彼女は窓からやってくる。(旧題:異世界から帰ってきたら、窓から入ってきた魔女と青春ラブコメが始まった。)   作:さちはら一紗

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更新ガタガタですみませんでした。
現実を倒しました。
三章ラストまで毎日更新します。



第十話 笹木慎と多分普通の友達。

 

「海行こうぜ、笹木」

 

 笹木慎が飛鳥からその誘いを受けたのは、まだ夏が来る前のことだった。バイト終わりの喫茶店の休憩室で、夏休みの予定を話していた最中の発言だ。笹木は目を瞬いて。

 すげない返事をした。

 

「なんで?」

「…………」

 

 断られたと判断し、笑顔で一時停止(フリーズ)する飛鳥。

 

「ああいや、そうじゃなくて」

 

 この世には二種類の人間がいる。夏に海に行く人種と行かない人種だ。そして笹木は後者の山派だった。

 ちなみに幼馴染は毎年南国に行ってしまうため、笹木は芽々と一緒に海に行ったことがない。

 

(海ってなんか……相当仲良くないと誘えない気がしない?)

 

 これを後日文月に言うと、「わかる! 海とか、ジョックがサメに食べられるイメージしかなくて怖い……!」と綺麗な顔でサメ映画の話をしていた。もしかしてあの人は結構変なのだろうか?

 要は「海」とかいうインドア文化系山派笹木の基準でめちゃくちゃ仲が良くないと誘えない場所に、サラッと誘われてビビったわけなのだが。

 

「おれって、そんなに陽南と仲良かったっけ?」

「友達じゃなかったのかよ……」

 

 飛鳥は明らかにショックを受けていた。

 確かに笹木は、飛鳥に対してかなり友好的な感情を抱いている。ぶっちゃけ飛鳥が学校で浮きまくっていた時期からずっと格好いいと思っていた。浮いているのに意に介さず飄々としていたところとか。あとよく見るとちょっと顔が格好いい。

 それを文月に言うと「やっぱり!? わたしの幻覚とかじゃなくて!!?」と血迷っていた。人はそんなに簡単に幻覚を見ない。あの人は変。

 しかし彼が人を寄せ付けない年上の同級生であったのは最初の一ヶ月ほどだけで、何故か(・・・)妙な噂も(・・・・)収束した(・・・・)。その後は、処世を思い出してきたようで普通に教室に馴染んだ。意外と付き合いもいいし馬鹿もやる。『スカしてるのがちょっとムカつく』という評価こそポツポツあるが、馴染めば当たり障りない同級生だ。『昔の先輩はあんな感じですよ』と芽々は言うので、多分そうなんだろう。

 でも非日常の住人が普段は普通の高校生面してるのも、それはそれで格好いいよね。

 だけどそれは自分の、一方的な好意だ。そしてその好意の内訳が、趣味の悪い好奇心や野次馬的な憧れであることを笹木は自覚していた。

 ──果たして自分は、そもそも友人なのだろうか?

 

「不思議なんだよ。浮いてた頃はともかく、陽南が今、おれと親しくする理由は特にないだろ。おれは(・・・)普通の(・・・)やつだから(・・・・・)

 

 陽南は、何か苦いものを食ったような顔をして。「おまえも何か拗らせてる?」と呟く。そのままさらりと、耳を疑う返答をした。

 

「俺は、笹木のことカッコいいと思ってるけどな」

「はぁ?」

「ほら、この前。芽々が俺に襲われると勘違いして、おまえ窓から乗り込んできたろ」

 

 文月とのキス未遂の騒動があって、その原因が芽々の下世話だと判明し、飛鳥がキレた時のことだ。

 

「あの時、笹木は窓から部屋は見えていたから、敵が俺だってわかっていたはずだ。その上でおまえは殴り込みにきた。正直言って、正気(・・)じゃない(・・・・)

 

 たかが普通の高校生が、多少武道を齧ったところで異世界帰りに勝てるわけがない。 笹木だってそれはわかっていた。

 

「だけど笹木は、芽々を助けに来た。すごいやつだよ。もし俺が同じ立場だったら、そうはできない」

 

「俺は勝てる戦しかできないからな」とうそぶく飛鳥に、「それはないだろ」と返す。

 

