大湊警備府室蘭分遣隊のべつまくなし忙しなし!   作:旧姓かわかみ

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一般人の基地職員がウォースパイトとアークロイヤルと初めて出会ったときってたぶんその高貴な見た目に圧倒されるんだろうなっていう話


番外編4「高貴なるあなたと」

 いつも通りお昼前に提督宛の郵便を届けに来た私は、執務室の扉が開いていることに気がついた。

 提督執務室の扉が開いているときというのは換気のためだったり、単なる閉め忘れだったりといくつか理由はあるのだが、客人が来ているというパターンも存在する。とはいえ、市・道の職員や議員などの対外的な来客であれば会議室にお通しすることになっているので、執務室への来客というのは他の基地の隊員などといった内輪の人間が立ち話程度のことをしている場合がほとんどだ。

 そういうことで、郵便を配達するときには室内に来客がいても入ってきてよい、ということになっている。もちろん様子は伺ってから入るようにはしているが、これまで特に問題があったこともない。

 それに、今日は横須賀から護衛艦が入港するという話を聞いていた。大方その乗員が提督とあいさつを兼ねて軽く雑談をしているのだろうと想像して、扉に近づき中の様子を伺ってみると、どうもちょっと様子が違うようだ。

「How are they doing, Jarvis and Janus?」

「Yeah, they are pretty good」

「Great! Ark, did Bismarck get along with you?」

「Quite sure! She seems to have gotten used to Japan」

「Still Murakumo, you got quite better in speaking English!」

「Really? If it so, I'd say thanks to Goto!」

 室内では秘書艦の叢雲ちゃんと二人の女性が立ち話をしていた。しかも英語で。叢雲ちゃんも混じって、三人で談笑している。イン・イングリッシュ。

 あっ、そういえば叢雲ちゃん、将来留学したいから、ゴトさんと時々英語でおしゃべりするようにしてるって言ってたっけ。中で何を話しているのか皆目見当もつかないけれど、ゴトさんの名前が出た気がする。そっか、だからああやって英語で談笑するという高度なこともできるんだなあ。

 そしてその相手というのが、一人は綺麗に切りそろえられたボブカットの短髪に美しいティアラを飾り、スラッとした出で立ちで白を基調としたドレスに近い西洋風礼服を身に着けた見目麗しい女性、もう一人は綺麗なブロンドのストレートロングヘアに首元を優美なネックレスで飾り、同じく白を基調としたオフショルダーのコルセットドレスを身に纏った瀟洒な女性だ。そしてこの、瀟洒な女性の綺麗なブロンドヘアには、どう見てもクラウン――我々庶民が気軽に身に付けるようなものではない――が、さもそこに存在するのが当然かのように乗せられている。その自然な佇まいの美しさに思わず息を飲んでしまった。

 ……ひょっとして、海外からいらっしゃった皇族の方と、その護衛騎士でいらっしゃる? 横須賀の護衛艦に乗ってお忍びでご遊覧あそばれてこの室蘭に立ち寄ったとか、そういうやつ?

 え、さすがに私この空間に入っていくだけの度量ないよ?

 ということで、また時間を改めようと思ってそそくさとこの場を離れようと思ったその時。

「Ah, Murakumo? Someone stands out of door.」

「Someone? Ahぁー、英子! 何してるの? 入っていらっしゃい」

 見つかってしまった。どうやらしかも、その皇族と思われるお方の目に入ってしまったらしい。ここで逃げてしまうのは失礼にあたってしまうだろう。というかまるで覗き見をする不審者だ。観念して中に入るしかあるまい。

