【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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破滅確定百合ルート

「ユリるーと……相変わらずお前の語彙は意味不明だな」

「なによー。女の子同士の恋愛なんて、珍しくないでしょ」

 

 この大陸の国々で主に信奉されているのは、ギリシャ神話っぽい多神教だ。世界を作ったとされる創造神をはじめとした、何百もの神様が各地で祀られている。ハーティア国内では、聖女と建国王を導いたちょっとポンコツ気味な運命の女神様が人気だ。

 現代日本と違って、実際に神様が存在して、直接奇跡をおこしてたせいかな? 神々の伝説はどれもこれも妙に人間くさい。

 お互いが好きすぎて、仕事する時期が重なると効率が落ちるからって、間に夏と冬の神に入ってもらった春と秋の女神たちだとか。永遠を共にするために、夜空に昇り双子星となった男神様たちだとか。

 神様たちがこんな調子なので、人間世界の同性間恋愛もさほどタブー視されてない。

 

「俺も同性同士の恋愛自体を否定する気はない。俺は同性を恋愛対象として見ることはできないが、自分の性的な好みと他人のそれは別だからな」

「恋愛だけなら、結構自由なお国柄よね」

 

 女の子同士の恋愛自体はタブーじゃない。だけど、シルヴァンとの恋愛はやはり禁断のルートだ。なぜなら、私たちは家系と臣下を背負う貴族なのだから。

 

「貴族として生を受けた者は、色恋だけで人生を完結させることが難しい……」

「特に王家と7勇士の家系は、祖先の血を継いでいること、それ自体が重要視されるもんね」

「聖女とクレイモア家の血筋が同時に断絶するのはまずい」

 

 男装の麗人との間には、確実に次世代が産まれない。

 この世界の貴族の価値観だと、血を残すためだけの結婚相手と子供を残しつつ、外に恋人を作る、という選択肢もナシじゃない。でも、恋心を力の根源とする聖女にその選択は無理だ。愛した者以外と結ばれた時点で聖女の力が消える。その上、シルヴァンも聖女も一人っ子で、血筋を託せる兄弟はいない。

 当代聖女さえかわせばのちに脅威が産まれる心配はない、と確信した厄災は復活後に雲隠れを決め込み、彼女たちの死後活動を開始。対抗する力を持たない人間は、なすすべもなく滅ぼされてしまうのだ。

 シルヴァンを恋の相手に選んだ時点で、世界は破滅が確定する。だから私はこのルートを『禁断』と呼んでいるのだ。

 

「彼女のルートでは、断絶に加えて戦争が起きるんだったか」

「シルヴァンルートのメインイベントはアギト国との戦争よ。ついに攻め込んできたアギト国軍と、クレイモアの騎士たちがぶつかるの」

「アギトと戦争になればまず最初に戦うのはクレイモア。それは当然の展開だな」

「でも……あと少しで勝利、というところでシルヴァンが女だってことが暴露されるの。長年信頼してきた当主の正体を知って騎士たちは動揺し、総崩れになるわ」

「……それは、全てアギト国の作戦だろうな」

 

 フランがふう、と息を吐く。

 

「他のまともな後継ぎ候補を暗殺しておきながら、優秀なシルヴァンが残されているのは、女だからだな。奴らは正体を知りながら、クレイモア家に打撃を与えられる最も効果的なタイミングを見計らっているんだろう」

「その、効果的なタイミング、とやらが数年後の戦争ってわけね」

「悲劇を回避するには、シルヴァン以外の後継ぎを用意するか、彼女の秘密を守り通すかの、どちらかが必要だ」

「後継ぎを今から用意するのは無理よね。厄災が起きるのはもう2年後の話だもの。今、男の子がどこかで生まれても間に合わないわ」

「となると、シルヴァンにはもう少し長く……少なくとも戦争が落ち着くまでは、男でいてもらう必要がある」

「性別をごまかす方法ならあるわ。なんてったって、私の家庭教師は『金貨の魔女』なんだから。ディッツの薬を使って完全な男に変身してもらえばいいのよ」

 

 ディッツの作る変身薬は、まさに魔法の薬だ。体のつくりそのものを変えた姿を見て、男装だと思う人間はいないだろう。

 

「……そのあたりが現実解だろうな」

「でも、薬を用意したとして、飲んでくれるかどうかが問題なのよねー」

 

 ほとんど面識のない、他領地の令嬢が用意した薬をシルヴァンがほいほい受け取ってくれるとは思えない。しかも、その薬の効能は彼女の持つ秘密に直結している。

 

 うん、怪しすぎて絶対飲んでもらえないね!

 少なくとも私がシルヴァンの立場だったら、ゴミ箱にポイすると思う。

 

「まずは秘密を共有してもいい、って思えるくらいに信用してもらわないとね」

「……そのためのぎりぎりの手段が、今回のお見合いだ。本気で縁談を進めるのは無理だろうが、顔くらいはつなぎたい」

 

 秘密の内容が内容だから、年上男性のフランでは警戒されてしまう。

 同世代の女の子である自分が一番適任だと思うけど、貴族女子は理由がない限り同世代の男の子に近づけない。

 見合いくらいしか会う口実が作れないって、貴族の生活は本当に面倒だ。

 

「今回は、俺も別にやることがあるから、お前はひとりで行動だ。……できるか?」

「カトラス領の問題は子供の私じゃ無理だもん。フランが好きに動けるよう、自分の仕事はちゃんと自分でやるわよ。任せて」

 

 実をいうと、私がカトラスに来たのは、リゾート地だってこと以外にもうひとつ理由があった。

 この港町には子供の私には直接見せられないダーティな問題が隠れているのだ。

 そっちは逆に、成人男性のフランじゃないと介入は無理だ。

 

 私たちは、視線を交わして笑いあった。

 大丈夫。

 3年前と違って、今の私には心強い味方がいる。

 できることだって少しは増えたはずだ。

 きっと上手に運命が変えられるはず。

 

 

 しかし……お見合い当日、とんでもない人物が現れて、私の計画はしょっぱなから迷走するのだった。

 

 


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