見えぬ輝きの最南星《アクルックス》   作:ヤットキ 夕一

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第3R チームに舞い降りた凡才

 ──4月。

 

 その日、私──オラシオンやダイユウサク先輩、ミラクルバード先輩……チームメンバーは皆、集合をかけられました。

 チームの部屋へ行く途中で合流した渡海さんに、私は首を傾げながら尋ねました。

 

「今日はいったい、どういう用件でしょうか……」

「わざわざ招集かけなくても、大体はあの部屋に集まってるからね」

 

 そう言って彼は苦笑を浮かべます。

 

「学年も改まったし、改めて今年の目標をハッキリさせるんじゃないかな? それに……」

 

 そこまで言って、渡海さんは言いにくそうに口ごもります。

 現在の〈アクルックス〉所属の競走ウマ娘は、私とダイユウサク先輩。

 

(……この前、ほんの少しだけの期間、所属していた方もいたのですが、他に移籍していってしまいましたし)

 

 そんな私の目標は分かりやすいものです。ついに高等部に上がったので、夏以降のデビューと勝利以外に考えられません。

 そして順当に勝ちを納めていれば、晩秋にあるジュニアのGⅠへの挑戦といったところでしょう。

 ともあれ、今はデビューに向けてひたすらトレーニングに励むしかありません。

 問題は……

 

この前の大阪杯、よくなかったからね……」

「先輩のこと、ですよね」

 

 昨年末のグランプリを制したダイユウサク先輩は休養に入り、3月の大阪杯で復帰したのですが……結果は良くありませんでした。

 レースを制したトウカイテイオーさんと競うどころか、いいところなく終わってしまいました。

 

『ま、休養明けでアイツが走らないのは、よくあることだから……』

 

 と、私たちやマスコミに答えていた乾井トレーナー。

 とはいえ、1年近くも彼の下で過ごしてきた私たちには、先輩になにか異変があった、ということには気がついていました。

 

「その辺りの説明、だと思うんだけど」

「深刻な怪我、のようなものでなければいいんですけど……」

 

 ダイユウサク先輩は、かなり遅咲きのウマ娘です。

 その同期でもっとも有名なのはやはり国民的アイドルウマ娘、オグリキャップさんでしょう。

 そのオグリキャップさんをはじめ、同級生達は続々と一戦を退いてしまっています。もしもこのタイミングで負傷なんてことになれば──そのまま引退、なんてことも充分にあり得る話だと思います。

 

「まぁ、急な召集だったし、そういうことじゃないと思うけどね」

 

 渡海さんは誤魔化すように苦笑を浮かべてそう言い──私たちはチーム部屋へと向かいました。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そうして、チーム部屋へたどり着いた私と渡海さん。

 部屋にはすでにミラクルバードさんとダイユウサクさんの二人もきていました。

 

「オッス、オーちゃん!」

「…………」

 

 ミラクルバード先輩は気軽な感じで片手を挙げ──

 ダイユウサク先輩はチラッと私と渡海さんを見て、なにか言いたげな様子を見せながら、フイと視線を逸らしました。

 

(遅い、と怒られるかと思いましたが……)

 

 先輩に怒られなかったことにホッとしながら、私はお二人に今日の召集の用向きを訊いたのですが……お二人とも、「わからない」とのことでした。

 そうして、待つことしばらく……チーム部屋のドアが開き、チーム〈アクルックス〉のトレーナー、乾井 備丈(まさたけ)さんが入ってきました。

 でも、その傍らには──ウマ娘が一人いたのです。

 

「げッ、オラシオン……」

 

 肩付近まで伸ばした、ウェーブのかかった髪。

 垂れ目がちなれど厳しさを感じる目。

 そんな特徴の彼女は──私を見るなり、ちょっとイヤそうな反応をしました。

 

(えっと、彼女は……)

 

 ただ、私の方は彼女の顔を覚えてはいませんでした。

 

「……大丈夫か?」

「え? あ、はい。大丈夫ッス、すんません……」

 

 それをトレーナーに見咎められたのですが、彼女はあわてて彼に頭下げます。

 そんなやりとりを見て──ダイユウサク先輩の耳がピクっと動くのが見えました。

 

(あれは、不機嫌さを示すサイン……)

 

 人見知りで、あまり感情を表さない、と言われているダイユウサク先輩ですけど、トレーナーさんが絡むとそうでもありません。さすがに一年近く同じチームにいれば、その辺りもわかるようになるというものです。

 それを知ってか知らずか──トレーナーさんは私たちの方へと向き直りました。

 

「あ~、皆揃ってるな。今日は、新メンバーを紹介する」

「……え? また?」

 

 思わず、といった様子でそうこぼしたのは、ミラクルバード先輩。

 そういうのも無理はありません。つい先日、ちょっと変わった性格の方がチームに入るということでやってきたのですが──結果的にはうちのチームには合わないということで、他のチームへと去っていきましたから。

 その騒動も冷めやらぬタイミングで、また新しい方が来たとなれば、警戒するのも無理はありません。

 

「今回は、理事長から言われたとかそういうんじゃないぞ。純粋に、うちのチームに入りたいって来てくれたヤツだ」

「……ずいぶんと物好きなのもいたものね」

 

 そういって鼻を鳴らすダイユウサク先輩に、トレーナーさんは思わず苦笑を浮かべています。

 

「そう言うな、ダイユウサク。お前の有記念を見て、憧れて入ってきたんだぞ?」

「はい! そうっス。よろしくお願いしゃーす」

 

 慌てたように、トレーナーと一緒に入ってきたウマ娘が頭を下げます。

 そう言われては、ダイユウサク先輩も満更ではないようで……「ふ~ん」と言いながら値踏みするように彼女を見ます。

 