「そう? 俺は肝心な時に足が竦む奴だよ」

 

 なんの気負いもなく自虐めいたことを言う。本気で言っているのかどうかわからなかった。異世界の話と矛盾してるだろ、と内心で突っ込んで。

 ……でも、認められるのは悪い気がしなかった。笹木は答える。

 

「いいよ、行こう。海でもどこでも」

 

 どうせ今年の夏も暇だ。友達(・・)の誘いを断る理由はない。

 

 ──飛鳥が病院に叩き込まれたのはその一週間後のことだった。

 幼馴染の芽々は、どうやら初めから事情を知っていたらしい。その事情を笹木はまったく知らない。まあ、それは、いいとして。

 ──さらに一ヶ月後の、夏休み真っ只中。

 

「海中止!? また厄ネタ異世界ですか! なんなの〜!?」

 

 海に行く約束の前日に入った連絡。それもまあ、いいとして。

 

「芽々、手伝いに行ってきます!」

 

 と、深刻な顔で家を飛び出していった芽々を見送り。自分が事情を何ひとつ知らされていないことに気付いて。

 

「……は?」

 

 笹木はキレた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「おれだけ蚊帳の外かよ!!」

 

 翌日、キレた笹木は木刀をぶん回していた。

 部活帰りだった。虫の居所がおさまらなかったため、一人で部活の延長戦をやろうとして、学校裏手の神社に来ていた。

 昼間でも薄暗く、人が寄り付かず、出る(・・)と噂の神社だ。誰にも見られず没頭するには丁度いい。道場に残って、邪念に基づくヤケを熱心さと解釈されるよりは。

 うだる熱の充満する山中の神社で、頭が割れそうなほどうるさい蝉の声を聞きながら、笹木は馬鹿みたいに木刀を振るっていた。

 別に強くなりたいわけではない。人と戦うような武道ではないから、強くなる実感も特にない。だがこれが、冷静になるには丁度いいことを笹木は知っていた。

 

(……いや、蚊帳の外でいいんだ。向こうの事情に踏み込む気はない。なかった、けど)

 

 自分だけ(・・・・)何も知らされない。それは自分を置いて知らない世界に行く幼馴染への焦りで、肝心なことは何も言わない友達へのわだかまりで、その程度のことで苛立っている自分自身への嫌悪だった。

 

「格好わる……」

 

 腕を下ろした。我に帰ると木刀も重いし道着も汗で重い。馬鹿を馬鹿真面目にやるには、笹木は少し冷笑的過ぎた。

 帰ろうと、神社の境内を出て階段を降り始めたところで。

 

「あ」 

「……陽南?」

 

 まさか、通りがかった当の飛鳥とばったり出くわすことになるとは。 

 

 

 立ち止まって、そのままぎょっとする。ジャージの袖の中身がないことに気付いたからだ。

 数秒、硬直したままガン見して。

 なるほどそれは海も中止になるなと納得し、だらだらと冷や汗を流して目を逸らした飛鳥を見て。笹木は、冷静に考えることをやめた。

 

「言えよバカ野郎! 友達じゃなかったのかよ!!」

「い、言ったら引くだろ普通のやつは!」

「そんなの、おれは最初からずっとおまえに引いてるよ!!」

「え。ごめんね」

 

 真面目な話をしようにもTシャツがてんぷらなのが腹立ってくる。くそっどこで買ったんだおれもちょっと欲しい。

 

「……ちなみに、どの辺に引いてる?」

 

 今それ気にすること?

 

「人目はばからず文さんとイチャついたり、女の水着見たさに海に誘うところかな」

「人目はばかってるし水着見たさじゃねえわ」

「じゃあ見たくないのかよ!」

「超見たいけど!?」

「見たいんだ……」

 

 飛鳥は「口が滑った」と沈痛な面持ちをした。掃除したての廊下ぐらいに滑っている。

 

「そういや文さんは『飛鳥の浴衣が見たい』って言ってたよ」

「なんでおまえが知ってんだよ」

 

 文月から聞いたからである。

 この手の惚気話は、本来ならば女友達である芽々に言うのが相場だろう。しかし恋愛感情がわからない芽々は相談の相手には向いていても、惚気の相手には向かない。人が恋愛で右往左往していると面白がる愉快犯だし、すぐ品性のない方向に持っていこうとするし。(最近は食傷気味でやつれてきたが、自業自得だ)

