【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
襲撃者
「ディッツ」
私たちは事前の取り決め通りに、そろそろとディッツの周りに集合した。彼は私たちをそっと茂みの中に隠してから、油断なく崖の上を見つめた。
人影たちは、争っているようだった。
さっきの叫び以外にも、何度か相手を罵倒するような声が響いてくる。
「大丈夫だ、ここで静かにしていれば、あいつらには見つからない」
私を守るように構えながら、ジェイドもこくこくと頷く。
「あいつらは何者なの? あの辺りには街道もなかったはずよね?」
「や、野盗の、仲間割れ、とか?」
「……それにしては、身なりのいい奴が混ざってるな」
見ているうちに、人影同士の立ち位置がなんとなくわかってきた。黒装束の男4人が、身なりのいい青年1人を取り囲んでいるのだ。身なりのいい青年は腕が立つみたいだったけど、相手が4人もいるせいで、じりじりと崖っぷちに追い詰められていく。
……え、あれ大丈夫なの?
放っておいたら、殺されるんじゃない?
このまま見ていていいの?
ディッツを見上げると、彼は首を振った。
行くな、という意味だろう。
でも、このままじゃ、彼は死ぬよね?
すうっと手の先が冷えていく。目の前の、どうしようもない悲劇が止められない。
ただの子供で、ろくな魔法も何も使えない私では、見ていることしかできない。
ガキン! という金属のぶつかる嫌な音がして、青年が黒装束の男に武器ごと押された。
その一瞬で、彼はバランスを崩して、背中から崖の下へと落下する。
「やっ……!」
思わず飛び出そうとした瞬間、ディッツの大きな手が私の口を塞いだ。さらに、もう一本の手が私の体を力いっぱい抱きしめる。ジェイドも私の体にしがみついてきた。
「……んー!」
私がただ見ている目の前で、青年の体は大きな水柱をたてて川に突入した。あの高さでは着水の瞬間、相当な衝撃があったはずだ。すぐに引き上げないと、彼が死んでしまう!
「こらえてくれ、お嬢。崖の上の奴らは玄人の傭兵だ。戦いはからっきしの俺と、子供ふたりが助けに入ったところで、全員殺されるのがオチだ」
「んんん!」
だからって、彼を見捨てろっていうの?
「何も見殺しにしろとは言ってない。落ちる瞬間に、最低限の守りの魔法と目くらましの魔法をかけておいた。傭兵が捜索を諦めるまで待てば、救助できる」
でも!
「頼む……俺はあんたを死なせるわけにはいかないんだ」
「……お嬢様!」
もー、あんたたちふたりに懇願されたら、振りほどけないじゃないのー!!
「大丈夫だ。戦闘はポンコツだが、治癒術にはちょっと自信がある。生きてさえいれば、あの兄ちゃんを絶対に救ってやるよ」
こく、と頷くと、やっとふたりが私を拘束する手がゆるんだ。3人で抱き合ったまま、黒装束の男たちが去るのを待つ。
焦燥感でじりじりとしながら、太陽が傾くまで待っていると、ようやくディッツとジェイドの警戒がとけた。
「もう……いなくなったよ」
「た、助けに行っていいわよね!」
私は焦りで転びそうになりながら、川へと向かった。
ディッツが目くらましの魔法を解除すると同時に、川べりに男の人がひとり倒れているのが見える。
その顔を覗き込んで、私は思わず息をのんだ。
水に濡れたまっすぐな黒髪。血の気がひいて青ざめた頬に特徴的な泣きボクロ。意識のない今は瞼が閉じられているけど、その奥の瞳は美しいサファイアブルーのはず。
彼は、攻略対象のひとり、フランドール・ミセリコルデだった。