【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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兄と弟(グラストン視点)

「グラストン!」

 

 王城の廊下を歩いていたら、不意に名前を呼ばれた。

 西の名門ランス伯爵家の嫡男である自分を、ファーストネームだけで呼ぶ者は少ない。相手が相当に身分の高い者であることを予想して、俺は振り向いた。

 

「少し、いいだろうか」

 

 予想通り、そこにいたのは王城で最も貴い血族の第一子、オリヴァーがいた。

 王子の立場にある彼は、家族と勇士七家当主以外には敬語を使わない。

 

「なんでしょうか」

 

 俺は居住まいを正して、オリヴァーに向き直った。オリヴァーは、ほっとしたような、こまったような顔で首をかしげる。

 

「ヘルムートを知らないか?」

「……弟、ですか?」

 

 予想外の問いに困惑する。

 オリヴァーは、私がヘルムートの家族だから動向をたずねているのだろう。

 しかし……。

 

「わかりません」

 

 としか答えようがなかった。

 弟は家族だが、同時にオリヴァーの所有物である。

 五歳でオリヴァーの側仕えとして採用されてから、ヘルムートの生活のほとんどは王城にあった。

 血のつながりに関係なく、弟に一番近いのは、間違いなくオリヴァーである。

 そのオリヴァーが知らないのに、自分が弟のことを知っているわけがなかった。

 しかし、実際オリヴァーの後ろに弟の姿がない。

 これは異常事態だった。

 

「そうか……」

 

 兄の自分がヘルムートの居場所を把握していない、と聞いてオリヴァーはしゅんとうなだれた。

 俺はそっとオリヴァーにたずねる。

 

「あの、弟が殿下の側を離れたんですか? 自分で?」

「実はヘルムートを俺の側仕えから外したい、と相談していて」

「えっ……! あいつ、何か粗相を……?!」

 

 側仕え解任、と聞いてぞっとする。

 うちは勇士七家といっても、商売の失敗など数代にわたって当主の失態が続いている落ち目伯爵家だ。

 俺が騎士団で働き、ヘルムートが王子に仕えることでなんとか体裁を保っているようなものなのである。

 そのヘルムートが解任?

 家を危うくしかねない重大事である。

 俺の顔色を見たオリヴァーは、慌てて手を振った。

 

「い、いや、決してヘルムートのせいじゃない! 俺の、個人的な問題で! 一度側仕えを全部整理しようと思ったんだ」

「はあ……」

 

 それもかなり重大事なのだが。

 

「それで、ヘルムートに話したら、少し喧嘩のようになってしまって。俺のほうから一度距離をとったんだ」

「距離、ということはやはり解雇で……?」

 

 オリヴァーはため息をつく。

 

「俺が寝室に引っ込んで、ヘルムートを次の間に待機させる程度だ。俺だって、側仕えの解任にはそれなりに手続きが必要なことはわかってる。落ち着いたところで、正式に侍従に話をしようと思って」

 

 オリヴァーはヘルムートの問題ではない、と言っていた。

 ヘルムート自身の経歴に傷をつけない、穏便な方法を検討してくれていたんだろう。自分も幼いころから王城に出入りしていた人間として、王子の人あたりの良い気質は知っている。

 

「その直後に、火事が起きて……ヘルムートに護衛をさせようとしたら、姿がなかった」

「あの時すでに姿がなかったんですか?!」

 

 警備対象からの離脱は明らかな職務放棄である。

 火事など警備対象に危険が及ぶ状況ではなおさら。

 しかし、自分は王城の警備に責任を持つ騎士として、ヘルムート不在の報告は今の今まで受けていなかった。

 オリヴァーはしぃっ、と口の前で指をたてる。

 

「俺はヘルムートを穏便に解任したい。意味は、わかるな?」

 

 つまり、ヘルムートの経歴を守るため、職務放棄を隠していたと。

 こんな心優しい主人に仕えておきながら、弟はなんということをしでかしたのだ。

 

「とはいえ、ヘルムートがいつまでたっても戻ってこないのでは、どうしようもなくて。兄であるグラストンなら、何か知っていると思ったんだが」

「そういうことですか」

 

 俺は重いため息をついた。

 

「頼っていただけたのはありがたいのですが、残念ながら弟の居場所は知りません」

 

 なにしろ、今の今まで王子と行動を共にしていると思い込んでいたのだ。

 動向を把握するもなにもない。

 まったくの情報ゼロだ。

 

「しかし、聞いた以上放置もしません。城内の騎士や使用人、そしてランス家の邸宅など、ヘルムートが立ち寄りそうな場所を確認してきましょう」

「頼む!」

 

 王家を継ぐ唯一の後継者であるオリヴァーに行動の自由はない。

 ヘルムートを探そうにも、彼自身にはなにもできないはずだ。自分が協力してやらなくては。

 

「ただ、状況が状況なので、宰相閣下のお耳には入れることになります。よいですか?」

「わかってる。必要だと思った相手にはグラストンの判断で、相談していい」

 

 数日不在が続いた時点で、ヘルムートをかばいきれないとわかっていたのだろう。王子は苦しそうにしながらもうなずいてくれた。

 

「では、よろしく」

 

 オリヴァーは静かに自室へと戻っていった。専属護衛がいない今、他の騎士に負担をかけないためには、極力動かないでいる必要がある。

 やはり、心優しい主だ。

 

「さて、まずどこから手をつけるか……。やはり、報告と相談か」

 

 俺は宰相の執務室へと足を向けた。

 ハーティア国は今無数の問題を抱えている。

 王都を襲った未曾有の地震災害、そして王城の同時多発火災、姫君と侯爵令嬢襲撃事件に、キラウェア王女誘拐事件。これらの問題のひとつを解決するため、ちかぢか王妃殿下とも戦う予定だ。

 このクソ忙しい時に、よりにもよって弟が職務放棄。

 俺はこのまま頭を抱えてうずくまりたい衝動と必死に戦いながら、執務室のドアをノックした。

 

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