【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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魔の森の戦況

「ダルムール排除の報は届いていたように思うが?」

 

 国王陛下にじろりと睨まれて、閣下は肩をすくめた。

 私の父、ハルバード侯爵は一か月前から王都を離れ、国の南西に位置する『魔の森』に出兵していた。戦う相手は魔の森の先に国土を持つ、西の氏族国家ダルムールだ。

 彼らは手つかずだった魔の森を、そしてあわよくば南部穀倉地帯を手に入れようと、何千人もの兵を森へと送り込んできていた。

 最強騎士な父様のことだからあまり心配してなかったけど、そういやあっちの戦況ってどうなってたんだろ?

 

「魔の森からダルムール兵を追い出す作戦は、ほぼ完遂していました。つい昨日までは」

「……何があった」

「侯爵に敗れ、撤退を始めていたダルムール兵が、突如としてすべて死んでしまったそうです」

「は?」

 

 国王陛下だけじゃない。

 あらかじめ情報を掴んでいた宰相一家以外の全員が、思わずぽかんと口をあけてしまった。

 死んだ、ってどういうことなの。

 

「まだ原因はわかっていません。撤退を監視していた使い魔は、大風が吹くと同時に突然バタバタと兵が倒れる様子を記録していました」

 

 使い魔、ということはドローン撮影していた映像だろうか。

 

「斥候を偵察に向かわせたところ、死体を調べようとしゃがみこんだ瞬間、こと切れたそうで。あまりに危険なので、それ以上の死因調査は進んでないようです」

 

 風、しゃがんだ瞬間の死、ということは……。

 

「ガス……?」

「リリアーナ嬢?」

 

 ぽつりとこぼした言葉を、宰相閣下に拾われてしまった。

 

「何か思い当たることでも?」

「えええっと、少し気になっただけで、たいしたことでは」

 

 シュゼットの交友関係だったらともかく、こんな真剣な軍事会議で十代の小娘に意見を求めないでいただきたい。

 しかし宰相閣下は逃がしてくれない。

 

「あなたの慧眼は存じ上げております。どうぞ、忌憚のないご意見を」

 

 そういう強引なところ、息子さんそっくりですね?!

 親子そろってタチが悪すぎませんか?

 完全に抵抗しても無駄状態である。

 私は観念して、前世の知識を披露することにした。

 

「えっと……魔の森は……もともと毒の沼が多い場所なんですよね?」

「ええ。通常の池にはありえない、濃い青や緑色の沼があちこちにあります。これらは飲用に適しませんし、周囲の土も毒に侵されていて農作物が育ちません」

 

 だからこそ今まで手付かずだったんだよね、あの森は。

 私は、現代日本用語をこちらの言葉に直そうと、必死に頭をフル回転させる。

 

「だとしたら、毒沼から発生した毒ガス……ええと、毒を含んだ空気が多く溜まっていてもおかしくありません。それらが風に運ばれて、撤退するダルムール兵の陣に流れこんでしまったのかもしれませんね」

「斥候はしゃがみこんだだけで死んだそうですよ? 毒を受けたなら、多少なりとも苦しむものではありませんか」

「……残念ながら、一息肺に吸い込んだだけで死に至る毒は、存在するのです」

 

 今度は宰相閣下たちが息を呑む番だ。

 

「これらの毒ガスは、普段私たちが呼吸している空気より重いです。だからダルムール陣営に流れ込んだあとも、その場に残り続けたと思われます。死んだ斥候はおそらく、足元に毒ガスが充満しているとは気づかず中に入り、しゃがんだ瞬間に毒を吸い込んで亡くなったのでしょう」

 

 日本の火山地帯でたまーに聞く話だ。

 山などから流れてきた有毒な硫化ガスを吸い、登山客が突然死する。療養のために行った温泉地でその話を聞いた時には、病弱な子供になんて話を聞かせるんだって思ったけど。

 

「敵が皆死んだのなら、危機は去ったのではないのか?」

 

 国王陛下の疑問に宰相閣下は首を振る。

 

「そのまま死んでいればよかったのですがね。ことはそう単純には終わりませんでした」

「何があった?」

「死を確認してしばらくしたあと……それらがいっせいに動き出しました」

「死んでいなかった、わけではないんだな?」

 

 宰相閣下は、『死を確認した』と言っていた。だから死自体は確定情報のはずだ。

 それでもなお動いたとなれば、それは異常事態だ。

 宰相閣下はうなずく。

 

「彼らは死したまま獲物を求めてさまよう者、アンデッドになり果てたようです」

「死せるもの、か。伝説には聞いていたが、まさかそのようなものまで出現するとはな」

 

 とはいえこの国では、もうすでにコカトリスやスキュラなど伝説の魔獣が各地に出現している。いまさらアンデッドが現れても不思議じゃない。

 

「アンデッド化した千人規模の軍隊を処理するため、ハルバード候はいまだ魔の森で戦っております」

「死んでいるのなら、放っておけといいたいところだが」

 

 国王陛下の言葉に、宰相閣下はまた首を振った。

 

「危険すぎます。武装した千人単位の生ける屍がハーティア国内に入れば、どれほどの悲劇が起きるか。下手に生きたダルムール兵が侵攻してくるより、被害は大きくなるでしょう」

「面倒な……」

「それが、邪神の狙いでしょう」

 

 ユラの悪辣さにめまいがしてくる。

 ダルムールは小さな氏族国家だ。最強騎士ハルバード侯爵の率いるハーティア正規兵の敵じゃない。敗北は火を見るよりも明らかだ。

 どうしてそんな無謀な侵攻作戦が決行されたのか、ずっと疑問に思ってたけど、やっと理由がわかった。

 ユラはダルムールに国土を削らせたかったんじゃない。魔の森に死体をばらまき、森をアンデッドに占拠させたかったんだ。

 

「ユリウスを呼び戻すとして、どれくらいかかると思う」

「少なくとも一週間は……」

「一か月、見ておいたほうがいいと思いますよ」

 

 ヴァンが手をあげて発言した。

 

「アンデッドはとにかくしぶとい。生きた人間と違って、足一本腕一本なくても動いて襲ってきます」

「頭がなくなっても、条件さえあえば歩いてきたりしますし……」

 

 ヴァンの隣でケヴィンも疲れた顔になった。クリスも嫌そうな顔になる。

 

「何より、人間のまともな思考や指揮系統がないのが厄介だ。行動の予測がつかないから、不意打ちをくらいやすい。復活できないよう、燃やしてしまうのが一番だが」

「それはダメだな。燃えたまま歩き回って魔の森全部が大火事になるぞ」

 

 そういや、ここにいる学生メンバーは全員、女神ダンジョンでアンデッドと戦ってたね。しぶといアンデッド相手に何度も苦戦した記憶がよみがえってきて、私も疲労感をおぼええる。

 

「わ、私が、浄化の魔法を使うというのは……」

「ひとりやふたりならともかく、魔の森全体は無理でしょ」

 

 おずおずと出されたセシリアの提案を却下する。いくら無尽蔵の魔力を持つセシリアでも千人単位の浄化は無茶がすぎる。

 国王陛下は大仰にうなずいた。

 

「ユリウスがあてにならないのはわかった」

 

 なにしろ魔の森でアンデッド相手に泥沼殲滅戦である。ちょっとやそっとでは戻ってこれないだろう。

 わが父ながらかわいそうすぎる。

 

「ならば、他に誰をランス城へ向かわせる?」

 

 次の問題はそこだよね?




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