大湊警備府室蘭分遣隊のべつまくなし忙しなし!   作:旧姓かわかみ

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室蘭分遣隊の事務官が秋刀魚漁支援と秋刀魚祭りという謎の文化に困惑するもなんだかんだ楽しむ話


室蘭基地・秋刀魚祭り

 うつらうつらの日をすごすことは幸福であると言った詩人は誰であったか。そのことに関しては全く同意だ。一方、刺激的な毎日というのも悪くない。それはもちろん危険だとかストレスフルだとかそういう話ではなくて、ちょっとしたハプニングとかイベントとかがひょっこり発生して、驚きと喜びをもってそれを迎えることができるような日々ということを指す。

 そういうことで言えば、うつらうつらと刺激が交じり合う今の生活は非常にちょうどよい。艦娘運用基地というのは一般企業と学校を足して二で割ったようなものだと思う。普通の、それこそ以前働いていたような会社ではなかなか考えられないようなことが起こるのは決して珍しいことではない。それはそれで大変なことだってもちろんあるのだけれど、先輩や同僚はみんな優しい人ばかりなのでストレスを感じることも少ない。

 最初こそ仰天絶句の連続だった日々も、今やだいぶこの破天荒な文化に順応できてきたように思う。並大抵のことでは腰を抜かすこともなくなった。そんな私が久しぶりに会議の場で開いた口を塞ぐことができなくなったのは、北海道の短い夏もすっかり終わって過ごしやすい日の続いた九月のはじめのことだ。

 

「来月、二年ぶりに秋刀魚漁支援シフトになります。当基地では初のこととなりますのでご協力のほど、よろしくお願いします」

 これは各班のチーフが集まる会議の場で提督の口から発せられた言葉だ。

 ……秋刀魚漁? 支援シフト?

 私の聞き間違いだろうか。それとも何かの軍事用語か。一通りの用語は勉強してきたつもりだし研修でも教えてもらったが、秋刀魚という用語はなかったはずだ。ソードフィッシュという飛行機があるとゴトさんから聞いた覚えがあるが、あれはメカジキなので違う。

「待ってました!」

「今年はやるんですね!」

「忙しくなるなあ」

 困惑している私をよそに周りの先輩方は口々に嬉しそうな声を上げる。この中で分かっていないのはどうやら私だけらしい。こういう時に知ったかぶりを通そうとして分からないことをそのままにしておくと後で大変なことになる、というのは社会人になってこの数年でよく実感したので、盛り上がる先輩方を前におずおずと挙手をして疑問を投げかけることにした。

「あ、あの……秋刀魚漁支援シフトって、なんでしょうか……?」

「あれっ、松山さんって……あぁそっか、秋刀魚シフト知らないんだっけ!」

 斜め向かいに座る演習・教育班の小縣さんが忘れてたというような顔をして、それから続けて秋刀魚シフトのことを教えてくれた。

「秋刀魚漁支援シフトっていうのは、三週間くらい総出で近海の漁場の確保と秋刀魚漁船の護衛をする、まあ一種の恒例行事みたいなものね。それで確保した漁場ではうちの隊員も秋刀魚を一緒に獲って、持って帰ってきてくれんの。それがもう新鮮でおいしいったらないのよ!」

「……ええっと」

 言っている内容を理解することはできた。確かに遠洋の漁船護衛は海防隊の大切な任務の一つで、海外の部隊とも連携して任務に当たっているそうだ。室蘭の隊員にも経験者がいて、話を聞いたことがある。

 しかし、小縣さんは「近海の」と言った。しかも隊員総出で。それで秋刀魚を獲る。

 あれっ、私、秋刀魚の卸をしている会社に勤めているんだっけ? 海を防衛する隊と書いて海防隊で働いているはずだったんだけど、それは私の思い違いだったのかしら? しかも最終的には「秋刀魚がおいしい」という結論だ。そりゃ新鮮な秋刀魚が美味しいのは間違いないだろうが、どうしてうちがそれを?

 困惑に困惑が重なり固まっている私に、隣の大淀さんが助け舟を出してくれた。

「この時期、近海の秋刀魚の漁場では深海棲艦の出現報告がとても多いんです。とは言っても、そのほとんどが小型艦なので私たち艦娘であれば問題なく対処できるんですが、とにかく数が多いので集中的に隊を組んで対処に当たるための体制が、秋刀魚漁支援シフトなんです」

 なるほど、そうりゅうこと。この不思議な言葉の意味するところは十分に理解できた。全ての疑問が解消されたわけではないが。

「ガタさん、曙やってたとき、すごかったらしいじゃないですか」

 明石さんが隣に座る小縣さんに声をかけた。

 小縣さんは入隊して曙を務めた後、鹿島に転換して艦娘の実践教育の経験を積み、今は事務官として室蘭基地の教育・演習班のチーフをしている。事務官でありながら陸上訓練では自ら教官役になることもあるそうだ。そんな小縣さんの曙時代の話というのはあまり聞いたことがない。

