大湊警備府室蘭分遣隊のべつまくなし忙しなし!   作:旧姓かわかみ

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第4回「はじめてのゲームセンターと天ぷらおそば」

「う~~ん」

 終業後、基地の食堂であたしは一人悩んでいた。重大で、深刻で、そして大切な問題に直面している。

 だから誰かに相談しようかと思って食堂に来てみたのだけど、土曜日の基地は普段に比べて出勤している人が少ないせいかまだ誰も来ていない。終業後に夕食をここで食べていくという隊員も多いので、誰かはいるだろうと踏んでいたのだけど。だったら寮の談話室の方がよかったかなあ。

「どうしよっかな~~もっちーもイムヤもお休みじゃないっぽいし……」

 そう、何を隠そう明日は休日なのだけど、なーんの予定も決まっていないっぽい。日頃の疲れを癒すべくごろごろして過ごすのも悪くない。でも幸か不幸か最近は長時間の出撃もなく、むしろ体力は有り余っているくらいなので、どちらかといえば遊びに出かけたい気持ちが強いのよね。

 もっちーとイムヤのどっちかがお休みだったら、一緒にゲームセンターに行こうかなって思ったんだけどなあ。

「うーん、ひとりで遊ぶっていうのがこんなに悩ましいとは思わなかったっぽい……あ!」

「夕立さん……? あの、お疲れ様です」

 そこには海防艦の松輪が、トレーを持って立っていた。

 松輪は先月、同じ海防艦の対馬と一緒に佐世保鎮守府から異動してきたばかり。室蘭の海防艦はその二人だけで、よく一緒にいるのを見かける。

「お疲れさまっぽい! 松輪もここでごはん?」

「はい……」

「そうなの、一緒に食べましょ! 今日は対馬は一緒じゃないっぽい?」

「そうなんです。対馬ちゃん、まだ部隊の会議が終わらないみたいで、先に行っててって」

 目の前の席に松輪が座り、二人で手を合わせてから夕飯を食べ始めた。

 あたしと松輪、対馬は佐世保で一緒に働いていた時期もあるので、室蘭に来る前から互いに面識はある。とはいっても、部隊は別だったし佐世保は人数も多かったので、本当に顔見知り程度だけどね。せっかくまた一緒になったのだから、仲良くなりたいな。

「ねえねえ、相談があるの。松輪はお休みの日ってどうやって過ごしてるっぽい?」

「休日……ですか。ええと、おうちのことをやったり、後はお勉強してることが多いです」

「お勉強! 松輪はえらいのね」

「そんなことないんです……休みの日に勉強しないとついていけなくって」

「松輪はいま高校課程っぽい?」

「はい、佐世保のときに中学課程を修了して、今高校一年度なんですけど、高校になったら授業が難しくって……」

 まるで苦いものを口に入れた時のような顔をしながら、松輪が言う。

 高校卒業前に艦娘になった人のために、各鎮守府には高校課程、ところによっては中学課程が設置されている。義務教育ではないとはいえ、高校まできちんと修了しておくことを強く推奨しているらしく、あたしも佐世保にいたときに高校課程を一応修了している。ほとんど最後はお情けで受からせてもらったところはあるけれどね。

「そうなの。でも夕立でも修了できたから真面目な松輪ならきっと大丈夫っぽい! ……あれ、でもここに高校課程あったかしら?」

「それが、設置されてなくて、室蘭東高校の定時制コースに入れてもらってるんです」

「へーえ! そりゃ確かに大変っぽい」

「あの……夕立さんは、休みの日は何をされてるんですか?」

「夕立はねー、もっちーとかイムヤとゲームしてることが多いっぽい。部屋でしたり、一緒にゲームセンター行ったりするよ」

「ゲーム……ですか」

「ぽい! やりすぎて時雨からはたまに怒られるっぽい。『夕立、ゲームのやりすぎはよくないよ』ってね……どしたの?」

 松輪が右手にお箸を持ったまま、豆鉄砲を食らったような顔をしている。こんな表情を見るのは初めてっぽい。

「あ、いえ、時雨さんにすごく似ていたので驚いてしまって……」

「白露と村雨もできるよ! えっとね……んん、『いっちばーん!』が白露でしょ、それから……『村雨の、ちょっといいとこ、見せたげる』とかね!」

「す、すごい……!」

 この物真似、最初の頃はいろんな人から称賛されてたんだけど、白露や時雨たちも同じことができることが分かると物珍しくなくなっちゃったみたいで、最近は披露することもなかった。こんなに感心してもらえたのも久しぶりだなあ。あ、ゆらの真似もできるのよ!

