふさわしいウマ娘と誰もが認めることになる!」

 

 表彰台で聞いた陰口も、噤まざるを得ないだろう。

 後ろ指を指した者共を見返し、嘲り笑ってやる。

 

(だからこそ、私は研究した)

 

 どうすればメジロマックイーンに勝つことができるか。

 マイラーである自分がマックイーンに2500で勝つためにスタミナをつけるのは当然のことだが、その上でどのような戦術を練るか、も重要であった。

 ただ無策に走り、力でねじ伏せられるような相手ではないことは、それこそ秋の天皇賞で十二分に分かっている。

 

(アイツのレースは研究した。今までの全レースを、飽きるほどに見てやった)

 

 その結果──数少ないマックイーンの負けレースの中で、自分が採用できそうなものを見つけたのだ。

 それが──

 

(宝塚記念……ライアンがマックイーンに勝ったレース)

 

 そう──今まさに同じレースを走っているメジロライアンだ。

 あの時、メジロライアンはメジロマックイーンよりも前の位置につけていた。

 マックイーンは末脚も強い。

 末脚で劣るのなら、少なくとも終盤でマックイーンよりも前にいなければ話にならないのは明白だ。

 ライアンの考えはシンプルであり、分かりやすいものだが──

 

(私はマックイーンにスタミナで劣っているのは当然。末脚勝負になれば勝ち目はない。だからこそメジロマックイーンよりも終始前にいなければならないのだ)

 

 だから私は走る。

 ちょうどハイペースで逃げるウマ娘がいたからこそ、彼女を追いかける形にし、2番手で──

 

『12番、ツインターボがペースを作ります。そして天皇賞ウマ娘、プレクラスニーが2番手であります──』

 

 ツインターボの後ろを、独走を許さじとプレクラスニーが続き、さらにはダイタクヘリオス、オサイチジョージまで同じ位の間隔をあけて走り、5番手以降は集団といった状況。

 

 

 ──各ウマ娘は1週目のスタンド前を通過していった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そして集団は、直線から1コーナーへ差し掛かった。

 

『ダイタクヘリオス3番手。さらにオサイチジョージが4番手。その後方、カリブソングがいます。さらにフジヤマケンザン。

 その後方に──メジロマックイーン、ライアンと並んで行っている、メジロが二人並んで行っている。3番のヤマニングローバルが──』

 

 あたしは、マックイーンの横へ、自然とついていた。

 ケガからの休養明けで、普段通りとはいかず、調子はイマイチだけど……それでも彼女が心配だった。

 

「──マックイーンが変?」

 

 それを教えてくれたのは、先輩のアルダンさんだった。

 もちろん心当たりはある。あのレース──秋の天皇賞でのことが、マックイーンの歯車を狂わせたんだって。

 

「でも、あれは確かに……マックイーンも悪いよね」

 

 客観的に見られるからこそ、あたしも分かる。

 後から映像で見れば明らかだったけど、マックイーンからは見えなかったんだと思う。でも後続で走るウマ娘達がとんでもなく窮屈なことになってた。

 

(実際、ケガした()もいたわけだし……)

 

 後続を6バ身も離したんだから、なにをそんなに焦る必要があったのか、と思ってしまう。

 でも──

 

(マックイーンだって気負いもすれば焦りもするんだ。機械じゃないんだから)

 

 アレの原因は、まさにそういった(たぐい)のものだ。

 数年前にタマモクロス先輩が初めて達成した、天皇賞の春秋制覇──それを意識しすぎて気負ったんだと思う。

 そして、ステイヤーから見れば()()2000という距離は、展開をミスれば挽回できないという強迫観念を生んでしまい、あんなことになった。

 

「ライアン……私ではもう、あの()を支えることはできません」

 

 アルダンさんが寂しげに言う。

 秋の天皇賞以降、マックイーンが落ち込んでいるのを励まそうとしていたのは分かっていたけど、アルダンさんだって負傷を抱えていたのに……

 ジャパンカップの辺りから、マックイーンの側には妙な取り巻きが増えていた。

 あたしも怪我からの復帰に専念していたから気がつくのが遅れたんだけど……あのマックイーンを賛美するだけの集団は、本当に気持ちが悪かった。

 

(目を覚ましてよ、マックイーン……)

 

 本当のキミは、そんなヤツらにチヤホヤされて悦に入るようなウマ娘じゃないだろ!?