ロンマンガンって言うッス。ダイユウ(ねえ)さんの有制覇に憧れて、チームに来ました!」

(ねえ)さん!?」

 

 値踏みしていたはずのダイユウサク先輩が、驚いて思わず立ち上がる。

 

「ええ。あっし……いや自分、GⅠやら重賞をバンバン制するほどの才能が無いことは、よくわかってるッス。でも……それでもやっぱり、憧れるんですよね。だから……」

「GⅠ制覇なんてするわけないアタシのグランプリ制覇を見て、うちに来たってわけ?」

「はい!」

 

 ロンマンガンというウマ娘の、元気のいい返事が部屋に響いた。

 さすがにそれにはダイユウサク先輩のこめかみに青筋が密かに立ちましたし、ミラクルバードさんは笑いを堪えているのが見えました。

 

「だってダイユウ姐さん、オグリ先輩やマックイーン先輩みたいな感じじゃないッスよね。どっちかと言えば、あっしと同じ立ち位置のウマ娘で」

「それは……」

 

 口ごもるダイユウサク先輩。

 多くの条件戦を勝ち抜いて、苦労してオープンクラスになっているのは、御自身のことですから身に染みていたことでしょう。

 同期でも、オグリキャップ先輩はもちろんのこと、他にもメジロアルダンさんやヤエノムテキさん、スーパークリークさんといった先輩方とダイユウサク先輩の歩んだ道はあまりにも違っていました。

 

「誰も勝つと思っていないのを、勝って驚かせてやりたい。あっし……ロンマンガンというウマ娘の存在を、世の中に見せつけたいと思うんッスよ」

 

 そう言ってロンマンガンさんは──私をチラッと見ました。

 

「だから、正直……オラシオン、アンタがいたのは驚いた。ホント、予想外だわ。もっと大手の有名チームにいったもんだと思い込んでた」

 

 ロンマンガンは苦笑を浮かべ、私に頭を下げました。

 そう言われましても、私もこのチームに所属してすでに一年近く経っていたんですけど……と、戸惑ってしまいます。

 とはいえ、レースに出走しているわけではありませんから、私の所属チームなんて知らない人は知らないのでしょうね。

 その“知らなかった”ロンマンガンさんは謝罪しました。

 

「さっきはゴメン。こんな考え方だから、同じチームに同い年の有力ウマ娘がいるのは、やっぱりちょっとやりづらいって思っちゃって……」

 

 彼女は「アンタの方が先に入ってたのに、ホント、ゴメン」ともう一度、顔の前に手を立ててすまなそうな表情を浮かべながら謝ってくれました。

 確かに「げッ」と言われたのは、正直言って気分の良いものではありませんでしたが、私を嫌ってのことではないと分かれば、悪感情を引きずることもありませんから。

 

「お気になさらずに。これからよろしくお願いしますね」

「ヨロシク。ま、同じレースで走ることになったら、お手柔らかに……」

「ええ、是非ワンツーフィニッシュをしましょう」

 

 私が笑顔で答えると、彼女は「うへぇ」と苦い顔をしました。

 

「……そういうわけで、これからはウチの競走メンバーは3人ってことになるから、ミラクルバードも、渡海も、しっかり頼むぞ」

「うん、任せて」「わかりました」

 

 ミラクルバード先輩と渡海さんがそれぞれ頷いて──〈アクルックス〉は新たなメンバーを迎えることになりました。

 私としては同学年のメンバーが増えたことが嬉しかったのですが……

 




◆解説◆

【チームに舞い降りた凡才】
・さすがに「馬の祈り」から取るのは無理があるので、別からも取りますよ? ということで。
・さすがに何十話もはそこからタイトルとれませんからね。
・もちろん今回から正式に登場するウマ娘のことです。
・なお元ネタはあるのですが……各ウマ娘の主役回によって法則が変わりますので、その法則に則って採用しています。
・そんな元ネタはアニメ『闘牌伝説アカギ』の第1話「闇に舞い降りた天才」から。

この前の大阪杯
・ダイユウサクが出走した92年の産経大阪杯(GⅡ)の開催は4月5日。
・今回の話はそのすぐ後のことですので、学園的に言えば新学年が始まった直後のことになります。
・なおオラシオンは高等部に進学し、渡海は2年に進級しています。
・前章でも触れましたが、大阪杯のダイユウサクの結果は6位。トウカイテイオーに完敗しています。

ロンマンガン
・間章2のラストでチームに入ったウマ娘。
・つまり、ここで間章2にまでやっと追いつきました。
・元ネタになった架空の競走馬については間章2 ─3─の解説をご覧ください。
・さて、その際にはあまり触れなかった本作でのロンマンガンについての解説を。
・年齢的にはオラシオンと同じ、という設定になりました。
・本来ならロンマンガンの同世代というと──ヤシロハイネスやセンコーラリアット(ダービー馬)。本作で登場したウマ娘となると、アルデバラン(皐月賞馬)とかストライクイーグル(菊花賞馬)になります。
・しかしアルデバラン、もう出ちゃってるんですよね、これが。(笑)
・ストライクイーグルも顔見せしてるし、ダイユウサクよりも上の世代として出してしまっているので、今さら同じ世代にできないんですよね。
・そういう事情で、オラシオンの同級生という立場になりました。原作での成績もオラシオンの邪魔をしませんし。
・──というのも、第二章をどう盛り上げていこうかと考えたときに、同級生の存在が不可欠だったので、そうしたという経緯はあります。
・外見の、“肩付近まで伸ばしたウェーブのかかった髪”というのはアニメとかでよくある脇役キャラ(オーバーロードのブリタとか)なので採用しました。
・……私が好きな髪型だというのもありますが。(笑)


※次回の更新は2月20日の予定です。  

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