【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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悪役令嬢流ワガママショッピング

「お待たせして申し訳ありません、お嬢様」

 

 しばらくして、店主が店に戻ってきた。その額にはうっすらを汗が浮いている。

 職人を折檻して体を動かしたせいだろう。

 

「そして重ね重ね申し訳ないのですが……残念ながら、在庫の中に同じ魔法をかけた武器は、ございませんで……」

「えー、それは困るわ! おそろいがいいの、おそろいが!」

 

 私が『おそろい』を強調すると、店主はしきりに汗を拭きながら言い訳を並べる。

 

「あの、少しお時間を頂くことはできませんか? 魔法をかける商品を選んでいただけましたら、職人に作業をさせて後日お届けにあがります」

「それじゃ遅いわよ。私も彼も明日にはカトラスを出る予定なんだもの」

「でしたら、宿ではなくご自宅のほうに配達いたしますよ」

「それで受け取ってみて、魔法がうまく働いてなかったらどうするの?」

「そ……その時は、一度返品していただいて、再度配達させていただければ……」

「あーもう、まだるっこしいわね!」

 

 私は、ワガママ全開で叫んだ。

 

「いちいち注文するのは面倒だわ。ジェイド、金貨を」

「はい、お嬢様」

 

 ジェイドは懐から金貨の入ったお財布を出した。

 ことさらに、見せびらかすようにして店主の前に金貨を積み上げる。

 

「お店と職人ごと、この工房を買うわ。お金を持って出ていってちょうだい」

「……は」

「自宅に職人を連れて帰って、ゆっくり自分好みの武器を作らせればいいのよ!」

 

 店主の顔から表情がすっぽぬけた。

 

「あなた、言葉はちゃんとわかる? このお店を全部買うって言ったのよ」

「……そ、そうなんですか?」

 

 まあ、言葉がわかってても、理解がついていかないよね。

 そうなると思って、わざと追い詰めるような言い方をしてるんだけど。

 

「し……しかしですね、お嬢様。こちらの工房は私がほんの駆け出しのころから、必死に守ってきた店でしてね。大事なものもたくさん……」

「これじゃ足りない?」

 

 ちゃりん、ちゃりん、ちゃりん。

 ジェイドがさらに金貨を積み上げる。

 

「そそそそそそ、そんなことは!」

「じゃあ商談成立ね!」

 

 にこっ、と満面の笑みを向けてあげると、店主の顔からは脂汗が滝のように流れ始めた。

 こんな要求してくる客、今までの人生でいなかっただろうなあ。

 

「しかしですね……」

「安心して」

 

 私は、笑顔のままかわいらしい声で囁く。

 

「地下の秘密の職人さんのことは、内緒にしておいてあげる」

「な、なぜそれを!」

 

 店主の汗が脂汗から冷や汗に切り替わった。

 

「ごめんなさい、手品のタネは明かさない主義なの。ねえ、考えてみてちょうだい。私たちはこれから、カトラスの警備兵のところに行くこともできるの」

「う……」

「でも、そんなことになったら、あなたは死刑になっちゃうし、職人さんも元いた国へ送り返されちゃうわよね? 私も魔法の剣が手に入らなくて、困っちゃうわ」

「……そ、そのようで」

「ねえ、決めてちょうだい。このまま金貨を持って出ていくか、護衛騎士に警備隊を呼ばせるか」

 

 見つめること数十秒。

 ついに耐えきれなくなった店主は、立ち上がった。

 

「お買い上げありがとうございますっ!!!」

 

 彼はテーブルの上の金貨をひったくると、そのままダッシュで逃げていってしまった。

 

「な……なんとかなった……」

 

 店主がいなくなったのを見届けてから、私はソファにずるずると体を預けてへたりこむ。

 脛に傷を持つ店主は、私に店を売った経緯を言いふらすことはないだろう。職人街で武器屋を店ごと買った変なお嬢様の噂が立つかもしれないけど、多分人身売買組織を刺激するようなことにはならないはず。

 私がせっせと貯めたお小遣いがめちゃくちゃ減ったけど、これはもう必要経費と思って諦めることにする。

 遊びに使う金貨よりは、目の前の人だ。

 

「リリィって、かっこいいね……!」

 

 シルヴァンがまじまじと私を見る。

 

「腹黒補佐官の真似をしただけよ」

 

 フランの悪辣な思考ほど、お子様の健全な成長に悪影響を及ぼすものはないんじゃないかな。今回は役に立ったけど。

 

「ああ本当に……君と結婚できないのが残念」

 

 シルヴァンは複雑な顔で笑う。

 

「私たちの関係に名前をつけるのは後でいいんじゃない。それより、せっかくお店を買い取ったんだから、職人を助けなくちゃ」

 

 私たちの指示を受けて、従者と護衛騎士たちは工房の奥へと向かっていった。

 

 


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