【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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近くて遠い弟

「それは、どういう意味でしょうか?」

「ええと……リリアーナ嬢と弟は、王立学園でともに学んでいたと思います。あなたから見て、弟はどのように見えましたか?」

「どのように……といっても……」

 

 ますます首をかしげてしまう。

 同じ王立学園といっても、騎士科と女子部には大きな隔たりがある。婚約者の王子をはさんで顔を合わせることもあったけど、彼と直接言葉を交わしたことはほとんどない。

 ゲーム内でヘルムートを攻略してた時は、何度も会話イベントを起こしてたけど。これは兄の汚職を知り、正義感に目覚めた場合のヘルムートだ。誠実な兄を持つ現実のヘルムートじゃない。

 

「私には、わかりかねますわ。あまり接点がありませんでしたので」

「そうですか……」

「彼のことは、兄のあなたのほうがよく知っているのでは?」

「いいえ、それがさっぱり」

 

 グラストンは疲れた笑いを浮かべる。

 いきなり他国の姫を誘拐するような弟を、いまさら『よく知っていた』なんて言えないよね。

 

「実は……私とヘルムートは兄弟といっても、共に過ごした時間は少ないのです」

「そうなんですか?」

 

 思わず聞き返してしまった。

 少し歳は離れてるけど、男兄弟って結構仲がいいものだと思ってた。

 

「五歳でオリヴァー王子の側仕えに採用されてから、弟の生活はずっと王宮にありました。王都の屋敷に戻ってくるのは年に数回。ランス領を訪れたこともありません」

「ええっ、領主の息子がそれでいいんですか」

「弟は次男ですから。継がない者が領地に関わっても意味がない、と父もヘルムートを呼び寄せることはありませんでした」

 

 それはそれでどうなの。

 あれ? でもよく考えたら、ゲームの「ヘルムートルート」も舞台は王都だったな?

 王国騎士団の汚職と不正をあばくのが、シナリオのメインだった。だから、王都や王宮で潜入捜査を繰り返すことに疑問は感じてなかったけど。

 ランス家の話なのに、一切ランス領のエピソードが挟まらないのは、おかしかったのかもしれない……。

 

「弟も、口うるさい父に何かと指導されるよりは、王子についているほうが気楽なようでした。父も王子づきの仕事をこなしているのなら問題ない、とあまり干渉しませんでしたし」

 

 今明かされる、ランス家のいびつな家族模様。

 まさか、そんな内情だったとは。

 しかし一方でグラストンの説明に納得している自分もいる。

 ヘルムートは、とにかくいつもオリヴァーの側にいた。

 学園でも、式典でも、お茶会でも、とにかくオリヴァーを見たらその後ろに、必ずヘルムートが立っていた。

 そんな生活がいびつじゃないなわけがないじゃないか。

 

「私がヘルムートに関わったのは、先祖伝来の槍術を教えた時でしたね。次男にそんなもの必要ないと父に言われたのを押し切って、王宮まで指導に通いました」

「それは、受け入れてたんですね」

「王子を守る戦闘力を身に着けられる、とうれしそうでした」

 

 あくまで王子基準なのか。

 いや、忠誠心としては、そんなに間違った考えじゃないのか。

 

「そんなヘルムートが、王子の側を離れるなんて信じられなくて……」

 

 それで他に接点のありそうな人物に、弟の様子をたずねてみたらしい。

 

「王子は何か、おっしゃってませんでした?」

「大法廷が開かれる少し前に、相談を受けました。思うところがあって解任しようとしたら喧嘩のようになった……と」

「解任? その上喧嘩?」

 

 なにやってたの、あのふたり。

 接点を持とうとしなかった私が言うことじゃないけど。

 

「どうも、王子は身辺を整理するおつもりだったようです。そのことをヘルムートに相談したら、反発して姿を消したと」

「その時に探さなかったんですか?」

 

 グラストンは首を振った。

 

「ちょうど火災の後始末とシュゼット姫の捜索、さらに大法廷の準備で、騎士団が多忙を極めていた時期でした。あまり大事にしたくない、と王子から希望が出されていたこともあり、おおっぴらに探すことはしませんでした」

 

 そして、頭を抱えてしまった。

 

「思春期の些細な喧嘩と思って、後回しにするのではなかった……」

「ヘルムートがこんな大それたことをするなんて、誰も思いませんよ」

 

 王子との喧嘩と誘拐事件までが一足飛びすぎて、頭の中でつながらない。

 彼の中で、一体何があったというのか。

 

「それに……」

 

 話を聞いていたセシリアがぽつりとつぶやいた。

 

「グラストン様がオリヴァー王子の相談を受けたのは、大法廷の準備中だったのですよね? だとしたら、もうすでにシュゼット様はさらわれた後だったのではないでしょうか」

 

 シュゼットが姿を消したのは、ローゼリアの起こした火事の直後だ。

 ヘルムートが誘拐犯だとしたら、もうその時点で事件は起きている。

 

「どっちみち、手遅れだったということですね……」

 

 はああ……と肺の中の空気をすべて出す勢いで、グラストンが息を吐いた。

 

「ありがとうございます。話を聞いていただいて、少しスッキリしました」

 

 お茶を飲み干して、立ち上がる。

 

「仕事に戻ります。やるべきことが山積みですから」

「お気をつけて」

「お気遣い、感謝します。今私が倒れたら、それこそランス家はなくなってしまいます。それだけは避けなくては」

 

 もう一度、深々と頭を下げてグラストンは去っていった。

 今まで邪神のせいで不幸になった人は何人も見てきた。でも、そんな人々の中でも、彼は段違いに不幸だろう。

 ちょっと、これどうやって収拾つけたらいいの?

 何やったらいいか、全然わからないんだけど!!!!

 




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