彼女は窓からやってくる。(旧題:異世界から帰ってきたら、窓から入ってきた魔女と青春ラブコメが始まった。)   作:さちはら一紗

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第六話 わたしの初恋、再想。

 

 わたしの矛盾(のろい)は、恋を嫌いながら恋に憧れたことだった。

 

 

 ◆

 

 

 ──ほんの少しだけ、昔の話だ。

 それは未だ色褪せない初恋の記憶。向こうの世界に落ちた後も反芻し続けた、文化祭の喧騒遠い二人きりの教室での思い出。その、続きの話だ。

 

 夕陽の射す教室で、たわいもない話をした。

 かつての陽南君にわたしは元々淡い憧れを抱いていたけれど。その時交わした話の内容こそが、わたしが明確に彼に恋をしたきっかけだった。

 あたり触りのない世間話の途中。話の種になったのは彼がわたしにくれたコーヒー、それについていた懸賞の応募券のことだった。──懸賞の一等は、行き先を選べる旅行券だという。

 

「いいよな、こういうの。夢がある」

 

 彼がそう言ったからわたしは訊ねたのだ。何気なく。

 ──もしも、どこにでも行けるチケットがこの手にあるのなら。

 

「陽南君は、どこに行きたい?」

「どこにでも、かぁ……」

 

 彼は分厚い眼鏡の奥で両の黒目を輝かせて、迷わず言ったのだ。

 

「なら、一番遠いところがいいな!」

 

 飛行機で何十時間もかかるような、はてしなく遠い場所に行きたい、と。

 

「世界の果てって感じで、なんかいいだろ?」

 

 好奇心と憧れだけで、屈託なくそう語る彼の目が眩しくて。わたしは二、三度瞬きをした。

 

「俺さ、いつかすげえ遠いところに行くのが夢なんだよね。未来の懸賞には宇宙旅行があったりするんだろうなー」

 

 けれど眩しいのは窓の夕陽のせいではないと示すように、心臓がとくとくと早鐘を打っていた。

 別にこれは、なんでもないたとえばの話だ。ただの雑談のはずだったのに。

 ……何かとてつもない、秘密を聞いてしまったような気がした。

 後に相槌と返答。雑談を広げて、いくつ言葉を重ねても、鼓動の速度が緩まなくて。多分これが恋なのかもしれない、と思った。けれど。

 

「文月は、どこに行く?」

 

 と、彼が聞き返した時に、心臓がぴたりと止まった気がした。

 

「わたしは…………」

 

 わたしは、うまく答えられなかった。自分から話を振ったくせに。いつもなら上手に話せたはずなのに。

 当たり障りもない、いかにも『文月咲耶』が答えそうな旅行先すら、でっち上げることができなかった。気付けばわたしは、何も取り繕わずに話してしまっていた。

 

「どこにでも行けることになったとして……わたし、どこにも行かないかもしれない。きっと選べない」

 

 零れてしまった場違いな返答に、陽南君は気を悪くもせず。

 

「いいんじゃないか? 行きたいところが沢山あるってことじゃん」

 

 わたしの本音(ことば)を、否定しなかった。

 

 わたしがわたし自身の言葉を肯定されるということ、それは猫を被るようになってからはすっかりと覚えがなく、なんなら幼い頃だってろくに経験がない。だからきっと、嬉しかったんだと思う。けれど、それ以上に。

 つきり、と心が痛んだ。

 ──ああ、この人は。わたしと本質的に真逆なんだ、と。

 

 ……ちがう。ちがうのよ陽南君。わたし、行きたいところが沢山あるのではなくて。

 わたしはどこにも(・・・・)行きたくない(・・・・・・)だけなの。

 

〝その場に留まるためには、全力で走り続けなければならない〟

 それがかつてのわたしの教訓で、規範(ルール)だった。

『文月咲耶』を演じたわたしの努力はすべて、(ここ)にとどまるためのもの。ある日突然与えられた十分な幸福が、手のひらから零れ落ちてしまわないように、必死で留めるためのものだった。