 自分に厳しく、ストイックで──それをおくびも出さずに平然とスゴいことをやってのけてきたウマ娘じゃないか。

 菊花賞の制覇だってその一つだ。あたしはクラシックの栄冠を何一つつかめなかったんだから。

 横目を向ければ、触れんばかりのところを走る彼女。

 

 だけどその距離は──果てしなく遠いように思えた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

『ナイスネイチャ、メジロマークでありましょう。その後方、プリンスシン。さらにメインキャスター。ポツンと最後方からいっているのがオースミシャダイであります』

 

 相変わらず逃げるターボ。

 そしてそれを追いかけるプレクラスニー。その後方にダイタクヘリオス、オサイチジョージという大勢は変わらない。そこへ葦毛の髪が目に入る。

 マックイーンか、と上位陣に緊張が走るが──違う。現在5番手の位置にいた2番のミュージックタイムだった。

 

『1コーナーから2コーナーであります。先頭は逃げ宣言、12番ツインターボ。そして天皇賞ウマ娘プレクラスニーが2番手。さらにダイタクヘリオスが3番手。オサイチジョージ4番手。2番のミュージックタイム5番手になります。その後方フジヤマケンザンがいます。アウトコースを通ってカリブソング』

 

 その後ろの集団の中に──今日の主役が冷静にレースを展開していた。

 メジロライアンと並んで道中を走る、メジロマックイーン。

 

 

(……まったく、ライアンも心配性なのですから)

 

 横を走るメジロライアンが、伺うように何度かちらちらとこちらを見ているのは、わたくしも気がついていましたわ。

 

(アルダンさんも、ライアンも、わたくしのことを心配してくださっているのは、よくわかります……)

 

 確かに──秋の天皇賞以降、わたくしの調子が狂ったのは認めますわ。

 ですが、私の速さに陰りがあったわけではありません。

 事実──秋の天皇賞では圧倒的な速さでゴール板を駆け抜けていたわけですし、あんなことがあって調子を落としていたジャパンカップでも、国内勢は誰一人としてわたくしに勝てていないではありませんか。

 まぁ、たしかに……海外勢には負けてしまいましたが、それもショックで調子を落としていただけのこと。

 

(調子がよければ、たとえ海外のウマ娘相手だろうと負けませんわ)

 

 それだけの実力が、わたくしにはある。

 その実力を──このレースで見せつけて差し上げますわ。

 

(勝つべくして勝つ……)

 

 このわたくし──メジロマックイーンが走れば、それは勝利が確約されたようなもの。

 今回のレースで圧倒的な力を見せつけてそれを証明いたします。

 そうすれば──ライアンやアルダンさんも、余計な心配をしていたことに気がつくことでしょう。

 

(──とはいえ、まだ仕掛けるには早すぎますわ)

 

『依然としてメジロが2名、メジロマックイーンとメジロライアン、並んで行っている』

 

 そして、その後ろには彼女をマークするように、また集団ができている。

 その中に強者の気配を感じながら、それでも自分の方が優れていると自負できるマックイーン。

 

 ──集団は3コーナーへと差し掛かっていく。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

『さらに3番のヤマニングローバルもいます。後方になりますがナイスネイチャもピタリとマークしている。ダイユウサクもいる。その後方になりますが、7番メインキャスターが、いえオースミシャダイが最後方であります。』

 

 実況が勘違いするほどに、オースミシャダイは完全に離されて、ポツンと走っていた。

 そして集団が3コーナーにかかると──先頭に変化が起こる。

 

『さぁ、3コーナーにかかる。ペースは依然として速いペースになっている。さぁツインターボがわずかに先頭。ツインターボがわずかに先頭。さぁ、プレクラスニーがスッとかわして先頭に立った。天皇賞ウマ娘プレクラスニー。さらにダイタクヘリオス、まだ頑張っている。オサイチジョージ──』

 

 ツインターボがついにバテて一気に下がっていく。その代わりにプレクラスニーが先頭に立ったのだ。

 そして──ダイタクヘリオスもその外、後方に付けている。

 

 

「うわ、ヤバたにえん。マジで……スタミナ切れんの早すぎじゃね?」

 

 先ほどまで先頭を走っていたウマ娘が3コーナーで、まるで燃料切れを起こしたように失速して、ずるずると下がっていく。

 それをかわしながら見たけど──もう完全に、バテてたじゃん、あの()

 

(騙された~。やっちゃったな、これは……)

 

 平気な顔でガンガン走っていくから、あのペースで最後まで走りきる──少なくとも最後の直線までは行くと思ってたのに、彼女は早々にスタミナ切れを起こして下がっていった。

 

(ヤバいくらいにハイペースだったってことでしょ? マズいっしょ……)

 

 あの青いツインテールのウマ娘──ツインターボの後ろを、プレクラスニーやオサイチジョージといった面々と走っていたのは……

 

「……ウチにだって負けられない理由が、ある」

 

 普段はテンション高く、アゲアゲなアタシだけど──今日の気分はちょっと違う。

 いつもよりもちょっとだけ──マジになっちゃってるんだよ!