 その点、片想い歴十年の笹木は、性差こそあれど割といい感じに文月の話を聞けてしまえた。

 

「ねえ笹木君聞いてくれる? 最近飛鳥のことが眩しくて。主に毛艶が」

「うん。犬かな?」

(※栄養状態の改善の惚気)

 

 といった具合に。人の話を聞くのが上手いのが笹木のささやかな長所だった。そんな惚気より異世界の話を聞きたいな〜、と笹木はずっと思っていた。

 ──だから、異世界事情に引いたりはしない。今まで、他人事として面白がって聞いていたそれを。たとえその笑えなさを目の当たりにして嫌な汗が出ていようが、掌を返したりするものか。 

 僅かな間があり、その間に飛鳥は粗方を察したらしい。

 

「そうだよな。悪い、説明するのが義理だった」

 

 拍子抜けするほどあっさりと、わだかまりは消える。

 

「また、終わった後で話すよ」

 

 物事がすべて片付いた後の話を他人事として聞く、確かに笹木はそれが好きだった。

 だが──聞きたいのはそんな話ではないのだ、もう。

 何か用があるのだろう、階段を上がってそのまま神社に向かおうとする飛鳥を引き止める。

 

 

また(・・)っていうかさ。おれ、()、すっごく暇なんだけど」

 

 飛鳥は上の段から、振り返る。

 

「あー…………」

 

 顔は苦笑いで、けれど喜色が隠せていない。

 

 

「来る?」

 

 

 笹木は階段を一段飛ばしで追いかける。

 

 

「どこでも付き合うよ、飛鳥(・・)

 

「ついでに明後日のバイト代わってくれ」

「それはもっと早く言えもっと」

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 神社の境内を進む。

 ざっくばらんに事情説明(これまでのあらすじ)──アンドロイド聖女に聖剣パクられた件──は聞いたのだが。

 

「その聖女って人? を、探してるのは分かったけど……こんなところで、今から何すんの?」

 

 飛鳥は大真面目な顔で答える。

 

肝試しだ(・・・・)

 

「なんでさ」

 

 

 

 

「この神社、昔から幽霊が出るって噂なのは知ってるだろ?」

「でも眉唾だろ。神社に霊がいても祓われるだけじゃん」

「事実かはともかく、噂があるっていうのが大事なんだよ。『幽霊が出る』っていう」

「それが、なんの関係あるわけよ」

 

 飛鳥は神社の裏手の方へ、「立ち入り禁止」の立札を無視して進む。いざという時に規則を破ることには躊躇がなくなってしまった。後ろをついて来る笹木が少し立札の方を気にしたのを見て、飛鳥は自分の失った正しさに哀愁を馳せる。

 それはともかく、笹木の疑問への返答である。

 

「端的にいうと、聖女の正体は『幽霊』だからだ」

 

「さっきアンドロイドって言ってなかった?」

「それは一旦忘れて」

 

 異世界事情ややこしいよな、なんなら俺もよくわからん。と思いながら「話が長くなるが」と前置く。

 内容は魔女(咲耶)の受け売りだ。

 

「まず、原則として異世界人は現世に来られないわけだが……」

「来てんじゃん。二体(ふたり)も」

「例外中の例外が連続で来てんだよ」

 

 原則がなかったら地球はとっくに異世界に侵略されていてもおかしくはない。

 あいつらはそのくらいやりそうだ。

 

「例外をやるにも特別な条件が要るんだ。たとえば転移のための触媒、適切な日時がそうだな」

 

 魔王が現世(こちら)に来たときは芽々が触媒になっていた。加えて、魔女の力が一番強くなる満月の日まで待つ必要があった。

 なお、魔王が来ていて芽々が巻き込まれたことまでは話したが、「芽々がアレコレやってたことはマコには秘密にしといてください」と言われていたので詳しくは伏せたままだ。

 

(魔法少女やってたのはバレると恥ずかしいんだろうな……)

 

 笹木に言いたくないのもわかる。勇者やるのも恥ずかしいので。

 

 

 話を戻そう。

 