「いやあ、そんなこともないよ。私のときは大潮に負けっぱなしね」

「でも、二番目だったんですよね?」

「……大淀さん、あの話はなんです?」

 二人の会話の内容がつかめず、これも大淀さんに聞くことにした。さっきから分からないことだらけで頭をフル回転させて内容を理解しようとするが、果たしてこれはそこまで必死になって理解しなければならない内容なのかという点については少々疑問だ。

「その、さっき『隊員も秋刀魚を獲ってくる』っていう話があったじゃないですか。それで、一部の艦娘が競うようにして釣ってくるんです」

「釣る……?」

「一本釣りでね! 私が使ってた釣り竿、今の曙も使ってくれてるのよ、みんな物持ちがいいこと」

 小縣さんが胸を張る。

 艦娘が釣りって、もしかして海の上で? いや海釣りは海の上でやることだから何もおかしくはないんだけど、その光景はなんだか不思議な絵面になるんじゃないのか。

「うちにいる子だと……あっ、村雨がすごいよ。あの子もねえ、結構いっぱい釣るのよ!」

「えっ、さめちゃんが??」

 小縣さんが教えてくれたが、いよいよ私の理解は五里に霧中となってしまった。さめちゃんと釣りっていうのがもう全く結びつかない。おしゃれでふんわり美人でときおり見せる色っぽい仕草も様になるあのさめちゃんが、釣り?

 いや、それはきっと釣りに対して自分が偏見を抱いているということだ。別にそういう人が釣りに興じることはおかしいことでもなんでもない。最近は釣りアイドルみたいな人もいるくらいだ。私の認識に悪いバイアスがかかっているだけなのだ。……んでもやっぱりイメージは湧かないって。

「ええっと、いいでしょうか。そういうことで、来月は隊員の動きが流動的になりますので、ご協力のほどよろしくお願いします。それから、これは再来月になりますが秋刀魚漁支援シフトの終了に合わせて、室蘭基地初の公開イベントとなる秋刀魚祭りを開催します」

 混乱がピークに達したところで提督がとんでもないことを言い出した。この基地初の公開イベントだって? そっちの方が遥かに重要じゃないの。っていうか初の公開イベントが秋刀魚祭りっていうのはどうなの。

 広報班チーフの石塚さんが提督に続けて話し出した。

「これについてはうちの方で主導してやっていくんで……とは言っても鈴谷の奴が今引き継ぎで忙しいし、青葉も支援シフトに入ると身動き取れないんで、大湊から臨時で人寄越してもらいます。今月の暮れから来てもらうんで、英子ちゃん、近くなったら入構の手続きだけちゃんと出てるか見ておいてもらえる?」

「は、はい、了解です」

「あと備品関係で色々準備が必要なんで、これも淀ちゃんと英子ちゃんで連携してもらうことになるから、そっちもよろしくね。会議終わったら今時点で必要なもの二人に共有するから見ておいて」

「えぇ、分かりました」

 石塚さんがテキパキと話を進めていく。この人が主導するならまあ安心だろう。少し忙しくなりそうだが、基地の一大イベントでもあるだろうし、それはそれで楽しみだ。近くに住む親戚に遊びにきてもらうのも良いかもしれない。

 ただただそこまで秋刀魚にこだわる理由だけが分からないのだが、そこはもう考えても仕方ないことだろう。そんなことを気にしているのはこの中で私しかいないように思える。秋刀魚と長いものには巻かれろと言うしね。

 その会議の後もいろんな同僚に秋刀魚シフトと秋刀魚祭りについて聞いてみたが、やれ「秋刀魚釣りが楽しみ」だの、やれ「去年は不漁でできなかったから嬉しい」だの、みんながみんな同じような待望の言葉を返してくるのには笑ってしまった。今年入隊したばかりの秋月ちゃんですら「秋刀魚漁は話だけ聞いていて、ずっと楽しみにしていたんです!」などと言うものだから、もう本当に知らなかったのは私だけだったのかもしれない。

 みんなの話を総合すると、支援シフト組は年に数回ある大規模作戦のときと同じように、室蘭を離れて支援活動に当たるということは分かった。とはいえ、そこまで大掛かりなものでもないらしく、こちらについては私の仕事には大きな影響はなさそうだ。秋刀魚祭りの準備の方に注力するのが良いだろう。

 

 秋刀魚漁支援シフトは十月の終わりから十一月の中旬までだ。三陸沖から根室沖にかけての比較的沿岸に近い海域が主な漁場となり、大湊の本隊と協力して漁船の護衛にあたるそうだ。先日の大規模作戦のときは隊員の大半が中央に行くことになったが、今回の支援作戦は近場で行われることもあって半分くらいの隊員は通常業務に当たる。また、前半と後半で秋刀魚シフト組と通常業務組を交代するとのこと。支援シフトは夜間から明け方となるため、松輪ちゃんと対馬ちゃんは秋刀魚シフトには入らない。

 郵便室業務をどうしようかなと思ったけれど、その松輪ちゃんが手伝うと言ってくれたのでその好意に甘えることにした。この子は着任当初に比べてずいぶんと積極的になったし明るい表情をしていることも多くなったように思う。時雨ちゃんが面倒を見ているらしく、その影響もあるのかな。

