【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「昨日はすまなかった」
翌日、朝からディッツの離れに集合してきた私たちを前に、フランドールは素直に頭を下げた。
「せっかくお前たちが助けてくれようとしていたというのに、その手を払うようなことをしてしまった。申し訳ない」
「先輩、どうか顔をあげてください。聞けば、何日も暗殺者に追われ続けていたそうじゃないですか。極限状態では判断が狂ってもしょうがないですよ」
「私はまだ許してないけどねー」
うちの魔法使いを気絶させられたからねー。貴族に面と向かって抗議できないディッツに代わって、ここは私が怒っておかないと駄目よね。
「リリィ!」
「いや、いい。アルヴィン。昨日のアレは俺が悪い」
私はフランドールに近づくと、彼の額をぺちん、と軽くたたいた。まあおしおきはこれくらいでいいでしょ。
「もう二度と『殺せ』って言わない?」
「ああ、そうだな。この命にかける……のはよくないな。この名前にかけて誓おう、今後自ら死を選ぶことはしない」
「じゃあいいわ、許してあげる」
私が笑いかけると、フランドールは苦笑した。
わかればいーのよ、わかれば!
ひとりで得意になっていると、兄様が私を軽く小突いてきた。
「……リリィ、いいかげん口を慎め。年上の男性にする言葉遣いじゃないだろ」
「あ」
そういえば、フランドールが死ぬ死ぬ言い出して、キレた辺りくらいから敬語がすっぽ抜けてたわー! いかんいかん、淑女としてふさわしい言葉遣いを心掛けねば。
「お恥ずかしいところをお見せしてしまって申し訳ありませんわ。ほほほ」
「別にいい。あれだけ言われたあとに取り繕われても今更だ、普通に話せ。なんだったら、名前もフランでいい」
「そうなの? じゃあ私もリリィって呼んでいいわよ!」
「リリィ!」
兄様が悲鳴のような声をあげた。
えー、本人がいいって言ってるんだから、別にいいじゃーん。
「アルヴィン、お前も気を遣わなくてもいんだぞ。すでに学園を卒業した俺は先輩でもなんでもないだろう」
「いえ、俺にとって先輩は先輩ですから」
こういう堅っ苦しいところが兄様のいいところであり、悪いところでもあるのよね。
「まあ、どっちにしろ庶民の俺たちはほぼ全員に敬語だけどな……」
「師匠……そこ、気にするところじゃないよね」
「フランが前向きになったところで、作戦会議よ!」
パン、と私は手を叩いた。
「これから、どう行動すべきか相談しましょ。もちろん、フランを無事にミセリコルデ家に帰すのが大前提ね」
私の提案に異論を唱える者はいない。よしよし、このまま話を進めよう!
「まず、戦力分析だな。俺を狙った暗殺者集団は20人程度。ここに来るまでに10人ほどは仕留めたが、まだ相当数戦力が残っているようだった。恐らく、ここにいるメンバーだけで正面から戦えば全員殺されるだろう」
「俺は魔法を使えばそれなりに戦えますが、妹たちは戦闘訓練すら受けてませんからね」
「一番戦力になりそうなフランが、この足だし?」
骨が砕けてしまったフランの右足は、添え木に固定されている。包帯でぐるぐる巻きのこの状態では、歩くこともままならない。
「逃げるにしろ、潜伏するにしろ、戦力の補充が急務だな。アルヴィン、ハルバード家に仕える護衛騎士に協力してもらえないか?」
「う」
私たち兄妹は、言葉を詰まらせた。
「それが……そのう……」
お互いに、顔を見合わせて困り顔になってしまう。
だって……ねえ……。
「実は、護衛騎士どころか……この城で信頼できる使用人は、ディッツとジェイドのふたりしかいないんだよね……」
「なに?」
「俺たちハルバード家もまた、アギト国に侵略されているのです……」