【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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幕間:危機(シュゼット視点)

 馬車を急停止させると、フランドール様はすぐに降りていってしまった。はしたないと思いつつ、私も開け放たれた馬車のドアから外を伺う。

 すぐにとんでもないものがこちらに向かってきた。

 馬に乗る少女だ。

 小柄な女の子が大きな馬にまたがっている、というだけでも異様だが、彼女の格好がさらに異常だった。少女は王立学園の女子制服を着ており、頭には猫のような黒い毛に覆われた三角の耳がある。リリアーナの側近、フィーアだ。

 彼女の乗っている馬をよくよく見ると、その馬装には王立学園の紋章が刻まれている。

 おそらく、学園の備品として飼われている馬を拝借したのだろう。

 フィーアは忠実な部下であると同時に、リリアーナの護衛だ。

 彼女がリリアーナの元を離れて単独行動するなんて、まずあり得ない。

 つまり、リリアーナによほどのことが起きたのだ。

 

「フィーア!」

 

 フランドール様の前まで来ると、フィーアは馬を停めてその場に降りた。よほど急いでいたのだろう、彼女は息を整いきれずにぜい、と苦しそうにため息をつく。

 

「ご主人、様が……フランドール様でなくては、助けられません」

「わかった」

 

 短く答えると、フランドール様はこちらを振り返った。

 

「申し訳ありませんが」

「状況はわかりました。行ってください」

 

 リリアーナを助ける彼を止める理由はない。彼女は私の友達でもあるのだから。

 フランドール様は御者台にいた従者に声をかける。

 

「ツヴァイ、お前はシュゼット様を女子寮までお送りしろ」

「かしこまりました」

 

 従者が短く答える。

 フランドール様は、フィーアが乗ってきた馬にふたたび彼女を乗せると、自分もその後ろにまたがった。

 

「失礼します!」

 

 最小限の別れの言葉だけを残して、フランドール様は去っていった。

 その背中を見送ってから、私は馬車の座席に座り直す。残された従者が、静かに馬車の扉を閉めた。ややあってから、王立学園に向かって馬車が走り出す。

 

「……見せつけてくれますわね」

 

 誰ともなく、つぶやいてしまう。

 ミセリコルデ宰相家との政略結婚を諦めた理由は、もうひとつある。

 そもそもフランドール様がリリアーナにベタ惚れしているからだ。

 王侯貴族にとって、結婚とは政略のひとつである。婚姻関係ひとつで外交窓口が作れるのなら、安い物だと言う者もいるだろう。

 しかし、婚姻は政略であると同時に、信頼関係でもある。

 自分に一かけらも情を持たない男に嫁いで、得られるものなどありはしない。

 

「はあ……」

 

 去っていくフランドール様の目は、まっすぐにリリアーナだけを見ていた。

 あんな風に、ただひたすらに愛情を注がれたら、どんな心地がするだろう。

 王女の自分にそんな恋愛はさせてもらえない。

 私はリリアーナのことが、ひどく羨ましくなってしまった。

 

 

 




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