【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「来るなよっ!」
クリスティーヌは、隠し持っていたらしいナイフをラウルに投げつけた。しかし、ラウルは余裕でよけて笑う。
「はっ、子供だましだな。お前……顔はシルヴァンに似ているが、戦い慣れしてないだろ」
「う……」
「おっと、ハルバードのお嬢様も下手なことを考えないほうがいい。飛び道具を投げてきたら、キャッチしてお前の護衛に投げつけるぞ」
私が閃光手榴弾を用意しているのも、お見通しだったらしい。
ラウルに蹴られたフィーアは、まだ起き上がれない。そんな体に音と衝撃を受けたら、立ち直れないだろう。
そんなことを言われて、あえて飛び道具を投げられるわけがない。
「おとなしく殺されるのが、一番楽だぜ」
ラウルが近づいてくる。
一歩、また一歩。
すでに私たちは彼の間合いの中だ。
まだ殺されていないのは、彼が私たちをナメきっているせいだ。
でも、ナメてるからといって、逃げられるほどのスキはない。
考えろ。
こんなところで死んでる場合じゃないはずだ。
考えろ。
これは私だけの問題じゃない。
フィーアとシルヴァンとクリスティーヌも助けなくちゃ。
このまま死んだら、世界だって終わる。
考えろ。
でも、何も思いつかないよ!!
誰か助けて!!!!
ラウルが剣を大きく振りかぶった瞬間……空から影が落ちてきた。
「がっ?!」
何が起きたのか、理解できなかったのだろう。
いきなり頭上から攻撃されたラウルは、体を翻そうとして無様にしりもちをつく。顔をあげようとした瞬間、顔面に蹴りをくらって、意識を失った。
さすが、『騎士科主席の成人男性』馬力が違う。
普段とは違う安物の黒装束を纏った青年は、ラウルが完全に気絶しているのを確認してから、私たちを振り返った。
「フラン!!」
「繁華街で騒ぎが起きていたから、様子を見にきたんだが……どういう状況だ、これは?」
「うーん、なりゆき?」
それ以外、説明のしようがない。
私の台詞を聞いて、フランはにいっと口を吊り上げて笑った。しかし、サファイアブルーの目は、底冷えしてて全く笑ってない。
美青年やばい。綺麗な顔で笑顔を作られると、死ぬほど怖い。
「ほほう……それは、人がせっかく傭兵に扮して行っていた潜入捜査を、全部台無しにするだけの価値があるんだろうな?」
そういえば、そういう作戦だったね。
ここは繁華街だから、ちょうど犯罪組織と接触していたところだったのかもしれない。そんななか、いきなり大立ち回りしているお嬢様を助けにいったら、潜入も何もなくなったちゃうよねー。
「でも、シルヴァンとクリスティーヌを助けるためには必要なことだったの」
「シルヴァンと……クリスティーヌ?」
そこまで聞いて初めて、フランは銀髪がふたりいることに気が付いたようだ。倒れているシルヴァンと、体を起こそうとがんばってるフィーアと、そしてまだ警戒しているクリスティーヌを見て、目を見開く。
「ごめんなさい……邪魔をする気はなかったのよ」
素直に謝ると、フランは肩をすくめて息を吐いた。
「……わかった。もともと、どんなことでも手を貸す約束だからな。計画が破綻したなら、また別の方法を考えるまでだ。」
フランは、いつもと同じしぐさで私の頭をなでた。
「この惨状を見れば、お前がギリギリまで足掻いたことはわかる。ここから先はまかせろ」
「……うん」
フランにまかせる、と決めたとたん足から力が抜けた。
そんな気はなかったのに、へたっとそのまま座り込んでしまう。
「ご主人様、お怪我はないですか?」
ようやく立ち上がることができたらしい、フィーアがよろよろと歩いてきた。一応立ってはいるけど、相当に体が痛いみたいで、ずっとお腹を押さえている。
ラウルみたいに体格のいい大人に蹴られたら、ただじゃすまないよね……。
「私は大丈夫、ちょっと気が抜けただけだから。それよりフィーアのほうが心配だわ。応急手当しましょう」
「いえ、ご主人様の手を煩わせるほどではありませんから」
「ふらふらしながら言っても説得力ないわよ?」
「ご主人様だって、腰が抜けて立てないじゃないですか」
それはそうだけどー。
治癒術は立ってやるもんじゃないから大丈夫だと思うのー。
「シルヴァン! おい、大丈夫か?」
一方、クリスティーヌとフランはシルヴァンの救助にとりかかっていた。ラウルの体当たりを受けて倒れたシルヴァンの顔色は真っ青で、額には脂汗が浮いている。
「まさか、本当に打ちどころが悪かったのか?」
「それにしては、様子がおかしい」
もし頭を打っているのなら、下手に動かすと危ない。
クリスティーヌがシルヴァンをそっと抱き起こす様子を見ていると、私の隣でフィーアがくんくん、と鼻を鳴らした。
「フィーア?」
「ご主人様、お耳をお貸しください」
そして、シルヴァンが気を失った原因をそっと囁く。
あー……そういうことかぁ……。
「リリィ?」
「フラン、上着を脱いでシルヴァンを包んであげて。そのまま抱きあげて、別荘に運んでちょうだい」
シルヴァンは怪我で倒れたのではない。
貧血で倒れたのだ。