【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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帰国前

「シュゼット様!」

 

 離宮をつなぐ細い橋のたもとに、学生服を着た少年少女の姿が見えた。シュゼットとともに、キラウェアからハーティアにやってきた留学生たちだ。私たちが離宮の門から手をふると、女性教師の引率でこちらにやってくる。

 

「姫様、お元気そうでよかった!」

 

 彼らはそろってシュゼットに笑顔を向けた。シュゼットもほほえみを返す。

 

「あなたたちも、息災だったようで何よりですわ。あまり会えてなかったけど、不自由してなかったかしら」

「いいえ。宰相家の方々が、良くしてくださったので」

「宰相閣下には感謝してもし足りませんわね。あら……ミリアムはどうしたの? 姿が見えませんけど」

 

 留学生たちの顔を確認していたシュゼットが不思議そうな顔になった。引率の女性教師が肩をすくめる。

 

「トイレに忘れものをしたそうで、遅れています。じきに追いついてきますよ」

「……そう」

「皆様、お茶のご用意が整ってございます」

 

 再会を喜び合っていると、タニアが声をかけた。フィーアがお客を奥へと促す。

 シュゼットたちは連れ立って、応接間へと向かっていった。

 

「もう帰国の準備が整ったの?」

 

 私は、彼女たちを追いかけずに、今まで留学生たちを引率していた黒髪の女性教師に声をかけた。青い瞳の彼女は、右目の下に色っぽい泣きボクロがある。

 私たちは橋からは見えない位置へと廊下を移動した。

 何日も顔を合わせてなかったせいかな?

 女の姿をしていても、直に会えたことがうれしくて、とくとくと鼓動が早くなる。

 ドリーは私に身を寄せるとごく近くでささやいた。

 

「現在馬車に荷物を積み込んでいるところだ」

「はあ……もう帰っちゃうなんて、残念」

「仕方がない。情勢不安定な国に娘を置いておけない、というキラウェア国王の判断は妥当だ」

 

 邪神の封印が壊れたハーティアは、今や魔物が跋扈する危険地帯だ。私がキラウェア国王でも、帰国命令を出していただろう。

 むしろ帰国に踏み切るのが遅かったくらいだ。

 

「街道をふさいでいた大型魔獣を討伐し、やっと帰国ルートの安全が確保できたところだ。また何か危険な生物が現れる前に、送り出してしまいたい」

「そんな厄介払いするみたいな言い方、しないでよ。私の友達なんだから」

「……悪い」

 

 ドリーはむっつりと黙った。

 シュゼットは火種だ。

 国内にいるうちに万が一命を落とすようなことがあれば、とんでもない国際問題に発展するだろう。アギトとダルムールと戦いながら、さらにキラウェアとまでコトを構える余裕はない。

 だから可及的速やかに帰国していただきたい、というフランの心境はわからないでもない。

 それでも今のは言葉に配慮がなさすぎだった。

 彼らしくもない言動の原因はわかる。疲れだ。

 見上げると、ドリーの整った横顔が見えた。その頬は白く青ざめている。これはきっと、白粉のせいだけじゃない。

 

「ジェイドを無理やり屋敷に帰したって聞いたけど」

「ああ、三日休養をとらせた。明日から復帰だ」

「……あなた自身はちゃんと寝てる? ジェイドが倒れても困るけど、影宰相のあなたが倒れても、みんな困るんじゃないの」

「ぐっ……その名前、どこから聞いたんだ」

「最初はヴァンからだけど、結構噂になってるみたいよ?」

 

 ドリーは嫌そうに眉間にシワを寄せた。

 相変わらずの表情に、笑っていると……ドリーは不意に私の肩に頭を乗せてきた。そのまま軽く寄りかかられる。

 

「ど、ドリー?」

「つまずいてバランスを崩した。しばらくこうしてないと立てそうにない」

 

 いや君ついさっきまで普通に立ってたじゃん。

 つまずく要素ゼロじゃん!

 だからって、ストレートにつっこむほど私も野暮じゃない。

 

「しょうがないわね……ちょっとだけ肩を貸してあげる」

 

 ドリーの背中に手を回す。

 柔らかな体温を感じながら、この程度のことしかしてあげられない悔しさに、こっそり唇を噛んだ。

 




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