【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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治療が必要な者は

「このあたりは、また少し雰囲気が違うね」

「扱ってる商売が違うからな」

 

 大通りを渡って、私たちは隣接するブロックへと足を踏み入れた。工房とショールームが並んでいた職人街とは違い、こちらでは食料や日用品などを扱う商店が並んでいる。表通りは普通の商店街だが、裏道に視線を向けると、一見何を扱っているかわからない店も多い。

 

「港町だし、密輸品の取引みたいに、表で言えない商売とかありそう」

「人目を避ける必要はあるけど、あんまり細い道には入るなよ。治安が悪いから暗殺者以外の連中にも絡まれる」

 

 キラキラの銀髪ふたりに高級ドレスの女の子とネコミミの女の子、という、歩いているだけで人目を引くメンバーだから、人自体が少ないところを歩きたいんだけどね……。かといって、髪を隠したり、着替えたりする余裕はない。特にフィーアのネコミミは帽子なんかで隠しちゃうと索敵能力が下がっちゃうし。

 

 とはいえ、私たちは暗殺者たちが警戒している方向とは全然別方向に向かっている。簡単には見つからない、と思いたい。

 

「……!」

 

 周囲の気配を探りながら、先頭を歩いていたフィーアが不意に止まった。

 彼女は音を拾っていた耳ではなく、鼻をふんふんと動かして辺りを見回す。

 

「フィーア、何か見つけたの?」

「待ってください……変なにおいが……」

 

 街の空気の匂いを確かめながら、フィーアが顔をしかめる。じっと見守っていると、彼女のネコミミが突然ぴん、と立った。

 

「隠れる……いや、3人も一度には無理……! みなさん、走ってください!」

「え? なに?」

「とにかく走ろう!」

 

 突然の号令に、私たちはわけもわからず走り出す。

 そのすぐ後ろで、店のひとつの扉が開いた。振り返ってみると、その店の看板には薬屋を表すマークが描かれている。

 出て来たのは、傭兵らしい男と歩く裏切りの護衛騎士、ラウルだった。

 何をどうやって治療したのか、彼はちゃんと目をあけて周りを見ている。

 顔はちょっと腫れているみたいだけど、問題なく戦えそうだ。

 

 薬屋、目の治療、というキーワードから、私は彼がここにいる理由を導き出す。

 そりゃそーだよね!

 上手くシルヴァンの暗殺に成功したとしても、うちの護衛の攻撃で怪我したまんま、クレイモア伯のところに帰れないもんね!

 薬屋とか医者に行って治療してもらうよね!

 正規の医者にかかれるような怪我じゃないから、こういう怪しいところのお店に入るしかないよね!

 

 だからってなんで鉢合わせしちゃうかなああああああああ!!!!

 

「申し訳ありません、目つぶし薬のにおいに気づくのが遅れました」

「しょうがないよ! この街は潮の匂いが濃すぎるんだから!」

 

 獣人は感覚が鋭いぶん、大きすぎる音や濃すぎるにおいが苦手だ。生まれて初めて港町を訪れて、潮の匂いに酔ってしまったフィーアは、ディッツに症状を抑える薬を処方してもらっている。薬の作用で酔いはおさまったみたいだけど、その引き換えに嗅覚が鈍くなっちゃってるんだよね。

 でも、薬を飲んでなかったら、そもそも護衛の仕事ができてないんだから、これはもうしょうがない。相手に発見される前に気づけただけ、よかったと思うしかない。

 

 幸い、敵はふたりだけ。

 これは推測だけど、目の治療のために、シルヴァン包囲網からふたりだけ離脱してきてたんじゃないかな。クリスティーヌの『素直に家を目指さない作戦』自体は成功だったわけだ。

 

 たった今台無しになったけど!

 治療離脱組の行動まで読めるかあああああああ!!

 

「おい、あの銀髪をつかまえろ!」

「どっちのだよ?」

「あ? なんでふたり……?」

 

 後ろから、ラウルたちの困惑した声が飛んできた。

 やっぱり見逃してはくれませんかー!

 

「いいから両方捕まえろ!」

 

 それを聞いて、シルヴァンとクリスティーヌはお互いに目を見合わせた。こく、と頷きあったかと思うと、同時に左右別々の路地へと飛び込んでいった。

 

「ご主人様はこちらへ!」

 

 私は私で、フィーアに手を引かれて別の路地へと進む。

 

「あっ?!」

 

 一瞬、誰を追うべきか判断ができなかったのだろう。

 立ち止まってしまったらしい、男たちの声が少し遠くなる。

 

 彼らはふたり、そして私たちは4人が3方向に逃げている。

 二兎追う者には一兎も捕まえられないぞ!!!

 

 

 

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