彼女は窓からやってくる。(旧題:異世界から帰ってきたら、窓から入ってきた魔女と青春ラブコメが始まった。)   作:さちはら一紗

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第五話 かつての後輩、かつての親友。

 

 ──共同生活もつつがなく、この一ヶ月が過ぎ去った。稀にくだらないことで喧嘩することこそあったが、反省と改善の第一原則に乗っ取れば和解できないことはない。俺たちは仲直りのプロだ。

 一方、魔王の尋問は順調ではなかった。奴はどうやら本当に俺が寿命で死ぬまでしらばっくれるつもりのようだ。咲耶も流石に七輪で焼くのはやめたようだ。代わりに何をやっているのかは想像が付くが、触れられたくなさそうなので黙る。俺に手伝えることは精々咲耶の変身(角アリ)状態を引き出すことだけだった。

 

「なんか悪いな。俺が変われたらよかったんだが……」

 

 聖剣があるのでうっかり封印を解除しかねない。

 

「いいのいいの。正義の味方が汚れ仕事しちゃ世話ないでしょ」

 

 六月以来、自分が魔女であることに開き直ったらしい咲耶は軽く笑ってそう言ったが。その言葉に違和感を抱く。

 

「……俺、正義とか掲げたことないけど」

「あら?」

「咲耶さぁ、時々俺のことすごく美化してるよね」

 

 苦笑する。咲耶はどうやらピンと来ていないようだった。まあいいか。買いかぶられるのは実はそんなに嫌いじゃない。格好はつけられる時につけておくものだ。

 ──そういう、少々アレな非日常と壁一枚を隔ててはいたが。概ね、穏やかな夏休みだった。大抵は課題やバイトに明け暮れていたが、そういった諸々をまとめて片付けたおかげで夏休みの後半には遊びの予定を詰め込むことが出来そうだった。

 という話をしていると、彼女は頬を引きつらせた。

 

「あんた『休み』の意味知ってる?」

「休んでるだろ? この前も芽々ん家でしこたまかき氷作ったし、クラスのやつらと遊びにも行ったし、親戚に挨拶回りもやって、いい感じの滝も見つけた」

「それ全部用事よ。『休む』の定義は家でだらだらする、よ」

「……ああ! この前は咲耶と家で夜通しゲームしたな! あれは熱かった」

「そうじゃないわ、そうじゃないのよワーカホリック」

 

 おかしい。俺はちゃんと休んでいるのに……。

 

「……ま、楽しめてるなら問題はないのかもね」

「楽しいよ。夏休みは有限だ。一日たりとも無駄にしたくない」

 

 俺は夏が好きだ。窓よりも好きだ。一年で最高の季節だと思う。夜が短く、鮮やかで、世界が綺麗に見える。

 なにせあの異世界に季節なんてものはなかった。俺はもう二度と夏を迎えられないと思っていたし、戻ってきた時でさえ現世に期待をしていなかった。──隣に彼女がいる夏なんて、夢に見ることもしなかったのだ。

 さて今を〝最高〟と呼ばずして、何と呼ぶ。

 ──ああ。

 

「この夏がずっと続けばいいのにな!」

 

 彼女は、二、三度。耳を疑うように瞬きをして。

 

「……飛鳥、ねえ飛鳥、あんたテンションおかしいわ。夏酔いしてる? 大丈夫?」

「ははは」

「感情バグってない!? わたし心配になってきたんだけど!?」

 

 

 

 夏休みだからと言って学校がないわけではない。たとえば補習だったり文化祭の準備があったりする。今日は後者の用で、久々に二人揃って学校に行く日だった。

 八月も残り半分だ。夏休みが明けたら文化祭か、感慨深いな。

 

「そういや今日の帰りは遅くなる。盆だから文化祭準備の後、墓参りに行かないと」

 

 朝は日々の連絡事項を告げる場だ。食卓の上にはいつも通りのトーストと味噌汁が並んでいる。

 咲耶はトーストにバターを塗りながら、目を丸くして呟いた。

 

「……えらい」

「うん?」

「わたし、実母(ははおや)のお墓参りしたことないから。えらいなーって」

「ああ、仲悪かったんだっけ」

「あなたは、仲良かったのよね」

「祖母とはな。両親は……何も覚えてないけど、恩がある」

 