 対馬ちゃんはこの夏に隊長資格を取得し、鈴谷から隊長を引き継ぐことになったばかりだ。その鈴谷は対馬ちゃんのサポートのために秋刀魚シフトには入らないらしい。秋刀魚シフトを楽しみにしている子が多かったからどうなのかな、と思って聞いてみると「鈴谷は秋刀魚は食べるのが専門なの。ほら、ヌメヌメしててちょっと苦手なんだ」と言っていた。そんな深海棲艦みたいに言わなくても、というツッコミを入れたらそれを聞いた対馬ちゃんの笑いのツボを押してしまったようで、つられてみんなで笑ってしまった。でも私も鈴谷と同じで食べるのが専門かなあ。捌いたりもできないし。

 

 当初の予想通り、秋刀魚シフトが始まっても私の仕事に大きな影響はなく、秋刀魚祭りの準備に集中して取り掛かることができた。郵便室を手伝ってくれる松輪ちゃんの存在も大きい。

 しかし、思わぬところで秋刀魚シフトの影響が出ていたことには驚いた。

「な、なにこれ……メニュー全部秋刀魚じゃん……」

 それは秋刀魚シフト初日のこと。食堂のメニューが秋刀魚一色というか、刺身、塩焼、蒲焼の三種類だけになっていて秋刀魚以外の選択肢がない。驚き立ち尽くす私を叢雲ちゃんが笑う。

「これが秋刀魚シフト名物の食堂秋刀魚ジャックよ。まあ本当に秋刀魚しかないのは初日だけで、明日からは普通のメニューも出るから安心なさいな」

「名物って、これ、どこの基地でもそうなの?」

「そうよ?」

 そうよ? じゃないんだよ。一般常識みたいな顔して言わないでよ。

「どれにしようかしら。やっぱり定番の塩焼か、でも蒲焼も捨てがたいのよね……」

 叢雲ちゃんが本気で悩んでいる。およそ一年半いっしょに仕事をしているけれど、こんなに悩む姿を見るのは初めてだ。しかしそれが秋刀魚の調理方法に対してだというのはどうなんだ。

「だいたい、もし秋刀魚にアレルギーある人とかいたらどうすんのさ」

「秋刀魚自体にアレルゲンはないから大丈夫よ。でもそうね、もし私がそうなったとしたらすぐにでも艦娘辞めるわ」

「えっ、そんなに?」

「そんなによ」

 その、秋刀魚に対するただならない熱意はどこからやってくるのだろう。もしかすると私ももう何年か海防隊にいると、そっち側の領域に辿り着けたりするのだろうか。そして未来の後輩に叢雲ちゃんと同じようなことを言ってのけるのだろうか。

 この日の秋刀魚は蒲焼でいただくことにした。確かにこれまで食べたどの秋刀魚よりも美味しく、自分の中の秋刀魚観が大きく塗り替えられることとはなったが、この一日では叢雲ちゃんほどの熱意を秋刀魚に向けられるレベルには到達できなかったようで、さすがに次の日のお昼は肉料理を選んだ。

 

 秋刀魚祭りの準備の方は順調だった。大湊から来た広報の助っ人さん達と協力して祭りで使用するテントや机などのイベント用具を手配したり、街に掲示する大判ポスターやパネルなどの印刷を依頼したりと、必要なものの調達がメインだ。

 街を歩けば飲食店やスーパーなど、あちこちで秋刀魚祭りのポスターを見かけるようになった。私がやったことは印刷会社に発注しただけで大したことはしていないんだけど、自分が関わった仕事がこういう形で目に見えるのはなんだか嬉しい。

 ある日自宅でテレビを見ていると、地域のニュースでも秋刀魚祭りのことが取り上げられていて、青葉さんがインタビューに答えていた。普段は隊内報のことで人にインタビューをして回ることの多い青葉さんが、インタビューされる側に回っているというのはなんだか新鮮だ。自身が取材を受けるのには慣れていないのか、ちょっと緊張しているようにも見える。きっとそのことで他の隊員たちからいじられるんだろうなと思ったら案の定翌日みんなに囲まれていたので、私もその輪に加わることにした。

 聞いてみれば、テレビだけでなくラジオや新聞でも紹介されたそうで、なんだかすごい勢いで広報活動がなされている。当日の集客はどれほどになるだろうか。石塚さんの仕事の速さには舌を巻くばかりだ。特に用事がなくても郵便室に来ることの多い青葉さんがさっぱり顔を出さなくなったので、広報班の人たちは相当忙しいんだろう。

 

 秋刀魚祭りの日は見事な快晴、気温もあったかくてイベント日和となった。本来なら休日ではあるが基地の一大イベントということもあり、私も裏方でお手伝いに回る。基本的には遊撃部隊で何もない時は本部待機だ。

 その本部の執務室では朝から石塚さんが人に見せられないような格好でぐったりしていた。脇のデスクの上ではエナジードリンクの缶が空っぽになっている。

 話を聞けば早朝に最後の支援任務を終え帰投した隊員と一緒に護衛艦が入港して、まるで漁船のように秋刀魚を「水揚げ」をしていたところに立ち会っていたそうだ。前日だって私が少し残業をしてから退勤した後も仕事をしていたはずで、責任者は大変だ。支援組の方は帰投後すぐに寮に戻ったそうだが、午後にはみんな出てくるんじゃないかとも言っていた。どれだけみんなこの行事を楽しみにしているのだろう。

