【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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病弱少女のコンプレックス

「あと十メートルでセーフエリアです」

 

 先頭を歩く白猫が、落ち着いた声でお知らせしてきた。

 もちおが向かう先を見ると、暗い地下神殿の中にあって、妙に明るいエリアが見える。フィールドの石畳はどこも苔むしてて、ところどころ石が割れてたりするんだけど、セーフエリアの床だけはぴかぴかだ。

 安全地帯がわかりやすいのは助かる。

 

「ちょっと待ってね」

 

 私はセーフエリアの中心に向かうと、古びた燭台にロウソクを置いた。火をつけると、青白い炎が辺りを照らし始める。

 

「これでよし。三十分は安全が確保できるわよ」

「ありがとな、ちょっと休憩にするか」

 

 ヴァンがそう宣言して、私たちはそれぞれセーフエリアに腰をおろした。私はもう一度ロウソクの状態を確認してから、端っこに座る。すぐ隣にフランがやってきた。

 

「いちいち特殊なロウソクをともさないと、ゴーストがやってくるのか。面倒なシステムだな」

「ちょっとずつ条件を厳しくして、サバイバル能力を鍛えようとしてるんだと思う。ロウソクの在庫管理もゲーム性のうちってことだね」

 

 私は所持品ボックスを開くと、中から薬の材料を取り出した。万が一にそなえて、必要なアイテムをそろえておかないと。

 作業がしやすいよう、素材を並べようとしたらフランに手を掴まれた。

 

「何?」

 

 いきなり触られたら、どきっとするんですが。

 

「仕事の前に五分休憩だ」

「メンバーの休憩中がクラフターのお仕事時間なんだけど?」

「それだと、お前の休憩時間がないだろう。移動に戦闘に製造に……ずっと集中したままじゃないのか」

「あー……」

 

 そういえば。

 小夜子と違って、体力もスキルもあるからってちょっと張り切りすぎていたみたいだ。

 私は素直に素材から手を離した。

 

「お前は十分頑張っている、休め」

「はーい」

 

 返事をしてから、私は何かが物足りないことに気が付いた。

 

「ここは、よくやったって頭をなでてくれるところじゃないの」

 

 見上げて尋ねると、フランはわずかに目を泳がせる。

 

「しかし、さっきは……」

 

 さっき、と言われて私は自分の記憶を掘り起こす。私がフランのなでなでを拒否したことって……あったな。しかもつい先ほどの話だ。

 それどころか、ダンジョンでフランと再会してから、見るなと言ったり離せと言ったり、キスするなと言ったり、さんざんなことしか言ってない気がする。いろいろあったとはいえ、助けてくれた恋人に対してあんまりな対応である。

 ちゃんと、話さなくちゃ。

 

「……ごめん。小夜子がなでなでを嫌がったのは、もう気にしないで」

「あれもお前の一部だろう。それに、あの嫌がり方は尋常ではなかった」

「フランが嫌いで、拒否したわけじゃないの」

 

 私はフランにもたれかかった。

 

「多分もう気づいてると思うけど、小夜子はコンプレックスの塊なのよ」

「……ああ」

 

 私に寄り添いながらフランが息を吐く。

 

「あの子、ずっとニット帽をかぶってたでしょ。走って汗をかいても、服をはだけたりしなかったし」

「そうだな」

「あの子は全身傷だらけだったの。帽子の下にも、人に見せられない傷がある。それを他人……特に好きな人に触られるのは絶対のタブーだったのよ。これは、あなたが気にする気にしないの問題じゃない。小夜子が嫌なの」

 

 私の言葉をフランは静かに聞いている。

 

「コンプレックス自体は悪いことじゃないと思うの。私が今、全力で生きてやろうって思うのは、その裏返しだから。でも、あの時はストレスでとにかくテンパってて」

「知ってる」

 

 でしょーねー。

 されてる時は気づかなかったけど、フランが私を抱っこして離さなかったのは、恋人に触れたかっただけじゃない。精神的に追い詰められて暴走していた私を、放っておけなかったからだ。

 

「今は、平気か?」

 

 そろりとフランの手が動く。いつものなでなでの仕草だ。

 

「大丈夫。……っていうか、なでてほしい」

 

 頭にフランの大きな手が乗せられて、わしわしとなでられる。あたたかい、いつものなでなでだ。

 

「このままキスしたいが……」

「それは今の姿でも拒否するわよ」

 

 セーフエリアの端にいるといっても、すぐそばに仲間がいる。これ以上のいちゃいちゃは私の羞恥心が耐えられない。

 恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 だから、そんな残念そうな顔でこっち見てもダメだからね?

 プリーズ建前! カムバック臆面!

 

「俺としても、リリィの判断が正しいと思うぜ?」

 

 苦笑しながら、ヴァンが声をかけてきた。

 

「日常的に婚約者といちゃついているお前に言われる筋合いはない、と思うが」

「あんたほどベッタベタしてねえよ! 目のやり場に困るから、少しは慎め!」

 

 ほんそれ。

 私もいろいろといたたまれない。

 何故この男は変なところでぶっ壊れているのか。原因はなんとなくわかってるけど!

 

「どうしたの? わざわざ声をかけてくるってことは、何かあったのよね」

「まあな。この先の攻略について、相談したい」

 

 なるほど。

 リーダー会議ってことですか?

 




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