 咲耶は無言でトーストを齧りながら、視線で相槌を打った。

 時期のせいだろう。なんとなく話しておきたい気分だった。いわゆる生い立ちというものを。

 

「事故なんだけどさ、俺だけ生き残ったらしいんだ。庇われて」

 

 頭の傷は子供の頃ガラスで切ったと言ったが、正確にはひしゃげた車のフロントガラスで切った傷だった。記憶としては元々無いとはいえ、ついこの間までその事実すら忘れていたというのは笑えない話だ。

 

「いい人たちだったはずだよ。写真をたくさん残してくれたし、親戚から話もよく聞いた。蔵書はひとつ残らず読んだ、けど。まあ……正直、遠い憧れの人たちって感じだな」

 

 亡くなったのは物心つく前のことだ。俺にとっては初めから居なかったようなもので、悲しいという感覚は残っていない。仲の良し悪しを断言することはできず、好き嫌いを論じることすらできない。

 ──だから咲耶の持つ親への愛憎のような生々しさや実感が、少し羨ましい気もする。その感情は、もういない誰かが生きていたことを確かに覚えているという証なのだから。

 黙って話を聞いてくれた咲耶は、ぽつりと呟く。

 

「愛されていたのね。……いえ、こんな言葉聞き飽きたでしょうけど」

「そうだな。……いや、聞き飽きないよ俺は」

 

 咲耶のその声に僅かに羨望が滲んだことに気が付く。羨むべきでないところが羨ましいのは同じらしい。

 ……まったく。お互い、隣の芝生が青いにも程があるな。俺は味噌汁を一気に飲み干した。

 

「実は俺は、愛されて生きてきた自信がそれなりにある」

 

 咲耶はあきれて笑った。

 

「あんたのその意味わかんない自己肯定感! わたし、好きだわ!」

 

 ……まあ、俺っていうか正確には昔の自分なのだが。それを言うのは流石に野暮というものだろう。

 

 

 

 朝食を終えた後、家を出る前にカレンダーをもう一度確認する。今日から盆入りとはいえ、お互い家の事情や立場が特殊なので法事に縁がない。つまりはただの休みだ。

 

「咲耶、明日の約束は覚えてるよな?」

「当然よ。海、でしょう?」

 

『夏になったらもう一度海に行こう』と約束をした。明日がその日だった。

 

「──せいぜいわたしの水着、楽しみにしてなさい?」

 

 挑発的に微笑む咲耶を、白い目で見る。

 

「……いやそれ目当てじゃねえから」

 

 断じて。

 咲耶は愕然とした。

 

「うそ……見たくないの? 健全な男子高校生が?! 彼女(予定)の水着を見たくないなんてそんなッ……嘘よね??」

 

 無視した。

 

「Gカップよ!? み、見たいって言いなさいよ!! 見たいって!!! わたしの水着、見たいって言え、言えーーっ!!!!」

 

 無視して先に家を出る。

 

 

「うわーーん飛鳥のばか!!! もう知らない!!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 なんだったんだ今朝の。最近の咲耶は脳味噌と口が直結している。正気でも下がってんのか?

 と思いながら、つつがなくその日の文化祭準備を終えた後の、夕方。俺は隣のクラスに顔を出す。少し芽々に頼み事があったのだ。

 だが、扉の前で芽々を呼ぼうとしたその時。

 

「やあ、センパイ(・・・・)。何か用かな?」

 

 後ろから聞き覚えのある声がした。驚いて反射的に振り返る。背後に人を立たせるとは不覚──じゃねえわ。俺は結構背後ガラ空きで生きてるわ。

 だから驚いたのは、その相手(・・)が問題だった。

 

「……瑠璃(るり)

 

 鈴堂(りんどう)瑠璃(るり)。中学時代同じ天文部だった二歳下の元後輩であり、そして今は芽々と同じ隣のクラスの生徒だ。

まだ(・・)名前で(・・・)呼んでくれるんだ(・・・・・・・・)。嬉しいようで悲しいような、フフッ、奇妙な感情だね?」

 

 瑠璃は真っ黒な瞳で俺を見上げ、ゆっくりと微笑む。切れ長の目の下には泣き黒子がある。横でひとつ結びにした黒髪が、僅かに首を傾けた時にゆらりと揺れた。弾むように言葉を発しながらもその笑みはどこか冷ややかだった。