「松輪はゲームとかやるっぽい? でもあんまりやってるイメージないっぽい」

「わたし、やったことないんです……」

「そうなの……そうだ! 松輪って明日お休みっぽい?」

「は、はい、明日はお休みをいただいています」

「ね、よかったら遊びにいかない? ゲームセンター!」

「えっ、そんな、わたしなんか……」

 つい勢いで誘っちゃったけど、普段休みの日は勉強してるって言ってたっけ。無理強いするのはよくないっぽい。

「あっ、予定決まってるんだったら無理に合わせなくていいっぽい。もしよければってだけだから気にしないでね」

「松輪ちゃん、行ってきたら?」

「あ、対馬ちゃん……」

 いつの間にか対馬が夕飯のトレーを持って後ろに立っていた。夕立の背中を取るなんて、なかなかやるわね。

「対馬! お疲れさまっぽい!」

「夕立さん、お疲れさまです。こちら、座ってもいいですか?」

「もっちろん! 対馬は……明日はお休みじゃないっぽいよね」

「そうなんです……だから、松輪ちゃん、行っておいでよ。たまには休みの日に、お外に遊びにでかけないと、魅力的な大人になれないよ」

 な、なんか対馬が言うと説得力がすごいっぽい。この子の不思議な色気というか、オトナな感じは一体どこから出てくるのだろう。あたしよりもよっぽど落ち着いているんじゃないかしら。

「はう、それは、えっと……ゆ、夕立さん、ご一緒してもいいですか?」

「やったあ! 何時くらいにしよっか? 朝から行って遅めのお昼食べて帰ってくるか、お昼食べて午後遊ぶか、どっちがいいかな」

「そうですね、じゃあ朝からでお願いします」

「わかったっぽい! じゃあ10時くらいに寮の前で待ち合わせましょ!」

「は、はい! よろしくお願いします」

 懸案事項も無事解決、しかもずっと仲良くしたかった松輪と遊ぶ約束ができた。嬉しいな。このあと二人とおしゃべりしながら晩ごはんを食べて、一緒に寮に帰ってきた。

 

 室蘭基地の隊員寮は去年できたばっかりなので、佐世保よりも遥かにきれいで過ごしやすい。一階はすべて駐車場になっていて、二階に玄関がある。隊員は各自の下足箱でスリッパに履き替え、それぞれの部屋へと帰っていくことになる。

 玄関入ってすぐのロビーでは蒼龍と満潮と、広報の石塚さんがソファでおしゃべりをしていた。なんだか見たことない組み合わせっぽい。そうそう、当たり前だけど隊員寮なので艦娘だけじゃなくて一般隊員、それから一部の事務官さんたちもここで暮らしている。緊急時に備えてか、部屋割りは職種で分かれているけどね。

