【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

464 / 588
ASMR

「フラン?」

 

 脈絡のない言葉にとまどって、私は声をかける。フランは苦笑しながら、トントンと自分の耳を叩いた。そこには、父様たちがつけているのと、同じタイプのイヤホンマイクがつけられている。

 そういえば、スムーズに連絡をとりあうために、スマホ所持者全員にイヤホンマイクが配られたんだっけ。でも、今フランがいるのは個室だよね?

 

「わざわざイヤホン使う必要なくない?」

『離宮と違って、俺のいる客室は隣にまた別の人間が泊まっているからな。スピーカーから響いてくるお前の声を聴かれて、あらぬ噂になったら困る』

「それは、私も嫌かも」

 

 宰相家の御曹司の泊まる部屋から、夜な夜な聞こえてくる若い女の声。

 大変いかがわしいスキャンダルに発展しそうだ。

 自分相手に恋人の浮気疑惑が流れるとか、シチュエーションが複雑すぎる。

 まだ、『宰相家の御曹司は、相手もいないのにぶつぶつ独り言を言っている』という噂がたつほうがマシだ。

 

『だから、お前の声をイヤホンで聞いていたんだが、スマホのスピーカーを使うより、音がクリアで声が近い。……こうやって耳元でお前の声を聴くのは悪くない』

「へーそうなんだ?」

 

 イヤホンマイクの意外な長所だ。

 

『……前の世界で使ってたんじゃないのか?』

「じっくり通話機能を使うような知り合いが、いなかったのよ」

 

 ぼっち入院患者をいじめないでください。

 両親とは連絡をとってたけど、『声をクリアに聞きたい』なんて思うような相手はいませんでしたからぁー!

 

「こっちもやってみようかな」

 

 私は荷物の中から自分のイヤホンマイクを取り出した。

 フランの真似をして、イヤホンに設定を切り替える。

 

『どうだ?』

「ぴゃっ!」

 

 突然耳元に流れてきたフランの声に、思わず喉から変な音が出てしまった。

 

『すまん、声が大きすぎたか?』

「う、ううん、ボリュームはちょうどいいわ。いきなり低音イケボを耳元で聞いたからびっくりしちゃって」

『ふうん?』

「わ、悪くないわねー、イヤホン音声」

『リリアーナ』

「……っ」

 

 瞬間、私は息をのんだ。

 ただ名前を口に出したんじゃない。明確に、愛おしいという感情を乗せて、自分の名前が告げられた。

 あまりに甘い声音に、とくとくと心臓が早鐘をうつ。

 

『よく聞こえるだろう?』

「クリアすぎて、耳元でささやかれてるのと一緒なんだけど?!」

 

 だからなんで!

 ファンタジー世界の住民の君が、元現代日本人の私より、スマホを使いこなしてるんだよ!

 

『リリアーナ』

「ちょ、待って……!」

『リリアーナ、愛してる』

「ま、待って、待ってってば!」

『なぜだ? 恋人に愛を伝えて何の問題がある』

 

 それは君が恋人の反応を見て、おもしろがる悪い男だからです!

 

「ささやくこと自体はダメじゃないわよ。ちょっと待てって言ってるの」

『うん?』

 

 私は画面越しのフランにびしっと指をつきつけた。

 

「せっかくイケボでささやいてくれてるんだもん。録音して永久保存しなくちゃ」

『……ろく、おん?』

「カメラ機能の写真と一緒よ。こうやって通話してる音声も動画も全部記録できるの。えっと……ここをこうして……はい、お願い! もう一回!」

『そう威勢よく言われると、興がそがれるんだが』

「言うだけじゃない。ちょっとした恋人のお願いくらい聞いてよ!」

 

 スマホごしに、フランがため息をつくのが聞こえてきた。

 これはこれで需要があると思うけど、今ほしいのはコレジャナイ。

 私がこちらのマイクをミュートにして黙っていると、しばらくしてから期待通りの音声が流れてきた。

 

『リリアーナ』

「……っ」

 

 マイクは電源自体が落ちている。だから私の声が録音されることはない。

 でも、耳元で甘くささやかれたら声が出なかった。

 

『リリアーナ、愛している。お前は俺のものだ』

 

 ちゅ、とキスするリップ音のオマケつきである。

 恋人のファンサがすぎる。

 セルフASMR音声ありがとうございます!

 

『リリアーナ?』

「ああああああ、ありがとう! いい……すごくいい……何百回でも聞ける」

 

 あわててマイクに電源をいれて返事をすると、またあきれのため息が聞こえてきた。

 だっていいものはいいんだから、しょうがない。

 

『満足したようだな』

「そりゃーもう!」

『では、今度はこちらのお願いを聞いてもらおうか』

「え」

『音を残せるとは、いいことを聞いた。……俺も、恋人のかわいらしい声が記録したいんだが?』

「え、あ……マジで?」

『ちょっとした恋人のお願い、なんだろう?』

「そーだけどぉぉぉ……」

 

 その後、私はフランが満足するまで何度も愛をささやかされた。

 




書籍⑤巻発売まであと2日!
詳しい情報は活動報告とXにて!
@takaba_batake
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。