【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「きゃああああっ!」
ついに応接間で悲鳴があがる。
火柱は留学生たちの荷物の中から発生していた。天井まで届くレベルの炎に、留学生たちはパニックになる。
「いやあああああっ」
「どうして……どうして、こんなとこからっ!」
「理由はあと! 全員部屋から出なさい!」
鋭く命令を放つ。
思考が停止していた少女たちは声に入力されるまま、ドアへと向かった。私もドアに移動しながら、逃げ遅れた子の服を引っ張る。全員でもつれ合うようにして中庭に出た。
「建物が燃えるのも時間の問題よ! 橋に向かって! 離宮から出るの!」
前世の子供のころ、防災教室で言われたことがある。
天井にまで達した火柱は、素人の手には負えない。消火器程度ではもう消せないから、とにかくその場から離れろと。
実際、教えられた通りだったようで、すでに炎は床にも天井にもその手を伸ばしていた。
ファンタジー世界にはまだ、延焼を食い止めるような素材はない。建物を形づくるのは木とレンガと漆喰だ。すぐに離宮全体が炎に飲まれるだろう。
「フィーア、退路を確保! 避難ルートを誘導して!」
「はいっ! みなさんこちらへ!」
フィーアが留学生たちを出口へと導く。
シュゼットを先頭に、彼女たちは無言で移動を始めた。災害からの避難生活で、良くも悪くも避難行動に慣れてしまったらしい。ひとりもはぐれることなく、すぐに細い橋へとたどりつく。
私とクリスは、彼女たちの背後を守るように、最後尾からついてきていた。
「一、二、三……」
一列になって走る少女の数を、クリスが後ろから数える。
「全員そろってるみたいだな」
「みんな応接間に集まってたおかげね」
この混乱の中、離宮内をいちいち探し回る必要がないのは助かる。
「兵士に保護してもらったら、タニアに言って、焼けた荷物を……」
そこまで言って、私はふと気づいた。
「リリィ?」
立ち止まってしまった私を、クリスが振り返る。彼女も足を止めた。
私はクリス尋ねる。
「タニアは?」
「えっ」
クリスが橋を走っていく少女たちを見た。そこに、銀髪の女性の姿はない。
「タニアがいない……!」
うっかりしていた。
私たち高位貴族にとって、使用人や女中は黒子のような存在だ。お茶出しなどの仕事をさせる時以外は、どこで何をしてるかなんて気にしない。シュゼットたちと応接間に集まっていた時も、彼女の所在を気に留めてなかった。
てっきり、彼女も非常事態を察して逃げ出したと思っていたけど。
そもそも事件発生時点でおかしかったのだ。
責任感の強いタニアが、異常音を聞いて応接間の様子を見にこないわけがない。
「きっと何かあったのよ」
「戻ろう」
クリスが身をひるがえす。私も離宮の門を振り返った。
「ご主人様っ?!」
フィーアに、私が戻る理由を伝える時間はなかった。
バンッ!!
すさまじい轟音とともに橋の真ん中がはじけ飛んだ。
どんな爆薬を使ったのか、橋は中央から連鎖的に崩れ始める。留学生たちは王宮側へ、私たちは離宮側へと慌てて走った。
離宮を囲む堀は深く、底には罠が仕掛けてある。落ちたら命はないだろう。
とにかく建物の中へと滑り込む。
離宮の門から後ろを振り返ったら、橋が跡形もなくなくなっていた。
「ご主人様!」
王宮側の橋のたもとで、留学生たちの救助をしながらフィーアが叫ぶ。
「こっちは大丈夫! タニアを連れて避難するから、あなたはそこにいて!」
「しかし!」
「堀を渡るのは危険だわ。どうにかするから待ってて!」
今にも堀に飛び込みそうなフィーアを止めてから、中に入る。
先に離宮に入っていたクリスが私を振り返った。
「どうにか、の勝算はあるか?」
「なければ作るまでよ。とにかくタニアを探しましょ」
私は燃え始めた離宮の奥へと歩き出した。
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