【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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白百合と炎刃を待っていたものたち

「リリアーナ!」

「お兄様!」

 

 馬車がタウンハウスの玄関に到着するなり、私はそこから飛び出した。出迎えてくれた兄に駆け寄る。

 振り向くと、屋敷の入り口の門に人々が群がっている姿が見えた。

 

「よく無事にたどり着けたね。怖かっただろ」

「うん……!」

 

 よしよし、とお兄様は私の頭をなでてくれた。私もここぞとばかりに甘えて兄に抱きつく。

 

 王都に入った私たち家族を迎えたもの。それは、父様と母様のファンたちだった。

 脂肪の衣を脱ぎ捨て、かつての美貌を取り戻したと知った人たちが、ふたりを一目見ようと大通りから屋敷までの道に詰めかけたのだ。

 現代日本で言う所の、スポーツ選手の凱旋パレードみたいなものなのかな? あんな感じの人の群れが、うちの馬車を取り囲んだのである。警察官や警備員が交通整理をする現代日本とは違って、頼りになるのはうちに仕えてくれてる兵士たちだけ。

 正直、いつ群衆が暴徒になって、馬車に突っ込んできてもおかしくない状況だった。

 そんな中、人をうまくさばいて屋敷まで馬車を運んだ兵士たちは、本当によくやってくれたと思う。あとで差し入れしておこう。

 

「クライヴ、門の前に集まった人たちを解散させてくれ。それから、屋敷の警備を強化するように」

「かしこまりました」

 

 馬車から降りて執事に指示を出すお父様の声も、少し疲れている。のんびり夫婦も、さすがにあんなに人に取り囲まれたら、くたびれるよね。

 

「アルヴィン、出迎えてくれてありがとう。父様と母様は少し大人の話があるから、リリィと先に中に入っていなさい。夕食も先に食べていていいから」

「わかりました。リリィ、おいで。疲れていると思って、甘いお菓子を用意させてるんだ」

「やった! お兄様、ありがとう」

 

 私は、兄のエスコートで屋敷の中に入る。

 そこでは、使用人たちが荷ほどきのために忙しく働いていた。

 

「王都に来るなり、お兄様に会えるなんて嬉しいわ。王立学園の授業はいいの?」

「今日は学校が休みの日だから大丈夫。しばらくは寮に戻らず、ここから学園に通うつもりだ」

「そうなの?」

 

 私は嬉しいけど、授業とか大丈夫なんだろうか。

 

「王都に自宅がある生徒は、自宅通学が認められているんだよ。授業のほうも、今期のカリキュラムは実技以外ほとんど修了しているから、今更焦る必要はない」

 

 そういえば兄様は、ゲームだと卒業後すぐに魔法学の教師になれるくらい、めっちゃ頭いいんだった。余計な心配だったな。

 

「それより、あの父様と母様の姿に慣れるほうが大事だと思うから……」

「あー……」

 

 そういえば、そうだった。

 年度の切り替えである夏休みと違って、冬至のお休みは半月と短い。

 折角ハルバードの家に帰って来た兄様だったけど、数日で学校に戻らなくちゃいけなかったんだ。だから、スリムなふたりとは、まだほとんど交流できていない。

 今年の社交シーズンは、家族の交流を深めるいい機会だと思ってくれたらしい。

 家族の溝が少しでも減るといいなあ。

 

「それで、その後ろのふたりがお前の教師たちか?」

 

 私と並んで歩いていた兄様は、ひょいと後ろを振り返った。そこには、従者らしく私の後ろに付き従うディッツとジェイドの姿があった。

 

「そうよ。ふたりとも、お兄様にご挨拶なさい」

 

 そう言うと、ディッツが恭しくお辞儀した。

 

「お初にお目にかかります、若様。お嬢様の家庭教師として勤めております、ディッツ・スコルピオです。専門は、魔法を使った新薬の開発になります」

 

 次に、ジェイドがぺこりとお辞儀する。

 

「ボクはスコルピオ様の弟子のジェイドです。リリアーナお嬢様の従者として、お仕えさせていただくことになりました。よろしくお願いします、若様」

 

 よし! ひっかからずに自己紹介できた!

 えらいぞジェイド!

 ディッツ以外とほとんど会話したことがなかったから、つい、たどたどしい喋りになっちゃってるけど、練習した定型文なら、すらすら言えるんだよね。

 やればできる子、がんばれ!

 

「お嬢様……その応援の仕方はどうなの……ボク、一応年上……」

「従者を誉めるのは主人の務めよ!」

「いい誉め方を身に着けるのもレディの仕事だろう、リリィ」

 

 はあ、とため息をついてから、兄はディッツたちに向かってお辞儀を返した。

 

「丁寧な自己紹介ありがとうございます。まさか、東の賢者と名高い、スコルピオ様に妹を指導してもらえるとは思っていませんでした」

「いい人材を捕まえたでしょ」

「それは認めるが……どうして金貨の魔女が東の賢者になったんだ? 手紙に書いてあった内容だけだと、何が起こっていたのかさっぱりわからなかったんだが」

「それは口で説明してもわからないと思うわ」

 

 私も、いきなり魔女が魔法使いに化けると思ってなかったもん。

 

「まあ細かいことはいいじゃないですか」

 

 自己紹介が終わったら外面モードは終わり、とばかりにディッツはへらっと笑った。おい、さっきまで背中にしょってた猫どこにやった。

 

「お近づきの印に、おもしろい魔法を見せましょう。そこのメイドさん、ソレ、ちょっとこっちに渡してもらえるかな?」

「ええっ?」

 

 ディッツはいきなりハウスメイドのひとりを呼び止めた。

 


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