「じゃあ、聖女(アイツ)はどうやって現世(こちら)にやって来たかってことなんだが。必要条件の触媒は『聖剣』で、日時は『盆』だ」

「?」

「自分を『霊』と定義して、現世を此岸(このよ)、異世界を彼岸(あのよ)と書き換える。『幽霊ならばこの時期は現世にやってこれる』って風習(ルール)奇跡(まほう)でねじ曲げているわけだ」

「??」

「ただし、強引な奇跡(まほう)を起こしたせいで制約がついた」

 

 盆の文脈を利用してこちらに来ている以上、帰りも同様。聖剣回収して即帰還、というわけにはいかず最終日(あした)まで現世に留まらざるを得ない、ということがひとつ。

 もうひとつは。

 

「アイツは幽霊として、墓場や〝その手の噂がある場所〟にしか出現できない」

 

 魔王も同じように最初は霊体での降臨だった。そのままでは自由には動けず、実体の無い存在では人を殺せない。だから魔王はあの時、わざわざ命ひとつ分を賭け金にしてまで受肉の魔術を使ったわけだが。

 そんな芸当ができるのは魔王ひいては魔女くらいだ。人類側である聖女は、『幽霊』のままでいるしかない。

 

「──というわけで、今から肝試しをする。ご理解いただけただろうか」

「いや、あんまりわからない。そもそもなんで異世界人が日本の風習知ってんの?」

 

 飛鳥は痛恨の表情をした。

 

「……俺が昔、話した……」

「ああ、異世界ラノベで転生者が日本の風習伝えるお約束。実際やるもんなんだね」

「……まあ、うん、まあ……」

 

 とはいえ本当に話しただけだが。

 腐っても二年、共にいた同僚だ。断片的には自我もあったため、聖女に身の上話のひとつやふたつ、いや百ぐらいはした。──家族のことも、墓参りをすることも。

 まさかそれを利用されるとは思ってなかったが。

 

 聖女は盆の初日、霊体で、墓場に現れた。その時期、飛鳥が必ず(・・)その場所に(・・・・・)現れる(・・・)ことを知っていて。

 まあ、恨み言を言う筋合いは自分にもないだろう。好意で(・・・)話した(・・・)わけでは(・・・・)ないの(・・・)だから(・・・)

 

 

 そのまま神社の裏手の方に回り、細い、山道を見つけたところで飛鳥は足を止める。この道の奥に、今は誰も参拝しなくなった古い祠があるという。

 

 懐から紙を取り出す。オカ研寧々坂芽々提供のそれは、坂白市(このまち)の心霊スポットリストだ。ここが最後の一箇所だった。

 ちなみに、候補地がこの町に限定される理由はある。少し前に魔王に問い詰めた。

「そもそも勇者と魔女が顔見知りで異世界に召喚されてるのはどういう確率なんだよ」と。

 魔王は『座標の都合だね』とあっさり答えた。

 

『この町だけなんだよ、ボクらの異世界と繋がったのは』

 

 ランダムで異世界召喚される町だった。地元最悪。

 

『だからボクもキミもこの町でならそこそこ異世界の力が使えるけど、町の外に出たらからっきしだ』

 

 ちょっと遠出しただけで咲耶が魔眼を使えなくなっていたことを思い出す。おそらく聖剣も同じだ。わかってはいたが、チートで無双のセカンドライフなどない。悲しい。

 

『まあ、町の外に出ても魔女の体質は変わらないけどね。ハハハ!』

 

 アイツいつか百遍殺す。

 飛鳥を芽々に貰ったリスト見ながら深々と溜息を吐いた。

 

「本当なんなんだよこの町、伝奇かよ。やたら心霊スポットあるしさぁ、最悪だ……」

 

 いかにも肝が縮んだ声の愚痴に、笹木は疑念を口にする。

 

「もしかして、飛鳥。本気で(・・・)ビビってる(・・・・・・)?」

「…………」

「えっダサい」

 

 率直で傷付く。

 

「いや墓とかはいいんだ。別に怖くない。盆の墓に出る霊はちゃんと供養されてる正規の手順を踏んで出てる幽霊だ。地獄の釜の蓋が開いた後ちゃんとビザ取って現世に来てるってわけだ。でも謎の心霊スポットに出るタイプの霊は違うだろ。つまり正規の手続きを踏んでいない。いわば現世への密入国不法滞在だ。悪霊じゃん。故に──めちゃくちゃ恐い」