 松輪と対馬は二階の同室、あたしは三階で時雨と一緒の部屋だ。階段で二人と分かれて自分の部屋に帰ってきた。

「ただいまっぽ~い!」

 自室のドアを開けると、デスクでノートパソコンに向かっている時雨の姿が目に入った。

「おかえり、夕立。なんか嬉しそうだね、どうしたの?」

「ふっふ~ん、明日松輪と遊びに行くことになったっぽい!」

「へえ、松輪と!? 意外な組み合わせだね」

 時雨も驚いている。そりゃそうよね。あたしだって思ってもみなかったことだもの。

「さっき食堂で松輪と会ったの。初めてだから楽しみ~」

「じゃあ、明日は寝坊しないようにしないとね」

 うっ、そういえば今朝は起きる時間がギリギリになってしまって、時雨に起こしてもらったんだった。でも休みの日は寝坊なんてしないもん。

「ぽい! 時雨は今日なにしてたの?」

「実は、ばったり英子に会ってね、測量山とか地球岬とか、観光名所的なところをまわってきたんだ……あ、食べる?」

 そう言うと時雨はりんごの入ったタッパーを差し出してきたので、一切れいただくことにした。

 英子っていうのはうちの基地にいる事務官で、何でも屋さんっぽいことをしている。最初はお堅いのかなって思ったら、喋ってみれば結構おかしな人で、この人に「ぽいちゃん」なんてあだ名をつけられて以来、鈴谷や夕張さんにも同じように呼ばれるようになってしまった。時雨のパソコンにはその英子と一緒に撮った写真が映っている。

「食べる~。あっ、二人で写真撮ってるっぽい! いいなあ」

「明日松輪とたくさん撮っておいでよ」

「うん!」

 りんごを二人で平らげて、お風呂に入って、もっちーとイムヤの部屋で遊んで、消灯前に自分の部屋に戻ってきた。寝る前にちょっと時雨とおしゃべりして、この日はこれでおしまい。

 

 翌日も空模様はごきげんだった。屋内で遊ぶから雨でも良いっちゃいいんだけど、休みの日は晴れてくれたほうがなんとなく嬉しいっぽい。おうちのことを済ませて、待ち合わせのちょっと前に松輪にメッセージを送った。

「えっ、松輪もう待ってるの? 早いっぽい~!」

 あわてて出かける支度をして、部屋を出る。寮の入口にはすでに松輪が立っていた。彼女に声をかけてから一階の駐車場へと向かい、車を入り口に寄せる。ピンクのブラウスに、髪の毛と色の揃ったスカートという出で立ちの松輪を助手席に案内した。

「あの……お邪魔します」

「松輪の私服初めて見るっぽい!かわいいね!」

「そ、そんなことないです……」

 真っ赤になって余計にかわいいっぽい。あたしはというと機能性重視で、シャツの上にジャンパーを羽織って下はジーンズと、松輪に比べてだいぶラフな格好をしている。

 昨日ほどではないけど天気はいいし、ちょっと窓を開けて車を発進させた。

「そういえば、松輪の通ってる高校って、どこにあるの?」

「えっと、東町? の方にあります。基地から高校の目の前までバスに乗ってるので、まだどの辺とかって分からないんですけど……」

「そうなの! 夕立もね、もう一年いるけどよく行くところ以外はあんま土地勘ないっぽい」

 寮の駐車場から基地の横を通り抜けて、国道へ向かう。ほんとは基地の中を通った方が近いんだけど、さすがにそうもいかない。

「車がないから大変じゃない? 普段の買い物とか、どうしてるっぽい?」

「買い物に行くときは、いつも他の方に乗せていただいているんです。わたしと対馬ちゃんがお休みの日に、司令がお願いしてくれて……」

「へーえ、提督さん、優しいっぽい!夕立たちにはいつも厳しいのにな。あ、夕立が休みの日だったらいくらでも連れてってあげるから、遠慮しないで言ってね?」

「は、はい!ありがとうございます」

 とは言ってもこの子は遠慮するだろうな。全く、こんなところにまだ小さい子を配属させるなんて、大本営はどうかしてるっぽい。

 車は基地の反対側にある出入口の前で大きな国道に入った。

「自転車は持ってる?」

「いえ……持ってないです」

「そっか、基地の周りだったら自転車があると便利っぽい。基地ってさあ、街中からちょーっと外れてるのよね。外でごはん食べよ!って思っても、歩いていく気にはなれないっぽい」

「外でごはん食べたこと、ほとんどないです……」

 あたしもそこまで詳しいわけじゃないけど、街中にはおいしいごはんが食べられるお店が結構ある。せっかく室蘭にいるのだから、外で食べないのはちょっともったいない気もするっぽい。

