【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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乙女の心臓

「セシリアが水盤に向かって命令すれば、『乙女の心臓』が起動するはず」

「それだけでいいんですか?」

「多分ね」

 

 私は肩をすくめた。手はあると言っておきながら、我ながら無責任だと思う。しかし、実はこれ以上の操作方法は知らないのだ。

 

「ゲーム版の世界だと、こうやって水盤の前に立つことすら難しかったから」

 

 起動コマンドをいれた次の瞬間に、切りかかられてバッドエンド、なんてこともあった。ここから先は全くの未知の領域だ。

 

「では、始めますね」

 

 セシリアはこくりとうなずくと、水盤に向かって命令を下した。

 

「私、セシリアがここに命じます。『乙女の心臓』の復活を!」

『コマンドを受理します。乙女の心臓封印解除シーケンスを開始』

 

 無機質な女性の声が響いたかと思うと、床が光った。水盤を支えるゴンドラが金色の光を放ち始める。と、同時に上へと持ち上がった。

 

「わ、わ」

「セシリア陛下!」

「待てよお前ら!」

 

 宰相閣下と、ヴァンたちが慌てて駆け寄ってくる。全員で固まるようにしてゴンゴラの上に飛び乗った。

 

「宰相閣下!」

 

 さらに近衛が駆けつけようとする。宰相閣下は手を振って彼らを制した。

 

「勇士七家以外は拒否される可能性がある。お前たちはここで待機していてくれ」

「かしこまりました」

 

 ゴンドラはそのまま、すうっと謁見の間の天井を潜り抜ける。そこで止まるかと思ったら、さらに天井が開き、その先も開いていって、ついに王宮の上に出てしまった。

 

「ええええええ………」

 

 あまりの高さに、めまいがした。

 高い場所は平気なほうだけど、ガードも何もなしで王都上空ゴンドラ浮遊は怖すぎる。

 死んだらどうする。

 

「おおお、落ちる……落ちるって」

「いや、大丈夫そうだぞ?」

 

 クリスが周囲に手を伸ばして言った。

 

「目には見えないが、透明な壁のようなものが取り囲んでいる。身を乗り出しても落ちることはなさそうだ」

 

 言われてみれば、こんなに高い場所なのに風を感じない。何かが周囲を取り囲んでいるのは確かだった。それでも体の震えは止まらない。

 

「こんな高さにいる時点で怖いものは怖いのよ」

 

 前世の日本では高層タワーでスリルを感じるために、わざと床がガラス張りになっている場所があったりしたけど、今体験しているのはそんなにかわいいものじゃない。おとぎ話の空飛ぶ乗り物を、安全装置なしで体験させられているようなものだ。

 

「怖いならつかまってる? 君の恋人ほどじゃないけど、鍛えてるし。体を支えるくらいならできるよ」

「ケヴィン、ありがとう~」

 

 この際背に腹は代えられない。私はお言葉に甘えてケヴィンの腕にしがみついた。見ると、いつの間にかセシリアも宰相閣下に支えられていた。そんな中でクリスだけが無邪気に景色を楽しんでいる。

 野生動物少女の大物感がすごい。

 この先どうなるのかと、下界を見下ろしていた時だった。

 王城に亀裂が走った。

 縦にまっすぐ、黒い切れ込みができたかと思うと、そこを中心にぐにゃりと景色が曲がる。飴細工のように周りをゆがませながら、どんどん亀裂が大きくなっていく。

 その奥にはさらに異様な光景が広がっていた。

 亀裂の奥にもうひとつ、城があるのだ。

 それは先端が細く、後ろ側に向けてゆるく扇状に広がっている。まるでハートを模したような形のお城。伝説の空中母艦『乙女の心臓』だ。

 城のさらに下からは、どす黒い煙のようなものが沁みだしている。

 セシリアを支えながら、宰相閣下が首をかしげる。

 

「リリアーナ嬢、あの黒いものは……」

「先代聖女が封印した邪神ですね」

「伝説には、『乙女の心臓』が邪神を封じ込めたとあります。このまま復活させれば、同時に邪神も復活するのでは?」

「しますね、当然」

 

 私はうなずいた。

 

「でも、これは受け入れるしかないと思います。どのみち大地震の時に封印にヒビが入っていたので、放っておいても邪神は復活します」

「わかりました。ではセシリア陛下……」

「はい」

 

 セシリアはうなずくと、水盤に命令を与える。

 

「邪神の封印を解除、乙女の心臓を浮上させてください」

『かしこまりました』

 

 ゆら、と母艦の姿がゆらいだ。ゆっくりと浮上し亀裂の中から姿を現す。

 『乙女の心臓』が現実の目に迫ってくるにつれ、異常な姿が明らかになっていく。

 まず大きい。

 常識はずれに大きい。

 多分、ハートの先端から末尾までで全長3キロはあると思う。あまりにスケールが大きすぎて、建物や木々を参考に大きさを測ろうにも、うまくとらえきれない。

 都会のタワーとか、高層ビルとか、巨大建造物を間近に見ると、サイズ感が狂うのと同じ感覚だ。

 そしてデザインも異質だった。

 石と漆喰とレンガで作られていたハーティアの街並みとは全く違う。

 壁も床も真っ黒に塗られた、鋼鉄の城なのだ。ディティールは、戦艦とか空母とか現代的な様式に近い。ミリタリーに興味のなかった小夜子の知識では、何がどうなってこのデザインになったのか、よくわからなかった。

 亀裂から船体すべてを引き出し、王宮の真上に位置したところで、乙女の心臓の動きが止まる。城とともに溢れてきた黒いもやは、そのまま外に広がって消えていった。

 足元ですうっと亀裂が動く。

 ぐにゃりとその口をふさぐと、跡形もなく消えてしまった。

 その下には、いつも通りの王宮と城下町が広がっている。上に空中要塞が浮かんでさえなければ、何も起きなかったと錯覚しそうだ。

 

「浮上、できたようですね」

 

 ほっとセシリアが息を吐く。それを待っていたかのように、ゴンドラが動き出した。

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