【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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頑張る理由(フランドール視点)

「フランドール様、お時間です」

「ん……」

 

 軽く肩を叩かれて、俺は覚醒した。顔をあげると、リリィの従者であるジェイドがこちらを見下ろしていた。

 窓の外を見ると、予想した通りの高さに陽が陰っていた。彼は言いつけ通りにしてくれたらしい。

 仮眠していたソファから体を起こす。

 

「ご苦労」

 

 寝る前に指示を出していてよかった。起きるつもりではいたが、あの眠りの深さでは自分で時間通りに覚醒できなかっただろう。

 ハルバード侯爵家の領主代理補佐におさまって半年。

 人材が集まり、それなりに仕事が回るようになったとはいえ、まだまだ問題は山積している。俺の抱える仕事は、一向に減る様子がなかった。

 

「俺が寝ている間に、何も起きなかったか?」

 

 問いかけに、少年従者は小さく首をかしげる。

 

「えっと……たいしたことは」

「何かはあったんだな?」

「ほ、本当に、たいしたことじゃないんです!」

 

 ジェイドはわたわたと手を振る。

 

「お嬢様がハーブの調合中に、ちょっと手を怪我したくらいで」

 

 怪我、ときいて自分が驚くほど緊張するのを感じた。それを見て、ジェイドはさらにわたわたと手を振る。

 

「刻むときに、ちょっと指先をひっかけただけです。師匠の治療もすでに終わっています」

「わかった。手当しているのならそれでいい」

 

 俺は大きく息を吐いた。

 我ながら過保護だと思う。

 リリィはハルバード侯爵からの預かりもので、ハルバード領の要だ。しかし俺にとっては、それ以上の意味を持つ。何者にも代えがたい、一番大事な宝物。

 万が一にも、少女が傷つくことなどあってはならない。

 だというのに、当の本人は、危険に向かって頭から突進していくような性格をしている。

 そのおかげで命を救われはしたが、心配の種はつきない。

 

「ああ、あ、あの、フランドール様」

「なんだ?」

 

 礼儀正しい従者は、よっぽどのことがなければこちらに意見はしてこない。聞くべき言葉だと判断して顔を向けた。ジェイドはおずおずと口を開く。

 

「お、お嬢様、は、わざと怪我したわけじゃない、ので。お叱りにならないで、あげてください」

 

 普段から、リリィに自分の身を大事にしろと口をすっぱくして説教していたせいだろう。ジェイドの懸念は当然のことと言えた。

 

「わかった、考慮しよう」

 

 うなずくと、ジェイドはほっと息を吐いた。俺はソファから立ち上がる。

 

「執務室に戻る」

 

 俺は従者とともに、自室を後にした。

 

 

 

 

「フラン!」

 

 執務室に入ると、そこではすでにハルバード領主代理のリリィが仕事を始めていた。大きく重厚なデスクにちょこん子供が座っている姿は、アンバランスでかわいらしい。

 しかし彼女に与えられた状況は、まったくもってかわいくない。

 そこには厳しい現実だけが書きつけられた業務書類が、束になって置かれていた。

 領主代理の立場は、少女から子供らしく過ごす時間を奪っていく。

 せめて彼女の負担を減らすべく、俺は同じ部屋に置かれている自分のデスクに座った。

 

「もう休憩いいの?」

「必要なだけの睡眠はとった」

「昨日もそんなこと言って、結局夜中まで仕事してたじゃない。まとまった睡眠をとらないと、かえって非効率よ」

「わかっている。今日はきりのいいところまで進めたら、休むつもりだ」

 

 リリィの心遣いをうれしいと思いつつも、そのまま受け入れることはできない。心情がどうでも、やるべきことはやらなくては、何も片付かない。

 

「……それならいいけど」

 

 いったん結論を出したら、こちらが折れないことはわかっているのだろう。リリィは不承不承うなずいた。

 少女に負担をかけたくない。だが、不安な顔をさせるわけにもいかない。

 健康な姿を見せるのも仕事なだけに、対応が難しい。

 ことん、と音をたててリリィが席を立った。

 デスク脇に置いてあったワゴンの上から何かを取って持ってくる。

 

「はいこれ」

「ん?」

 

 それは何かが注がれたカップだった。リリィがいつも使っているものより、一回り大きい。

 カップの口からはハーブの柔らかな香りが立ち上っている。

 

「寝起きには、水分をとらなきゃダメよ。ぬるめにしておいたから、飲んで」

「……助かる」

 

 俺はカップを素直に受け取ると、口に運んだ。思ったより喉が渇いていたらしい、柔らかな香りが体を満たしていく。

 そういえば、リリィはハーブを調合していて怪我をしたのではなかったか。

 

「おいしい?」

 

 首をかしげて尋ねられた。

 こちらを見つめる赤い瞳は、期待にきらきらと輝いている。

 

「……うまい」

「よかった!」

 

 にこっと、少女は花がほころぶような笑顔になった。

 それを見た瞬間、胸に溜まっていた疲労感がみるみるうちに溶けてなくなっていくのを感じた。

 なぜ俺が、ハルバードにとどまったのか。

 こんな苦労ばかりの仕事を引き受けたのか。

 その理由を改めて見せつけられる。

 俺はただ、この笑顔のために生きている。

 

「さて、仕事の続きをするか」

「私の担当分は、もう進めてあるわよ!」

「それは頼もしいな」

 

 俺はその日、自分でも驚くほどのペースで仕事を片付け、久々に日付が変わる前にベッドに入った。

 




新装版宣伝SS第二弾!!
領主代理時代の1コマ、フランバージョンです!

心情はでろでろのめろめろですが、庇護欲純度100パーセント!
リリィを保護対象にしか見てないからこそのでろ甘フランです。
お前こんな甘やかしの上で可愛がっておいて、よく手を離せると思ってたな……?
結局沼に頭から突っ込むことになってますが!


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