彼女は窓からやってくる。(旧題:異世界から帰ってきたら、窓から入ってきた魔女と青春ラブコメが始まった。)   作:さちはら一紗

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第十六話 ガラスの靴も履けやしない。

 ──夢を、見ているのだと思った。

 

 気付けば知らないお城のような場所にいて、足元には光輝く魔法陣。まるで、異世界に召喚されたみたい。

 確か、さっきまで学校にいて。明日から春休みで。最後に、好きな男の子と話をしていた気がする。……あれも夢だったのだろうか?

 ふと制服のポケットに手を入れると、かさりと丸い感触がした。さっき彼に貰ったばかりの飴をかざす。

 

「……夢じゃない?」

 

 

 頭上に物音がする。高く吹き抜けた天井を見上げる。立ち尽くすわたしのことを、翼の生えた大きな黒い蛇が、見下ろしていた。御伽話のような竜は不思議と怖くなかった。

 

「ようこそ地球の少女」

 

 優しく穏やかな声音で、わたしにもわかる言葉で、竜は告げる。

 

「そして悪いが──ボクらのために死んでくれ」

 

 

「え……?」

 

 次の瞬間。左眼を撃ち抜かれた。

 ──あ、死んだな、と思った。

 痛いとも怖いとも思わずに、わたしは気を失う。

 だって夢なら、死んだら目が覚める。現実なら、死ねばおしまいだ。

 ならば、悲しいことは何もない。

 ただ。あの日の放課後、最後に彼に貰った飴玉が、手から転がり落ちてどこかへと消えてしまった。そのことが──とても、とても悲しかった。

 

 

 ◆

 

 

 ある日突然ここではない異世界へ。ずっと、そんな物語が好きだった。

 だけどそんなもの、ちっとも欲しくはない。

 屋根裏部屋のような幼少期は過ぎ去り願いは報われ、わたしのしあわせは今現実(ここ)にある。その現実に、留まり続けることだけが為すべきことで。何ひとつ間違えない〝完璧な人生〟だけが欲しいもの。

 だから。

 時計ウサギ(ワンダーランド)も、クローゼット(ナルニア国)も、あかがね色の本(ファンタージエン)も、家を飛ばす竜巻(エメラルドの都)もいらない。

 異世界なんて。〝ここではないどこか〟なんて、要らなかった。

 わたしは臆病だから、たとえどこに行けたとしても兎を追って穴へ飛び込むことはしないのだ。

 

 なのに──ある日突然、足元に大穴が空いた。

 

 

 ◆

 

 

 夢でもなければ、死んで終わりでもなかった。

 目が覚めた時、わたしは人の形をしていなかった。

 夥しく流れる自分の血。聞くに耐えない咀嚼音。大きな部屋の大きな寝台に寝かされて、半分だけの視界を埋めるのは蜥蜴や蛇に似た、竜の仔ら。わたしの身体は(・・・・・・・)喰べられていた(・・・・・・・)

 絶叫、現実を認識した途端に痛みで気絶して、再度意識を失う。繰り返し、繰り返し、ただずっとその繰り返しが世界のすべて。

 ──わたしは生贄なのだという。死んで、食われて、魔法を生み出すのが役目なのだという。

 

 抵抗したのは初めのうちだけだった。すぐに無駄だと悟った。わたしの身体に群がる小さな蜥蜴たちは、どれだけ「やだ」と泣いても聞いてはくれない。叫ぶのにも疲れ果てて、泣くだけになるのに時間はかからなかった。最初に撃ち抜かれた左眼だけは何故か戻らなくて、眼窩に涙が溜まって気持ち悪い。

 どうせなら、右眼も潰してくれればよかったのに。そうしたら、何も見ずに済んだのに。

 

「なぜ」

 

 痛みで朧げな意識の中で、虚空に何度となく尋ねた。

 ──何故、こんな目に合わなきゃいけないの? わたし、いい子にしてたでしょ? してたかな。死にゆく実母を呪うような悪い子だった。ずっと嘘吐きで人にいい顔ばかりして、誰にも本当を見せないで……そんな生き方は悪だったかも。でも、少なくとも、こんな、地獄に堕ちる理由は、無いでしょう?