「あ、あの、叢雲ちゃん、郵便、なん、だけど……あっ、えと、失礼します」

 すごい、信じられないくらい早口でどもってしまった。いや~~~~~この空間私が入っていいところじゃないって絶対。どうしよう。あっ、郵便を持つ手に汗が。

「ありがとう。もらっておくわ……どうしたの?」

 叢雲ちゃんが何をそんなに、という顔をして聞く。いやいや、どうしたのじゃないのよ。むしろ平気でいられる叢雲ちゃんの方がどうしたのって聞きたいくらいだよ。

「いや、だってこんな位の高そうな方がいらっしゃるから入るに入れなくてさ……」

 失礼なことを言っているわけではないし、たぶん私の言葉は通じないだろうけれど、それでも私は声を限りなく小さくして叢雲ちゃんの問いに答えるよりほかはない……と思ったら。

「あら、そういうこと? よかったじゃない二人とも、高貴に見えるらしいわよ」

「ふふっ、そうか、そう見えるのか、少し気恥ずかしいな」

「あの、ごめんなさいね、お邪魔しちゃって」

「……へぁ? あ、い、いえ……」

 あっ、ニホンゴ、オジョウズデスネー。じゃなくて。あの、えっと、理解が追い付かない。落ち着いてお前の罪と素数を数えろ。ちょっと待って? そんなことより今、私こんな高貴な方を謝らせてしまったのでは? いやダメでしょ。どう考えてもこの場合は私が生きててごめんなさいでしょ。今すぐにでもジャパンの伝統芸能、ハラキリをご覧に入れて見せましょう。叢雲ちゃん、介錯は任せた。

「この二人はウォースパイトとアークロイヤルよ。イギリス出身の艦娘で、今は横須賀の基地にいるの」

「あっ、い、イギリスからいらしたんですか」

 突然の出来事に心は防衛反応のように饒舌になるも、口からは何一つ言葉が出て来ずに固まっていたら、なんと叢雲ちゃんがこの高貴なお二人を紹介しはじめた。未だ理解が追い付いてこない私はオウムのように叢雲ちゃんの言葉を反芻することしかできない。

「で、こっちは松山英子。この室蘭の総務を一人でみてくれている事務官よ」

 そしてあろうことか私などのような平民を二人にご紹介奉り出した。あっ、そうか、これから切腹ショーが始まるからその舞台に立つもののクレジットは出してくれるっていう武士の情けということね? 叢雲ちゃん、やっさしー☆ ……じゃなくて。

「なんと、一人で!? さぞ優秀な方なのだろうな」

「私たちが何の心配もなく前線に出られるのも、事務官の皆さんのおかげです。Thank you very much indeed!」

 え? 私いま褒められてる?? 感謝の言葉を頂戴してしまっている??

 さっきから現実は私の理解をはるかに超越してきている。事実は小説より奇なり、というのはまさしく真実であるのだなあ。否、むしろ貴ばれるお方であるからこそ、私のような存在にもこのように接してくださるのだろう。

「いやあ、あはは、そんな、防衛に直接携わってる皆さんに比べたら、私なんて」

「ふふっ、英子、緊張しすぎでないの?」

 そんな私の内心を見抜いたのか、叢雲ちゃんがあえて冷やかすように言う。

「だ、だってえ」

「二人とも私と同じただの艦娘よ? でも確かに英国出身の子はみんな見た目はお上品よねえ。見た目は」

「むっ、聞き捨てならんな。中身だってそう変わらんだろう」

 叢雲ちゃん、そんな失礼なことを言っちゃダメだよう。アークロイヤルさんがムッとした表情を見せて言い返す。

「そうかしら? アークはこう見えて結構酒癖が悪いのよ。ウォースパイトだって日本のジャンクフードにどハマりしているし」

「そ、それは……まぁ、否定はできないんだが」

「ふふ、でもそうね、あまり緊張しないでくださいね」

 ウォースパイトさんが優しく語りかけてくれた。その微笑みが却って優美さと高貴さを演出して余計に女王の貫禄を感じさせるんですけど? そしてこんな二人の意外な一面はギャップという形でそれぞれの魅力に奥行きを与えたようにも思う。たとえ王侯貴族でなかったとしても、二人が私とは違う空気をまとっている事実に変わりはない。

