【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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適任

「まず、ランス伯領の兵は動かせません」

 

 宰相閣下はトン、と地図の西を指先で叩いた。

 

「常備軍の大半は、居城の中だろうしな」

「残った兵は情報漏洩防止のために、キラウェア国境封鎖に使われています」

「キラウェアにシュゼット姫の不在を知られるわけには、いかないからな」

「彼らはむしろ支援が必要な側ですね。最も大きな補給地であるランス城が突然籠城を始めてしまったわけですから。その上、国境付近にも大型の魔獣が現れ、対応に迫られているようです」

「それはあとで対応しておけ」

「かしこまりました」

 

 宰相閣下は、地図上の指を王国東部地域へと滑らせる。

 

「ランスと並び立つ騎士の名門といえば、クレイモア騎士伯ですが」

「じいさ……いや、クレイモア伯に国境を離れる余裕はありません」

 

 ヴァンが騎士伯の言葉を代弁する。

 

「アギト兵の動きが活発です。どうも、西で何かが起きてると知っているようで、わざと戦闘を長引かせるように兵を動かしています。クレイモア伯爵がいなくなれば、一気に攻め込んでくるでしょう」

「クレイモアはアギトから国を守る盾。動かすべきではないでしょうね」

「それがあの家の役割だからな。では、北は?」

 

 視線を向けられ、ケヴィンが首を振った。

 

「モーニングスター侯爵家も指揮官を出す余裕はありません」

「当代侯爵はもともと女性ですしね。内政の手腕はあっても、軍を率いるのは不得手と思います」

「あそこは、次期侯爵も女だったな」

「はい」

 

 宰相閣下が静かにうなずく。

 ケヴィンの家はここ数代女性ばっかりが続いているんだよなあ。

 女性でも女騎士とか将軍向きの人間がいないわけじゃない。でも、ケヴィンのおばあ様も、お母様も、戦場で指揮をとるのは不得手だ。城の中で内政に手腕をふるうタイプだろう。

 

「その次の世代となると……」

 

 国王陛下が首をかしげるのを見て、ケヴィンが肩をすくめた。

 

「私になります。ですがまだ学生の身であり、実践経験もありません。一軍の将として不適当と思います」

「領内に適当な指揮官はいないのか?」

「それも残念ながら……。現在、モーニングスター兵の多くは霊峰から出現したスキュラと魔狼の群れの討伐に向かっています。下手に彼らを退かせたら、ふもとの村が全滅してしまうでしょう」

「カトラスは……」

「彼も今は領地を離れられません」

 

 国王陛下のあげた選択肢を、宰相閣下は否定する。

 

「何があった?」

「今朝がたカトラス港の沖合に、白い蛇のような姿をしたドラゴンが出現したと報告がありました。伝説に記されるリヴァイアサンではないかと思われます」

「海に蛇一匹現れたくらい、放っておいてもいいんじゃないか」

「その蛇は、海を荒らし沿岸部の街を焼いています。カトラス候に対処いただく他ないでしょう」

 

 これだけ全方位にモンスターが出現してて、カトラスだけ無事だとは思ってなかったけど。よりにもよって海にドラゴンが出現するとは。

 人身売買騒動から四年。やっと復興してきた街が焼かれるなんて、かわいそうすぎる。お父様といいダリオといい、うちの国にはかわいそうな人が多すぎなんじゃないのか。

 

「もともとカトラス候は海軍の運用と、海戦が専門ですからね。海竜退治に専念させるべきと思います」

「となるとあとは……南のハルバード……か?」

 

 うちですか?!

 

 自分の家の名前が突然、ランス城攻略の総大将として飛び出してきた。私は思わず首をかしげてしまう。

 

「確かに、ウチも勇士七家のひとつですが……私に軍の指揮能力はありませんよ?」

「違います、リリアーナ嬢。アルヴィン殿のことですよ」

 

 宰相閣下に指摘されて、我にかえる。

 そーだ、そうだった。

 なんだかんだ当事者になることが多かったから、ハルバード家といったら自分のことかと思ってた。でも、冷静に考えれば実家のハルバード城には五歳上のアルヴィン兄さまがいるんだった。

 

「アルヴィン殿は王立学園を卒業した勇士七家の男子です。すでに数年にわたり、領主代理の任につき、用兵技術も学ばれています」

「家柄も、実力も、問題はなさそうだが」

 

 宰相閣下が煮え切らない表情をしているせいだろう。国王陛下は不思議そうに疑問を投げかける。

 

「ハルバード家に負担がかかりすぎます。ただでさえ、現当主のハルバード候に魔の森の侵略者討伐をお願いしているのです。この上、さらにランス城の攻略を命じるのは、いかがなものかと」

「だが、現状動く余裕があるのは、彼くらいのものだろう」

「万が一にもおふたりが戦地で同時に亡くなられたら、どうされます」

「ハルバード家を支える者がいなくなる、か。リリアーナ嬢が残る……と言えなくもないが」

 

 そんな物騒な未来予想しないでもらえますか。

 女侯爵が将来の夢だけど、いきなり父様と兄様に死なれて、侯爵家をしょって立てるとは思えない。

 

「リリアーナ嬢は息子の妻に、と決めているしな」

「その場合は婚約破棄になりますね」

「それはそれで困る」

 

 婚約破棄も望むところだけど。

 そんな理由で破棄されてもうれしくありません!

 

「ふ。ふ、ふ、ふ、ふ………」

 

 突然笑い声が会議室に響いた。

 見ると、王妃がおかしそうに口もとを押さえて笑っている。

 突然どうした。

 彼女も邪神に惑わされたのだろうか。

 

「王妃殿下、どうされました?」

「いえ。聡明なあなたでも、身内のこととなると目が曇るのだと思って」

「何がおっしゃりたいのです?」

 

 すう、と宰相閣下の顔から表情が消えていく。警戒している様子だ。

 にいっと王妃は赤い唇を吊り上げて笑う。

 

「ここにいるじゃない、ひとり。総大将にふさわしい人材が」

「なに……」

 

 にこにことほほ笑みながら、王妃はひとつひとつ条件をあげる。

 

「勇士七家の貴い血を受け継ぐ男子で、武勇に秀で、領主補佐として騎士を率いた経験があり、さらに『影宰相』と謳われるほどの知略をもつ人物……」

 

 はっと全員の目が宰相の後ろに控える青年に集中した。

 

「フランドール・ミセリコルデ。宰相、あなたの息子が適任だわ」

 

 名指しされた青年は、ぎっ、と眉間に深い皺を寄せた。




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