 

「お嬢様のためにも……勝たないと」

 

 アタシがライバルと思っていたダイイチルビー。

 この一年、何度と無く顔を合わせた相手なんだけど……今、彼女は落ち込んでる。

 スプリンターズステークスをルビーが制したけど、それを競ったケイエスミラクルが途中で負傷して、再起不能になったのが原因。

 

(おまけに……アタシはスプリンターズステークスじゃなくてこっちに来ちゃったし)

 

 マイルチャンピオンシップ勝者であるアタシ。距離的には有記念じゃなくてスプリンターズステークスの方が近いんだからそっちをねらうのが順当だったんだけど……

 

(お嬢様がツレなくて……こっちを選んじゃったんだよね)

 

 どうにもアタシをライバル扱いしてくれない様子のダイイチルビー。ここは押してもだめなら引いてみろ……というわけであえて別のレースを選んでみたんだけど……結果的には大変なことになってるし。

 

(結果、お嬢様は不完全燃焼……しかも、相手は……)

 

 戻ってくることはない。

 ケイエスミラクルは、ダイイチルビーにとって二度と戦えぬ目標という唯一無二のものになっちゃったのよね。

 

(あの後……)

 

 こっそり、お嬢様──ダイイチルビーの様子をのぞき見たこともあった。

 が、明らかに落胆している。

 トレーニング中でもため息をつき、そのテンションの低さで彼女のトレーナーを困らせていた。

 

(だったら……ウチの実力を見せつけるしか、無いっしょ!)

 

 ケイエスミラクルの代わりに、自分がなればいい。ヘリオスがたどり着いた結論はそれだった。

 自身がダイイチルビーの気持ちを奮い立たせられるような相手になれば、あの“お嬢様”はきっとまた復活する。

 そうすれば今度こそ──自分をライバルとして見てくれるはず。

 そのために、有記念は絶好の機会だった。

 

(グランプリを制する。そうすればお嬢様も認めてくれるはず……)

 

 彼女の闘志を湧き立たせる相手となるべく──有記念を勝たなければならない。

 

 ──そのために、今日は勝たないといけないのに。

 

 

『さあ、ライアンも来ている。残り400メートルを切った。プレクラスニーが先頭だ。プレクラスニーが先頭だ。ダイタクが2番手、ダイタク2番手』

 

 しかし……限界はすぐそこまできていた。

 どうにか食らいついていくダイタクヘリオス。

 そんな彼女は左後方に、マックイーンが迫るのを感じていた──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そして──第4コーナー、ダイユウサクは集団の中にいた。

 それを貴賓室で見ているメジロアルダンが集めた同級生+α。

 その中で、レースを見ていたブラッキーエールがため息をついた。

 

「あ~あ、ありゃダメだ。ああなっちまったら……これだから──」

「お黙りなさいッ!!」

 

 突然の大声に、皆が驚いた。

 視線の中心──大声を発した主はツインテールのウマ娘、サンキョウセッツだった。

 

「あの方は……虚弱な体でこの学園に入学しながら、それでも挫けずにコツコツと地道に努力し、やっとあの場に立てた、私の…………ッ、あの方の努力を愚弄することは、たとえ何人(なんぴと)であろうとも、絶対に許しません!!」

 

 その剣幕に、ブラッキーエールも圧され、気まずそうな表情で黙り込む。

 

「セッツ……」

 

 彼女の従姉妹のシヨノロマンが、意外そうな驚いた顔をして──それからレースへと視線を戻した。

 相変わらず、ダイユウサクは集団の中。抜け出すことができていない。

 それを見て──ディクタストライカが舌打ちをした。

 

「ったく、オレたちの世代を背負って走ってんだろうが! 情けねえレースしてんじゃねえぞ!」

 

 そう言って苛立たしげに立ち上がった。

 見ていることしかできないというのを、もどかしく思う。引退してからは常にそう思っていた。

 だが、今日はその思いがひとしおだ。

 それは他のウマ娘達も同じだったらしく──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 集団の中で──アタシは今まで冷静にレースを進めていられた、と思う。

 

(今日のレースは、異常なまでのハイペース……)

 