 

 確かに、幼い頃には願っていた。いつか誰かに「ここではないどこか」へ連れ出してほしいと。魔法使いを、白馬の王子様を、ヒーローを、馬鹿みたいに信じていた。

 けれどその願いはとうに叶っている。わたしは「文月咲耶」になった。だから、そんなものはもういらない。

 「一番遠くまで」なんて夢物語を。わたしには語れないのだ。

 『完璧』を演じて生きる道を選んだわたしは、たとえどこにでも行ける自由と力があるとしても、この場所に留まり続けることを選ぶ臆病者だから。

 ──同じ夢を、同じ願いを、同じ景色を見ることができない。

 

 わたしは、わたしにできないことができる人が好きで。だからわたしは、彼のことを好きになってしまって。

 でも──釣り合わないな。わたしなんかじゃ、あなたには。

 そう思ってしまったから。わたしの初恋は一瞬で、失恋になった。

 

 ──叶わなかった恋の名前はきっと、〝憧憬〟なのだと思う。

 

 

 ◆

 

 

 

 

 芽々の家から、わたしはひとり帰り道を行く。

 日は丁度沈みきったところで、空は薄らと明るい夜の色だった。けれど空に月は見当たらず、もうすぐ新月だったことを思い出す。

 ひと気のない、どこか寂しい道を歩きながら。わたしは自覚してしまったことについて考える。

 

 ──わかっている。

 今更、『完璧』にこだわる必要はない。何故なら、それは既に落としたものだから。今のわたしがたとえ思いのままに振る舞っても、失うものは何もない。

 

 ──わかっている。

 今更、どの口で「恋なんてしていない」と言い張っているのだと。死ぬほど往生際が悪いわたしでも、いい加減認めなければならない。わたしは今でも、彼への想いを捨て切れていない。

 

 ──でも。

 恋を追うことはみっともなくて汚いと、今でも思う。

 だってそれは「思いのままに振る舞う」ということだ。

 根暗で浅ましいわたしの恋心(それ)は嫉妬と独占欲でできている。

 わたしは所詮、わざわざ彼の隣に引っ越して、暇さえあれば彼の部屋の窓を眺めて、半無意識で盗撮未遂し、理由をつけては彼のことをつけ回し、あまつさえ……閉じこめて自分だけのものにしようとするような女だ。

 暴走の末に反省を重ねた今ですら、彼がわたしの知らない女の名前を呼ぶだけで嫌だと思ってしまう。「これは恋ではない」と最大限にブレーキをかけてなお、この有様だ。わたしは、わたしの理性が弱いことをわかっている。

 

 ──だからもし、わたしが本当に欲望(のぞみ)のままに振る舞えば、どうなってしまうのだろう。きっとろくなことにはならない。……それが怖い。

 許されるのは好意と誠意、恩義と憧れ、そして少しの感傷と悟られない量の後悔だけ。それを「愛」と定義して正当化したのだ。

 

 恋、なんかより、そういう真っ当な感情だけを捧げたい。汚い欲をぶつけて(けが)すことなどしたくない。醜い執着なんかには、従いたくなかった。

 ──わたしは彼を愛しているからこそ、恋に身を委ねたりはしないのだ。

 

 それに。昔の陽南君と今の飛鳥の違い。あいつは「大丈夫だ」と言ったけれど。戻れない変質があることは、彼自身もわかっているはずだ。

 ──わたしは、わたしが好きだったあなたがもういないことくらい、ちゃんとわかっている。

 

 それでも愛すると決めたけど。わたしがまだ、昔の彼を好きであることは認めるけれど。

 今の飛鳥に恋は……きっとできない。

 

 だってそれは、どうしたって昔の陽南君への感情が混ざるだろう。

 昔の彼への感情を今の彼にぶつけることは、とてもエゴイスティックでグロテスクだと思う。

 ──寧々坂芽々のように、わたしは今の彼を喜んで肯定することはしない。できない。

 ──わたしの知らない彼の後輩のように、今の彼を否定することもしたくはない。してはならない。

 

