【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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誘拐犯(シュゼット視点)

 ゴトン、と音がして馬車が止まった。

 目的地に到着したらしい。

 馬車の外から人の話す声が聞こえてくる。しかし、馬車の壁ごしでは彼らが何をしゃべっているのか聞き取ることができなかった。

 

「どこなんだろう……ここ」

 

 もう一度耳をすます。

 やはり場所を示す情報は何も得られなかった。

 大きな馬車は窓という窓に板が打ち付けられていて、外の景色どころか光さえも差し込まない。

 ここはどこなのか。

 今が何時なのかもわからない。

 そもそも、自分がどうやってこの馬車に乗せられたのか、それすらもわからなかった。

 離宮に火が出て、リリィたちと慌てて逃げ出して……気が付いたら真っ暗な箱の中だったのだ。

 シートがあること、ゴトゴトと特有の音をたてて進むこと。そして、時折馬のいななきや足音が聞こえることから、かろうじて馬車だということはわかった。しかし、それだけだ。

 なぜこんなことになっているのか。

 まったくわけがわからない。

 よく見えないが、服は乱れていないし体に違和感もない。幸い寝ている間に何かされたわけではなさそうだ。

 しかし、馬車はひたすら無言で私を運んでいく。

 

「これって、誘拐ですわよね?」

 

 本人の意志を無視した、強引な身柄の移動。

 定義上は誘拐でいいと思う。

 しかし、ただただ移動を続けるだけなのは異様だ。

 誘拐犯は何がしたいんだろう。

 一国の王女である自分に、誘拐するだけの価値があることはわかっている。だけど、身柄を使って行える悪事は何通りもある。

 相手の目的を推測しようにも、暗い箱の中には手がかりが何もない。

 疑問に思っていると、馬車はまた動き出した。

 長距離移動ではない。ゆるゆると、すこしずつ方向を変える。何かに反響するようにして蹄の音が変わったから、もしかしたら馬車ごと大きな建物に入ろうとしているのかもしれない。

 しばらく様子をうかがっていると、また馬車が止まった。

 ごとん、と足元から振動が伝わる。

 これは車輪に車止めを噛ませているのだろうか。

 じっと耳を澄ませていると、誰かが馬車に近づいてきた。がちゃがちゃという金属音が扉のすぐ外でしている。馬車の扉の鍵を外しているんだろう。

 音がおさまった直後、ぎいっと扉が開かれた。

 松明のぼんやりとした薄明りの中、やっと外に見えたのはアッシュブラウンの髪の青年だった。

 

「え……?」

 

 なぜ、彼が。

 自分を誘拐するなら、ハーティアか、キラウェアか、アギトか。

 何かしら政治的な利用価値を見出した者の犯行だと思っていた。

 ハーティア第一王子の側近、ランス伯爵家の次男ヘルムートが来るとは、まったく予想していなかった。

 いくつもの『なぜ?』が頭の中でぐるぐる回る。

 ランス伯爵家は王妃派だ。

 王妃が姪の私を利用しようとしているのだろうか。

 でもそれならば、伯爵家直属の騎士を差し向けるのが自然だ。

 わざわざ王子づきの側近であるヘルムートが危険を冒す必要はない。

 それにだいたい、ヘルムートが王子の側をはなれること自体が、まずいのではないか。

 なぜ?

 混乱する私に、ヘルムートが手を差し出した。

 

「不自由をかけて申し訳ありません。悪魔の目で監視されている地上に、あなたの姿をさらすわけにはいかなかったのです」

「……」

 

 悪魔の目とやらはよくわからない。しかし、私が馬車に押し込まれたのが、彼の意志だということはわかった。

 

「ああ、やはりお美しい。俺の姫」

「は……?」

 

 キラウェア王族である自分は、言葉の通り一国の姫だ。

 しかし、彼に『俺の』などと呼ばれる筋合いはない。

 否定を口にする前に、とろけた笑顔を向けられる。

 ぞっとした。

 

「あなたこそが、俺の主にふさわしい」

 

 強引に手を取られ、馬車の外に引っ張り出された。

 そこはやはり広い建物の中だった。

 馬車が丸ごとはいる、石造りの部屋。部屋のすみに松明がともされ、ぼんやりと室内を照らしている。

 

「や……!」

 

 どこか逃げる場所はないか。

 周囲を見回した私の目に、ふたたび異様な光景がとびこんできた。

 人が、いた。

 何人も。

 十数人はいるだろうか?

 使用人らしい素朴な服を着た人々が部屋の奥に並んで立っていた。

 彼らは何を言うでもなく、何をするでもなく、ただ立っている。

 表情の抜け落ちた顔にはいっさいの感情がなく、まるで人形が並んでいるようだ。

 

「な……なに、あれ……」

「あなたにお仕えする者たちですよ」

 

 ヘルムートがそう言うと、人々はいっせいに跪いた。

 

「一番キレイな部屋をご用意しました」

 

 態度だけは従順なしもべのようだ。

 しかし、私の腕を硬く握る手は、拒絶を許さない。

 

「……」

 

 逆らうこともできず、私はヘルムートのエスコートに従う他なかった。

 

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