 

 

「何故、と訊いたね。確かに、意味を知らずに死ぬのは不幸なことだ。教えてあげよう」

 

 翼のある蛇は言う。自ら奈落に突き落としておいて、哀れむ人でなし。その竜は魔法使いで、王なのだという。

 ──曰く、この世界は滅びかけていて。人と竜が千年の戦を繰り広げていて。互いが勝つために、別世界から切り札を呼び出した。

 

「けれど。千年前、我らは勝利のために〝魔女の血を啜る〟という過ちを犯した。美酒も過ぎれば毒、酔いは狂気に転じ、その血を口にしたすべての竜が狂った。新しく生まれる仔らも、同様に。そうして今や、正気の竜はボク一人というわけだ」

 

 狂った竜には意思もなく、魔女の血無しには制御できない。

 

「……本当に、反吐が出る。知性も矜恃も尊厳も全て失くし、獣に堕ちた。こんな種族は()く滅ぶべきだ。この星は、とうの昔に詰んでいる」

 

 赤い瞳には哀れみと怒り。

 

「『だが、我らが滅ぶよりも先に。あの醜悪な人類を、退廃の都をこそ、滅さねばならない。この星に引導を渡せるのは最早私しかいないのだ』」

 

 異世界(そちら)の言葉で何事かを呟いて。

 

「ボクにできるのはキミを最後の贄にすると誓うことだけだ。必ずや悲願を果たし、この星を滅ぼそう。繰り返された千年の召喚はここで終わらせる。

 ──キミの死は、ひとつたりとも無駄にしない」

 

 蛇は、竜は、魔王は、魔法使いは、そう告げた。その言葉は悪人にしては情け深く、綺麗事めいていて、その誓いには懺悔の響きがあった。本当はこんなことしたくないのだと、世界を呪うかのようだった。

 

 けれど。

 しらない。よくわからない。どうでもいい。謝られたって誓われたってわたしの地獄は終わらない。なら意味ない。自己満足の懺悔は偽善よりも悍ましく、憐憫こそを憎悪した。

 柔らかな寝台の上で、こふ、と血の塊を吐いた。

 窓は鉄格子で、手を伸ばしても届かない。そして伸ばした指先からまた、齧られて消える。魔法使いはとびきりに悪いやつで、十二時の鐘が何度なっても悪夢が覚めない。

 ──逃げなくちゃ。

 でも逃げるための足すら喰われ続けてもう爪の形も思い出せない!

 

 わたしはここで、死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで死んで。

 

 仕方がないから、〝夢〟を見ることにした。

 

 

 

 

 ──気絶と睡眠の違いは、もうわからなくなっていた。

 死ぬ(・・)ほどに(・・・)魔力が(・・・)溜まる(・・・)。それらはすべて、竜に使われてしまうのだけど。おこぼれで、自分の夢を弄るくらいはできるようになっていたのだ。

 

 ──見る夢の演目は、わたしが一番しあわせだった時。好きだった男の子と、夕暮れの教室でお喋りをする素敵な夢。 

 何度も思い出したのだ。それしかすることが、できることがなかったから。

 

 ──でもふと、我に帰って虚しくなる。

 夢の中の彼は、記憶の通りにしか喋らない。わたしの空想で、妄想にすぎないのだから。

 

「あなたって、本当はどんな子だったのかしら」

 

 夕暮れの教室で、彼に問いかける。

 

「甘いものが好きなのは知ってるの。辛いものはどうかしら? 食べられないとかわいいな」

 

 わたしの初恋、わたしの憧れ、わたしの愛したごくごく普通の男の子。

 

「知りたいことも聞きたいことも沢山あるのに……もう二度と聞けやしないのね」

 

 過去の幸福な一瞬を繰り返し、初恋の感情を再生産し続ける日々。

 

「こんなことなら、もっと、話しておけばよかったな……」

 

 本当は、お話だけじゃなくて。一緒にお昼ご飯を食べてたり、同じ道を歩いて帰ったり、お休みの日に待ち合わせて遊んでみたり、そういう、なんでもないことをしてみたかった。本当は文化祭だって一緒に回りたかったし、次も一緒のクラスになりたかった。

