【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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証言は続く

「まず最初に斬りつけられたのはクリスです」

「ああ、突然暗がりから襲われて、腕で払うのがせいいっぱいだった。そのときに右腕を大きく切り裂かれたんだ」

 

 クリスはもう一度腕を示す。

 

「それは、どれほどの怪我だったのですか?」

「東の賢者殿からは十二針縫った、と聞いている」

 

 姫君の腕に十二針、と聞いてまた観客たちはどよめいた。女の子がそんな大きな怪我をすることなんて、滅多にないからね。

 ヴァンとの婚約がもう決まってるから関係ないけど、家によっては縁談がゆらぐほどの大怪我だ。傷モノとして破談になってもおかしくない。

 

「ただ切られただけじゃない。刃物には毒が塗ってあり、私はすぐに体が脱力するのを感じていた。とっさに、リリィから渡された薬を飲んで……そこから意識がない」

「私がクリス殿下に処方したのは、緊急用の解毒薬ですね。のちの診断になりますが、この時点で私が薬を彼女に与えていなかったら、助けがくる前に亡くなっていたそうです」

 

 さらに毒、ときいて広間に重い沈黙が落ちる。

 詳しい状況を聞いて、クリスがいかに危険な状態だったのか実感し始めたんだろう。

 

「東の賢者殿から、詳しい診断書を預かっています。こちらをお納めください」

 

 ずっと後ろで黙っていたヴァンが、一歩前に出て封筒をひとつ差し出した。宰相閣下が指示を出すと、フランがやってきて恭しく封筒を受け取る。

 

「証拠として受領します。陛下、よろしいですね?」

「ああ、認めよう」

 

 ディッツの書いた診断書は、人から人に渡されていった。役人の誰かが厳重に保管するだろう。

 

「その後、今度は私が襲われました。魔法を使って応戦して、なんとか武器を捨てさせたのですが、そのまま掴みかかられて、首を絞められました」

「そのあとは?」

「抵抗するのが精いっぱいでした。非力な私には襲撃者を倒すだけの力はありませんでしたから。抜け道の向こう側から、助けが来たのです」

 

 宰相閣下は玉座を振り返った。

 王様の裁定を待っているのではない。玉座の隣にいる人物に説明を求めるためだ。

 オリヴァーが静かに立ち上がる。

 

「ここからは、私が説明したほうがいいだろう。離宮に火が出たと知った私は、王家の抜け穴を使って、リリアーナ嬢と、クリスティーヌ叔母上を助けることに決めた」

 

 息子が自らの意志で私たちを助けようとしたのだ、と聞いて、王妃の目が一瞬鋭くなる。しかし、ここで彼を責めては自分が黒幕だと宣言するようなものだ。結局彼女は無表情でオリヴァーを見つめ続けている。

 

「ただその……当時、側近のヘルムートは席を外していて。単身飛び込むのは危険すぎると判断し、宰相の息子フランドールに協力をあおいだ」

 

 名前を出されたフランドールが、視線を集める中で静かにうなずく。

 観客の多くは困惑の表情をうかべていた。そりゃそうだ、王妃の息子が宰相の息子に協力を求めるなんて、助けられた私もいまだによくわからない。

 

「彼は宰相の息子として王家に忠誠を誓っている。抜け道の秘密を守るだろうし、彼女たちを守るだろうとも思ったから」

「その判断に救われたわけですね」

「抜け道を進んでいたら、女性の争う声が聞こえて……フランドールに取り押さえさせた。そこでリリアーナ嬢が襲われていたこと、さらにクリスティーヌ叔母上とタニアが倒れていることに気づいた」

 

 取り押さえさせた、とオリヴァーが主体になっているのは、お互いの立場のせいだろう。

 争う気配を感じた時点で、王子に命じられるまでもなくフランは飛び出していったと思う。でもそれをそのまま説明したら、私とフランの関係が公に記録されてしまう。

 

「その後はフランドールと協力して、彼女たちを抜け穴から助け出した。もちろん襲撃者も逃げられないよう、拘束して連れ出している」

「……その襲撃者は、この広間にいますか?」

 

 オリヴァーはすっと指を証言台に立つ女に向けた。

 

「そこに立つ彼女、ローゼリアだ」

「間違いありませんか?」

 

 宰相閣下の問いに、オリヴァーはしっかりとうなずいた。

 

「正式に証言する、彼女だ。そうだろう、フランドール」

「はい、間違いありません」

 

 オリヴァーに意見を求められたフランもうなずく。

 

「私も証言する。襲ってきたのはローゼリアだ」

「私も証言します」

 

 私とクリスも断言する。間違いないことだから、しっかり記録してもらおう。

 

「何かの間違い、ということはないのね?」

 

 王妃がたずねた。

 私たちは全員で問いに答える。さらに補足するようにして王子が口をひらいた。

 

「現場で捕らえて、そのまま兵に引き渡しましたからね。現行犯なので間違いようがありません」

「……そう」

 

 カン、と玉座から鋭い音が響いた。

 いっせいに視線が国王に集まる。どうやら、持っていた王笏の束で床を叩いたらしい。

 

「王族殺しを企てた犯人は、そこに立つローゼリア。決定でよいな?」

 

 否定する要素はない。

 議長の言葉に臣下たちが頭をさげた。

 

「事件の状況が明らかになり、犯人が特定された。これで裁判は終わりですな」

 

 ランス伯爵が勝手に終結宣言を出す。

 しかし、こんなところで裁判が終わりになるわけがない。

 

「お待ちください、まだ不明な点がいくつも残されています」

 

 むしろここからが始まりだ。

 

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