 国道はいつのまにか高架を降りて市街地に入っていた。目的地まではあとちょっとだ。

「そうなの。叢雲がね、おいしいところ知ってるんだ。ほら、叢雲って地元だからさ」

「そ、そうだったんですか」

「あれ、知らなかったっぽい? 提督さんもそうなのよ!」

「司令もですか、知らなかったです……」

「だからね、この街のことで分からないことは二人に聞くといいっぽい」

 そういえば、提督さんはあまり地元出身だということを自分からは言わないようだった。叢雲はしゃべってると北海道訛りが漏れ出てきたりするけど、提督さんはそういうこともないっぽい。

 セイコーマートのある交差点を左に曲がり、赤白の電波塔に向かって路地をしばらく行くと、少し燻んだパステルカラーの建物が見えてくる。そこが目的地のゲームセンターだ。駐車場は八割方埋まっている。やっぱり土曜日は人が多いっぽい。

「着いたっぽい! ここはね、ゲームセンターだけじゃなくて映画館とかカラオケもあるのよ」

「そうなんですか、映画館もカラオケも、行ったことないです」

「映画館は時雨がたまに来るって言ってたっぽい。カラオケは瑞鳳が行くって言ってたかな? だから今度二人に連れてきてもらうのがいいっぽい。今日はゲームセンターね!」

「は、はい!」

 

 建物脇の細い道をぐるっと回って正面に出た。ここは一階がゲームセンターで、上の階がカラオケとバッティングセンターになっている。映画館だけは入口が違って、駐車場の脇から上がっていくようだ。

 あたしたちが遊びに来たのはゲームセンターなので、正面入口のガラス扉を押して中に入る。すると、入口近くにいた店員さんが松輪に声をかけてきた。

「いらっしゃいませー……あれ? お、おいお前……ほら、やっぱり中川じゃん!」

「え? あ、山野さん? どうして……?」

 人違いかなって思ったけれど、松輪もその店員さんのことを知っているようだった。ってことは、中川って松輪の本名なのかな。前に聞いた気がするけど、全然覚えてないっぽい。

「あたし、昼間はここで働いてるのさ。へえ、中川もこーゆーとこ遊びにくるんだねえ」

「どなた様っぽい?」

「あの、クラスメイトなんです、高校の」

 そっか、外の高校の定時制に入れてもらってるってことは、クラスに友達がいたりするのね。山野さんと呼ばれた子は心なしか嬉しそうにしている。

「そうなの! いつも松輪と仲良くしてくれてありがとうっぽい!」

「いや、実はちゃんと話したこと、あんまないんだよな? っていうか松輪って?」

「艦の名前、です。わたし、艦娘なので……」

「え、中川って艦娘なのかい!? すげーじゃん、知らなかったよ! なんだよ言ってくれればよかったのに!」

「あの、えっと……」

 話したことがないという割にはずいぶんとフレンドリーな子っぽい。松輪はそういうのに慣れていないのか、まだ少し困惑しているようだ。

「でも意外だったな、こんなとこで中川と会うなんて」

「その、基地の先輩に連れてきてもらったんです」

「夕立はよく遊びに来るっぽい! いつもお世話になってるっぽい」

「それは、毎度ありがとうございます……って、もしかして、いつもMayMayプレイされてる方ですよね!?」

「確かにいつもやってるっぽい! よくわかったね」

「いや、店員の間でも有名ですよ、エグいプレイしていく人がいるロングヘアの人がいるって」

 店員さんに知られていたとは思わなかった。あたしでもそうだったらもっちーとかイムヤとかも有名だったりするのかしら?

「へへー、それほどでもないっぽい」

「中川、すげえ人と知り合いなんだな。っとやべ、呼び出しだ! それじゃ楽しんで! 中川はまた明日学校でな」

 そう言うと、その山野さんという子はあわただしく奥の方へ走っていった。

「賑やかないい子ね!」

「はい、こんなに山野さんとしゃべったの、初めてです」

「明日からもいっぱいお話しするといいっぽい! 基地の外に友達がいるの、うらやましいな」

「そう、でしょうか……」

「そうよ、夕立は基地の外に友達いないもの。今度対馬も連れてくるといいっぽい。さ、遊びましょ!」

 

 入ってすぐのエリアにはクレーンゲームが並んでいる。ゲームセンターといえばまずはこれよね!