 先頭をきった青い髪のウマ娘に続いて、有力ウマ娘のプレクラスニーが独走を許さずについていったのが大きい。

 さらにそれに数人がついて行った。こうなると逃げの一人や二人がとばしていったのと違い、全体のペースが上がっているのは間違いない。

 

(体力を、温存しないといけなかったけど、さすがにこのペースは……)

 

 ジリジリと体力を削られた。

 この集団から抜け出し、さらにはその前へいけるかどうか。

 レースは終盤、最後の直線へと出て──アタシは、気がついた。

 

「──コスモ?」

 

 かなり遠くだけど、彼女だとハッキリ分かった。

 そもそもアタシが彼女を間違えるはずがない。

 そして案の定──彼女は叫んでた。

 

「ユウゥゥゥゥ!!」

 

 大歓声の中に埋もれて聞こえるはずのないその声が、アタシの耳にはハッキリと聞こえ──コスモの気持ちが繋がった。

 

(コスモの声が聞こえた、その存在を……コスモをハッキリと感じる……)

 

 その時──コスモから引き継いだ(因子)が、アタシの中で目を覚ました。

 明らかに今まで感じたことがない、不思議な感覚に襲われる。

 

(なに? これ……)

 

 他のウマ娘たちと走っている中、張りつめた緊張の中──音が遠ざかり……心の声が聞こえてくるようだった。

 スタンドからの一番強いのはコスモドリームの声。

 そして──スタンドの上の方、貴賓室からは──

 

(その程度じゃないでしょう? わたくしの最大のライバルである貴方の力が!!)

 

 真っ先に聞こえてきた強い思い──彼女(サンキョウセッツ)の素直になれない気持ちが、やっとわかった。

 

(思い上がった後輩共の鼻っ柱、まとめて蹴り折りやがれ!)

(おい負け犬ウマ娘!! ここで負けたら許さねえからな!!)

 

 入学当初、実力が伴わないアタシに厳しい目を向けてきた、ディクタストライカとブラッキーエール。それで苦手意識をもって、ほとんど接点を持たないようにしていたんだけど……今はその厳しい叱咤が、アタシの体を奮い立たせてくれる!

 

(あきらめないで! そうすればきっと、花開きます!!)

(まさかあなたがここまで……本当に成長して。嬉しいわ)

 

 サクラチヨノオーとクリークの、さっきの二人とは対照的な優しい思いが伝わってくる。それがアタシの体を癒すかのように、さらなる気力が沸いてくる。

 

(あなたの努力に敬意を示します。見せてください、乾坤一擲の走りを──)

(ええ、ヤエノムテキさんの仰るとおり。そして……勝利を、ダイユウサクさん!!)

 

 ヤエノムテキと、シヨノロマンの心もしっかりと伝わってくる。

 そして── 

 

(私たちの世代の最後の力──見せてあげるっスよ、ダイユウサク)

(ただひたすらに──勝利へ!)

 

 バンブーメモリー。このレースに望む際、密かにアタシの腕に巻いた彼女からの鉢巻が、今は熱く感じられた。

 そして──アタシの、目標になっていたオグリキャップからのエールが……アタシの脚にさらなる力を与えてくれた。

 

 彼女たちが応援する力が、自分の力を少しずつ高めてくれる。

 さらには──遙か遠くからも思いが流れ込んでくるのを感じていた。

 

(オレ様はお前が勝つのを信じてるぜ。だから──)

(まぁ、どうでもいいけど……勝って──)

(共に走った者よ! お前もニュートリノのように速く──)

(勝利を射抜いてください!! 白羽の矢となって──)

(今こそ秘密兵器になって! 私の憧れる──)

 

 共に走った多くのレースで競った面々から──条件戦やオープン特別を戦い、有馬へと届かなかった彼女たちからのエールが、伝わってくる。

 そして──

 

(もう動かないボクの脚……もう叶わないボクの夢……それを、ダイユウ先輩!! お願いッ!!)

 

 この2年ですっかり聞き慣れた、その声は──ミラクルバード。

 彼女の願いが、未だ尽きぬ夢と情熱が、アタシへと流れ込んでくる。

 それを──

 

(この力を燃やすんだ、ユウ!! どこまでも、そう……究極にまで!!)

 

 もっとも近くに感じたコスモからの熱いメッセージに、アタシは心が熱く奮い立った。

 そして、そのやり方を──コスモから引き継いだ魂が知っている。

 集団の中に埋もれてかけていたダイユウサクの脚が──力が宿り、グンと加速した。

 

『内を通ってダイユウサクも出てきた。残り200を切った──』

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

『残り200を切った。プレクラスニー先頭──』

 

 後方で脚を貯めていたアタシ──ナイスネイチャは大外から一気にいく。

  

「はああぁぁぁぁ!!」

 

 チャンス到来……アタシはそう判断したのは少し前。

 先頭を走っていたツインターボが、すっかり目を回してバテバテ状態で下がっていっってたのは3コーナーのあたりだったっけ?

