【コミカライズ】クソゲー悪役令嬢~ 滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
「お前たち、そもそも俺を助ける余裕なんかなかったんじゃないか。よくそれで俺に死ぬなと言えたものだな」
「確かに家のピンチだけどー、それとフランを見捨てるのは別問題ですー! あ、今更また死ぬとか言わないでよね!」
「言わん。が……アルヴィン」
私相手では話にならない、と思ったのだろう。フランは視線を兄様に移した。
しかし、兄様は同じように眉間に皺を寄せて首を振る。
「じたばたしても仕方ありません。今の状況から最善の方法を考えましょう」
「それしかないのか……」
二人は疲れた顔でうなだれた。
なんだよー、雰囲気暗いぞー。
「ハルバード家に入り込んだ連中も、フランドール様を追う暗殺者も、元はアギト国から来ているというのが問題ですね」
黙って話を聞いていたディッツが口を開いた。
「領内でフランドール様を見失った暗殺者は、土地勘のある城内のスパイに協力を仰ぐでしょう。誰がスパイかはっきりわからない以上、使用人は全員敵と考えたほうがいい」
それを聞いて、ジェイドの顔が青ざめる。
「も、もも、もしかして……最初にフランドール様を母屋のほうに運んでいたら……」
「今頃使用人に紛れこんだ暗殺者に息の根を止められてただろうな」
「訳アリだから、って誰にも知らせずに離れに運んだディッツの判断に救われたわね」
つくづく、危機管理能力の高い魔法使いだ。その分正面切っての戦いには向いてないけど。
「えっと、今までの話をまとめると、とにかく絶対に裏切らない戦力が必要、ってことよね?」
「ああ。だが、ハルバード家にはアテがないんだろう?」
「ひとつだけ最強のカードがあるわよ。あの人さえ来てくれれば、暗殺者の問題も、クライヴの汚職も全部片付くわ」
「暗殺者もクライヴも……? そうか、父様か」
兄様が顔をあげる。私はにっこりと笑い返した。
そう、うちには最強騎士の侯爵様がいるのだ。
「父様の規格外の強さなら、暗殺者の十人や二十人、簡単に返り討ちにできるわ。それにクライヴだって侯爵本人には勝てないもの。父様に助けを求めましょうよ」
「だが、どうやって危機を知らせる?」
「そこが問題なのよね……」
現在のクライヴは父様の右腕だ。当然、執事として父様に届けられる全ての手紙を見る権限を持っている。下手に助けを求めても、父様の目に入る前に握りつぶされてしまうのがオチだ。
「暗号を使うとか? ……でも、父様にそんな小難しいことを求めても通じないわよね」
「小手先の仕掛けは、クライヴのほうが先に解いてしまうだろうな」
父様、黙ってれば理知的な美形に見えるけど、中身は脳筋だからなー。
「何かいい伝え方はないか……クライヴは取るに足らないと見逃しても、父様だけは危機と感じるような」
「それ、難問すぎない?」
私たちは頭を寄せ合って考え込む。
「……ハルバード侯はお前たち子供を溺愛している、という噂を聞いたんだが、それは本当か?」
しばらく黙っていたフランが、ふと訪ねてきた。私も兄様も、その問いを肯定する。
愛情の注ぎ方がちょっと歪んでるけど、あれは溺愛と言っていいと思う。
「だったら、こんな文面はどうだ?」
そう言って、フランは手元にあった紙に文字を綴った。文面を読んだ私たちは、そのあまりに下らない内容に、思わず顔を引きつらせる。
「え……マジでこの内容で送るの?」
「確かに、父様ならこれを読んですぐに領地に戻って来そうですが……」
「下手したらフランが父様に殺されない?」
「その時はリリィがかばってくれ。俺を死なせたくないんだろう?」
それ、余計火に油を注ぎそうなんだけど……。
フランは、にい、と悪い顔で笑っている。ええ……あんた、そんなに腹が黒いキャラだったっけ?
「わ……わかったわよ! 私が守ってあげるわよ!」
兄様といい、ディッツといい、フランといい!
私の周り、しょうがない人が多くない?
「何もしないよりはマシです。とりあえず次の定期便で送りましょう」
「手紙が届かなかった場合はどうしよっか?」
「籠城戦だな。社交を終えたハルバード侯が城に戻るまで、この離れに隠れ住む他あるまい」
戦うことも、逃げることもできないのなら、留まるしかないか。
「なあに、逃げ隠れするだけなら、俺の得意分野です。大船に乗った気でおまかせください」
「いつも思うけど、ディッツのその口上、信用していいのか悪いのか、判断に迷うわ……」