「二人とも、明日までいるんでしょう? 今晩一緒に行きたがってる子、多いわよ」

「ああ、もちろんだ。ユージンから聞いているが、室蘭はヤキ・トーリが名物なんだろう?」

「そうよ、その焼鳥で有名なお店とってあるから。したっけ英子も一緒にどう? 今晩、鳥辰よ」

「ええっ? 大丈夫なの!?」

「何がよ」

 何がじゃないんだよ。全部問題だよ。どうして叢雲ちゃんはそんなに平然としていられるの。

「いや私なんか同席しちゃっていいの、しかもそんなその辺の居酒屋なんて」

「だから二人とも高貴でもなんでもないんだって」

「言い方は気にかかるが、私たちはみんな好きだな、日本の居酒屋は」

「もしご迷惑でなければ、いらしてくださいね」

 ひぇっ、二人の笑顔とやさしさがまぶしすぎて直視できない。やっぱり切腹した方がいいかな。叢雲ちゃん、いい得物持ってたよね?

「あっ、きょ、恐縮です。私なんかでよければ……」

「酔っ払ったアークを見たらそんなことも言ってられなくなるわよ……あら?」

 すっかり私が及び腰の姿勢を見せていると、扉の外から複数人の足音と話し声が聞こえた。かなりの人数のようだけれど……と思った次の瞬間。

「アーちゃん来てるって!? わー! 久しぶりー!」

「ヒリュー、ソウリュー! 二人とも変わらないな!」

「ウォーちゃんも元気?」

「えぇ、変わらずよ。Ah,伊勢じゃない。しばらくぶりね」

 二人が来ていることを聞き付けたであろう隊員たちがこの狭い提督執務室に駆け込んできた。彼女たちも叢雲ちゃん同様、すごくフレンドリーに二人に接している。

「Hi Warspite, it's been a while」

「Oh Goto, it’s great seeing you again!」

「瑞鳳、見ないうちに背のびたか?」

「ちょっとアークさん、分かってて言ってるでしょー!」

 ……しかし、こうやってみんなと話しているウォースパイトさんとアークロイヤルさんを見ていると、勝手に高貴な人だと決めつけて距離を感じているのは自分の方だったと気付く。二人とも初対面の人間に心を開いてくれているのに、それをまるで拒絶するかのような態度を取っているのは私の方じゃないか。

 これまでも会ったばかりの人に対して、自分の印象だけで人となりを決めつけてしまうことは、よくやってしまっていた。これが私の癖なんだろうと思う。よくないと思っていても、そう簡単に変えられるわけではない。

 けれど、少なくとも今私の目の前にいるウォースパイトさんとアークロイヤルさんは、私に対して何の分け隔てもなく向き合ってくれた。いつまでも変に畏まってしまっては、二人の厚意を無下にしてしまうことになる。却ってその方が失礼にあたるというものだろう。

「あんたたち、話も良いけど、そろそろお昼の時間よ。二人も食堂で食べるでしょう?」

「Sure. 北海道の食事は美味しいと聞いたのだけれど、食堂もそうなのかしら?」

「どうかしら。普通だと思うけれど」

「私は他の基地より美味しいと思うよ。叢雲は北海道育ちだから舌が肥えてるんじゃないの?」

 伊勢さんの言葉にどっと笑いが起きる。

「そ、そんなことは良いから! さ、行くわよ!」

 叢雲ちゃんの掛け声を受け、室内のメンバーが食堂に向かい始めた。みんなに囲まれていたウォースパイトさんとアークロイヤルさんも、その後ろをついていくような形となった。

 きっと他にも二人と喋りたい隊員はたくさんいるはずだ。この機を逃せばしばらく話もできないだろう。みんなの勢いについ圧倒されてしまっていたけれど、話しかけられるチャンスはここしかない。

 一息ついてしんがりで部屋を出た私は、まず一歩前を歩くクイーンに声をかけた。

「あ、あの、ウォースパイトさん――」

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