 過去(うしろ)には手遅れの失恋。未来(まえ)に進めば醜いエゴでしかない感情。

 例えるならば、わたしたちの関係は結婚する(むすばれる)前に離婚(はたん)してしまったようなもので。

 だから、わからないのだ。いずれ恋人に至る友達以上の関係の、やり方が。

 

 何せ、今のわたしには指針がない。

 祈るだけだった幼い咲耶(わたし)はもう死んで。

 完璧に縋るばかりの文月(わたし)はもう死んで。

 我儘を唱えるための魔女の役すら、すっかりと休業中だ。

 彼だけの幸せを願ったことも、真っ向からあいつに砕かれて。

 今のわたしは、わたし自身が「何」なのかすらわからない。

 

 はたして一体、わたしの今の願いはなんなのかすら。自分ではわからなかった。

 

 ……それが、わたしが彼の言葉を受け入れられなかった理由のすべて。

 ずっとこのままでいたいと言った、理由だった。

 

 

 

 

 

 

 ふと、携帯端末(スマートフォン)が震えて、立ち止まる。

 画面の通知を見れば、飛鳥からのメッセージだった。

 

『咲耶、明日の夜空いてるか』

 

 淡白で簡潔で顔の見えない文言に、すぐさま返事をする。

『当然』、わたしの予定はいつだってあなたのことが最優先だ。

 

『ちょっと付き合ってくれ』

 

「…………どこに?」

 

 

 

   ◇

 

 

 

「こんなところに呼び出して、一体何?」

 

 次の日。日没後の学校の屋上に、約束通り咲耶は来た。

 今日の咲耶は、料理の際でもないのに珍しく髪型を変えていた。両側に結んだ長い三つ編み。髪型自体は古風なのに、咲耶がすると不思議と垢抜けている。

 その上いつもの白い眼帯は無く、咲耶の両目は揃いの自然な茶色だった。芽々に譲ってもらったという例のコンタクトのおかげだ。少し意識を集中すれば左目は赤く見えるのだが、こうして見るとまるで昔に戻ったような、妙な気分になる。

 妙、を言い換えるとなんだろう。懐かしさともうひとつ何かの感情が混ざっている。焦り、だろうか?

 ……ああ、そうか。早くこれを現実にしなくちゃな。

 そう思いながら、返事を返す。

 

「何って、天体観測に誘ったんだけど?」

「……はい?」

「いや、芽々に誘われて部室に入った時から思ってたんだよ。天文部だった時の望遠鏡とかが部屋に残ってただろ? それで久々にやりたくなって、借りてきたんだ」

 

 なお、今日は屋上に進入していない。使用許可はあっさりと取れた。

 しかし咲耶は微妙な顔をしている。

 

「あれ。もしかして伝わってなかった?」

「聞いてない。『夜の屋上に集合な』って言われただけ」

「でも夜の屋上でやることなんて、決まってるだろ?」

 

 咲耶は首を傾げる。三つ編みが振り子のように揺れる。目で追う。

 

「ねえ飛鳥。わたしとあなたの常識は違うのよ?」

「……そうだったな。うっかりしてた」

 

 早朝と昼休みに補習の予定があったため、今日は咲耶とあまり話せていなかった。そのため、昨日メッセージで伝えたきりだったのだが。どうやら俺たちは文字でやりとりをすると伝達率が下がるらしかった。次からはせめて通話にしよう。

 

「ああそう、言いそびれてたけど。今日の髪型めちゃくちゃいいな。新鮮だ」

「……ふぇっ!?」

「いい編みだな。綱引きしたくなる」

「……いや、褒めるならちゃんと褒めなさいよっ!」

 

「かわいい」

 

「……ッ!!!!」

 

「あっおまえ今、舌噛み切っただろ!? なんで!!?」

「こふっ……」

「あーあー、口から血出てるし! もう褒めない! その癖直さない限り二度と褒めないからな!!」

 

 最悪だクソッ!

