【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「リリィ、見ててくれたかい?」
クレイモア伯が去って、私たち親子と使用人たちだけになったところで、父様が微笑みながら声をかけてきた。いつもなら、『戦うお父様かっこいい!』と飛びつくところだ。
でも、私は今日ばかりは思いっきりふくれっ面で振り返った。
「お父様~?」
「あ……あれ……? リリィ?」
「どこの世界に! 娘の見合いの席で、当事者より目立つ父親がいるの! 父様のせいでめっちゃくちゃじゃない!」
「いや……でも、クレイモア伯とシルヴァンは喜んでたし」
「その間、私とシルヴァンが直接会話した回数って、何回?」
「あれ?」
父様、そういうとこやぞ。
育ちのせいか、脳筋なせいか、父様って時々変なところでズレてるんだよね。
フランの一件でミセリコルデ宰相家が後ろ盾になってくれたから、社交界で変な絡み方をされることはなくなったけど、第一師団長としてちゃんとやれているのか、心配だ。
「でも……お見合いの席で私にばかり目を向けてしまうような子は、リリィにふさわしくないんじゃないかな?」
「騎士の子の前に最強騎士がいきなり登場したら、どうしても気を取られちゃうわよ。13歳の子供に無茶言わないで」
「……はい」
父様はしゅん、と肩をおとしてしまった。
心配して駆け付けてくれたその気持ちは嬉しいんだけど。どうしてくれよう、この父。
「さっきも言ったけど、私の縁談にはノータッチだっていうのはどうなったのよ」
「うん、リリィが決めたのなら反対しない。その誓いを破るつもりはない。そのつもりだったんだ。でも……リリィが実際に男の子と会うって聞いたら、いてもたってもいられなくなっちゃって……」
はあ、と父様は息を落とす。
「……手合わせも、ちょっと意地悪してたかもしれない」
つまり、娘に近づいてきた男が気に入らなくて、思わず威嚇してしまったと。
ゲームでは、毛嫌いしている王妃の息子と結婚すると言い出しても、一切反対しなかったのに、どうしちゃったんだろう。
……いや、どうかしたから、こうなったのか。
今の父様はゲームの中のマシュマロ侯爵じゃない。
子どものために、もう一度前向きに生きようと姿を変えた人だ。その上、ミセリコルデ宰相と手を結び、第一師団長として仕事に励んでいる。
その結果、以前よりずっと真剣に私たちと関わるようになったんだ。
子どものことをなんでも許すのは、愛しているようでいて、その実態はただの無関心だ。
私を気に掛けてるからこそ、暴走もしてしまうんだろう。
だとすれば、このお見合いで悪いことをしたのは自分だ。
父様の心配する気持ちをちゃんと考えてあげられなかった。
「……私のほうこそ、ごめんなさい。何も言わずにお見合いするのは、さすがにダメだったわね」
「先に誓いを破ったのは、私のほうだからね。リリィは悪くないよ」
「今度お見合いするときは、ちゃんと父様にも相談するわ。だから、乱入してこないでね?」
「う」
父様の綺麗な顔がひきつった。
あー、これは娘の結婚自体が受け入れられないことに気づいたな。
「……父様、私はハルバード家の長女なんだし、将来絶対結婚はするからね?」
「わかってる……」
絶対わかってない顔で父様はうなだれる。
「とりあえず、明日はシルヴァンとのデートをやりなおさなくっちゃ」
「リリィは、シルヴァンのことが気に入った?」
「まあ、そこそこ? ほとんど会話してないから、まだなんとも言えないけど」
そう言うと、父様はうーん、と首をかしげた。
「父様はシルヴァンとの縁談を勧められないなあ……いい子だと思うけど……」
「どうして?」
「……多分、あの子との間に子供は望めないよ?」
困り果てた顔で父様が告げる。子供、の言葉で私はぴんときた。
父様、シルヴァンが女の子だって気づいてる!
脳筋な父様だから絶対気づかないと思ってたのに!!
むしろ脳筋だから気づいた?!
父様は野生の獣みたいな勘で動く時がある。さっきの手合わせで何かを感じ取ったりしてそうだ。
完全なタブーではないとはいえ、父親として、娘が女の子と結婚したいと言い出したら、複雑な気持ちになるだろう。
私はにこっと笑うと父様に体を寄せた。
「心配かけたお詫びに、隠し事をひとつ教えてあげる」
父様に体をかがめてもらって、私はその耳元に囁いた。
「私はシルヴァンと結婚したいんじゃないの。お友達になりたいのよ」
「なるほど」
父様は満足げに笑って、王都に戻っていった。