【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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お高い女

 兄を王都の学校に送り出して三日後、私はお城でマヌエラを待ち構えていた。

「本当に金貨の魔女を雇うのか?」と兄はめちゃくちゃに心配していたけど、私はさほど危機感をおぼえてはいない。なぜなら、影の薄い両親と違って、金貨の魔女マヌエラについては、攻略本にがっつり記述があったからだ。ゲーム開始の数年前に死んだとはいえ、彼女はジェイドの人格形成に大きな影響を与えた人物なので、当然である。情報は伝聞が多いが、その内容から察するに、彼女は守銭奴でありながらも情の深い女性だったようだ。

 

「お嬢様、お客様がいらっしゃいました」

「応接間にお通しして」

 

 メイドに声をかけられて、私は本から顔をあげた。交友関係の少ない私を訪ねてくるような『お客様』はほとんどいない。きっと、金貨の魔女がこの城に到着したのだ。ドキドキしながら応接間に向かうと、両親と向かい合うように黒衣の人物がソファに座っていた。

 

「こんにちは!」

 

 挨拶すると、お客はすうっと立ち上がる。

 彼女は『ザ・魔女!』と言わんばかりの女性だった。黒い髪、黒い瞳、黒いローブを纏い、唇だけが毒々しいくらいに赤い。濃い化粧が独特の美しさを形作る、まさに『美魔女』だ。

 それだけでも強烈なんだけど、さらに連れている子供の姿が異様だった。魔女と同じデザインの黒いローブを着たその子は、ごついブーツと手袋をして、頭には鳥のくちばしのようなものがついたマスクをすっぽりとかぶっていた。一切肌を見せない彼からは当然表情が全く伝わらない。子供サイズのロボット、と言われても通るかもしれない。

 ちらりと部屋の端を見ると、執事とメイドが顔を引きつらせていた。

 まさかこんなにキャラの濃いコンビが来るとは思わなかったんだろうなあ。

 両親はというと、いつも通りにこにこ笑っていた。この状況で笑える彼らは、何も考えていない……と思ってたけど、実はとんでもなく器が大きいのかもしれない。

 

「初めまして、リリアーナ・ハルバードよ」

「マヌエラ・エマーソンよ。金貨の魔女と呼ぶ者もいるわ。こっちは私の弟子のジェイド」

「会えてうれしいわ」

「そう、私もよ。じゃあお暇するわね」

 

 そう言うと、魔女はいきなりドアに向かって歩き出した。

 

「えー、どうして!」

 

 わざわざハルバード領まで来ておいて、秒で帰ろうとすんなあああ!

 

「どうしても何も、もともと雇われるつもりなんてなかったもの。ここに来たのは、面接を受けるだけでも報酬が出るって聞いたからよ」

「面接のお金目当てだった?」

「ええ。私お金に目がないの」

 

 魔女は悪びれもせずに笑っている。清々しいほどの守銭奴ぶりだ。そういうキャラ嫌いじゃないけどさあ!

 

「だったらそのままウチで家庭教師すればいいじゃない。他の家で働くより報酬がいいはずよ?」

「確かに悪くない額だったわ。でもねえ、専属契約って話でしょ? 私はひとりの依頼人に縛られるのは嫌なの」

「ほんの何年かの話じゃない。あなたには私のことだけ見ててほしいの」

「お断りよ」

 

 ジェイドが闇落ちする理由は、ずばり師匠の死だ。彼女は、金を追い求めるあまりにヤバい筋から依頼を受け、その口封じに殺されてしまう。失った彼女の魂を取り戻すため、ジェイドは死霊術師になるのだ。ジェイドを闇堕ちから救うには、ハルバード領でのんびり私の家庭教師だけやってもらうのが一番良い。

 

「それにねえ、お嬢ちゃんがどんな理由で私を気に入ったのか知らないけど、使用人連中はこんな怪しい女をお城に入れるのは反対みたいよ? おとなしく、普通の教師を雇いなさい」

「やーだー!」

 

 美魔女は取り付く島もない。

 

「お金の問題なのよね? じゃあ、お給料倍でどう?」

「全然足りないわ」

「じゃあ3倍!」

「専属なら10倍は出してもらわないとねえ。でもお嬢ちゃんが言ったところで……」

「乗った!」

「はぁ?」

 

 美魔女の目がぎょっと見開かれた。

 

「アンタ、ちゃんと計算できてる? 10倍ってすごい金額なのよ?」

「その程度なら、私のお小遣いで何とかなる範囲よ。いいわよね、お父様?」

「リリアーナがいいなら、それでいいよ」

「ちょ……この金額が子供の小遣いって……これだからお貴族様は……」

「ほら、10倍出すって決めたわよ。マヌエラ、契約してくれるの、してくれないの?」

「はあ……わかった、わかったわよ。給料は元の倍額でいい。王立学校に入るまでは面倒見てあげましょ。ただし、魔法薬販売の仕事と兼業ね」

「えー!」

「自由時間にちょっと薬を作るだけよ。給料をもらう以上、アンタの指導はキッチリやるから安心しなさい」

「それじゃダメなのー!」

「いいこと? 金貨の魔女は売れっ子なの。今だって、案件をいくつか抱えてるし、アンタの家庭教師代とは比べ物にならないほどの高額依頼の打診だってもらってるの。いくら上乗せされたって足りないわ」

「高額……依頼?」

 

 ひやり、と背筋を嫌な汗が流れる。

 やばい。

 危険な仕事には高額の報酬が支払われる。彼女に打診されているそれは、値段相応の危険が伴っているだろう。

 その中に彼女の死につながる依頼がもう含まれているかもしれない。

 ジェイドが子供だから、彼女の死はまだまだ先だと思ってたけど、彼女はすでに棺桶に片足を突っ込んでる可能性がある。

 ちまちま交渉している余地はない。

 今すぐ彼女に他の依頼全てを破棄させないと!

 

「私を専属で雇いたいなら、人生丸ごと買うくらいのお金を出してもらわなくちゃ」

 

 こうなったら、切り札を使うしかない。

 


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