 午前中はそれなりに平和に終わった。私は説明会のための会議室セッティングとマイク機材のチェックを手伝ったくらいで、あとは小間使い程度の働きぐらいしかしていない。印刷したパンフレットを見るに、艤装の展示や稼働展示、それから入隊に興味のある人向けの説明会、個別相談会なんかもやったりするらしい。企画自体は他所でもやっていることばかりだそうで、そのあたりのノウハウはある程度蓄積されているためトラブルも少なく済んでいるようだ。

 お昼が近づいてきたところで石塚さんが声をかけてきた。

「英子ちゃん、秋刀魚祭り初めてだろ? お昼行くついでに色々見て回ってきたらどうだい、どうせしばらく平和だろうし」

「えっ、いいんですか?」

「いいのいいの。このお祭りをちゃんと体験してもらう方が大事だし、なんかあったら連絡入れるからさ」

 確かに外の喧騒から離れたこの執務室にいるだけでは、このお祭りのことをちゃんとは理解できないだろう。現場をよく知れ、と前職でしきりに言われたことを思い出す。このお祭りを楽しむことも現場を知る一環になるに違いない。お言葉に甘えることにして執務室を後にした。

 お祭りは思っていた以上に盛況だった。夏に行われる市の港まつりに匹敵するのではないかと思うほどの人出だ。

 まずはお昼ごはん。工廠棟脇のブースで無料で秋刀魚を振舞っているそうで、そこが一番行列がすごいことになっていた。見れば、イムヤが声を上げて列の整理をしている。

「一列で並んでください! 秋刀魚の最後尾は向こう側になりまーす! ……あれ英子、どうしたの」

「おつかれ、私も秋刀魚食べに来たんだ」

「職員だからって順番飛ばしたりできないから、ちゃんと向こうの最後尾に並んでね」

「分かってるって。それじゃがんばってね」

 最後尾は列をつづら折にしてなおブースから離れたところにあった。これは時間がかかるかな、と思ったら意外にも列はすいすいと進んでいく。捌いているブース担当は相当手際が良いのだろう。誰だろうかと思ったらみちこちゃんだった。赤いジャージに紺のエプロン姿で、まるで高校の文化祭でやる出店を思い出す。……っていうかみちこお前なんだその格好、信じられないくらいかわいいぞ。

「次の方どうぞー! って英子じゃないの、何してるのよ」

「私もお昼だよ。塩焼き一つお願いね」

「はいはい、ごはんはそっちで長門さんが出してくれるから……はいどうぞ」

 隣のブースではジャージではなく隊員共通制服にエプロン姿の長門さんがごはんをよそっていた。長身美人はめしをつぐだけでサマになるなあ。

「長門さーん、おつかれさま!」

「あぁ英子、どれくらい入れようか?」

「うーん、そこそこ盛り目で!」

 発泡スチロールのパックにそこそこ盛られたごはんとみちこちゃんの焼いてくれた塩焼きを手に入れた私は、さてどこで食べようかと思って食事用のテーブルが並んだエリアを見回してみたが、これだけ盛況なのでなかなか空いている席がない。さすがに知らない人と相席っていうのは悪いし……と思ったところで知った顔が二人並んでいるテーブルを見つけたのでそこに近寄って声をかけた。

「失礼、こちら座ってもよろしい?」

「んあ~? なんだ英子か、誰かと思ったじゃん」

「なんだとはなんだい。ってか二人とも今朝帰ってきたんでしょ、疲れてないの?」

「疲れてるけど、でも秋刀魚祭りなんだよ! やっぱりお祭りで食べる秋刀魚がいっちばん美味しいよね!」

 見つけたのは望月(もちこ)白露(しら)で、やはり秋刀魚祭りのことを楽しみにしていたらしい。ちょうど二人も食事中で、私と同じ秋刀魚の塩焼きにごはんに……えっ、ビール?

「やっぱ塩焼きにはこれっしょ~」

「あれ、ビール出してるとこなんてあったっけ?」

「いっひひひ、寮から持ってきたんだ!」

「なにぃ~~? 準備万端だなあ」

「英子も飲むか?」

 もちこがクラシックビールの缶を掲げて言う。くそう、うらやましいぜ。

「私は仕事中なんだって。二人はこの後どうすんの?」

「艤装の稼働展示を冷やかしにね! 飛龍さんと由良さんと伊勢さんと、あと時雨が出るはずだよ」

「あっ、そうなんだ? 私も見に行こっかなあ」

「英子、仕事中じゃないのかよ?」

「お祭りを見て回ってきていいよって言われてんの。現地視察も立派な仕事だよ」

「ホントかあ~?」

 食べ終わったところで叢雲ちゃんとさめちゃんが秋刀魚を持ってやってきたので、席を譲ることにした。二人も今朝戻ってきたばかりのはずで、本当に支援シフト組もみんな出てきているようだ。空になったビール缶を見て叢雲ちゃんは本気で呆れていたが、隣のさめちゃんはその手があったか、という顔をしていた。

