【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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状態異常の時に限ってボスキャラが出てきたりするよね

「いってえ!」

 

 バチン! という大きな音とともにヴァンが声をあげた。

 ついに八匹にまで増えたハチを相手に、防御の手が回らなくなったのだ。かろうじて急所は避けたが、ハチの針を受けた腕からぱっと血しぶきがあがる。

 

「ヴァン!」

 

 婚約者の怪我に気を取られて、クリスの集中が途切れる。

 その隙をついて、ハチの一匹がこっちに向かって飛んできた。そいつの狙いは私だ。社会的な生き物であるハチは、一階層のボスと同様に一番弱い者を的確に狙ってくる。

 思わず身構えた私の目の前で、じゅっと音を立ててハチが消し炭になった。

 

「ダンジョンを出るまでは守る約束だからね」

 

 にやにやとユラは笑っている。

 かばってくれたのはありがたいが、そもそもヴァンたちが対抗しきれないほどのハチをおびき寄せた犯人もユラなので、素直にお礼を言う気になれない。

 

「ヴァン、大丈夫?」

 

 他のハチを片付けて、クリスとケヴィンがヴァンのもとに集まった。ヴァンの腕は紫色に腫れあがっている。どうやら、ハチの毒を受けてしまったようだ。

 

「やばいな……」

 

 三人の顔が青ざめる。

 ここはダンジョンの中で、当然のことながら医者も衛生兵もいない。自分たちだけで対処しなくてはいけない状況だ。

 しかも。

 

「君たち、ぼんやりしてていいの? 巣からおもしろいのが出て来たよ?」

 

 ユラが楽し気に声をかける。

 そこに現れたのは、今まで戦ってきたハチの十倍はあろうかという巨大な女王バチだった。体も大きいけど、アゴも脚も、そして振りかざす毒針も大きい。

 

「ちょうど働きバチが全滅したところだったんだねえ」

「うげ……」

「早めに倒さないと、また働きバチがふえちゃうね。大変!」

 

 一切大変とは思ってなさそうなユラは、心底楽しそうにヤバい状況を解説してくださる。言ってることは間違ってないけど、このカルい口調が私たちの神経を逆なでする。

 

「解毒と止血は私にまかせてください!」

 

 セシリアが加護の時と同じ、祈るようなポーズを取った。小さく呪文を唱えると、ヴァンの腕の傷がみるみるふさがっていく。本来あり得ない治療速度だ。

 一瞬でHPを満タンにする治癒魔法を実行したら、現実にはこうなるってことなんだろう。

 

「ヴァン?」

 

 クリスが心配そうにヴァンを見る。安心させるように、ヴァンはにやっと笑った。

 

「大丈夫だ。あのデカいの、まかせられるか?」

「もちろん!」

 

 剣を握り直すと、クリスは放たれた矢のように駆け出す。その後ろについて、ケヴィンも走る。ヴァンはあえてその場に残り、女王バチを見据えた。戦い方を考えているんだろう。

 私は攻略本を片手に叫ぶ。

 

「ヴァン、そいつの弱点は目の間! 毒針を使おうとタメ動作した瞬間を狙って!」

「了解。クリス、ケヴィン、タメ動作まで牽制! 毒針を使おうとした瞬間にクリスが一撃をたたきこめ!」

 

 指示を出しながらヴァンも走り出す。

 素早く動く女王バチを三人がかりで抑え込んだ。大きな脚を切り払い、攻撃のチャンスをうかがう。女王バチがくっと体を曲げ、一瞬動きを止めた。必殺のチャンスだ。

 しかし同時に蜂の巣から羽化したばかりのハチが二匹出現する。

 どちらを攻撃すればいいのか、クリスの視線が揺れた。

 

「あっ……」

「いいからやれ! こっちはなんとかするっ!」

 

 ヴァンの声に呼応するように、クリスはクレイモアを振った。重い剣を叩きつけられた女王バチは絶命する。

 その後ろで、クリスのフォローをしていたヴァンとケヴィンがそれぞれ相対していたハチを叩き落した。鮮やかな連携プレーだ。

 

「はあ……」

 

 見守っていた私の口からも大きなため息がもれる。

 

「これで……終わり……?」

 

 ヴァンたち三人は、まだ蜂の巣に意識を向けている。ユラがじっと巣の奥を探るように見つめた。

 

「敵の気配はないね。女王が死んだ時点で巣の中で待機していたサナギや幼虫も全滅したみたい。親切な設定だ」

「もうハチが出てこないならそれでいい。巣の中に宝石があるんだっけ?」

 

 ヴァンは無造作に蜂の巣に手をのばす。

 サイズが大きいから、木から取り外すのも一苦労だ。

 

「うん、それで……」

 

 蜂の巣をもぎ取ったヴァンに使い方を説明しようとした時だった。

 ドドッ、ドドッ、と何か獣が走るような足音がこっちに近づいてきた。それも複数。

 

「おや、新しいお客さんかな?」

「嘘だろ?」

「ご……ごめん、ヴァン……まだちょっと戦闘は……」

 

 ケヴィンがぜい、と息をつく。

 そりゃそうだ、ユラのせいでさっきから連戦続きなんだから。

 

「右の道に向かって走って! その先にセーフエリアがあるから!」

 

 私は攻略本を抱えて走りながら叫ぶ。

 ヴァンたち三人もお互いをかばうようにして走り出した。

 

「逃げるぞ!」

 

 戦闘の成果を確認する間もないまま、私たちはひたすら追ってくる獣の群れから逃げた。




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