「これはクレーンゲームっぽい! 見たことはある?」

「は、初めて見ました。どういうゲームなんですか?」

「うーんとね、ボタンでクレーンを操作して、あそこの人形をここまで運んでくるの。百聞はなんとかってやつっぽい、見てて!」

 五百円を投入して、筐体のボタンを操作する。右矢印のボタンを押して視線と人形と一直線になるところまでクレーンを移動させて、下矢印のボタンに手を移した。

「簡単っぽく見えるでしょ? 意外とあのクレーン、力が弱くて……」

「あ!」

 クレーンで人形をつかむことまではできたものの、支えきれずすぐに落下してしまった。

「結構難しいのよ。あと何回かできるから、続きは松輪がやってごらん?」

「え、でも……」

「いいのいいの!付き合ってくれたんだから今日はお金の心配なんてしなくていいっぽい!」

 恐縮しきりの松輪を宥めてボタンの前に立たせた。初めてのゲームに戸惑いと緊張を覚えているのが、はた目から見ても分かる。

「こ、こうでしょうか」

「そうそう、そしたら次はこっちのボタンを……あ!行きすぎちゃったっぽい」

 少しばかりボタンを離すのが遅かったようだ。クレーンは虚空をつかみ、そのまま天へのぼっていった。

「す、すみません……」

「謝らなくていいっぽい! これがクレーンゲームの難しさなのよ。夕立も実はあんまり得意じゃないの。まだまだチャレンジできるからやってみるっぽい!」

 そうして松輪に何回かチャレンジしてもらったものの、結局人形を取ることはできなかった。あたしもちゃんとアドバイスしてあげられたらよかったのだけれど。うーん、昨日イムヤにクレーンのコツを聞いておけばよかったっぽい。

 松輪は名残惜しそうにガラスの中の人形を見つめている。こうして見ると、普段はおとなしく引っ込み思案な松輪にも子どもっぽいところがあるんだな、と微笑ましくなる。夕立もまだまだ大人じゃないけどね。

「松輪、これ以上の深追いは危険っぽい。クレーンはね、イムヤがすっごく上手なのよ。あの子の部屋、クレーンで取ったよくわからないぬいぐるみとかがいっぱい置いてあるっぽい」

「そうなんですか……」

「そ、だから今度イムヤに教えてもらいましょ! まだここはゲームセンターの入り口、まだまだたくさんのゲームが夕立たちを待ち構えてるっぽい!」

「は、はい!」

 松輪の目がまたきらきらと輝いて見えた。弱気でおどおどしてる、そんな印象が強かったけれど、一緒に遊んでみるとすっごく表情が豊かなのね。松輪の知らなかった一面が見られて嬉しいっぽい!

 

 それから、置いてあるゲームを順々に遊んでいった。

 知識を問うクイズゲームや、和太鼓を音楽に合わせて叩くリズムゲームみたいにあまり複雑すぎず、初めて来た人でも十分楽しめるようなものをなるべく選ぶようにしてみたのだけど、それだけだとどうしても限りがある。どうしようかなあと考えていたとき、ついこの前の演習を思い出した。

 それはあたしが所属している時雨の部隊と、松輪が所属している叢雲の部隊で、三対三の形式で行った演習だ。この時、松輪はなんとうちの部隊の砲撃を全て避けきったのだ。あたしはこのセットは見ていただけなのだけれど、時雨が信じられないというような顔をしていたのをよく覚えている。その日の夜も部屋で「あの子はなかなかすごいよ」と熱っぽく語っていたっけ。

 これって、ゲームにも活かせないかしら。そう、「避ける」ことが重要になるゲームがあるのをあたしは知っている。前にイムヤたちとやってみたけど三人ともさっぱりうまくできなかったゲームだ。