 チームメイトとしては複雑だけど──うん、アタシが彼女のバトンを受けて、きっと勝ってみせる。

 それに──ターボの走りは無駄じゃなかった。

 

「くぅ……」

 

 ターボを追いかけていたダイタクヘリオスもまた、明らかに限界を迎えてる。

 普段とは違う雰囲気だった彼女……珍しく思い詰めていたように見えたけど、そのせいでターボのオーバーペースを見抜け無かったみたいね。

 釣られた彼女も、すっかり体力を使い果たして、これ以上の力は出ない。

 

「でも、でも……よく保つわ、あのウマ娘(ひと)……」

 

 ターボの代わりに先頭に立って走るプレクラスニーを視界にとらえながら、アタシは思った。

 ハッキリ言って、このウマ娘(ひと)がこんなに、ここまで粘っているなんて完全に予想外だもの。

 

(得意距離は全然違うでしょ。この先輩。しかもターボがあんなにとばしたのに……)

 

 長い距離を得意にしていたなんて話は無いのに、しかもこんなハイペースのレースでもずっと2番手を維持してた。

 その彼女が放っているのは──ものすごい気迫。

 

(っていうかアレはそういうものを越えて、もう妄執とか怨念とか、そういう類のものよね……)

 

 先頭で走る彼女からは、気のせいか黒いオーラのようなものさえ見える。

 そしてその後ろには──

 

『白い髪のマックイーンは現在4番手、4番手までマックイーン来ている。4番手まで来ている』

 

 対照的に、白いオーラをまとっているようにさえ見える大本命の姿──メジロマックイーン

 外から必死にそれにくらいついていってるけど……

 

(正直、無理でしょ? コレを抜かすなんて)

 

 後方で脚を溜めていたアタシと違って前でレースしていたのに、なんでここでさらに加速できるのよ。

 まさに化け物。現役最強ステイヤーの名は伊達じゃないってわけよね

 

(こんなの、勝てるのはテイオーくらいしか……)

 

 アタシがよく知る、アタシと同学年のウマ娘。

 骨折した彼女の代わりに勝つって挑んだこのレースだけど──

 

(やっぱり、キラキラしてるウマ娘は違うわ……)

 

 このウマ娘には叶わない。

 そうよ。出走してる誰も、こんなキラキラしてるウマ娘に勝てるワケなんて無いわ。

 先頭だって体は限界。スタミナ切らして気力だけで走ってるのがわかる。

 粘るのもこれまで──アタシの前でメジロマックイーンがプレクラスニーに迫りかかる。

 

(クラスニー先輩にはたぶん届く。や~、2着か~、アタシにしては十分頑張れたじゃん──)

 

 ──なんて、思った矢先のこと。

 それはアタシのいる外ではなく、最内の方を通って一人のウマ娘がグングン加速していってるのが見えた。

 

「──え?」

 

 その速度──抜群の末脚の加速はあのマックイーンよりも速く、アタシは唖然とした。

 

(誰よ!? あのウマ娘──)

 

 その勝負服を見て、アタシがレース前にマークしていたウマ娘を思い浮かべてもぜんぜん引っかからなかった。

 そして横目で見た彼女の瞳を見て──分かった。

 

(このウマ娘(ひと)、諦めてないんだ。だから……)

 

 瞬間的に「2位でいい」と考えてしまったアタシ。それが彼女との決定的な差になった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

『マックイーンが来た。ヤマニングローバルも来ている! さぁ、マックイーン出てくるか。マックイーン3番手……』

 

「ここまでですわ!」

 

 わたくしは勝利を確信いたしました。

 目の前にいるのはこの長丁場をこのハイペースの中で前にいた、すでにバテている二人。

 そしてわたくし自身の調子はジャパンカップの時とは違います。

 ですから、普段通りに集中力を発揮して、この直線に入る前の最終コーナーですでに慣れた不思議な感覚──メジロ家の者が言うには“領域(ゾーン)”と呼ばれるもの──へと踏み入っていたのです。

 

(この感覚……)

 

 そこへ至った際の、身体の芯からたぎる躍動感。

 それにともなく沸き立つ気持ち。

 明らかに違う漲る力と、それが生む圧倒的な加速。

 自分の身体から溢れ出る力と気力が、オーラとなって立ち上るようにさえ感じてしまうのです。

 そんなわたしくに──勝てる者などいない。

 