 

 席を後にした私たち三人は、稼動展示の会場である工廠裏の岸壁に向かって人混みを歩き出した。途中の個別相談会ブースでは秋月ちゃんが地元の高校生と思われる女の子としゃべっていた。秋月ちゃんは今年高校を卒業して入隊したところなので、このブースに来るような子とも年が近くその仕事には適任に違いない。

 工廠裏の岸壁もかなり混雑していた。これだけ多くの人の前で演示を行うのはさぞ緊張するだろう。もちこは経験がないらしく、しらは一度だけやったことがあるそうだ。

「普段やってることをするだけなんだけど、見られてるって思うと不安になるんだよね。『あれっ、このやり方であってたっけ?』って考えちゃうともう、ダメ」

「どうやって歩くんだっけ、って考えちゃうのと似たような感じ?」

「うーん、それに近いかも」

「うぇ~、あたし絶対やりたくないなあ」

 そう漏らすもちこにやりたくないけど見には来るんだ、というのは言わないでおいた。いざ自分の番が回ってきたときのための見学というのもあるのかもしれない。

「っていうか、稼働展示って具体的に何やるの? 演習みたいなことするわけじゃないんだよね」

「射撃訓練でやってることだよ。たぶん伊勢さんが砲撃、由良さんが雷撃、飛龍さんが航空戦だと思う」

「あれ、じゃあうちの隊長は何やるんだ?」

「うーん、分かんない。時雨も砲撃かなあ。でも伊勢さんが出てくるならやらないと思うんだけど――」

『ヒトサンマルマル。これから、室蘭分遣隊所属の艦娘による艤装の稼働展示を開始します』

 しらの声にかぶせるようにアナウンスが入った。ちょうど時間になったようだ。しかしこのアナウンスの声の主は、時雨ちゃんじゃないのか。

「時雨、もしかして司会?」

「うわ、普通に展示やるより緊張しない、それ?」

『本日は三人の艦娘による稼働展示として、普段の訓練の様子を披露します。砲撃訓練は第三部隊所属、航空戦艦伊勢。雷撃訓練は第二部隊所属、軽巡洋艦由良。そして航空訓練は第一部隊所属、正規空母飛龍がそれぞれ担当します』

 アナウンスに合わせて三人が工廠棟の進水口から出てきたのを拍手で迎える。みんなそれぞれ笑顔で手を振っていて、あのメンバーだったらこういうの慣れてそうだな、と根拠のないことを思った。

『そして展示のご案内は、わたくし第三部隊の時雨が担当します。どうぞ、よろしくお願いします』

 続いて時雨ちゃんが出てきた。前の三人と比べるとちょっと表情が固くて、緊張しているようにも見える。しらが「時雨がんばれー!」と声をかけたが、気付かなかったのか余裕がないのか敢えて無視をしたのか一瞥もくれなかった。

 その後に青葉さんがカメラを持って現れた。広報の取材要員ということなのだろう。港内とはいえ海の上で撮影をするのは大変だろうと思ったが、そういえば青葉さんの航行はものすごく綺麗で安定していると聞いたことがある。

 展示の方はそれぞれの訓練内容の説明を時雨ちゃんが行い、それから実演という流れだった。まずは伊勢さんの砲撃訓練で、ここからかなり遠く離れたところに的が設置されているのが見える。所定の位置についた伊勢さんが左腕を前に出し、指先で的を狙うようなしぐさをしている。あれで目標を定めるのだろうか。

「んあ? なんだあの動き」

「えっ?」

 それを見たもちこが不審がるような声を出したので、私はそちらの方へ向き直った。

「いや、伊勢さんがあんな動きするのおかしいんだよ。うちらはさ、砲を手で持つからああやって腕を使って照準を合わせることもあるけど、戦艦は持たないからあの動作は必要なくって……」

 と、その瞬間伊勢さんが主砲を発射した。この距離でもなかなか派手な発射音に感じる。少し間が空いて的のところで水柱が上がった。

「あ、当たった?」

「いや、あれは外れだよ……あー、そういうことね」

 水柱が消えると、確かに的は海水を被っただけで何事もなかったかのようにそこに立っていた。そういうこととは一体どういうことなのだろう。周りの観客からは「ああ~」という残念そうな声が上がった。

「ちょっともちこ、一人で納得しないでよ」

「これ、そういう『台本』だよ。だって伊勢さんがあの距離であんなでかい的、外すわけがないんだから」

 見ると、伊勢さんはなんだか大げさなアクションで「失敗した! もう一回!」とでも言いたげな動きをしている。っていうことは最初のしぐさも外したのも、わざとやっただけってことだというのか。

『一回目は外してしまいました。二回目はどうでしょうか。ところで戦艦には偵察機が搭載できます。偵察機を飛ばしてより正確な照準データを得ることで、効率的に砲撃を行うことができるので、今度は偵察機も使って射撃をしてもらうことにしましょう』

