【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「戦争って、騎士様たちが戦うもの、だよね?」
「でもその騎士が使う武器は誰が作ってるの?」
「鍛冶屋……さん?」
「そして、騎士たちが集まって、敵を迎え撃つ建物は誰が作るの?」
「大工、さん?」
「騎士が戦う間、必要な食糧を手配するのは? 使う魔法を開発するのは?」
「そう、言われてみると……戦争って、たくさんの人が関わって、る?」
「そういうこと。国を豊かにするために、王立学園は領主候補の教育に加えて、他の人材も育てることにしたの。えーと、最初に追加されたのは、騎士に付き従う従騎士科、だったっけ?」
「従騎士科と、工兵科だね」
「あ~そうだった! ふたつ追加だった!」
兄様の指摘に、私は声をあげる。
「その後に医療科、魔法科の順で追加されているよ。この追加順と年代は、テストに出るから押さえておいたほうがいいね」
「出た! テストに出るポイント!」
異世界でも、こういう注目ポイントの傾向は変わらないらしい。
「リリィ? 出るって……お前はまだあまりテストを受けてないだろ」
「え、ええっと、家庭教師がチェック用に小テストを出してきてたから!」
とにかく!
「そういうわけで、今の王立学園では騎士階級以外の庶民も対象に、色々なカリキュラムが用意されているの。ジェイドなら、魔法科の授業を受けるのが適当かしら」
「俺の後輩になるわけだな」
「そ、そうだったんだ。でも、元は貴族向け、なんだよね。授業料とか、どう、するの?」
絶対、高いよね……と、元守銭奴を師匠に持つ従者が不安そうになる。
「お前の才能なら俺と同じ、授業料免除の奨学生コースでいけるだろ」
「そ、それ、多分、一番の成績の子じゃないと、ダメ、なんじゃ……」
「俺の弟子のくせにその程度できないわけないだろ」
「ええええ……」
「ディッツ、信頼を通り越して無茶ぶりになってるわよ」
「お金の心配はしなくていい。元々、ハルバード家にはお抱えの騎士や使用人を王立学園に通わせる決まりがあるんだ。毎年何人か通わせるメンバーの中に、リリィの従者が加わるだけだ」
「つくづく、太っ腹な雇い主だな……」
ディッツがため息をつく。
呆れているのか、感心しているのか。
「我がハルバード家は、家臣に支えられて成り立っているからね。人材への投資は惜しまないよ」
「ジェイドはとにかく、のびのび学んでくれればいいの!」
「うん……わかった」
こくこく、とジェイドがうなずく。
そして、再び首をかしげた。
「あれ……? 学校が戦争のためにできたんだったら、女の子はどのコースに行くの? お嬢様も、王立学園には通うんだよ、ね?」
「私は女子部ね」
「じょし、ぶ?」
領主候補を指導する騎士科に比べ、女子部の歴史は浅い。
できたのはつい、50年ほど前だ。
「女子部は、貴族の子女が女主人になるために必要な教養を身に着ける場所よ」
実を言うと、このファンタジー世界では女の子、特に貴族の家に生まれた子の進路はほとんど決まっている。同じ程度の貴族の家のお嫁さんだ。そして、嫁いだあとは子供を産み、女主人として家を盛り立てていくのが仕事になる。
もちろん、それぞれの適性を生かして、商売なんかを手伝うこともあるけど、表舞台に立つのは主に旦那様のほうだ。だから、女子の教養についてはあまり重要視されてなかったんだけどね。
「これもやっぱり戦争が原因よ。西隣のキラウェア国と戦った時に、兵を率いて多くの領主が出陣していったの。夫が不在の間は妻が女主人として領地を切り盛りして守るものなんだけど……あまりに領地経営の知識がなくて、家を潰しかけたところがいくつかあってね」
「戦争そのものより、妻たちが浪費した財政を立て直すほうが、大変だったと言われてるよ」
「で、やっぱり女の子にも教育しないとダメだってことになって、女子部ができたの」
「せ、戦争こわい……」
「私もそう思うわ」
「女子部設立には、もう一つ意味があった、って俺は聞いているぜ」
ディッツがにやにや笑う。こいつがこういう笑いをした時は、だいたい良くない話である。
「戦争で親世代が何人も死んだわけだろ? 若い跡取りが嫁さんをもらって領地を継ぐ必要ができたんだ。女子部は、そんな地方領主のお見合いの場として作られた、っていうのは有名な噂だ」
「そういう側面があることは否定しないよ。実際、騎士科と女子部との合同授業があるからね」
あったなー、そんな設定。
ゲームだと、攻略対象にアタックできる貴重なイベントタイムだったから、全力で参加してたけど。
「お兄様も、女子部との合同授業でステキな子と出会ったりしてるの?」
「……お前も参加してみるといい。高級商店の目玉商品になった気分が味わえるぞ」
「なんとなく、どんな目にあうかわかったわ」
美形で成績優秀な侯爵家嫡男だもんねー。
そりゃーみんな殺到するわ。
「まあ、学園に通えなくては、見合いも何もないんだがな」
「それもそうね……」
屋敷の外から、父様の名前を呼ぶ女性の声が聞こえる。
ファン心理をこじらせたご婦人が、また押しかけてきているのだろう。
私が外に出て、お茶会デビューできるのはいつになることやら。