「ねえ松輪、次はこれをやってみましょ!」

「これは……? どういうゲームなんですか?」

 これは一つの筐体に様々なゲームが内蔵されているタイプだ。たくさんのタイトルが表示されている中から、お目当ての作品を選ぶ。

「シューティングゲームっていってね。敵の攻撃を避けながら、自分の攻撃を当てていくゲームなの。これはその中でも、敵の攻撃がすごくって、それを避けることが大事なゲームっぽい」

「な、なんだか難しそうです」

 松輪はまるで初めて出撃をするかのように怯えた顔をしている。確かにこれだけ聞くと難しそうだって思うだろう。でも松輪ならやってくれるのではないかという期待の強さで半ば押しきってしまった。

「大丈夫大丈夫! 普段やってることと大して変わらないっぽい。むしろ松輪なら避けるの得意かなって思ったんだ」

「そ、そんなことないです……」

「何言ってんの、この前時雨の攻撃ぜんぶ避けてたでしょ! ここのボタンはずっと押し続けて、このレバーで操作するのよ。最初はとにかく相手の弾を避けていればそれだけで大丈夫だからね」

「は、はい!」

 簡潔なストーリーデモが終わり、早速ゲームが始まった。少しばかり前のゲームだからか、グラフィックも若干古めかしいように見える。

「わ、わわ、こんなにたくさん!」

「がんばって! 松輪ならできるっぽい!」

 もっちーが「弾幕シューティング」と呼んでいたこのゲームは、その名の通り敵の攻撃が弾幕のように画面を埋め尽くし、その僅かな隙間を縫って自機を操作する必要がある。敵の攻撃パターンを予測する力と、細かなレバー操作力が試されるので、慣れないうちは本当に難しい。

 そんなゲームを、松輪は――

「わわ、夕立さん、大変ですぅぅ」

「す、すごい! 松輪すごいっぽい!」

 見事に最初のステージのボスまでノーミスでたどり着いていた。えっ、あたしがやった時はここまででゲームオーバーになったっぽい。やっぱり見立ては当たっていたようだ。

「どうしても避けきれない、って思ったらこっちのボタンを押してみてね。敵の攻撃を消せるのよ」

「む、無理ですよぅ」

「じゃ、夕立が押してあげる!」

 流石にボスとなるとそれまでよりも遥かに難しくなる。弾幕の難しさもさることながら、よりレバー操作がシビアになるところが初心者には厳しいポイントだろう。ここまで好調だった松輪も、やはりここでゲームオーバーになってしまった。

「夕立が押すって言ってたのに、結局押せなかったっぽい。ごめんね」

「そんな! 謝らないでください。私こそ、うまくできなくって……」

「ううん、夕立よりも遥かに上手だったっぽい。慣れたら松輪ならクリアできるんじゃないかしら?」

「そ、そうでしょうか」

 松輪は両手を頬に当て、少し照れたような、それでいて少し嬉しそうな顔をしている。これも初めて見る顔っぽい。

 

 それからいくつかのゲームを遊んでいたら、お昼をだいぶ回った時間になっていた。

「あ! もうこんな時間なのね。あっという間っぽい。松輪、お腹空いてない?」

「は、はい……」

「じゃあ、今日できなかったゲームはまた今度のお楽しみね。ごはん食べにいきましょ! ごっはんー、ごっはんー♪」

 来た時と反対側にある扉を出て、建物をぐるっと回り込んで駐車場に戻ってきた。目的地までは歩いて行ける距離だけれど、ごはんを食べたら戻っては来ないので、駐車場を空ける意味でも車で移動しなくっちゃ。