(このまま、抜き去ります)

 

 まずは、ダイタクヘリオスさん──

 

「ッ!?」

 

 抜かすダイタクヘリオスさんをチラッと横目で見たとき、わたくしは背筋が凍りました。

 明らかに一杯一杯で、もう余力のないダイタクヘリオスさん。

 その向こうに──彼女を挟んだ反対側に……わたくし以上の速さで駆け上がっていくウマ娘の姿が見えたのです。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 第4コーナーから直線に入って──

 

 コスモを視界にとらえたアタシは彼女から、そして他のみんなの思いを受けて、力が漲るのを感じた。

 その感覚で思い出し、そして納得する

 

(この加速……そっか、これはコスモの、オークスの時の──)

 

 あのときコスモはアタシが知る実力以上の加速をしていた。

 その力の正体がこれだったんだ。

 

(ありがとう、コスモ。この力があれば、この加速なら──)

 

 そう思って視線を向け──アタシは、希望が一瞬で絶望に変わった。

 アタシがチラッと見たのはメジロマックイーン。

 これまでのこのレース……ツインターボを逃げさせつつも、その後ろについて独走を許さずにハイペースを作り出すという主導権を握っていたのはプレクラスニーだ。

 最後の直線で先頭に立っているその姿からもそれは明らか。

 でも──本当に主導権を握っているのは、プレクラスニーに「前に居続けなければならない」というプレッシャーをずっと与えていた彼女、メジロマックイーン。

 

(やっぱりマックイーンに勝てなければ、このレースは勝てない! なのに──)

 

『白い髪のマックイーンは現在4番手、4番手までマックイーン来ている。4番手まで来ている』

 

 圧倒的な加速で前を追い上げるマックイーンの姿からは、まるで白いオーラが立ちのぼっているかのようだった。

 コスモの力では──彼女の背は見えても、さらに一歩先へと踏み入れている彼女はさらに高みにいた。

 

(ここまでしても──勝てないの? マックイーンに)

 

 自分の限界を超えるような力を脚に感じているのに、それでもマックイーンには届かない。

 でも、その時──

 

(自身の栄光のために、そしてマックイーン自身のためにも、勝ってください!)

 

 さっきと同じような心の声──それもメジロアルダンの声が、そのイメージと共に聞こえた。

 

(最初に見て私が感じたその適性、私が見込んだ末脚で──)

 

 あのときの光景──クスクスと上品に笑うアルダンの顔がハッキリと浮かんだ。

 マックイーンの速さに挫けそうになったダイユウサクは──顔をあげる。

 

「アタシも……勝ちたい。自分のために、みんなのために、そして──」

 

 遠くに見えた観客席の最前列でこっちを見ている、彼の姿。

 その人と歩んできた道を無駄ではないことを──

 その人の教えることが、間違いではないことを──

 その人が優れたトレーナーであることを証明するために──

 その人に勝利を見せ、共に喜びを分かち合うために──

 

「アタシは……勝たなきゃいけない。この、現役最強のウマ娘に──」

 

 ピシリ──と空間にヒビが入る感覚に襲われた。

 以前に踏み込みかけたことがある領域──あれはコスモに絶対に負けたくないという強い対抗心から、彼女に導かれるように踏み入れた感覚だった。

 

「──そのために自分の、アタシの限界を……超えなくちゃいけないのよ!!」

 

 今日のアタシは他の人からの想いを力に変えている。

 ええ、そうよ。他力本願なのは癪だけど、本来の力を大きく上回ったから力を宿していたからこそ──その“領域”へと至った。

 

「カアアアァァァァァァァッ!!」

 

 叫ぶ。

 圧倒的な力がオーラのようにさえ見えるマックイーン。

 アタシが発揮したその“力”が彼女のオーラを取り込むように──アタシの体へと流れてくるのが感じられた。

 そして、マックイーンと同じように……アタシの体も白いオーラを放ち──脚に圧倒的な力を感じた。

 

(これなら──)

 

 ただでさえ自分の限界を超えた力を感じていた脚に、さらなる力が宿る。

 まるで、アヒルの子と思いこんでいた雛鳥が、周囲の姿を見て本来の自分の姿が白鳥であるのに気がつくかのように。

 負けたくないと意識した者の力を模倣吸収し、自分のものとして使う──まさに上位喰い(ジャイアントキリング)のための力

 それを発揮したアタシは──誰にも負けない“領域”で、一気に加速した。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 後ろから迫る圧倒的な気配を感じながらも、それへの対抗心一つで疲れ果てた身体を強引に動かし、未だ先頭のプレクラスニー。