 ──恋は、叶わなくてもいいから、せめて。

 

 

「……友達に、なってみたかったなぁ」

 

 

 夢の中、彼は答えない。これは一人遊びで、わたしには、彼がなんて言うのかわからないから。

 ──きちんと狂ってしまえたら見られるのだろうか。わたしにとびきり都合のいい、甘い夢を。

 歴代の魔女は、すべてが狂い果てて終わる。その結末は、星ごと滅びるか、勇者に殺されるかの二択。

 ひどい話だ。勇者すら助けてはくれないのだ。この世界に正義の味方(ヒーロー)なんていない。

 救いは死のみ。わたしにできるのは、その救いを待つだけ。

 

「……でも、そうしたら。わたしが狂ってしまったら。その果てに、殺されてしまったら」

 

 

 ──わたしはもう、夢を見れないじゃない。

 

 

「それは、嫌……思い出せなくなるのは、嫌だわ」

 

 教室の机に突っ伏して涙ぐむ。

 

「死んでも、忘れたくないの。おかしくなっちゃうなんて、いや……」

 

 あなたに貰ったものは飴玉ひとつでも大事にしたかったのに。

 

「わたしには、もう、思い出(これ)しかないのに……!」

 

 狂っちゃだめだ。正気でいなくちゃ。どんなに苦しくても楽になっては意味がない。

 誰も助けてくれないなら。

 

 

「──この初恋(ゆめ)だけは絶対に、誰にもあげない。殺させない」

 

 

 その執着(あい)だけが。死ねないわたしの、ただひとつのよすがだった。

 

 

 

 ──そして一年。わたしは死に続けて、夢見て、待ち続けた。

 死ぬ度に生産される魔力は、溜め込んだ怨念は、すべて竜へと使われる。──けれど、僅かな余剰はわたしのものだ。その余剰で作り出した幸福な夢が鉄壁となり、わたしの正気を守り続ける。

 だから。死に続けたわたしの怨念が溜まりきって、溢れた時。──本来ならば、とっくに狂気に落ちているはずのその時。

 わたしはまだ、正気でいられた。

 

 

 

 もしかしたら、もう、正気と思い込んでいるだけかもしれない。

 

「もう行かなきゃ」

 

 夕暮れの教室の夢の中、立ち上がって別れを告げる。

 

「復讐を、しにいくの」

 

 空想の中の彼は穏やかな笑顔でわたしの話を聞き続ける。

 

「誰も助けてくれないから。わたしが、わたしを助けなきゃ」

 

 せめてこの思い出だけは失いたくないから、わたしは現実に帰らなきゃ。

 

「ありがとう、わたしの初恋の人。どうか、わたしの知らないところでしあわせにね」

 

 わたしはこれから、とびきり汚いものになって、許されないことをするけれど。

 

「どうかずっと、あなただけは、綺麗な思い出でいてね」

 

 初恋に、背を向ける。

 

 

 

「──さよなら、陽南君」

 

 ──夢から醒める時が来た。

 ガラスの靴なんていらない。わたしは裸足でも踊ってみせる。

 

 

 さぁ、憎んで恨んで呪って、世界を滅ぼそう。

 もう、それ以外に、救われる方法はないのだから。

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 生贄の少女は部屋を出る。蠅のように(たか)る蜥蜴を殺して、殺して、廊下を進んで探しものをする。あの日落とした飴は、どこにもない。けれどもうひとつの探し物は、すぐに見つかった。

 

「……この世界の言葉も知らない小娘が、よくもやってくれた!」

 

 城を出ていた魔王が、帰ってきたのだ。

 

 

 

 ──召喚から一年。戦の只中であり、既に勇者は城へと迫っていた。

 その中でまさか牢獄(へや)から逃げ出した生贄が、留守にした城で兵を削るなど。そんな事態はあってはならない。

 

 少女の粗相の前に、魔王は悩む。

 自力で逃げ出したとなれば、大人しく生贄には戻らないだろう。洗脳をするにしても、自我を消すと怨念が生み出せない。自ら生み出した狂気でなければ呪いは不出来なものとなる。

