【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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番外編
悪役令嬢はハロウィンイベントを成功させたい


「トリックオアトリート!」

 

 ハルバード城のエントランスに、元気な声が響いた。

 エントランス奥に作られたバルコニーからそちらをのぞき込むと、思い思いに仮装した子供たちが何十人も集まっているのが見える。あちらからも私の姿が見えたようで、彼らは一斉に歓声をあげた。

 

「リリアーナ様だ!」

「領主様、お菓子ちょうだい!」

「イタズラするぞー!!」

 

 私はバルコニーから、子供たちに微笑みかける。

 

「まあ、こわいオバケさんたち。イタズラされてはたまらないわ、お菓子を差し出しましょう」

 

 用意していた口上を語る。

 それを合図に、控えていた使用人たちが一斉にお菓子をばらまきはじめた。子供たちはうれしそうに歓声をあげてお菓子を拾った。

 

「やったー、おいしそう!」

「お嬢様ありがとう!」

「みんな、元気に過ごすのよ」

「はーいっ!」

 

 お菓子に夢中な子供たちを確認してから、私はバルコニーからさがった。

 

「ふう……これでよし」

 

 今年のハロウィンイベントも、つつがなく終えられそうだ。

 女神の見守るファンタジー世界だというのに、この国には現代日本とそっくりな「ハロウィン」イベントがなぜか存在していた。オバケの格好をして呪文を唱える子供に、大人が怖がるふりをしてお菓子を与えるアレである。

 私もまだ十二歳の子供だから、本来ならあの子たちと一緒になって「お菓子ちょうだい!」と言ってるところなんだろうけど、今の立場は「領主代理」。残念ながらお菓子を配る主催者側だ。

 

「よくやったな」

 

 バルコニーから城内に戻ると、黒髪に青い瞳の青年が声をかけてきた。私の補佐官のフランだ。セレモニーが終わるのを待ち構えていたらしい。

 

「子供たちに喜んでもらえてよかったわ。そっちの首尾はどう?」

「城内に入ってこれない下町や貧民街の子供向けに、菓子を配布している。同時に健康状態も確認もさせ、深刻な者は保護する手はずだ。地方でも各代官を通して配布を指示してあるから、そのうち報告書が届くだろう」

「これで、子供の冬越え率が少しでも上がるといいんだけど」

 

 生活インフラが整備されていた現代日本と違い、ファンタジー世界のハロウィンの開催目的は若干シビアだ。季節はこれから厳しい冬になる。地域ぐるみで子供たちに栄養あるものを与え、寒さを乗り越える体力をつけさせるのがねらいだったりする。

 地域ぐるみの栄養対策、となればイベントの出資運営はその地を治める領主の仕事だ。

 事務仕事だけでも忙しいのに、イベント運営とかどうしろと、と思ったけどそこは伝統行事。幸い去年までもずっと騎士や使用人が中心になってイベント運営していたおかげで、ノウハウはちゃんと残ってくれていた。悪徳執事クライヴのせいで年々お菓子の質が下がって不満がでてたみたいだけど、今年はたっぷり予算をかけたから満足度も高いはず。

 

「汚職官僚を排除し、地域福祉に予算をまわしている。去年より悪くなることはないだろう」

「……そうね」

 

 フランの言葉を信じたいけど、この世界は医療も流通も現代日本とはくらべものにならないからなー。流行り病で村ひとつ簡単に全滅する世界ではそうそう安心できない。

 

「お前はよくやっている。あまり気にしすぎるな」

 

 ぽん、とフランの手が私の頭にのせられた。

 わしわしと優しくなでられる。

 いやこういうの嫌いじゃないですけどね? 領主の立場としては、こんなことで軽率に不安を忘れていいのかなって……うん、気持ちいいしまあいいか。

 

「お前は、呪文を唱えないのか?」

 

 ぼんやりしていると、そんなことをたずねられた。

 

「私は主催者側じゃない。言ってどうしろっていうのよ」

 

 そんなことをしたら、子供に配るお菓子が一個減るじゃないか。用意した予算は、全部街の福祉用だ。つまみ食いしていいものじゃない。

 

「お前だって、冬に向けて体力をつけるべき子供だろう」

「平気よ。私は領主として、元からいいもの食べさせてもらってるもの」

「……だが、イベント準備のために、忙しくしていただろう」

「それは当然の仕事で……」

 

 さらに反論しようとしたら、頭からずぼっと何かをかぶせられた。

 外そうとよく見てみる。どうやら、子供たちがオバケの仮装によく使っている布袋みたいだ。

 

「おお、怖い。こんなところにオバケがいる」

 

 フランが私を見てわざとらしく肩をすくめる。

 呪文を唱えろってこと?

 私が?

 なんなんだよこの茶番劇。

 一瞬布袋を脱ぎかけて、私はそこで手を止めた。

 いやでも、この青年が何も考え無しにこんなことさせるかな?

 絶対何か意図があるよね?

 見上げるとフランはずっと楽し気にほほえんでいる。

 

「と……とりっくおあ……とりーと?」

 

 言ってみた。

 フランは、待ってましたとばかりに笑う。

 

「イタズラされてはかなわないな。お菓子を差し出そう」

 

 どこにどう隠していたのか。

 フランはマントの中から、箱をひとつ取り出した。まるで手品だ。

 受け取って開けてみる。

 そこには、ケーキがひとつおさまっていた。フルーツがこれでもかともりもりに乗せられていて、宝石箱みたいに輝いている。

 

「おいしそう……! いいの、こんなに豪華なお菓子」

 

 キラキラの新鮮フルーツだけど、季節感おかしくない? 旬が春とか夏とかのはずだよね。この世界で季節ズレしたフルーツを手に入れようとしたら、とんでもないコストかかるよね?

 

「ここのところがんばっていたからな。俺が個人でお前用に手配した」

 

 がんばりへのご褒美が豪華すぎる。

 そういえばこの男、宰相家産まれの王都育ちだったわ。贅沢の仕方を知る高位貴族の御曹司だったわ……。

 

「うちの補佐官がスパダリすぎる」

「……すぱだり?」

「ううん、なんでもない。……ありがとう」

 

 フランが個人で用意したってのは本当なんだろう。

 だとしたら、私は素直にこのケーキを受け取るべきだ。

 でも。

 

「体力をつけるためっていっても、私がひとりで食べるにはちょっと多いわ」

「食べきれないぶんは、ジェイドやフィーアに下げ渡せばいい」

「……む」

 

 私は変なところで察しの悪いフランのマントをつかんだ。

 

「お茶の相手をしなさい。でないと、イタズラするわよ」

「……それは困るな」

 

 部屋に戻った私は、フランと一緒に高級フルーツケーキを堪能した。

 

 




 特に脈絡なく、軽率にハロウィンSS。
 時系列としては領主代理になった最初の年の秋。

 本編の連載再開については、もうしばらくお待ちください。
(がんばって書いてます)
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