「この近くにねえ、おいしいおそば屋さんがあって、いつもここに遊びに来たときは食べに行くっぽい。あっ、松輪、アレルギーとかないよね?」

「はい、おそば、好きです」

「よかった!そこはねえ、かつ丼もおいしいのよ」

 駐車場を出て、赤白の電波塔の方へ向かうとすぐに大通りにぶつかる。昼間は左折しかできないこの交差点を標識に従い、そのすぐ脇をまた左折してちょっと進めばもう到着だ。

 そのお蕎麦屋さんは「小がね 汐見店」といって、叢雲曰く室蘭には他にも店舗があるらしい。基地の近くにもあるとかって言ってたっけ。あたしはここの小がねにしか来たことはないっぽい。

 駐車場はないけれど、路上駐車ができるのでお店の前の道路はすでに車でいっぱいだ。今日も繁盛しているっぽい。どうにかスペースを見つけて車を止め、お店に入った。

「こんにちはー!」

「いらっしゃいませー、お二人ですね、こちらへどうぞ」

 店内はテーブル、カウンター席の他にお座敷があって、お昼をちょっと過ぎた時間にも関わらずテーブル席はいっぱいだった。お座敷に案内されたあたしたちは靴を脱いで向かい合って座った。

「さ、何食べる? 夕立が払うから、何でも頼んでいいっぽい!」

「えぇ!? でも、そんな、払っていただいてばっかりで、悪いです……」

「いいのいいの! 付き合ってもらったのはこっちなんだから。夕立はいつもかつ丼とおそばのセットにしてるんだ」

「ええっと、いっぱい種類があるんですね」

 あまりこういうところで外食をしないのだろう。松輪はずらりと並ぶメニューを相手に固まっている。そういえばさっき、外でごはん食べたこと、ほとんどないって言ってたもんね。

「そうなの。ここはメニューがたくさんあって悩んじゃうから、夕立はいつも同じの頼んじゃうんだよね。うーんと、松輪はおそばとどんぶりと定食、どれ食べたい?」

「それだったら……おそばでしょうか」

「うんうん、じゃあねえ、天ぷらは好き?」

「えっと、あまり食べたことがなくて……」

「じゃ、天ぷらのおそばに挑戦してみましょ! もし食べられないのあったら夕立がもらうっぽい。すみませーん!」

 店員さんを呼んで天ぷらのおそばと、かつ丼セットを注文した。恐縮しているのか、松輪はなんだか小さくなってしまっている。

「あの、ありがとう、ございます」

「えへへ、夕立は嬉しいっぽい。夕立もね、佐世保にいたときに川内さんによくこうやってごちそうしてもらってたんだ」

「川内さんに、ですか」

「そうなの。それでね、川内さんってば『あたしに返そうだなんて思わなくていいから、その分後輩にいっぱいおごってやりな』なんていうのよ。もーかっこいいんだから」

「す、すごいですね……」

「ねー、大人って感じするっぽい。でもね、ずっと夕立、佐世保でもここでも部隊では一番年下だったから。だから後輩にこうやって返せるのがすごく嬉しいっぽい。松輪もね、後輩ができたらそうしてあげてね」

「後輩、ですか……全然想像がつかないです」

「高校課程に入ったってことは、松輪も今年16歳でしょ? そろそろ新しく着任する駆逐艦で年下の子も出てくるかもしれないっぽい。秋月……は着任したばっかりだけど、あの子夕立の一個下だもんなあ」

「うぅ、立派な先輩になれる自信、ないです」

「夕立もないっぽい! でも松輪だったら大丈夫よ。時雨もね、これからの松輪が楽しみだって言ってたっぽい」

「えっ、時雨さんが……?」

「そうよ! 松輪はもっと自信持っていいのよ。夕立なんか、ゆらによく言われるっぽい。『夕立ちゃん、その自信はどこから来るの?』って」

「ゆ、由良さんもそっくりですね……」

「ゆらの真似はね、村雨の方が得意なの。夕立の方が長く一緒にいるのになあ」

「お待ちどうさまです。天ぷらそばのお客様は……」

 すっかり話し込んでいたら、店員さんが注文した食事を運んできてくれた。待ってました! おなかぺこぺこっぽい!