 ──さて如何。

 

 竜は城の天井、裸身の少女を見下ろして、気付く。

 その頭蓋には覚えのない()が生えていた。不意か故意かは解らぬが、少女の呪いによるものだろう。少女の身は、竜を殺すために自らを竜に転じさせようとしていた。──その段に至った魔女は、もう千年といなかった。

 

 少女は片目で真っ直ぐに蛇を見る。

 

「ああ、その眼……まさか、ボクを殺そうとでも言うのかい? 残念ながら、それは不可能だ。ボクを殺したければ、世界を滅ぼせるほど強くなければならない」

 

「そう、なら」

 

 少女は、息を吐く。

 

 

「──わたしが滅ぼしてあげる」

 

 

「それがあなたの願いなのでしょう? 手伝ってあげる、叶えてあげるわ。わたしだって、こんな世界大嫌いだもの。邪魔な勇者も殺してあげる」

 

「だから。言葉を教えて、魔術を教えて、呪い方を教えて。わたしを弟子にしてよ、魔法使い」

 

 無邪気に幼気に軽やかに、両手を伸ばし、囀って。裸足で詰め寄り、真っ暗な目を見開く。

 

「おまえを殺すのに、世界を滅ぼすだけの力が必要だと言うのなら。滅ぼしたその後で!」

 

 

「──最後におまえを殺してやる!!」

 

 

 

 

「…………ク、ハハハハ!」

 

 蛇は笑って、笑って、お城が壊れてしまうほどに笑い声を上げて。

 

「『その言、決して飲み込むこと能わぬぞ』」

 

 異界の言葉に眉をひそめた少女に。しゅるりと囁く。

 

「いいだろう。その目が世界を呪うのを、見届けようじゃないか!!!」

 

 

 

 ──そうして、生贄の少女は魔女になった。

 

 そこに正義も論理もさしたる思想もなく。それはただ、失われた未来に対する八つ当たりで。思い出に縋り付いた、少女の成れの果ての〝我儘〟だった。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 

 俺はただ、目の前の光景を見ていることしかできなかった。

 

 逢魔時の橋の上。錯乱の悲鳴を上げた彼女は(ぶき)を取り落とす。そのまま橋の上に落ちて、砕けて消えた。元が玩具のそれは、一発切りの代物(まほう)だ。

 

「……いや、やだ。いやよ。やだ、死にたくない。こないで死んでおまえが死んでよ呪ってやる滅ぼしてやる死んで死んで死んで、死んでよ……!!」

 

 いつかの海で咲耶は言った。──どうして魔女になったのか

『ごめんね。あなたには言いたくない』

 当たり前だ。こんなもの……言えるわけがない。

 

 歯を砕けるほどに噛み締める。硬直はまだ解けない。虚な目で頭を押さえる咲耶に駆け寄ることもできず、間近、魔王に剣を突き付けたまま睨み合う。

 奴は、自らの造り出した魔女を前に哀れむように目を細め、揶揄するように嘯く。

 

「なあ勇者。君はあの子を人と扱っているがね、そんなものではないんだよ。──魔女(あれ)は文月咲耶の怨霊だ。その精神は過去の亡霊に過ぎず、脳細胞の一片までもはや元の人間だった頃のものはない。それでもキミは──、

 

「うるせぇ! その問答は(・・・・・)もうやった(・・・・・)!!」 

 

 俺は俺が何であるかを彼女に信じさせた。ならばこちらとて、同じこと。

 

「あいつがなんだろうと信じる、それだけだ!!」

 

 奴は、拍子抜けしたように赤い両眼を見開いて。

 

「なんだ、つまらない。つまらないが……昔はろくに返事もしなかった木偶人形が、よくも感情を露わに激昂するようになったじゃないか」

 

 その手の中に光り輝く魔法陣を展開、

 

「──少し、面白くなってきたよ」

 

 立ち尽くす咲耶に、言う。

 