 溌剌とミステリアスの同居、纏う雰囲気が中性的で、その声は凛と澄んでいるようでしっとりと耳に残る……鈴堂瑠璃は雨が降りそうで降らない乾いた曇天のような少女だった。

 そして何よりこの元後輩の特徴は、病的に勘が鋭い(・・・・・・・)ことだった。

 

 現世に帰って来てすぐのことだ。鈴堂瑠璃は俺の目を見て、怯えるように呟いた。

 

『──君は、センパイじゃ、ない』

 

 あいつは一眼見ただけで、俺の自我の連続が曖昧であることを看破していたのだ。もはや霊感の域である。

 あれ凹んだ。めっちゃ凹んだ。家が更地になる並みにキツかった。いいけどさ、俺が昔と微妙に別人なのは事実だし。だが、昔親しかった人間にきっぱりと拒絶されるのはクるものがある。

 ──だからもう二度と、瑠璃に話しかけられることはないと思っていたのだが。

 

 廊下に立つ鈴堂瑠璃は制服のループタイを弄びながら、あの件など忘れたかのように軽やかな調子で言う。

 

「ああ、わかってる。僕に用ってわけじゃないんだろう? ──芽々、君に用だよ」

 

 教室の中へ呼びかけた。よく通る彼女の声に気付いて、人だかりの中で芽々が手を振った。「ちょっと待っててください!」

 俺は戸の前で待ちぼうける。何故か瑠璃が側から動かないのだ。こちらを見上げる、品定めする流し目。

 

「最近調子はどうだい?」

「あ、ああ。すこぶるいいけど」

「ふぅん? ……そうは見えないけどね」

 

 瑠璃は僅かに背伸びをして、目を覗き込む。二年前とは色の変わった目の奥を、見透かすように。

 

「気をつけなよ、センパイ。調子がいいと思い込んでいる時ほど、病には気がつかないものだ」

 

 声に嫌悪感の滲む、意味深な忠告を残して。黒髪の尾を揺らして瑠璃は教室へと戻っていった。

 

「…………」

 

 今のあいつ、なんか怖いんだよな。昔は子犬みたいに懐いてくる可愛げのある後輩だったのだが。──彼女もまた、俺のいない二年の間に変わってしまったのだろう。異世界などなくても月日は人を変えるのだ。

「お待たせしました!」とようやくこちらへぱたぱたと駆け寄ってきた芽々は、入れ違いになった瑠璃を横目に、不思議そうに俺に訊く。

 

「るりさんに嫌われてるんじゃなかったんですか?」

「どう見ても嫌われてるだろあれ」

 

 俺はちゃんとわかってるぞ。

 

「ん、んんん……いえ、やめときます。それで、ご用件はなんでしょーか?」

「ああ、オカ研の部室に入りたいんだ。昔置きっ放しにした本があることを思い出してな」

「それなら、今丁度空いてますよ。先客がいるので」

「先客?」

「実際に確かめてみてはいかがです?」

 

 

 

 離れの旧棟にあるその部室は、今は芽々が取り仕切るオカルト研究部の部室で、二年前は俺が所属していた天文部の部室だった。備品をそのまま引き継いているため、部屋には望遠鏡やら本やらがそのままになっている……当時の俺の私物もそのままに。

 用件というのは、その私物を取りに行くことだった。今朝、咲耶と話していた時に思い出したのだ。親の蔵書の一冊が部室に置きっ放しになっていたことを。

 部室の戸を開けると、先客(・・)は椅子から顔を上げ、こちらを認める。

 

「……お、陽南じゃないか!」

 

 派手に染めた赤髪の男が、屈托なく俺を呼ぶ。鈴堂(りんどう)蘇芳(すおう)。そいつは後輩・鈴堂瑠璃の兄であり、かつての俺の一番の友人だった男だった。

 

 

「なんだ、鈴堂(りんどう)か」

 

 俺が後輩である鈴堂妹を「瑠璃」と名前で呼ぶのは、兄であり同級生だった鈴堂蘇芳(すおう)こそが、俺にとっては「鈴堂」だったからだ。兄妹揃っている時は、ややこしいから名前で呼ぶけどな。