 時雨ちゃんのアナウンスに続いて、伊勢さんは偵察機を二機飛ばし、さっきのような腕で的を狙う動きはせず、二回目の砲撃に移った。発射と同時に再び派手な音がした後、今度は砲撃が的に当たったのが確かに見えた。周りからは歓声が上がる。

 砲撃を終えた伊勢さんに時雨ちゃんが近づいていき、インタビューを始めた。

『伊勢さん、お疲れさまでした。やっぱり偵察機があると違いますか?』

『そうですね、私たち戦艦はこれだけ艤装が大きいので、確実に目標に当てるためには偵察機の力が不可欠なんです』

「うっそだあ。あの人普段水偵じゃなくて艦爆ばっかり載せてるはずだぜ」

 もちこが苦笑する。そういえば伊勢さんと同じ部隊の所属なんだっけ。

「かん……艦爆?」

「ん、艦上爆撃機の略ね。偵察機と違って照準データを送る機能はないんだよ」

「えっと、つまり?」

「普通に目視とレーダーの距離計測で当ててる。あと風量計」

「それって……すごいことじゃないの?」

「だから、言っただろ? 『外すわけがない』って」

『では、伊勢さんにもう一度拍手をお願いします』

 もちこの話を聞いた私は伊勢さんにいっそう強く拍手を送った。

 

 続いて由良さんの登場だ。所定の位置が定まらないのか、右に左にゆらゆらと動いている。どうしたんだろう。それを見たしらがもちこに話しかけた。

「ねえもっちー、あれってもしかして……」

「あー、あれはアレだよ、絶対そうだ」

「ちょっとちょっと、また二人で分かんない話しないでよ」

「アレはね、まあ見てれば分かるよ」

 しらが意味ありげに言う。

『さて、続きましては魚雷の発射訓練です。軽巡洋艦の由良による実演となります』

 時雨ちゃんのアナウンスに続いて、観客から拍手が起こる。と、その拍手が止んだ瞬間。

 ――ドンッッ

「え? この音って……ええ??」

 見れば向こうの方で水柱が上がって、そして的が跡形もなくなっている。あれって、魚雷を当てたってことだよね? え、いつの間に?

「出たー! 由良さんのノーアクション雷撃!」

「あれやられると本当心臓に悪いんだよねえ……」

「いや……もう全然ついていけないんだけど……」

 周りの人たちもどよめいている。状況を理解しているのはこの二人だけのようだ。時雨ちゃんが由良さんに近づいていく。

『ええっと、たぶん皆さん困惑されていると思うので、何をしたのか解説してもらえますか?』

『はい、魚雷は海中を進むので目視がしづらいという特徴があります。でも、発射したことが分かってしまえばそれも意味がないですよね。なので、小型の魚雷潜航艇を使って発射したことを分からないようにするんです』

「あっ、じゃあ事前にその潜航艇を発進させてたってこと?」

 説明を聞いて納得した私はしらに聞いてみたら、思わぬ回答が返ってきた。

「ううん、由良さんが潜航艇を発進させたのはあそこで左右にゆらゆらしてた時だよ」

「えっ? でも何かしてたようには見えなかったけど……」

「だからノーアクション雷撃なんだよ! あんなにきれいに決められるの、他には北上さんと大井っちさんくらいだよ」

「は? 何それ由良さんかっこよすぎでしょ……」

 その北上さんと大井っちさんという人のことは名前くらいしか知らないが、とにかくそれだけ由良さんがすごいということだ。普段は物腰柔らかで心優しい由良さんの、腕利きな艦娘としての一面を知ることができた。説明を終えた由良さんにひときわ強めの拍手を送った。

 

 最後は飛龍の出番だ。時雨ちゃんによる紹介が終わり、私たちギャラリーに向けてにこやかに手を振りながら移動する。

 そして、所定の位置について静止した瞬間。

 空気が、変わった。

 その屹立の美しさに、思わず背筋が伸びる。

 そして――静寂。

 これだけの観客が集まっていてその誰もが私と同じように飛龍の立ち姿に息を飲み、声も出せずにいる。さっきまでその辺で鳴いていたはずの海鳥はいつの間にかどこかへ行ってしまった。風は急に止んでしまい、波も穏やかで寄せる音もしない。工廠の向こうでは今もお祭りが行われているはずだが、その喧噪さえ聞こえない。この空間のすべての存在が、飛龍の挙動に支配されている。

 ゆっくりと飛龍が息を吸い込んだ。

 弓を構え、引き、そこでまた静止。

 その姿を見て心臓が血液を送り出すのを止めてしまった。一瞬は引き延ばされて永遠と化してしまった。

 長く短い停止した時間を切り裂くように飛龍が矢を……放つ!