「魔女。『彼を殺せ』と言いたいところだが、それで我に返られても困る。生かさず殺さず慈悲深く、せめて前回の本願だけは果たすといい。『──右腕を破壊しろ』」

 

 聖剣本体が砕けずとも、引きちぎればそれで接続は切れる。聖剣を使えなくなる。

 舐め腐った話だ。命は見逃す、生身の俺など脅威ではない、と言われているのだ。腹立つな。死ね。

 

 魔女は手を翳す。魔法の予備動作。俺一人ならばどうとでも避けられる、が。

 背後には、人がいる。トランクを背負ったままへたり込んでいる寧々坂芽々が。

 洗脳解除の反動。魔眼の硬直。おそらく恐怖もあるだろう。あれは一般人だ。動けないのも当然だ。

 

 ──彼女の詠唱が聞こえる。唱えられるのはシンプルな〝破壊〟の文言。

 

 判断は一瞬、今は魔王も魔女も諦める。

 芽々はこちらが巻き込んだ人間だ。何をおいても守らなければならない。だが、ここでは狭すぎる。

 

 ──魔法が放たれる。何かが横をすり抜け、橋の欄干を壊す。

 

 次弾が放たれる、その前に。

 俺は小柄な芽々を担ぎ、

 

「舌噛むなよ!!」

 

 橋から川へと飛び降りた。

 

「……へ? う、わわわわわぁ!?」

 

 バシャァァン!! と盛大に水音がする。水面に対し受け身を取った、衝撃は問題ない。ずぶ濡れになって「ひぃん」と鳴いている芽々も問題ない。

 

 

 

 

 雨が、降り始めていた。

 空は現世そのままの色彩、だが水面の色がいつの間にか変わっていた。あの異世界の海のような、真っ赤に。

 ──いつの間にか、この空間が擬似異世界に塗り変わっている。おそらく魔王の仕業だ。魔女の張った結界は既に乗っ取られていた。

 

 俺たちは陸に上がる。壊れた橋の欄干から見下ろす敵が二人。そして魔女は、いつかのように七つの蛇の使い魔を繰り出す。ただし、前回とは段違いの出力で、だ。彼女の頭から生えた角が、魔法の出力の限界を押し上げていた。

 

「うげ、本気かよ」

 

 ヤバい。咲耶が敵に回るとかなり困る。あいつが本気だと俺が加減できない。加減できないとまずい。なにせ聖剣で付けた傷は不死身といえど再生しないのだ。

 魔王は動かない。依然、指先には光り輝く魔法陣が展開している。あれが咲耶の頭の中に入った術式と連動し、正気を削り続けているのだろう。

 ──あまり長引かせたくはない。長くなるほど、彼女は地獄を夢に見ることになる。

 飛んでくる使い魔の蛇を斬り落とす。

 

「クソッ危ねえな! 俺はいいけどさ、芽々ごと巻き添えはやめろよ咲耶、嫌われるぞ!?」

「論点そこです??」

 

 ようやく芽々が動けるようになったらしい。横目に見る。

 

「大丈夫か」

 

 こくりと頷く芽々。レインコートの裾からしとどに水が滴っていた。両手には相変わらずのトランクケース。

 

「ちょっと待ってろ。今逃す」

 

 (アレ)をなんとかするのはそれからだ。

 だが芽々は首を横に振り、口を開く。

 

「──飛鳥さん」

「なんだ」

 

「芽々は、ずっと(・・・)正気でした(・・・・・)

 

「……は?」

 

 

 ガタン。と、芽々は頑なに手放さなかったトランクを、砂利の上に降ろす。

 

「──知ってたんですよ。なんでも願いを叶えてくれる魔法使いなんて、〝詐欺師〟と相場が決まってるってコト」

 

 トランクを開ける。その中にあったのはいつか芽々の部屋で見た、バラバラに分解された、作り物の(・・・・)マスケット銃(・・・・・・)だった。

 

『飛行ユニットには狙撃武器じゃないですか?』

 

 まさか。

 

「……冗談だろ?」

 

 瞳の中に、輝きの弱くなった星が灯る。

 芽々は、ちっとも笑っていなかった。

 

 

「本気ですよ」

 

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