 そんなプレクラスニーのタフさに舌を巻きながら、それでも憧れのライバルのために負けられないダイタクヘリオス。

 

「クッ……」

 

 二人の限界はもう明らかだった。

 弱った獲物にくらいつく肉食動物のように、襲いかかるマックイーン。

 左から迫るそれにヘリオスが意識を向けたとき──反対からそれ以上の速さでくる者がいた。

 

 「「なっ!?」」

 

 レースを走っていた誰もが驚いた。

 マックイーンよりも、さらに速い速度で上がっていくそのウマ娘。

 いったい、誰だ?

 その赤と黒と黄のオフショルダードレスの勝負服のウマ娘の名を──誰も思い出せなかった。

 そして──実況もそれに気づく。

 

『ダイユウサク、赤い勝負服が伸びてきた。マックイーン──』

 

 その赤い勝負服のウマ娘は、さらに加速して一気にプレクラスニーさえも抜き去る。

 最内を走っていた彼女は、後ろからの気配に気がついていた。

 しかし、もうこれ以上加速することはできないと分かっている。

 

(チクショウ!! またアイツに、負けるのかよ!! これじゃあ真の秋の天皇賞ウマ娘はアイツだって──)

 

 ──言われちまう。そう思いながら自分を抜かすその影を見て……

 

「バカな……葦毛じゃ、マックイーンじゃないだと!?」

 

 焦るプレクラスニー。

 自分を追い抜いたのがマックイーンでさえないことに、驚愕していた。

 後ろから抜いていった気配や気迫、そして速度は天皇賞で感じたそれと同じに思えた。

 だが──目の前で揺れているのは栗毛の髪。

 そして思う。「誰だ、アイツ!?」と──

 

『ダイユウサクだ! ダイユウサクだ!』

 

 ゴール板は。もう目の前だった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

「んなッ!? なぜ、わたくしが……わたくしが追いつけないなんて!?」

 

 “領域”へと至ることができる自分に勝てるものなどいないはずですわ。

 そして今日もそこへ踏み込んだ以上は、絶対に負けないはずなのに──まったく意識していなかった相手に、追いつくことができないのです。

 焦る気持ち。

 だが、どんなに手足を動かしても──彼女の加速はそれを上回っていました。

 

(誰? いったい……この服、たしか8番の……ダイ、ユウサク!? え? その姿──)

 

 まるで自分と同じように、オーラを放つその姿。

 いや、むしろ──

 

(力を吸われ、模倣されていますの!? この感覚──以前にも……)

 

 背筋に冷たいものが流れました。

 それは──そう、あのとき……メジロアルダンの高松宮杯を応援しにいったときのこと。

 あのときも同じように感じて慌てて振り返り、そのときに見たのは──

 

「コスモドリームさんではなく、この方だった、というのですか……?」

 

 あのときの背筋に氷を押しつけられたような、イヤな感覚は未だに残っています。

 条件戦を走っていたような、明らかにアルダンさんやコスモドリームさんよりも格下だったウマ娘に……その(因子)に畏れを感じていたというのですか。

 

(まるで、わたくしの魂が、この結果が分かっていたような──だから、あのとき警告していたというのに……)

 

 自分を越える速度で加速しているのですから、追いつけるはずもない。

 彼女の背にわたくしは届かず、そして目の前でゴール板を駆け抜け──

 

 

 

『──これはビックリ、ダイユウサクーッ!!』

 

 

 

 デビュー2戦をタイムオーバーから始まったウマ娘は、ついにGⅠ最高峰の頂上決戦(グランプリ)、有記念を制したのだった。

 そしてその結果は──30年以上経ってレベルが上がった世に於いても、恥ずかしくない立派な記録を残していた。

 

『勝ち時計が2分30秒6……レコードタイムです。芝2500のレコードタイムです──』

 




◆解説◆
【大決着!! これはビックリ──】
・元ネタは……説明不要ですね。
・これはこのゴールを描く以上、これ以外考えられませんでした。
・このフレーズが出る実況はフジテレビ版で、本話の実況はすべてそこから取っています。
・……他の実況の方が説明が多くてそっちの方が書きやすそうだった、というのはご愛敬。
・なお、フジテレビの中継で実況を担当していたのは、堺正幸アナ。
・そう──なんとこの「これはビックリ~」の名実況は、「サンキョウセッツだッ!」と同じ人でした。(笑)
・こんなところもなんかコスモドリームと縁があるんですよねぇ。

