【書籍⑦巻&コミック①巻、12月発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる!   作:タカば

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奥の手

 私は副操縦席のパネルに手を滑らせた。

 

「もちお、術式を展開するわ」

「かしこまりました。ご命令をどうぞ」

 

 白銀の鎧には、物理的な格闘機能に加えて、魔力を出力する魔法攻撃機能がある。仕組みはよくわからないけど、鎧自体に魔力を生産するエンジンが積まれているらしい。

 魔力生産を鎧にまかせることで、搭乗者は本来の魔力限界を越えた魔法を実現することができる。

 人間の限界を越えた術だって行使可能だ。

 魔法の準備をしている私たちの目の前で『ランス』が槍を持ち直した。

 突撃でもするつもりか、一歩踏み込む。

 その瞬間、私は術を発動させた。

 

「無重力(ゼログラビティ)ぃぃぃ!」

 

『ランス』の足元が光ったかと思うと、その周辺だけ重力が無効化された。

 槍術に限らず、人間の戦闘術は大地からの重力を想定して作られている。足を大地に押し込み、反発力を得て前に進む。

 だがその瞬間、地球の中心へと引かれる力をゼロにされたらどうなるだろう?

 対象者は予期せぬ方向に体がひっぱられ、バランスを失ってしまうのだ。

 目の間にいる『ランス』のように。

 がっしゃああん! と大きな音を立てて『ランス』が地面に突っ込んだ。

 突然の無重力に、体のコントロールを失ったのだ。

 必殺! 不意打ち無重力!!

 しかもバランスを崩した次の瞬間には、重力は1Gに戻っている。あらぬ方向に重心が傾いた体は、大地からの力に引っ張られて、這いつくばることしかできない。

 その隙を『ミセリコルデ』は見逃さなかった。

 

「やあっ!」

 

『ランス』に組み付いて、肉薄する。

 鋭い『ミセリコルデ』の刃は、鎧の継ぎ目を貫いた。さらにその奥、コクピットを正確にとらえる。

 がつん! と大きな音がして、短剣の束が鎧の側面にぶつかった。

 びくっと一瞬『ランス』の体が跳ねる。そして、それっきり動かなくなった。

 

『ランスの機能停止を確認しました』

 

 もちおのアナウンスがコクピットに響いてくる。フランがさらに問いを口にした。

 

「ヘルムートは?」

『……破壊されたコクピットに、生命反応はありません』

「そうか」

 

 はあ、とフランが大きく息を吐いた。

 副操縦席に乗っていただけだから、あまり実感はないけど、つまりヘルムートはそうなってしまったらしい。

 

「気にするな。手を下したのは俺だ」

 

 操縦席に背を預けたままフランが言う。確かに最後にとどめを刺したのはフランだけど、一緒に『ミセリコルデ』に乗り込んで魔法を使ったのは自分だからなあ。

 他にやりようもなかったし、仕方ない、と思うしかないんだろう。

 私も思わずため息をついて、ふとモニターに視線を移すと、外の様子が目に入ってきた。

 戦闘終了を感じ取ったのだろう。今まで逃げ惑っていた騎士たちが、呆然とこちらを見つめてきていた。

 

「フラン、みんなこっち見てるんだけど、どうしたらいい?」

「ああ、わかりやすく勝利を伝えてやらなければな」

 

 ファンタジー世界に生きている騎士たちにとって、この戦闘は異常事態でしかない。一応戦闘が終わったようだけど、どう受け止めていいかわからないだろう。

 フランは『ミセリコルデ』を操縦すると、剣を高くかかげてファイティングポーズをとらせた。

 鎧のスピーカーをオンにして叫ぶ。

 

「悪しき鎧の操者、ヘルムートをフランドールが『ミセリコルデ』で討ち取った!! 我らの勝利だ!」

 

 おお、と周囲の騎士たちから声があがった。

 フランはさらにハッチをあけた。コクピットから身を乗り出して、周囲に手を振る。

 中に乗っているのが総大将のフランだとわかりやすくするためだろう。騎士たちが声をあげて集まってきた。

 

「私たちの勝ちね、フラン」

「あ、こら」

 

 私も身を乗り出そうとしたら、フランに止められた。

 

「お前は出てくるな。助けられたのはうれしいが、王子の婚約者が一緒に乗ってたなんて話が広まったら……」

「平気よ。もう婚約者じゃないから」

「え」

 

 ぴたり、とフランの動きが止まった。

 

「王妃の審議中に、オリヴァーから婚約破棄を言い渡されたの」

 

 私はにっこりとフランに笑いかける。

 

「だから、今の私は誰の婚約者でもないのよ」

「……っ」

 

 ぐいっ、と強引に引き寄せられた。

 バランスを崩したせいで、メイン操縦席に座るフランの膝に乗る形になってしまう。

 突然出現したご令嬢の姿に、周りの騎士たちからどよめきがおきる。

 フランは拡声器をオンにしたまま、私に告げた。

 

「リリアーナ・ハルバード。俺と結婚してくれ」

「喜んで!」

 

 ずっと待ち望んでいた言葉だ。拒否する理由なんてない。

 答えた瞬間、唇を奪われていた。

 騎士たちのどよめきが、今度は甲高い声に変わる。

 これはあれだ。

 結婚式とかに見られる、冷やかしの声ってやつだ。

 なにこれ恥ずかしすぎるんだけど?

 でもキスを拒否することはできなかった。

 長年日陰の立場を強いられてきたフランが、公衆の面前で既成事実を作りたいという気持ちもわかるから

 キスされること自体は嫌いじゃないし。

 フランに抱きしめられるのだってうれしい。

 いやでも。

 おかしい。

 ちょっと長くない?

 はやし立ててた騎士たちの声も、ちょっとずつ困惑に変わってるんだけど?

 いつまでキスしてる気なの?

 

「……っ!」

 

 息が続かなくなった私が、どん、と胸を叩いたら、やっと唇が離された。

 睨んでみたけど、目が潤んでたからあまり迫力はなかったと思う。

 

「何やってんの……! こんな、恥ずかしい真似……!」

「もちろん、見せつけたんだ」

 

 間近にある恋人の顔は、にやっと悪い笑みになった。

 ああもう、どうして私はこんなタチの悪い男を捕まえてしまったんだろう。




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