 

 

 ◇

 

 

 気を取り直して、天体観測である。

 

 正直なところ、話をするにはまずそれなりのシチュエーションが欲しかったのだ。経験上、普段通りだと誤魔化してしまうのはお互い様だった。その点屋上は文句なしにいい。逃げ場がない。

 まあ、久々に観測をやりたかったのは本当だ。

 

「そういえばわたし、望遠鏡覗いたの初めてだわ!」 

「でかくてカッケーよな、望遠鏡」

「え、それはわかんないけど」

「?」

 

 ちなみに、思っていたよりも俺はこの手の知識を忘れていて困った。……自分で誘っておいたくせに駄目だな。だが山間の町の夜空は雲もなく、丁度いいことに新月で、星がよく見えた。まあ、十分だろう。

 

「どうせなら都合よく星でも降ってくれたらよかったんだけどな」

「流れ星を雨みたいに軽く求められても……」

「意外と降るぞ。意外と」

「ていうか思ってたのだけど。飛鳥ってそもそそもなんで宇宙が好きなの?」

「え、人はみんな好きだろ?」

「別に」

「そんな」

「あんたいい加減自分を人類代表だと思うのやめなさいよ」

 

 俺以外全員、人類の自覚がないな。

 しかしあらためて聞かれると……

 

「なんだろ。好きに理由とかいらないと思っていたからな。理由……遠いから?」

 

 空を見上げる。日没の空はまだうっすらと明るく、夜というには浅い色だ。けれど浅く見える宵の空も、手を伸ばしても届かないほど遠いことに変わりはない。

 

「多分……絶対的なものが好きなんだよ俺。人ひとりじゃどうしようもないような、絶対的な何かが」

 

「『絶対的』ってつまり『最強』ってことだ。最強はカッコいい。だから、深海とか南極とか宇宙とか。絶対的に遠くて、過酷で、手が届かなさそうな場所に惹かれる」

 

「そんで、人間の足じゃ辿り着けないはずの場所に行けてしまった人類が好きだ。それってほら──最強にカッコいいだろ?」

 

 咲耶の方を見れば、彼女は「馬鹿の語彙ね。いい笑顔で何言ってんだか」と呆れたように笑って言っていた。

 

「でも、ちょっぴり理解できるかも。共感はしないけど」

「はは。あんまり合わないよな、俺たち」

「今更ね。だから天文部だったの?」

「ああ。なんせ天文部は、隕石が部費で買える」

 

 咲耶の表情が渋くなる。

 

「……あんたのその、隕石への執着は、何?」

 

 何、と言われても。

 

 

「だって。絶対的に届かないはずの宇宙が、向こうから来てくれるんだぜ? ──それは最早、()だろ」

 

 

 あーあ。この言葉も、咲耶に向けてじゃなければ言えるんだけどなあ。

 

 咲耶がぱちくりと目を瞬いて、渋柿三個を一気に食った時みたいな顔をした。

 

「うっそ……こいつ宇宙人なの? 意味わかんないんだけど」

「あ? おまえに宇宙人呼ばわりされる筋合いねえよ」

「は? わたしのどこが宇宙人だっていうのよ」

「うるせえ脳味噌ミステリーサークル」

「なにその悪口!?」

 

 肩をガクガク揺すられた。うざい。

 ひとしきり揺すって諦めた咲耶は、屋上に座り込む。

 

「はーあ、あんたがこんな奴だとは、ほんっと思ってなかったわ……」

「それ、この前から聞いてるけどさ。おまえ、俺のことなんだと思ってんの?」

 

 三角に立てた膝の上、組んだ腕に、咲耶は頭を乗せて横の俺を見た。伸びた首、編んだ髪の隙間から白いうなじが見えて、どきりとする。

「そうね」と少し考えて、咲耶は、

 

「あなたは。何考えてるかわかんないし、すっごくばかで時々無神経で、ありえないくらいに楽観的だけど……世界で一番信じられる、」

 

 ふわり、と柔らかく微笑んだ。

 

 

「──わたしの、絶対のヒーロー」

 

 

 その、答えに。

 絶句する。

 

「…………お、まえ」

 

 いや、(おっも)っ…………!!?