 派手に染めた髪がなんの違和感もなく似合う、十人中八人が認める好青年であり、言動もさっぱりとした爽やかな男なのだが──俺は実はこいつが、妹同様少し苦手である。

 鈴堂の切れ長で少し冷たい印象の目はミステリアスな妹によく似ていて、けれど兄のそれには曇りがない。

 

「まだオレのこと思い出せないか」

「いや、少し前に思い出したよ」

 

 俺は棚から、取りにきた本を引き出す。

 

 ──出会いはそう、確か。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 中学時代のことだった。当時の陽南(オレ)がどんなやつだったかというと、中学生らしく斜に構えていただろう。

 クラスの半分は小学校からの知り合いだ。何もしなくとも友達なんぞは初めからいるし、適当にやればいい。だから新学期早々に余裕をぶちかまして机で本を眺めていたのは、多分「中学ではインテリを目指そう。眼鏡買ったし」みたいな気分の問題だった。

 が、その時の本が鈴堂と知り合うきっかけとなる。その日たまたま親の蔵書から引っ張り出してきた本が天文の──主に隕石に関する本だったからだ。

 

「陽南! オレと一緒に天文部に入らないか!」

「うわっ」

 

 唐突に机を叩いた、当時黒髪だった鈴堂に驚く。

 

「星とかあまり詳しくないぞ」

 

 だが鈴堂は、ニヤリと笑い言ったのだ。

 

 

「天文部は、隕石が(・・・)部費で買えるぞ(・・・・・・・)

 

 

 本を閉じ、眼鏡を押し上げる。

 

 

「入ろう」

 

 

 そして俺たちは友達になった。

 

 

 

 

 なんとなく知り合った俺たちはなんとなく気が合った。そしてなんとなく二年が過ぎ、何事もなく付き合いは中学三年になっても続いた。

 ある日部室で鈴堂は漫画雑誌を読みながら言う。

 

「なあ陽南。オマエってよく勉強するよな」

「そうか? 別に普通だろ。まあ嫌いじゃないよ勉強は。何せはっきり答えが出る」

 

 答えがあるのはいいことだ。『正しい』のは気分がいい。

 

「俺からすれば『将来は教師になる』って言ってるくせに勉強しないおまえの方が不思議だよ」

「オレは勉強嫌いの生徒に親身になれる教師を目指してるんだ。バカだけがバカの味方になれる」

 

 実際、鈴堂は教えるのが上手かった。

 

「陽南は何になるんだよ」

 

 ペンを置く。やりたいことも特になし、堅実な職なら何でもいいと思っていたが。

 

「……教師、いいな。俺もなるか。黒板、好きだし」

「おっ、科目は? 理科か? オレと同じ理科か!?」

「社会科」

「なんでだ……! 天文部なのに」

 

 と言ってもな。成績は文系優位だし。

 どちらかというと、星そのものより星を頼りに旅をしたり地図を作ったりする話が好きなんだよな。あと隕石で滅びた都市の話とかそそる。

 理科は勿論好きだが、向いているのは社会科だろう。

 と言うと、鈴堂は雑誌を閉じて眉間にしわを寄せた。

 

「向いてないと思うけどなあ、社会」

「なんでだよ」

 

「──だっておまえ、人間、好きじゃないだろ」

 

「…………」

 

 別にそんなことはない、と思う。むしろ人好きな方なのだが。

 

「それに、同じ教師でも理科には理科にしかない浪漫があるぜ」

「なんだよ」

 

 鈴堂はキリッ、と無駄に整った決め顔を作る。

 

 

「理科の教師は、白衣が(・・・)着れるぞ(・・・・)

 

 

 俺は眼鏡を押し上げた。

 

 

「なろう」

 

 

 白衣はなんかマッドサイエンティストみたいでカッコいい。白衣に眼鏡はなんか最高にインテリジェンスだ。そのためだけに理科教師を目指す意味は──ある!

 同じ大志を胸に抱き、拳をぶつけ合う。

 

 俺たちは、親友になった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そうそう、この本だったんだよなきっかけは。と例の本を取り出したところで、溢れ出した確実に存在している記憶に頭が痛くなる。

 ──中学生ってアホか???

