【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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囮作戦

「全くやってくれるね……」

 

 地下神殿の薄暗い部屋の一角で、ユラが悪態をついた。私はにっこり笑ってその言葉を受け流す。

 

「ダンジョン攻略に必要なことだから、諦めて!」

「僕を囮にするとか、よくこんな残酷なことを思いつくね」

 

 はあ、とため息をつきながらもユラは逆らわない。その姿を見て、セシリアもにっこりとほほ笑んだ。

 

「ダンジョン攻略のために手を貸す……まさか、その誓いを破るとは言いませんよね」

「愛しの君のお願いなら、従うしかないんだけどね? 君と離れて行動することになるなんて、寂しさで気が狂いそうだ……」

「私は、とっても嬉しいですよ」

 

 にこにこ顔のまま答えるセシリアの目は笑ってない。

 少々……いや、かなりお疲れのようだ。

 早く作戦を実行して、セシリアを解放してあげなくては。

 

「フロアボスのヴァンパイアは、常に暗がりに隠れてるの。この『破魔のロウソク』で照らされると、別の暗がりに移動する特技を持ってるわ」

「走って逃げるわけではないんだよな?」

 

 クリスが確認する。私は頷いた。

 

「瞬間移動……えーと、距離も時間も無視して、一瞬で別の場所に現れるの」

 

 いわゆる、テレポーテーションというやつである。

 

「暗がりから暗がりにぴょんぴょんジャンプされたら、いつまでたっても捕まえられないから、ダンジョン中にロウソクを置いて、逃げ場をふさぐのがセオリーよ。でも、いちいちそんなことしてたら時間がいくらあっても足りないから、別の方法をとります!」

 

 私は暗がりに座るユラを見た。

 

「ヴァンパイアは暗がりに探索者がいた場合……その中で最もパラメーターの低い者のすぐそばに現れて、攻撃してくるの」

「ロウソクで照らして追い詰めた、と思った瞬間、別の暗がりにいる誰かが襲われるってわけか」

「本来は、暗がりに取り残されるメンバーが出ないよう、助け合わせる試練よ」

 

 暗闇でお互いをかばいあうドキドキイベント。なかなかアツい展開である。

 しかし、今はそんなことで盛り上がってる暇はない。

 

「今回はその特性を逆手にとるわ。メンバーのひとりを囮にして、ヴァンパイアをおびき寄せるの。もちろん、囮はユラね!」

「ひどい!」

 

 暗がりでユラがわざとらしく傷ついたふりをする。どうせ本気で言ってないだろうから、周りの視線は冷たいままだ。

 これが邪道と呼ばれるのは、もちろん乙女ゲームにあるまじき作戦だからである。

 仲間のひとりを暗がりに置き去りにするとか、提案するだけでドン引きされて好感度だだ下がりである。しかし、現実の私たちがやってるのは乙女ゲームじゃない。

 邪神の化身を囮にしたところで、心を痛めるようなメンバーはいなかった。

 

「まあ、作戦の決定権は君たちにあるから、従うけどね……たった数時間で勇士の末裔が立派な殺戮者に育って、女神はさぞお喜びだろう」

「言うに事欠いて、殺戮者よばわり? ここはゲームの世界でしょ」

「だけど、経験は現実だ」

 

 にい、とユラは嫌な笑い方をする。

 

「ここはよくできた殺人者養成所だよ。最初は大型の動物、次は異形の獣、そして、ヒトの特徴を残したキメラに、二足歩行の魔物。最後はほら……ほぼ人間と姿の変わらないアンデッドだ。仕方ないから、敵だからと理由をつけて、少しずつ殺人行為に慣らされている」

「慣れって……」

「疑うなら、このダンジョンを出たあと、対人戦闘をしてみればいい。びっくりするくらい効率よく、人が殺せるようになってるよ」

 

 否定は、できなかった。

 確かに第一階層から第五階層にかけてのモンスターデザインは、彼の言う通り段階的に人間へと近づいていたから。経験を重ねたヴァンたちは、仲間の死に眉一つ動かさず、敵を屠ることができるだろう。

 私自身、『ゲームの世界だから』を免罪符にして、普段は考えもしない感情無視の思考をしている自覚はある。

 だからって言うに事欠いて殺戮者はないだろ。

 

「囀るなよ、邪神の手下が。お前の手口はもうわかってんだよ」

 

 ヴァンがユラを鋭く睨んだ。

 

「殺戮者結構。リリィとセシリアはともかく俺たちは騎士、つまり職業軍人で殺人者予備軍だ。いつか前線で人を殺しまくることになる、ってことは全員覚悟してんだよ」

「ひるんで仲間を失うくらいなら、少しくらい壊れてたっていい」

 

 婚約者の死を経験したクリスもまた、強い瞳でユラを見る。一番戦闘経験の多いフランが、冷ややかにユラを見下ろした。

 

「お前の話はそれで終わりか? さっさと行動を開始したいんだが」

「終わりじゃないよ」

 

 ユラは歪な薄笑いを浮かべる。

 

「囮になるのは構わないけどね、やっぱり愛しの君と離れるのは嫌だ」

「私はヴァンパイアを捜索に行きます。ここには残りませんよ」

「うん、だからさ」

 

 その時になって、私はやっと異常に気付いた。

 ユラの周りだけ、異様に闇が濃い。黒髪に黒い瞳という色素を抜きにしても、彼は他のメンバーに比べて暗く見える。

 

「探しに行かなくてもいいよう、呼び寄せておいたよ♪」

 

 ぬう、と彼の背後から白い手が伸びた。次いで、死体のように真っ白な顔が闇の中に浮かび上がる。漆黒のドレスを身にまとった赤い瞳の女、ヴァンパイアだ。

 

「構えろ!」

 

 ヴァンの声に呼応して、私たちは戦闘態勢に入った。

 




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