「あっ、わたしです」

「はい、じゃあこちらかつ丼そばのセットになります」

「ありがとう! いただきまーす!」

 目の前にはかつとじ、ごはん、お味噌汁、おつけものとおそばがお盆の上に所狭しと並んでいる。そうそう、ここのかつ丼はかつとごはんが別々になっているのが特徴だ。もっちーが「これってかつとじ定食だよねえ。ってまあ、美味しいからいいけど」って言ってたっけ。

 昨日の夜と同じように二人で手を合わせてから食べ始めた。

「松輪、天ぷら食べてみて、どう?」

「お、美味しいです……!外がさくさくしてて、中のえびがぷりっとしていて……」

「そう、よかった! おそばと一緒に食べるともっと美味しいのよ!」

 夢中でおそばと天ぷらを頬張る松輪と見ていると、連れてきて良かったなあと思う。やっぱり、まだ10代なのにお仕事と学校で忙しくしているばっかりじゃよくないっぽい。こういう日だってきっと大切よね。今度は対馬とも来れたらいいな。

 

「ぷいー、お腹いっぱいっぽい」

「夕立さん、ごちそうさまでした」

 会計を済ませて店の外に出ると、松輪がふかぶかとお辞儀をして言った。長い髪が肩から垂れて地面に着いてしまいそうだ。

「いいのいいの。さ、帰りましょ!」

 

 楽しく遊んだ翌日、仕事を終えてロビーでもっちー、イムヤとおしゃべりをしていたところに、松輪がやってきた。遅い時間だなあと思ったけど、平日は学校に行ってるんだっけ。

「夕立さん、昨日はどうも、ありがとうございました」

「松輪おつかれさま! あの子とお話しできたっぽい?」

「はい、山野さんにこれがおすすめだよ、とか、いっぱい教えてもらいました。対馬ちゃんとも仲良くなれたみたいです。夕立さんが連れて行ってくれたおかげです」

「何なに? 何があったの?」

 斜め向かいに座っていたイムヤが首をつっこんできた。

「松輪のクラスメイトがね、いつものゲームセンターで働いてるのよ!」

「クラスメイト? あ、そっか、松輪ちゃん、外の高校通ってるんだっけ」

「は、はい、そうなんです」

「へぇ~、すごいじゃん。じゃあもうあそこで悪いことできねーな」

 もっちーの冗談に三人の間でどっと笑いが起こった。松輪だけは真に受けてしまったようで、困惑しているようだった。

「あ、あの、悪いことって……」

「あはは! そんなの最初からしないっぽい!」

「ねえねえ松輪ちゃん、どのゲームやってきたの?」

 イムヤが松輪に尋ねた。やっぱり気になるよねえ、松輪がゲームって、あんまりイメージないものね。

「えっと……あっ、クレーンが、最初にやってみたんですけど、うまく取れなくって……」

「クレーンならこのイムヤにお任せよ! 今度コツ教えてあげるね」

「は、はい! ありがとうございます」

 イムヤが胸を張って言う。そこにもっちーも重ねて質問を入れた。

「あとあれはやった? 三国志のやつ」

「カードのは初めてゲーセン来た人に向いてないからやってないっぽい。そうそう、松輪はシューティングが得意なのよ!」

「シューティングって、あの弾幕のやつ?」

「そうそう!」

「マジ? 松輪すげーじゃん。あたしらの中でシューティング得意なのいないからなあ」

「松輪ちゃん、今度プレイしてるとこ見せてよ」

「あっ、は、はい!」

 最初は何気なく勢いで誘ってみたものの、蓋を開けてみればとっても楽しかったし、松輪もあたしに対して変に縮こまるようなこともなくなったみたいだ。あたしだけじゃなくもっちーとイムヤともこうしておしゃべりできたし、クラスの子とも仲良くなれて、いいこと尽くしっぽい。なんだか、そのきっかけを作れたみたいで嬉しいな。

 そうだ、部屋に戻ったら、時雨に自慢しようっと!




「そういえば、松輪と写真撮ってきたの?」
「あ! ゲームに夢中で忘れてたっぽい! しまった~~」
「それじゃ、また遊びに行ったときだね」
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