忘年会
・コロナ渦の昨今、去年から開催されないところも多いようで。
・まぁ、強制参加だったりしてアルハラの温床にもなっていましたから、リモートワークも浸透してきていますし、それをきっかけにさらに減っていきそうですけどね。
・行きたくもない宴会には参加したくないですからねぇ。

ツインターボ
・実装済みのウマ娘。
・2021年12月22日現在では、サポートカードは実装されているものの、育成は未実装。はやくそちらも実装して欲しいですね。
・そしてモデル馬は、もはやカルト的人気を誇った全力で逃げる逃げ馬。途中でスタミナ切れして失速するか、そのまま逃げ切って勝つかの2択、のような馬でした。
・1988年生まれでトウカイテイオーやナイスネイチャの同期です。
・1991年、クラシックイヤーの3月にデビューしてクラシックレースにこそ出走していませんが、有馬記念まで7戦して3勝、2着2回で掲示板外は1度しかなかったという、普通にいい成績を残してます。
・重賞もGⅢ1勝2着1回、GⅡ2着1回と、有馬記念に出走できたのも納得。(まぁ、GⅢとオープン特別1勝しかしてないのが出走してますから)
・この有馬記念の後、1992年は体調を崩してほぼ走れず11月の福島でオープン特別で復帰してたものの10着。
・1993年の七夕賞、オールカマーとGⅢを連勝したものの、天皇賞(秋)は途中で失速して最下位という、「1位かビリか」という後年でのイメージを強く印象付けました。
・そのごは1995年から、今はなくなってしまった地方競馬場、山形県の上山(かみのやま)競馬場に移籍して1996年の8月まで走りました。
・後年、その走りを「悲壮感なき玉砕。こんな馬、他に誰がいるか。いない。ツインターボだけだ」と評されるほど、愛された競走馬となりました。

不思議な感覚
・これは、コスモドリームが持っていた固有スキルを継承したことによるものです。
・彼女の固有スキルは『絆を感じた周囲からの応援を自分の力へと変える』ものです。
・本来であればゲーム版のように、継承した固有スキルは弱体化するのですが、「思いを繋ぐ」特性と、そのコスモドリーム自身がすぐ近くにいたからこそ強く発揮されました。
・とはいえ、あれだけの声援を受けてもコスモドリーム本人が同じだけの応援を受けたものには及ばず、強く発揮されたのはむしろ、応援を受け止める範囲の方で、この場にいない人達からの思いを繋がっているコスモの力を借りて受け取っていました。

完全に予想外
・この時のプレクラスニーの粘りは、それまで走ってた距離とかツインターボが作り出したハイペースを考慮すれば、本当に異常なレベルです。
・結果こそ4着でしたが、ゴール前まで先頭にいたその気力は本当にすごいものでした。
・競走馬ですからそこまで理解していたとは考えづらいですが、まさに“あの天皇賞を見返す”ための執念のようなものさえ感じてしまいます。

まさに上位喰い(ジャイアントキリング)のための力
・これが、本作のダイユウサクの固有スキル『The Amazing Ugly Duckling』です。
・効果は「個人に対し負けたくないという一念で過剰集中に入り、その対象相手の能力を模倣、吸収して自分のものにする」という、コスモドリーム同様にゲームでは再現不可能なもの。
・実は──当初の案では一度吸収した能力は残っていて使える、という設定でコスモの能力を高松宮記念で吸収していたから、彼女の固有スキルを使えた……という予定だったのですが、“因子継承”を思い出して、そちらでコスモの力を使えるように予定変更しました。
・なお、この能力──もちろん代償はあります。体にかなりの負担がかかることです。
・また、本来はダイユウサクはこれを完全に使う“領域”に踏み込む実力はなく、発揮できないはずでした。
・しかしコスモドリームの固有スキルで“自分の実力以上の力を発揮”できたことによって、その“領域”に踏み入ることができています。
・つまりは、“自分の限界以上の力で、さらに同等の力を吸収して上乗せ”しているわけで……その負担はかなりのものです。

2分30秒6
・1991年の有馬記念でダイユウサクが出した記録。
・有馬記念のレコードとしてはる1989年のイナリワンが記録した2分31秒7を1.1秒更新したもので、当時の芝2500のレコードタイムでした。
・その後、2004年の有馬記念でシンボリクリスエスに、0.1秒破られるまでの12年間、有馬記念だけでなく、中山競馬場2500メートルのコ-スレコードとして君臨し続けました。
・この時計は、2020年開催の第64回まで見ても、上から5番目という大記録でした。


※次回の更新は12月25日の予定です。  

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