 はっっっず。マッドサイエンティスト志望だったのは一生忘れていたかった……。

 鈴堂に向き直る。

 

「悪かったな、半年前に会った時は思い出せなくて」

「いや構わないさ。陽南が生きてただけでオレはいいんだ、親友」

 

 その言葉に裏表は一切ないのが伝わる。そう、鈴堂蘇芳はめちゃくちゃいいやつなのだ。

「ま、思い出してくれて嬉しいのもマジだけどな!」と背中を叩かれる。

 ──苦手、と言っても嫌いという意味ではない。その逆だ。いい奴だからこそ今の俺が親友面するのは気が引けた。何せこいつの妹には勘付かれているのだから。

 

「そういや、瑠璃(いもうと)とはまだギクシャクしてるのか?」

「ああ、まあ……」

「あいつもな〜、なんなんだろうな〜? 何が気不味いのかオレにはわからん」

 

 鈴堂兄妹は、妹の異常な勘とは対照的に兄の方は鈍かった。

 ……俺が気にしたって仕方がないな、と思い直す。厚意を無下にはするまい。

 

「というか、なんでここにいるんだよ大学生」

「今朝、妹が日課の水晶玉磨きをしている時に『今日は天文部に行くといいことがある』って言うから。来た」

「は?」

「瑠璃の言うことは大体当たるからな」

 

 理由になってないように聞こえるが、鈴堂としては筋が通った話だ。要はこの男、妹バカ(シスコン)なのだ。妹の言うことは大体聞く。いいやつだから昔から彼女が絶えないのだが、シスコンすぎてすぐに振られている。

 

「待て、水晶玉って何だよ。おまえの妹、魔女か?」

 

 咲耶でもしないぞそんなこと。あいつは多分水晶玉投げるタイプの魔女だ。

 

「あ、オマエ知らないのか。アイツ今、占い師(・・・)だぞ」

 

 そういえば、オカ研の部員名簿に瑠璃の名があったが……。

 

「──二年前。オマエが失踪した後、錯乱したアイツはスピリチュアルに傾倒してな……」

「俺か? 俺のせいなのか?」

「──だがアイツは天才だった。百発百中とは言わないが八十中はあった。天才中学生占い師となった瑠璃は『ちょっと天下取ってくる』と宣言し、恋占いで同級生たちから金を巻き上げ──結果、校則で占いが禁止された」

「なんて??」

「ちなみに天文部に入り浸ってた寧々坂って子も共犯だ」

 

 なるほどな、天文部の部室がオカ研に変わったのはその縁か……じゃねえよ。何やってんだあいつら。人の恋愛に茶々を入れるのが趣味の後輩(芽々)と人の恋愛で荒稼ぎする天才の後輩(瑠璃)、混ぜるな危険の組み合わせだった。

 鈴堂は得意げに顎に手をやる。

 

「いやぁ、我が妹ながら才気に溢れすぎてて怖いな! 流石だぜ」

 

 どうしようもないシスコンである。

 

「でも金を巻き上げるのはダメだよな! 我が妹、普通に怖いぜ……」

 

 訂正しよう。シスコンではあるが倫理観は真っ当な、いいやつである。

 

 

「まさか瑠璃が俺のせいでグレるとは……」

「まあオレも陽南がいなくなったショックで受験勉強に身が入らなかったが……」

「ごめんて」

「受験の直前にオマエが帰ってきたからなんか気合で受かったが……」

「なんなんだよ」

 

 こいつ俺のことめちゃくちゃ好きじゃん。親友かよ。いや、親友だったんだよな。思い出してなお実感はないのだが。

 

 俺が異世界に行ってる間になんか知らん歴史を紡いだ旧友と、思い出話で盛り上がる。気まずかったのは話しているうちに忘れた。二年の月日が空いても、鈴堂蘇芳の気の良さは変わっていなかった。

 鈴堂は昔語った通り、今も天文をやりながら教師を目指してるのだという。

 

「ま、折角先に大学生になったんだ。進路相談ならいくらでも乗るぜ。なんせ進路は同じだ」

「同じって……」

 

「オマエもなるんだろ? 教師」

 

 何気なく言われた曇りない信頼のそれに。

 目を逸らした。

 

「いや、俺もう白衣着たいと思わないし」

「なん、だと……」

 

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