【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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ランス騎士伯爵

 フードを被った黒衣の男、おそらくフィーアの兄ツヴァイに拘束されたローゼリアは、貴族の前を歩かされ、簡易証言台の前に立たされた。

 その姿に以前の威勢のよさはない。

 手首と腰を縄で縛られ、蜜色の髪をざんばらに乱れさせたまま、力なくうなだれている。

 顔から首、手足にはひっかいたような傷があり、よれよれになった服もあちこちに赤黒いシミがあった。

 しかも、よく見たら口にも縄のようなものを噛まされていた。

 あれって、猿轡ってやつじゃないだろうか?

 ファンタジーお嬢様暮らしをしてて、こんなものナマで見ることになるとは、思わなかった。

 罪人とはいえ、あまりの姿に観客たちがざわつき始める。

 

「なんということを! 宰相は、こんな若い女性を拷問にかけたのですか!」

 

 王妃派グループから鋭い声があがった。

 背の高い貴族だ。元は騎士だったのだろうか? 痩せてはいるが、上背があるぶん迫力がある。妙に顔色が悪く、アッシュブラウンの頭髪は寂しげな密度で風にそよいでいた。

 

「誤解だ、ランス伯」

 

 宰相閣下は静かに否定した。

 

「体の傷はローゼリアが自分自身でやったことだ。捕らえられたと知るや、自死しようと牢の中で暴れまわったからな」

 

 言われてみれば、傷はどれも彼女の両手が届く範囲だ。

 必死に体をひっかき、命を絶とうとしたんだろう。

 暗殺に失敗した者は死を選べ。

 物語ではよく聞くシチュエーションだけど、現実に実行すると、こうも壮絶な姿になるのか。

 

「なあ、ランス伯って……」

 

 こそっとクリスが小声で疑問を口にした。王宮に出入りして育ち、私たちより多少事情通なケヴィンがうなずいた。

 

「ヘルムートのお父さんだよ。横にいるのが、お兄さんのグラストンじゃないかな」

 

 よく見ると、ランス伯の隣にはもうひとりアッシュブラウンの髪の青年が立っていた。貴族席に立っているが、着ているものは王国騎士団の制服だ。健康的に体格がよく、精悍な顔立ちがヘルムートによく似ている。

 

「ああ、彼が」

「リリィも知ってるのか?」

「お父様から、グラストンさんの名前だけ。あそこは騎士の名門として、男子を王国騎士団で修業させる習わしがあるの。代替わりと同時にランス家を丸ごと宰相派に引き入れるため、嫡男のグラストンを騎士団内で教育してるって聞いたわ」

「親父は王妃派だが、息子は宰相派に引っ張ってる真っ最中ってとこか」

「代替わりは、派閥交代させやすいタイミングだしね」

 

 他国の姫君だったカーミラを王妃に、と両国の縁談を取り持ったのはランス伯爵だ。王妃が悪人となれば、彼女を引き入れたランス伯も立場が危うくなる。

 しかし、当時生まれたばかりだったグラストンは王妃の輿入れに関与していない。

 責任者のランス伯を引退させ、息子に爵位を渡すことで穏便に派閥を変えさせようとしてるんだろう。

 

「息子に地位を脅かされているんだな。道理で顔色が悪くなるわけだ」

「えっと……体調が悪いのは別の理由だと思うわ」

 

 私はランス伯の枯れすすきのような頭を見る。あれも遺伝的な薄毛ではないだろう。息子のグラストンは健康的にフサフサしてるから。

 

「あざやかな緑の布地のファッショントレンドって、ランス領が発祥の地なのよね」

「みどり……?!」

 

 クリスがぎょっと目を見開く。

 王妃の悪意にまみれた緑の部屋に通されたのは、記憶に新しい。

 

「あの布地の出どころは、ランスだったのか?」

 

 私はこくりとうなずく。

 

「自領の新商品を売り込むとなったら、まず領主が率先して身に纏うことになるでしょ? 日常的に毒性のある緑の布地を身に着けた結果、ああなったんじゃないかと……」

 

 薄毛と胃腸の不調。どちらもヒ素中毒の典型的な症状だ。

 ヒ素がたっぷり含まれた商品に囲まれているうちに、蝕まれていったに違いない。

 話を聞いていたケヴィンも顔色を青くする。

 

「おばあ様が、何年か前からランス伯爵夫人を社交界で見かけないって言ってたけど……」

「原因は同じでしょうね」

 

 息子たちに影響が少ないのは、ふたりとも王子の側仕えや騎士団入りなどで早くから家を出ていたおかげだろう。人間、何が幸いするかわからない。

 宰相閣下の静かな声が謁見の間に響いた。

 

「ローゼリアが今生きているのは、事件を闇に葬るまいと、息子がつきっきりで監視したおかげだ。拷問などと、批判されるいわれはない」

「ぬ……」

「父上、控えましょう」

 

 論破され言葉に詰まった父親を、息子のグラストンが押さえる。父親と一緒に一歩引いたあと、グラストンは申し訳なさそうに宰相に向かって頭をさげた。

 父親がいるので王妃派側に立っているけど、心情的には宰相派っぽい。

 板挟みの立場は大変だ。

 

「審議を進めましょう。クリスティーヌ殿下、リリアーナ嬢、お話をうかがってもよろしいですか?」

 

 謁見の間の視線が私とクリスに集中した。

 

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