 放たれた矢は航空機へと姿を変え、一直線に目標へと向かってゆく。

 その手前で急速に上昇したと思ったと同時に。

 水柱が上がり的が破壊されたのが見えて。

 続いて飛龍のもとに戻ってきた航空機が飛行甲板に着陸し、矢の形へと戻った。

 そして再びこの空間は静寂を取り戻した。

 ……その緊張に耐えられなくなった一人の観客の始めた拍手は堰を切ったように周囲に広がり、私も思わず大きく歓声を上げてしまった。

「え、えええ何あれやっば! 飛龍すごくない!? いつもあんな感じなの?」

「いやー、普段はあそこまでじゃないけど、マジになるとたまにあんな具合だよ」

「なんか飛龍さん、どんどん加賀さんに近付いてるよね」

 万雷の拍手喝采はなかなか鳴り止まず、時雨ちゃんが飛龍に近付きインタビューを始めてようやく収まった。

『飛龍さん、ありがとうございました。弓道は以前からやっていたんですか?』

『いえ、私は艦娘になってからです。覚えるのは大変でしたが、厳しいけど優しい先輩が辛抱強く教えてくれたので、ここまで引けるようになりました』

 きっとそれが加賀さんのことなのだろう。加賀さんの弓引きを見たことはないが、飛龍のそれを見ればどのようなものなのかはなんとなく想像がつく。私の想像力では及ばないほどのものなのだろうということも含めて。

『ありがとうございました。以上で稼働展示を――』

『訓練放送、訓練放送。港内に所属不明の航空機を確認。基地へ接近中。訓練放送繰り返す、港内に所属不明の――』

 時雨ちゃんが締めの言葉を始めたところで、割り込みのアナウンスが入った。この声はゴトさんだと思うけれど、どういうことだ?

「あっ、あれ!」

 群衆の誰かが叫ぶ。白鳥大橋の方から航空機が唸り声をあげて飛んできているのが見えた。一体何がどうなっているのか。

 その次の瞬間。

『残念だったね』

 いつの間にか背負っていた艤装を展開させていた時雨ちゃんが飛龍の前に立ち、砲を構えていた。

 主砲の上部に取り付けられた二本の細い砲身を、スピードを緩めることなく向かってくる航空機に向け……撃った!

 時雨ちゃんの砲撃は航空機の両翼に命中した。ペイント弾だったようで、水色の機体にはべったりと緑色のペイントが貼りついている。航空機は旋回し、時雨ちゃんのすぐ近くに着水した。

 『……と、このように海上だけでなく、空を守るための対空射撃の訓練も実施しています。今回の奇襲を演出してくれたのはスウェーデン出身、第一部隊所属の防空巡洋艦ゴトランドでした』

 時雨ちゃんが紹介すると工廠棟の進水口からゴトさんが現れて、また大きな拍手が会場を包んだ。

『ということで今度こそ、稼働展示は終了となります。引き続き秋刀魚祭りをお楽しみください』

 

 稼動展示が終わったのを見計らったかのように石塚さんから電話が入って、そこで私は二人と分かれた。もちことしらは工廠に行き、展示を終えたみんなを労いに行くそうだ。それも冷やかしって言うんじゃないのかな。

 その後は午前中よりも一気に忙しくなった。執務室に戻ってすぐ隊の説明会セッティングを手伝ったのだが、なんと満席となってしまい追加の椅子を入れてなお立ち見が出るありさまだった。

 それが落ち着いたと思ったら今度は個別相談会の方から呼び出しがかかった。聞けば事務官になりたいという大学生が来たということで、話をしてあげてほしいという依頼だ。まさか私が相談を受けることになるとは思わず驚いた。

 ブースについてみればさっきは秋月ちゃんだけだった相談員メンバーに、イムヤとバリさんも動員されていた。どうも、稼動展示が終わってから急に相談の希望者が増えたのだそうだ。説明会に人があふれたのもそういうことなんだろう。あれだけすごいものを見せられたらそりゃ興味も湧くよなあと思いつつ、ブースに来た大学生の子に今やっている仕事と公務員試験の勉強について話をしてあげた。何も準備をしていたわけではないので、参考になるような話ができたかどうかは分からないけれど。

 忙しくしている間に秋刀魚祭りも終了の時間となった。遊びに来ていただけの支援シフト組も交えて総出で撤収を終えた後は、いよいよここからが本当のお楽しみとなるお疲れ様会だ。

 こういう基地全体イベントの打ち上げは決まって食堂で行われる。提督の伝手で紹介してもらった市内の酒屋さんにお酒とオードブルを届けてもらってのパーティだ。しかも今日は祭りで余った秋刀魚を一気に消費してしまおうという趣旨も含まれているらしい。さっき塩焼きを食べたばっかりだが、一緒にビールを飲めなかったのでそのリベンジといこう。

 今日は艤装展示を担当していた明石さんが、会が始まる前から「これは乾杯の練習だよ」と言ってビールを注いでいたので私も与ることにした。一仕事を終えた後のビールが身に滲みる。

 

