【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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茶番劇(シュゼット視点)

「……っ!」

 

 不意のノック音に、私は思わず息をのんだ。

 落ち着いたはずの心臓が、またどきどきと早鐘を打ち始める。

 私が黙っていることに不審を覚えたのだろう。ドアの外に立つ人物が、またコンコン、とノックを繰り返した。

 沈黙は得策ではない。

 私は無理やり大きく深呼吸すると、腹に力をいれて返事をした。

 

「どなた?」

 

 震える小娘のような声を出してはいけない。

 それは『彼』が望む振る舞いではないからだ。

 案の定、嬉しそうな声がドアごしに響いてきた。

 

「あなたの騎士です。入室してもよろしいでしょうか」

「いいわ、入りなさい」

 

 答えると、がしゃりと音がしてドアの鍵があけられた。人に許可を求めておきながら、その実このドアを開ける権限を持っているのは、ドアの外に立つ者自身だ。

 醜悪な茶番劇に、気分が悪くなる。

 

「ああ、我が君。ご無事ですね」

 

 鍵を片手に中に入ってきた男は、私の姿を見てにい、と顔を歪めた。私をこの部屋に閉じ込めたアッシュブラウンの青年、ヘルムートだ。

 王子と決別し、私を主とあおぐことに決めた彼は、長い馬車の旅を経て私をこの部屋へと連れてきた。女王たる私には城主の部屋こそがふさわしい、とのことだ。

 だが立派なのは部屋だけ。

 窓の外には頑丈な鉄格子があり、寝室と外をつなぐドアには厳重に鍵がかけられている。

 侍女役らしい何者かが食事や身の回りをする時以外、扉が開かれることはない。

 独立宣言?

 愛の千年王国?

 彼のしていることは、ただの拉致監禁である。

 

「さきほど、城外から何者かが侵入しました。何やら怪しい使い魔を飛ばしてきたようです」

「そう」

「ですが、ご安心を。この城に勤める優秀な騎士が速やかに排除しました」

「……余計なことを」

 

 そう言うと、一瞬ヘルムートの顔がこわばった。

 

「みな、あなたをお守りするために警備を強化しています」

「いりませんわ。私を外に出してくれます?」

「あなたを狙う敵はすべて排除しましょう」

 

 かみ合わない会話に、先に折れたのは私のほうだった。

 

「……ご苦労さま」

「他ならぬ、主のためですから」

 

 にい、とヘルムートの顔がまた笑みにゆがむ。

 何たる茶番。

 彼は私のことを主と呼びながら、その意志を一切くみ取らない。

 ただヘルムートが望むまま、望む言葉を返すことだけを求められる。

 彼が私に『女』を求めないことだけが、唯一の救いだ。私の王配になるのだ、と言いつつも閨を共にしようとはしない。

 これは、彼の反乱が王子の側近解任に端を発するせいだろう。

 彼が本当にほしいのは、自分を求めてくれる理想の君主だ。

 私はなんてくだらないものに付き合わされているのだろう。

 今すぐ、この男をひっぱたいて部屋を出ていきたい。

 だが堅牢な城塞でそんなことをしても、すぐに捕まって連れ戻されるだけだ。体力を消費するだけ無駄である。

 

「新たな侵入者がないとは限りません、城内を見回ってまいります」

 

 す、と頭を下げるとヘルムートは部屋から出て行った。ドアが閉まると同時に、すぐにがちゃん! と鍵をかける音が響いてくる。頭のネジは飛んでいるくせに、こんなところだけ妙に律儀なのだ、あの男は。

 

「……はあ」

 

 私はため息とともに、ソファに座り込んだ。

 焦ってはいけない。

 チャンスは訪れた。

 救いの手はすぐそこまで来ている。

 私がやるべきは無駄に騒がず、機会をうかがうこと。そして、差し伸べられた手を確実につかみ返すことだ。

 

「絶対、やりとげてみせますわ……」

 

 息を吸って、吐く。

 気持ちを落ち着かせながら、私は静かにじっと『その時』を待った。

 




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