【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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地下通路(シュゼット視点)

「周囲に人の気配はありません。行ってください」

 

 黒いネコミミをぴくぴくさせて、周囲を警戒していたツヴァイが振り返った。グラストンに抱えられたまま、私はランス城の隠し通路から、裏庭へと出た。

 周囲の見通しは悪い。

 目隠しのためか、出入口の周囲には庭木が何本も植えられていた。

 敵がいるのかいないのか。今はツヴァイの鋭い感覚が頼りだ。

 

「こちらの井戸から、城外に出ます」

 

 一旦私を地面におろしてから、グラストンが手を引いてエスコートする。

 同じ目隠しの植木に埋もれるようにして、古い石造りの井戸がひとつある。本来の役目が通路なためだろう、真っ暗な井戸の底にはほとんど水が溜まっていないようだった。

 

「俺が先に降りて受けとめます。ゆっくりでよいので、お気をつけて」

 

 まず最初にグラストンが井戸の底に降りた。

 ツヴァイが警戒するなか、ゆっくりと井戸の底へと降ろしてもらう。もたもたと、なかなかうまく動かない自分の体をもどかしく思うけれど、焦りは禁物だ。ここで私が怪我をしようものなら、ふたりを巻き込んで動けなくなってしまう。立ち往生だけは、避けなければならない。

 

「よい……しょ」

 

 しかし、私の体は自分で想っていたよりもずっと弱っていたらしい。

 

「あ」

 

 井戸へと足から降りようとした瞬間、ずるっと手が滑った。壁を掴むこともできずに、そのまま体ごと下へと落下する。

 受けとめたのはやはりグラストンだった。

 大きな体が、包み込むようにして私の体を支える。

 

「お怪我はありませんか」

 

 悲鳴を飲み込むので精いっぱいだった私は、無言のままこくこくと頷いた。

 ほ、と息を吐いたグラストンは、私を地面に降ろそうとして、結局また私を抱えなおした。

 

「申し訳ありませんが、通路出口までもうしばらく私に運ばれてください。通路の床がぬかるんでいて、危険なので」

「……お願いします」

 

 ついさっき、井戸に落ちそうになってしまった私は、素直にうなずいた。

 下手に自分で歩くより、グラストンに運んでもらったほうがお互い効率よさそうだ。彼は慣れた手つきで光魔法を発動させると、明かりを宙に浮かべた。光が体から少し離れたところにあるのは、それを目標にして攻撃されるのを防ぐためだろう。

 

「重いものを担がせて、申し訳ありません」

 

 私がそう言うと、グラストンはおかしそうに笑った。

 

「野戦行軍訓練では、もっとずっと重い装備を背負って歩かされます。姫君ひとりくらい、羽を運ぶようなものです」

 

 それに、と歩き始めながらグラストンはため息をつく。

 

「この隠し通路がぼろぼろなのは、歴代当主が整備をさぼったせいなので。その、つまり自業自得? なのですよ」

 

 そういえば、この城はそもそもランス家の居城だった。彼が単身隠し通路から乗り込んでこれたのは、勝手知ったる我が家の城だったからだ。

 

「整備し直すのが大変ですね」

「いえ、この城は放棄する予定です」

「え」

 

 グラストンの静かな言葉に、私は二の句が継げなかった。領主にとって居城は命も同然だ。放棄するなんてありえない。

 

「あなたを助け出したあと城に火を放ち、遠距離攻撃魔法で破壊し尽くす手筈になっています」

「どうして……」

「城に仕えていた者たちはすべて、アンデッドにされてしまいました。これが一番、迅速に事態を収束できる方法です」

 

 理屈はわかる。

 生ける屍は危険な相手だ。交戦しないですむなら、それに越したことはない。

 だが彼らは元々人間。理屈だけで片付くものではないだろう。

 

「城をなくして、あなたはどうされるおつもりです」

「どうにも。どうせランス家は終わりです」

 

 私を運びながら淡々と語る。

 

「城を失い、臣下を失い、名誉も失った。勇士七家といえど、屋台骨を失っては立ちゆきません。家族の後始末をして、残った郎党の生きていく手助けをするのが私の最後の仕事です」

 

 すでに覚悟しているのだろう。グラストンは諦めのため息をついた。

 それを見て最初にこみあげてきた感情は、怒りだった。

 どうして。

 なぜ彼がこんな目にあっているのだろう。

 私をさらったのはヘルムート。

 そそのかしたのは邪神だ。

 グラストンは、悪い事など何もしていない。

 危険を顧みず助けにきてくれた勇敢な青年の未来が、ただ家の始末だけで終わるなんて、あまりに理不尽すぎる。

 なぜこんなことになってるの。

 こんなの納得できない。

 そう思ったら我慢できなくて、思わず口を開いてしまっていた。

 

「グラストン様、私と結婚しませんか」

 




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