 会は提督と石塚さんの挨拶で始まった。

 宴が始まってしばらくした頃、急に食堂の電気が落とされた。出入り口脇の白い壁をスクリーン代わりに、プロジェクターでパソコンの画面が映し出されている。

「さあさあスクリーンにご注目! 今日青葉が撮ったみなさんの写真をお見せしちゃいますよぉ~!」

 青葉さんがマイクを持って立っていた。さっきから姿を見かけないなと思ったら、もしかしてこれの準備をしていたのか。

「まずは我らが班長石塚さんの朝一の雄姿です!」

 画面には私が今朝、人に見せられないようなと形容した石塚さんのぐったりした姿が映し出されていた。その瞬間にどっと笑いが起こる。

「おっと笑っちゃいけませんよ皆さん。今回のお祭りの一番の立役者ですからね! 今週もずっと忙しくしていて、今朝も朝早くから活躍されていたからこその姿です!」

「おい青葉ァ! なにもこの写真じゃなくていいだろ!」

 石塚さんのツッコミにまた笑いが湧き、続いて自然と労うような拍手が起こった。

「続きましては~、今朝帰投した皆さんの写真ですねえ。お疲れながらもいい笑顔で映っています。おっとこちらは村雨さん! 今回の成果はいかがだったでしょうか。村雨さん、いますか?」

 写真には制服ではなく赤い防寒ジャンパーを着たさめちゃんが写っている。これを見て確かに彼女も「釣り人」なのだということがようやく繋がった気がする。

「はいは~い、今回村雨は、九三尾でした~!」

 さめちゃんの戦果報告にまた拍手が湧き起こる。それは良いんだけど、哨戒というか漁船の護衛をしながら釣ってたんだよね? 一日あたり九尾くらい釣ってやいないか。さめちゃんのことだから、本業を疎かにすることはないと思うが。

「続いて、こちらは満潮さんと長門さんですねえ。秋刀魚ブースをものすごい勢いで捌いてくれました。次は、松輪さんと対馬さん! 一緒に写ってるのはですね、高校の同級生が遊びに来てくれたんだそうです」

 真剣な表情で秋刀魚を焼くみちこちゃんと笑顔でお客さんを迎える長門さん、それから法被姿の松輪ちゃんと対馬ちゃんが次々に映し出された。みんな良い表情をしている。

「ここからが見どころ、稼動展示のコーナーです! こちらが本番直前の出演者たちの様子です。緊張していますねえ~」

 これは進水口の内部で撮られた写真だろう。この基地では珍しく私も立ち入ったことがなくて、初めて見る場所だ。ゴトさんが時雨ちゃんの肩を揉んでいるところが写っている。

「まずは伊勢さん! 砲撃を外して『もう一回!』ってやってるところですね」

「こ、これ小縣さんの考えた台本通りだから! 外したのもわざとだからね!」

 言い訳をするような物言いの伊勢さんにまた笑いが起こる。続いて由良さんの写真が何枚か並べて映し出された。

「そしてこちらが由良さん! この写真だけで何をやってるか分かる方もいるんじゃないですかねえ」

「えっ、これ由良のノーアクション雷撃だよね? あれやったの!?」

 タシュケントが驚いたような声を上げた。やっぱり見る人が見れば分かるんだなあ。

「それから飛龍さん。もうあの場を完全にモノにする立ち姿はかっこよかったですねえ」

 スクリーンには精悍な顔つきの飛龍が大写しになり、みんなが「おぉ~」というため息を漏らした。それを見た蒼龍が飛龍といちゃついている。

「飛龍、かっこいーじゃ~ん」

「いやあ、こうやって見せられると恥ずかしいってぇ」

「それから次はですね、そんな飛龍さんを見ていたギャラリーの写真です!」

 そう言って青葉さんが画面を切り替えて映し出されたのは……いや私たちじゃん! しらともちこと三人で並んでいて、私が唖然とした表情で写っている。青葉さん、いつの間に撮ってたんだ。

「ぷっ、あはははは! 英子、なんて顔してるんだよ」

「だ、だって飛龍がすごかったんだもん……もがみん笑いすぎー!」

「そして最後は司会も務めた時雨隊長がビシッと決めてくれました!」

「おー、時雨ったらカッコいいっぽい!」

 時雨ちゃんが主砲を構えている写真がほとんど正面から写っている。ずいぶんとすごい位置から撮影されていないか。これに限らず写真はどれも綺麗に写っていて、とても海の上から撮ったとは思えない。青葉さんはどれほど綺麗に航行するのだろう。

 その後も艤装展示でリアルサイズの航空機と一緒に明石さんとづほちゃんが写っているものや、ぽいちゃんとイムヤが秋刀魚を食べている場面、それから提督と鈴谷が説明会の壇上で喋っているところなどが続いて、最後に会場を空から撮影した写真が表示された。ドローンでも使ったのかと思ったらゴトさんが回転翼機を飛ばして、それで撮影したそうだ。でもそれって、ドローンと何が違うのだろう。

 

 投影が終わったあと、づほちゃんがぽつりとつぶやいた。

「あれ、青葉さんの写真、全然なくない?」

 言われてみれば、そりゃそうだ。だって青葉さんはずっと写真を撮る側だったのだから。

 その言葉を聞いたみんなは、一斉に青葉さんにスマホのカメラを向け始めた。近くにいたさめちゃん、石塚さん、時雨ちゃん、イムヤ、づほちゃん、鈴谷、おっ叢雲ちゃんまでも。せっかくだし私も撮ってあげますかね。秋刀魚と長いものには巻かれろというやつだ。

「っちょ、なんで青葉を撮るんですかぁ、青葉はいいんですよぉ!」

 青葉さんが叫ぶと、これまでで一番大きな笑いがこの食堂を包んだ。

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