 

「なんでそんな、開けっ広げに言えんだよ!!? 正気か!? 恥がないのか!?」

 

 この前までの澄ました猫はどこやった!?

 だが咲耶は顔色を変えるでもなく、拗ねるように唇を尖らせる。

 

「なによ。秘密は無しでしょ?」

「だからって、言っていいことが……!」

「悪いの?」

「悪くは、ない、けど」

 

 ……こっちが恥ずかしくなる。

 

 なんだか、咲耶の様子がいつもと違っていた。髪型とか、見た目の話だけではない。何か心境の変化でもあったのだろうか?

 

「ま、安心して。今はそれ以上に飛鳥のこと、変な子だと思ってるから」

「……子? 子供扱いされてる? 失礼な」

「たまには自分を振り返ってみたら?」

「は? しっかりしてるだろうが。十八だぞ」

「そういうところが子供なのよ」

 

 なんでだよ。

 くすくす、と楽しそうに笑う咲耶には言い返せない。

 

 

「……ねえ、もしもの話をしてもいい? もしも二年前、異世界転移(あんなこと)がなかったら……あなたのことを、こんなに知ることもなかったのかしら」

 

 もしも、何も起きなかったら。まともに話したのは一度きりで、そのまま何事もなく同級生ではなくなっているはずだった。でも。

 

「どうだろうな。俺は結構、未練がましいやつだったから。あのまま普通に進級できていたとしても、なんだかんだと理由をつけて文月に会いにいったかもしれない」

「……そんなに好きだったの? わたしのこと」

「まあ。終業式の日に、フラれるとわかっていて告白しようかと考えるくらいには」

 

 咲耶は驚いて固まっていた。照れすらしなかった。多分、あまりにも想定外だったんだろう。

 ……俺も正直、昔の俺(じぶん)の発想に引くけどさ。

 フラれるってわかってて告白するって、どう考えてもエゴだよなぁ。

 ──結局、あの時は実行できないまま時間が過ぎて。別々に教室を出た後、転移に巻き込まれたのだが。

 

 もしも。あの時それを実行していたら、どうなっていたのだろう。未来は変わっていたのだろうか、なんてことを考える。

 バタフライ効果、というやつだ。蝶の羽ばたきが竜巻を引き起こすかもしれないように、ほんの些細な違いひとつで因果が変わることも考え得る。

 だから、もしかしたらたったひとつの行動で──たったひとつ告白さえしていたら、あの時、二人で教室を出てそのまま召喚なんて起こらない、都合のいい未来に分岐したんじゃないか。そんなくだらないことを考えてしまうこともある。

 

 ──あの時の俺は、何も言わずに終わらせるのが『正解』だと信じていた。

 文月が自分以外の誰かと幸せになるなら、それでいいと思っていた。

 でも今は、絶対に嫌だ。めちゃくちゃ嫌だ。

 それが、ただの執着(エゴ)だとしても。分別と物分かりがいいフリは、絶対に違う。

『正解』にこだわること、それが『間違い』だったかもしれないのだ。

 

 ──だから、今度の俺は〝正しい間違い〟すら選んでみせる。

 昔の俺(アイツ)と同じ轍は踏まない。そう、あの夜に決めている。

 

「なあ、咲耶」

 

 ──そう、やることは同じなのだ。

 咲耶があの夜、俺に喧嘩を売ったように。場を整えて、罠を仕掛けて、宣戦布告、主導権を手放さない。

 今度は俺が、おまえの呪いに勝ちに行く。

 

 それじゃあ。彼女に合わせて、真正面からぶつかろう。

 

 

 

恋の(・・)定義を(・・・)決めようか(・・・・・)

 

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