 

「ごめん、ちっともわからない。一ミリも共感できない」

「俺は肝試しでは先陣を切り、そして全員を置いて逃げるタイプだ」

「なんでそれで勇者できたんだよ……」

「感情失くせばいける」

「厨二病じゃん。……え、ほんとに?」

「はは。冗談に決まってるだろ?」

「聞こえないんだよ冗談に」

 

 

 ◇◇

 

 

 などと無駄話をしている内に、日暮れの山道の先。朽ちた鳥居の前に辿り着く。

 それを潜る前に足を止め、飛鳥はその奥の何か(・・)を見ていた。

 

「当たり?」

「ああ」

 

 笹木には何も見えないし何も感じない。

 そういや芽々に「マコは霊感がからっきしですね。悲しいほど」と言われたことがあった。昔からオカルトが好きだった芽々は、もしかして何か見えていたのかもしれない。

 

(見てる世界が違う、か……)

 

 同じことを思ったのはいつだったろう。病院からの帰り道、芽々の漏らした憂鬱の正体を問いただせなかったあの時か。あの時の芽々と今の飛鳥はよく似ている、ような気がした。

 雰囲気が。あの、遠い目が。

 

(問いただしたところで、おれが見えるわけじゃないんだよな)

 

 この辺りが引き際だ。この先には踏み越えられない境界線がある。向こう側へ行こうとする飛鳥を見送ろうとして、彼ははたと振り返る。

 

「そうだ。笹木、来週開いてるか」

「なんで?」

「いや、海の予定潰してしまったからな。普段の礼に笹木と芽々の仲を取り持とうと思ってたのに……」

「そんなこと考えてたのかよ。ありがたいけどちょっと前までフラれてたやつに言われるのはむかつくな。てかこの流れでいう話?」

「大事だろ?」

 

 大真面目に飛鳥は言う。自分の腕を取り戻すこととその後に遊びの予定を入れることを、本気で、同列だと思っているかのようだった。

 

「言っておくが、俺はいい感じの日常を回すことしか考えてない。そのために必要な全部を仕方なくやってるだけだ」

 

 同列じゃなかった。こいつ、遊びの方が大事だと思っていやがる。

 

「めちゃくちゃバイトして金貯めて予定入れたのに、こんなくだらないことで邪魔されるとか、ないだろ!」

 

 くだらなくはないだろ。異世界も腕も。価値観どうなってんの?

 笹木はあきれた。

 

「飛鳥ってさあ……思ってたより普通だよね!」

「!」

「いや、嬉しそうな顔したところ悪いけど褒めてはない。変なところで普通って意味。自分が普通の高校生みたいなこと言うとすっげえ変って自覚した方がいいよ」

「嘘だろ…………」

 

 飛鳥はあからさまにショックを受けていた。ああ、なるほど。普通じゃないこいつにとっては『普通』がむしろ褒め言葉になるのか。

 バカだな、と思う。

 ──まったく予定が開いてるか、なんて聞かれても。返答は決まっているじゃないか。

 

「……開けとくよ。ずっと暇してる。ほら、さっさと終わらせてきなよ」

 

 笹木は木刀を投げて寄越す。危なげなくそれを受け取ったのを、見て。何も気負わない悪どい笑みを浮かべたのを、見た。

 

「──ああ、さっさと終わらせてくる」

 

 見送る背中はすぐに見えなくなった。木刀はもしかして返ってこないかもしれない、と思った。そのくらいはいいか、と思った。

 

 

 

 ──笹木慎には多分普通の友達がいる。

 とりたてて親しいわけではなく、けれどその仲を疑う余地もない。

 非日常に半身を突っ込んであるそいつのことを初めの頃、格好いいと思い込んでいたのは今覚えば錯覚で、何せ本当に格好いいところなどあったとしても、日常にのみ生きる笹木の目に映ることはないのだ。

 どこにでもいる、少しだけ変なやつにすぎない。

 

 

(……ま、でも。飛鳥の、全部を『普通』にしてしまうところとか)

 

「おれは格好いいと思ってるけどね」

 

 言ってやらないけど。あいつには。

 

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