【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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消える証拠

「わあああっ!!」

「きゃあっ!」

 

 大広間のあちこちから、一斉に悲鳴があがった。

 私も悲鳴を上げそうになり、すんでのところで踏みとどまる。すぐ横を見たら、セシリアが真っ青な顔のまま硬直しているのが見えた。

 お互い死体を見たのは初めてじゃない。

 傷や病気を治す医療魔法の経験を積むには、現場で実際に治療する必要があるからだ。私はハルバード城の医務室に出入りしてたし、セシリアも今回の災害対応でディッツの助手をしていた。

 女神の作り上げた超バーチャルリアリティダンジョンの中では、腐りかけのグロい姿で迫ってくるゾンビを何体も消し飛ばしている。

 でも、それはディッツのような大人の監督の元だったり、ゲーム内で体験したこと。

 いきなり目の前で人が殺されたのは、初めてだ。

 ふら、とセシリアの足がもつれる。

 とっさに手を出そうとしたら、反対側からも手が出てきてセシリアの体を支えた。

 ケヴィンがしっかりセシリアを抱き留めて、顔を青ざめさせながらもほほ笑む。

 ちょっと遅れたけど、私もセシリアの背中をぽんぽん、と叩いた。

 セシリアは、手放しかけた意識をつなぎ止め、顔をあげる。

 ほうっと小さな唇からため息がもれた。

 

「ありがとう……ございます」

「支える、って言ったでしょ」

 

 こくこく、とセシリアは何度もうなずいた。

 

「医療官を呼べ!」

「いや……これはもう……!」

 

 証言台周辺は大混乱だった。

 バタバタと騎士が何人も集まってくる。

 

「あら……せっかくの証人なのに、何も言えなくなったわねえ」

 

 玉座のとなりで、王妃がおっとりと発言した。

 宰相閣下の眉間に、深い皺が寄る。

 まさか、チェックメイト直前に、駒そのものが殺されるとは思ってなかったんだろう。

 

「警備はどうなってる!」

「いや……問題なかったはずで……!」

 

 動揺する騎士の言葉が飛び交う。彼らも状況が信じられないようだ。

 ヴァンがぼそっと私に耳打ちする。

 

「アレ、ユラの仕業じゃねえのか?」

「可能性はあるわね」

 

 邪神の化身であるユラは、異次元レベルの力を持っている。本来王宮だって、牢屋だって入りほうだい。工作し放題だ。

 それでもなんとか人類がユラに対抗できているのは、彼の『負け邪神』の烙印おかげである。

 ユラは王族と勇士七家に連なる血族を、直接害することはできない。

 どれほど目障りな存在でも、私やフランがユラに殺されずにいるのは、この仕様のおかげだ。

 宰相の息子であるフランが、わざわざ牢のローゼリアについていたのは、彼女の自殺を止めるためだけじゃない。ユラの魔の手を退けるためだ。

 一方で、女神の加護も万能じゃない。

 勇士の血をひかない一般人はいくらでも殺せるし、血族同士を裏から操って殺し合わせることもできる。

 ローゼリアを生かすことに注力したその隙に、この証人が狙われたのだろう。

 

「証人がいないのでは、審議にならんな。ギュスターヴ、どうする?」

 

 王様の言葉に、宰相閣下は首を振った。

 

「そうですね。一旦、ローゼリアの素性が隠された件については、審議を棚上げします」

「そうか」

「……代わりに、彼女が王宮の侍女として推薦された件について、審議しましょう」

「まだ続ける気か?!」

 

 ランス伯爵が目をむく。

 

「人が死んでおるのだぞ!」

「だからこそです」

 

 宰相閣下は、ランス伯の抗議をぴしゃりと止める。

 

「ここで間をおけば、また関係者が死ぬ可能性があります。間をおかずに、審議できるものは、今審議してしまいましょう」

「おい……!」

「ランス伯、止めないほうが良いですよ。推薦状の署名はあなたになっていますから」

「は?! どういうことだ!!」

「父上、落ち着いて!」

 

 思わず宰相に向かっていきそうになった父親を、息子のグラストンが必死に止めた。

 

「何者かが、勇士七家の名前を利用したのでしょう。ローゼリアの実家、シュヴァインフルト家の商業圏は主にハーティア西部。西部で王宮に推薦状を出すほどの有力者といえば、ランス家以外にない」

「そんなものを出した覚えはない!」

 

 ランス伯爵は顔を真っ赤にして怒鳴った。

 本気で覚えがないんだろう。宰相閣下も肩をすくめた。

 

「でしょうね。サインの筆跡を鑑定した結果が……」

 

 宰相閣下がフランに書類の提出を命じようとした瞬間だった。

 ボッ、と低い音がして、フランの目の前で火が出た。

 書類が納められた箱ごと燃え上がる。

 広間にまた悲鳴があがった。

 

「さがって!」

 

 即座にジェイドが魔法で火を消し止めた。焦げ臭いにおいだけを残して、広間に出現した炎は消え失せる。

 

「推薦状も、なくなったみたいね」

 

 王妃がまたゆったりと首をかしげる。

 

「それで、次は何を審議するおつもりかしら」

 

 さすがに宰相閣下の顔が青ざめた。

 私たちも似たような顔色で、ぼそぼそと囁き合う。

 

「おい、これやばくないか?」

「立て続けに証拠が消されるとは、宰相閣下も予測してなかったと思う。他に残ってなかったら、まずいかも……」

 

 宰相閣下の論は完璧だった。

 あと一枚カードを切れば、王妃を失脚に追い込める。

 でもそのカードが、目の前でことごとく燃やされていく。

 

「あの……っ」

 

 王子が何か発言しようとした時だった。

 

「報告します!!!」

 

 バン、とドアを開けて騎士がひとり駆け込んできた。

 

「審議中だ」

 

 国王陛下がうるさそうに騎士を見る。

 騎士は、その場に膝をつきながらも、退かなかった。

 

「恐れながら、報告をお許しください! 緊急事態です!!」

「なにごとだ?」

「ランス領が、独立を宣言いたしました!」

 

 なんだって?!




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